公益社団法人石川県宅地建物取引業協会

地域の安全性を確保する取り組み

<取材:2024年11月26日>

 

「令和6年能登半島地震」
     災害対応の記録

 

 

・1.令和6年能登半島地震の概要

・2.石川県宅建協会の対応の経緯

・3.賃貸型応急住宅供与制度の運用

・4.今後の課題(問題提起)

・5.賃貸型応急住宅供与制度の課題と震災下の不動産取引

・6.被災者対応にあたった会員の声

 


2023年(令和6年)1月1日、石川県能登半島沖に震度7の大地震が起きた。災害関連死を含め、亡くなった方は約600名、建物被害は全壊が約6,500棟、半壊が24,000棟近くにのぼる大災害である。発災直後から被災者の住宅確保のために奔走した、公益社団法人石川県宅地建物取引業協会(以下、「石川県宅建協会」/会長:小間井 隆幸氏)の会員企業及び事務局職員の活動内容について、事務局長新栄得哲氏の話をもとに記録する。

 

 

1.令和6年能登半島地震の概要

地震の概要(国土交通省「令和6年度能登半島地震における被害と対応(第73報)」より

 

2.石川県宅建協会の対応の経緯

●主な対応の流れ

石川県宅建協会の対応の経緯(発災~3月下旬)

災害発生直後の対応状況について教えてください。 

 1月1日の地震発生後、まず、被害が大きかった能登ブロックの役員、運営委員及び事務局職員の安否を確認しました。一方、石川県庁からもその日のうちに「賃貸型応急住宅供与制度」の運用準備に入るよう連絡が入り、翌日には素案が提示され、3日に県と民間賃貸住宅の情報収集の方針について協議。5日には会長、専務理事と今後の対応について協議後、全会員宛に「賃貸型応急住宅供与制度に係る物件情報提供依頼」を発出しました。また、その日のうちに、能登ブロックの2会員を除く52会員の安全を確認し、翌6日から事務局職員で本格的な被災者対応を始めました。同時に、賃貸型応急供与住宅制度について内閣府や県庁と協議を重ね、9日には「制度運用に関する情報提供(第1報)」を発出、25日に会員向けに制度運用に係る第1回説明会を開催し、約200社の参加がありました。

 

各員の役割(実施要項第2条~第5条)

入居対象者の要件

賃貸型応急住宅供与制度の運用スキーム(図1)

 

─発生直後は事務局職員が直接被災者対応をされたのですね

 1月は、業界としてはこれから繁忙期を迎える時期で、会員企業の負担を少しでも軽減する必要がありました。一方、建物の被害が甚大で、被災者の住まいの確保が最優先であったことから、まず事務局が国や県、そして被災者と会員企業の間に入り、ハブ的な役割を果たそうと考えました。具体的な動きとしては、被災者のヒアリングや賃貸型応急住宅供与制度の説明など、被災者からの問い合わせに事務局が対応し、登録物件と希望条件のマッチング後、物件を提供している会員企業につなぐという流れです(図1)。他方、会員企業は入居者の安否確認を最優先に行い、それと並行して管理物件が入居可能な状態かどうかの状況確認をしました。不幸中の幸いともいえますが、前年にも震度5の奥能登地震があり、賃貸型応急住宅の提供をしていたことから、会員の意識も高く、物件の提供は比較的スムーズに進みました。

賃貸型応急住宅供与制度については、内閣府や石川県とその運用方法について調整をしながら、協会内部でも対応方針を協議し、会員企業への制度の周知を行いました(2月末までに、全会員宛に制度運用に係る情報提供は5報、説明会は2度開催)。発災当時は被災者からの問合せが殺到し、電話回線がパンク状態で、事務局職員は休み無しで対応していました。

 2月に入ってからは、石川県や石川県行政評価事務所からの要請に基づいて、被災者向けの住まいの確保に関する相談会に出席。2か月間で13ヵ所開催し、114組の方の個別相談にのりました(図2)。なかでも、北陸新幹線の敦賀までの開業が3月16日に迫り、南加賀(※1)の温泉地に避難された方は2月中に退去を迫られるというとても厳しい状況でしたので、事務局職員は直接温泉地に出向いて、次の住まい探しのお手伝いをしました。

 (※1)能美市・小松市・加賀市・川北町の3市1町を指す

 

被災者相談対応実績(1月~3月下旬)(図2)

 

 

3.賃貸型応急住宅供与制度の運用

被災者相談対応実績(1月~3月下旬)(図3)

