株式会社つばさ資産パートナーズ/大阪市淀川区
顧客志向の企業経営の実践
<取材日:2024年9月12日>
空き家の活用を通じて、
『心の豊かさの利回りを上げる』
不動産コンサルティングは中小企業の強みを発揮できるビジネス
・不動産コンサルティングで川上から川下までビジネスを展開する
不動産コンサルティングで川上から川下までビジネスを展開する
─不動産会社を起業した経緯について教えてください
大学卒業後、情報通信系の企業に就職し通信の営業をしていましたが、大企業だったので、会社の名前で仕事が取れてしまうこともあり、もっと自分の実力で仕事をしたいと思っていました。そこで、昔から懇意にしていた不動産会社の社長を頼り転職することにしましたが、その想いは不動産の仕事がやりたいというより、ベンチャー企業で自分の実力を試したいというものでした。最初は仲介の営業が中心でしたが、別の会社に移り、オーナーに土地活用の提案や、賃貸物件のリノベーションの提案を行うようになりました。すると空室率が改善し、管理も受託できるようになりました。
私が営業していた大阪市内や北摂地域は地価が高い地域で、資産を活用して守っていきたいというオーナーが
多かったのですが、自分が建てたいからというより、ハウスメーカーから提案されたので賃貸物件を建てたという方も多く、その先の相続や資産承継のことを気にかけておられました。私もその頃はまだ必要な知識も少なく、ある日、仲良くしていたオーナーさんから、「大手ハウスメーカーが一括でサブリースしてくれるというし、税理士も勧めるのでアパートを建てようと思う」と言われたので、「あそこは駅から歩いて20分以上かかるので、やめたほうがいいですよ」と伝えても、結局建ててしまうことがありました。「何故自分を信頼してくれないんだ。彼らは建てるのが専門で、不動産市場のことはわからないはずなのに」という思いを抱いたことや、大手メーカーの提案だから大丈夫といいながら、結果的に土地を切り売りして資産を減らしている方を見て、不動産コンサルティングを軸にした会社をつくろうと、2013年(平成25年)7月に起業しました。
ただ、その頃、コンサルティングを中心にした会社を立ち上げたいと同業者に言うと、ほとんどの人から「大丈夫か?コンサルでフィーなんてほんまにもらえるんか?」と心配されました(笑)。
─不動産コンサルティングのお客様はどのようにして開拓したのですか
どのような建物で土地活用を行うかではなく、物件の立地や特徴、市場の動向や将来性等を考慮し、それに見合う建物で活用を考えていくという中長期的な視点でのコンサルティングを、弁護士や税理士などの専門家とタイアップしながら行いたいという話をしたら、賛同してくれるオーナーさんが何人かいました。その方たちを中心にお手伝いをし始めると、知り合いのオーナーを紹介してくれるようになりました。
不動産コンサルティングの仕事で最も難しいのが“集客”です。飛び込みをするわけにもいきませんので、先方から来てくれる仕掛けをつくろうと、開業して間もなく「つばさ資産塾」というオーナー向けのセミナーを始めました。今でも3ヶ月に1度開催していますが、それがご縁で講師を依頼するなど他の士業の方とネットワークができ、最近ではFPや司法書士の方からも顧客紹介をいただけるようになりました。
資産規模が大きいオーナーのほうが悩みは深いのですが、資産10億円位以上になるとメガバンクや信託銀行に相談に行かれますので、当社がターゲットにしている顧客層は資産規模が1億~10億円位の方です。 最近では、同様の規模の顧客を多く抱えている地元の信用金庫さんから、融資先企業の不動産の活用についてご相談をいただくことも増えました。「自社ビルを1棟持っているが、事業が衰退してきたので、空いたフロアをどうにかできないだろうか」「自社は別の小さなオフィスに移るので、本社ビルで収益を生むよう活用ができないか」など、資産承継も考慮した空きスペースの有効活用の相談にのってくれる不動産業者が他にいないとのことで、少しずつお客様を紹介いただいています。
また、企業の打ち出し方も大切にしています。不動産会社ということを前面に出すと全て無料でしてくれるというイメージになってしまいますので、社名も不動産会社らしくない名前にしました(笑)。
─紹介が増えたといえ、コンサルティングフィーだけで事業が回っていくものでしょうか?
前職の時代から、古くなった賃貸マンションやアパートのリノベーションの提案を行ってきました。当社の提案のポイントは、コストを抑え、デザイン性を付加し、商品の魅力を高めて収益性を高めるというものです。Riezというブランドで展開していますが、投資効率がいいことからオーナーにも喜ばれ、その後の管理を任せてもらえるようになりました。今では管理戸数は800戸弱になります。
このように、不動産コンサルティングを事業の中心に、売買や有効活用、リノベーションやリーシング、そして管理