 

集約及び成約した物件情報の間取区分(図4)

 

─賃貸型応急住宅は何件くらい提供できたのでしょうか

 物件情報を収集し始めてから一気に情報は集まったのですが、供給数に限りがあることから2ヶ月後にはほぼ頭打ちになりました。11月時点の累計で、情報提供を受けた物件数は1,950戸、成約報告数は750件です(図3)。

 物件を提供する上で課題となったのが、間取りに関する需要と供給のミスマッチです。集約した物件情報の間取区分を見ると、最も多いのが1Rで33%、2DKなど2部屋タイプが合わせて36%なのに対し、実際に成約した間取区分は、1Rは17%に過ぎず、2部屋タイプが47%にのぼりました(図4)。このように、供給は1人世帯向けの部屋が多かったですが、需要は2人世帯が多く、1部屋タイプでも1LDKといった広めの部屋の希望が多かったです。

 

運用開始時に比べ大きく条件が変更した内容① (図5)

用開始時に比べ大きく条件が変更した内容② (図6)

運用開始時に比べ大きく条件が変更した内容③ (図7)

─間取りのミスマッチ以外に物件を提供する上で難しかった点はありますか

 被害が大きかった奥能登地域(※2)は、国から過疎地域に指定されているような高齢化や人口減少が顕著な地域で、賃貸住宅の供給がほとんどなく、あってもすぐ埋まる状況で需給がひっ迫していました。従ってこの地域は競争原理が働かず、賃料相場は金沢市近郊とあまり変わりません。そのため、家賃上限を決めるにあたり、内閣府と石川県にその状況を理解してもらうのにとても時間がかかりました。最終的に金沢市・野々市市と、両市を除く地域という分け方で家賃上限が決まりました(図5)。さらに、2月5日には富山県、福井県、新潟県の物件でも要件に合致する民間賃貸住宅は、賃貸型応急住宅として認められたり、入居期間の要件も変更になりました。

 次に苦慮した点は、世帯分離の規定です。能登地方は人口は少ないですが、3世代が同居しているケースも多く世帯当たりの人数が多いです。一方、県の要件では、原則被災時に生計を一にしていた世帯単位で賃貸型応急住宅に入居することになっていました。しかし、3部屋、4部屋タイプのアパートは非常に少なく、7、8人が入るとなると戸建住宅が必要になるため、空き家となっている戸建住宅の需要が増大しました。ただ、その際障害になったのが、新耐震基準を満たしているかどうかという要件です。

 そこで、その状況を内閣府や石川県に伝え検討してもらった結果、2月に入り運用変更がなされ、世帯当たりの構成人数が6名以上であれば2戸を上限に世帯分離が可能になりました(図6)。同様に旧耐震基準の物件でも、安全上、防火上、衛生上支障がないと貸主が判断した場合貸せることになり、そこから物件の提供が進むようになりました(図5)。

 それ以外にも、物件情報を収集している時点で困ったのが、“ペット可物件”の不足と、被災者に高齢者が多かったことから“1階の物件”の不足でした。

(※2)輪島市、珠洲市、穴水町、能登町の2市2町を指す

 

賃貸型応急住宅の当初の要件(図8)

二者契約(通常の賃貸借契約) (図9)

運用開始時に比べ大きく条件が変更した内容④ (図10)

 

─賃貸型応急住宅の賃貸借契約の内容とその運用方法について教えてください

 2023年の震災の際は、震度5レベルでしたので速やかに罹災証明書が出ましたが、今回のように震度7を超すような地震になると、行政庁自身も被災して十分機能せず、さらに、道路が寸断されて現地に行くことが困難な状況になりました。加えて、県内の建築士が応急危険度判定調査の経験があまりなかったなどの要因が重なり、罹災証明書の発行が大幅に遅れ、普通に発行されるようになったのは3月に入ってからでした。

 そうなると賃貸型応急住宅供与制度の要件を満たすことができず、1月や2月は、石川県、家主、被災者による三者契約が結べなくなりました。しかし、被災者にはいち早く住宅を提供しなくてはならない状況が迫っていたので、一般の賃貸借契約である二者契約を結び、どんどん入居してもらいました。ただ、その場合、通常の賃貸借契約ですので、家賃、共益費、敷金・礼金、仲介手数料、鍵の交換費用などのイニシャルコストを一旦は全て被災者が負担することになります(図9)。その後、罹災証明が間に合わないとの理由でこのまま二者契約が増えていくとまずいということから、ライフラインが途絶えている奥能登地域では、一見して半壊・全壊していることがわかる写真等があれば罹災証明がなくても三者契約が結べるよう、県は運用を変更しました(図10)。

 このように、今回の震災ではほとんどの契約が二者契約で始まりましたが、大家さんとしても、入居者が入居後災害関連死等で亡くなる可能性もあることから、賃貸借契約を結ばないと心配です。一方、被災者の中には単身高齢者など、身内もおらず着のみ着のままで避難されてきた方もおり、大家さんや管理業者が20~30万円/戸となる初期費用を立て替えたケースも多かったです。賃貸型応急住宅供与制度自体は大家さんの理解と協力が必須ですが、立て替えについては資力がないと無理ですし、立て替え費用に対して行政からの返金も遅いことから、「協力はしたいがもう貸したくない」となる可能性も高く、二者契約は極力すべきではないと思いました。

 二者契約を三者契約に切り替える際には、遡及して二者契約の期間のイニシャルコストやそれまでの家賃は公費で全額返済されますが、管理会社としても預かった費用を返金する作業は大きな負担になります。尚、0.55ヶ月分の仲介手数料の返金作業については、当協会が石川県より業務委託を受けました。仲介手数料給付事業として、他団体の会員の契約を含めた約4,000件にものぼる契約書類のチェックや、振込先をデータ化し県に提出するという業務を9月30日から開始しています(図8)。

 

みなし仮設住宅への入居の流れ (図11)

 

─賃貸型応急住宅の賃貸借契約の運用について課題が多いようですね

 三者契約のフローは、被災者が住民票や罹災証明書などの必要書類を用意し、住民票のある市町に提出。県が提出された要件が定めた基準に適合しているかを審査。OKなら入居決定通知を市町を通じて被災者に交付。その後、貸主、入居者、借主である市町長が捺印し、三者契約を締結、そして引き渡しという流れになります(図11)。ただ、発災当初は道路が寸断されていて郵便も届かず、避難所にはパソコンやコピー機、FAXもない状況で、申請自体が困難な状況でした。また、行政庁が機能不全に陥っていたこともあり、県から入居決定が下りても契約まで2、3ヶ月かかるケースがざらでした。

 そのようなことから、今後は、あらかじめ借主となる市町村長の捺印済みの契約書類を用意し、業界団体に連絡があれば交付できるといった方法や、電子申請が可能な仕組みの導入など、三者契約のフローの見直しと、手続きの簡素によるスピードアップの方策を検討することが必要なのではないかと思います。

 さらに、二者契約からの切り替えの際に、被災者への初期費用の返還が先に行われないと三者契約に切り替えができず、返還確認が取れた後にようやく貸主が指定する口座に公費が振り込まれるフローでしたので、その点も見直さないと立て替えた大家さんや管理業者の負担は軽減されないと思います。

 

運用開始時に比べ大きく条件が変更した内容⑤ (図12)

 

─建設型の仮設住宅は入居がスムーズに行われたのですか

 奥能登地域は一次産業をなりわいにしているため、平地は田畑に利用し、住まいはがけ地や土砂災害危険地域にあります。そのため、仮設住宅を建設するための平地が少なく、県は建設地探しに時間がかかりました。また、ライフラインの復旧の遅れによって、施工業者等が現地に逗留することができず、着工や工期が遅れる要因になりました。

 さらに、自治体または立地によって同じ建設型の仮設住宅でも広さが違う点も問題でした。珠洲市の方は比較的広いですが、輪島市は非常に狭い。そのため、せっかく抽選に当たっても狭すぎて住めないという方は、そこを出て賃貸型応急住宅に引っ越したいと考えますが、建設型の仮設住宅から賃貸型応急住宅への変更は認められておりませんでした。今回の災害では、東日本大震災時とは異なり、賃貸型応急住宅に入居された被災者でも建設型の仮設住宅へ並行申し込みができる取扱いとなっています(図12)。

 ただ、この運用は貸主にとってはリスクが増大することになります。並行申し込みができるということは、1月に賃貸型応急住宅に入った方が、4月に建設型仮設住宅に転居してしまうという中途解約事由が多々発生するということになります。この制度は2年間の定期建物賃貸借契約のしばりがあり、その時点で既に繁忙期が終了していることから、建設型への転居後の空室リスクは全て貸主が負うことになります。この点に関する大家さんからのクレームは、会員を通じて協会にも寄せられています。そこで、例えば、1年未満で建設型仮設住宅に移ったり、被災時に居住していた地域に戻れるようになった場合は、残契約期間の1年分は公費で補填するなど、被災者と貸主側の両方に軸足を置いたルール改正も必要だと思います。そうしないと、大規模災害発生時に空き住戸が提供されなくなってしまいます。

 

4.今後の課題(問題提起)

 このような状況をまとめますと、以下の点が課題として挙げられます。今後、他の地域でも起こり得る災害に対する備えとして問題提起をしたいと思います。


①日頃より地域の実情・状況を把握し、地域ごとのきめ細やかな住宅・防災政策が必要

 ・民間賃貸住宅の供給状況とそれに伴う家賃相場の把握が必要:被害が大きかった奥能登地域は、民間賃貸住宅の供給量が少なく、需給が均衡しているため、供給数が少なく賃料相場も高い

 ・地域の世帯構造の把握が必要:同地域では3世帯同居も少なく、一般の民間賃貸住宅のキャパシティを超える例が散見され、制度の運用に支障が見られた

②復旧のための施工業者・職人等の逗留地を確保、仮設住宅建設「適地」の把握

 ・ライフライン復旧の遅れに伴い、施工業者等が現地に逗留できず、着工・工期の遅れの一要因になった

 ・仮設住宅建設の適地を平時より把握しておくことが必要

③賃貸型応急住宅供与制度の準備・運用改善が必要

 ・一定以上の震災規模の場合、二者契約を制度スキームにあらかじめ組み入れておく必要がある。

 ・制度上必要な各種行政の手続き(入居決定通知書の納付、公金負担分の納付)の簡素化・迅速化が必要

 ・ライフラインが復旧しただけでは、被災地で生活を営める状況ではないので、条件の見直しが必要

 ・賃貸型応急住宅に入居する被災者のために、生活関連用品の支援が必要

 ・賃貸型応急住宅として物件を提供してくれる貸主にも軸足を置いた対応が必要

④相続登記未了が公費解体の障害になる

⑤施工業者や職人の人員供給ができる体制の構築

⑥一部損壊等で居宅を修繕、改修する場合の補助の検討


 

─賃貸型応急住宅供与制度ではライフラインが復旧した場合は退去しなくてはならないとなっています

 ライフラインが復旧したら賃貸型応急住宅を解約しなくてはならないという規定がありますが(図10)、ライフラインが戻ったとしても、被災地は店も営業してなければ仕事もなく、生活を営める状況ではありません。そのため、ライフラインの復旧を要件とするのではなく、その地域で実際の生活ができる状態になっているかという基準で判断するべきだと思います。

 さらに、ライフラインについては、道路を通る上下水道管だけが直ればいいのではなく、実際はそこから宅内までの引き込み管の修繕ができなければ最終的に復旧したことにはなりません。しかも、その修繕も業者不足でなかなか進まない状況があります。

 

施工業者や職人不足も深刻です

 被災した自宅に戻れない要因で多いのは、屋根の破損が原因の雨漏りです。ブルーシートは早いうちに掛けられたのですが、それがなかなかとれていない現状があります。その理由について現地の人たちに聞くと、発災直後に瓦職人が無料でブルーシートを掛けにきてくれたそうですが、事後の瓦の葺き替えや修繕は掛けた職人に頼むという商習慣があるようです。結果的に他の職人に頼めず、順番待ちをしているという地域の実情も回復を遅らせる原因になっているようです。

 

─賃貸型応急住宅に住む際の生活関連用品の問題も挙げておられます

 賃貸型応急住宅は一般の民間賃貸住宅なので備え付けの家電製品などはほとんどありません。それに対して、最初に入る被災者の方々は着のみ着のまま逃げてこられるので、冷蔵庫や洗濯機などの生活関連用品を何も持っていません。そのため、当初は、会員企業や大家さんが地域の人たちと相談して布団や最低限の鍋やお茶碗などを用意し、その後、NPOや社会福祉法人の方たちからいろいろな物資提供されるようになり、数カ月後に県から生活用品の購入費用の補填が行われたという経緯です。このようなことに対する配慮も、賃貸型応急住宅供与制度を円滑に回していくには大切な点だと思いました。

 

─高齢者等住宅確保要配慮者に対する対応も苦慮されたのではないでしょうか

 能登の方では人工透析が受けられず、災害関連死認定された方がおられます。やはり持病を持っておられる方、特に人工透析が必要な方は病院の近くに家をみつけなくてはならず、物件探しに苦労しました。また、高齢者や障がいを持つ方に対して、協会ではバリアフリーというカテゴリーで物件を集めていなかったので、大手ポータルサイトでバリアフリー物件を検索し、そこに入居するよう手配をしました。

 さらに、留学生など外国人は言葉が通じず、管理会社は通訳アプリ等を使ってなんとか対応したと聞いていますし、二者契約の際は、身寄りのいない単身高齢者など家賃保証会社の審査に通らない方などもおられるなど、発災時に避難困難者として区分される方の部屋探しには時間がかかりました。

 

─一部損壊等で居宅を修繕、改修する場合の補助について検討もご提案されています

 半壊・全壊家屋の所有者には手厚い支援策がありますが、一番数が多いのは一部損壊世帯です。住宅金融支援機構からも、一部損壊世帯への修繕補助制度が設けられましたが、融資金額の算定根拠が土地と建物の評価額ベースなので、改修に必要な分の融資が出ません。

 

─災害に対する平素からの準備などについて、行政や協会として必要なことはなんでしょう

 石川県とは災害時に備えた事務手続き等の訓練は事前に行っていませんでしたが、2007年(能登半島)、2011年(東日本)、2023年(奥能登)の震災の経験があったので比較的スムーズに動けたと思います。47都道府県と各宅建協会は、「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定」を結んでいますが、まず、その協定の内容を再度見直すといいと思います。石川県の場合も、2011年の東日本大震災を機に県と災害協定を結びましたが、その内容は、被災者のために仲介手数料をもらわずに物件の仲介をするという、「無報酬媒介スキーム」でした。その後、賃貸型応急住宅供与制度ができたので内容を見直すことにし、災害救助法の適用があるか否かで線引きをしました。適応が無い場合は、従来通り無報酬で媒介することにし、適用が有る場合は、国からお金がでるのでその制度に従うというものです。

 次に、今回のような賃貸型応急住宅供与制度の運用の実例や課題を47都道府県協会で共有し、その上で上限賃料や三者契約の運用の円滑化方法や、行政手続きの簡素化・迅速化の方法、生活関連用品の手配方法等について各都道府県と協議し、地域の実情を考慮して事前に決めておくことが必要だと思います。今回の災害で特に被災者並びに会員企業からの指摘が多かったのは、書類手続きが煩雑で時間がかかり過ぎるという点でした。必要な口座情報にしても、義援金を振込む際は通帳の表面の写しだけでいいですが、仲介手数料を返金する際は1枚めくったページの両面の写しも必要というように、細かいことですが所轄課によって準備する書類が違いました。

 また、大家さんから物件提供をいただけないと災害対応は進みませんので、平時から大家さんに対して賃貸型応急住宅供与制度の内容の周知と協力の了解を得ておくことも大切だと思います。

 

─被災地での今後の不動産取引はどのような影響が考えられますか

 今回の地震では地殻変動が起きて地面が大きく動いてしまいました。そのため、境界が動き、地積が確定できなくなっています。今後取引する上で、公簿売買もできませんし、地積の確定には時間とコストがかかります。また、液状化現象も起こっており、改良するには大きな費用が必要です。

 

─今後の展望について

 被災者の皆さんが今一番不安なことは、三者契約がこの先どれくらい延長されるのかについて全くアナウンスされていない点です。2年間の定期建物賃貸借契約ですので、解約の意思決定は半年前にしなくてはならず、その時期が迫っています。また、発災時に民間賃貸住宅に入居した方の賃貸型応急住宅への入居上限は1年間なので、すぐにでも今後の身の振り方について判断しなくてはなりません。そのためにも行政は、出来るだけ早く延長の有無と、有の場合の期間を確定し、アナウンスして欲しいと思います。

 また、奥能登には空き住戸がなかったので、多くの方には石川県南部の南加賀地域に避難してもらいました。その方たちが最近、この地域の中古住宅を購入されている場合もあります。そうなると、もう能登地方には戻らなくなってしまいます。このようなことが、将来的に能登の復興の足かせになるのではないかと心配をしております。

 

5.賃貸型応急住宅供与制度の課題と震災下の不動産取引

①震災直後

 

 

②震災1か月後

 

③発災3ヶ月後

 

④発災6ヶ月後

 

6.被災者対応にあたった会員の声

 

 

 

 


資料提供:公益社団法人石川県宅地建物取引業協会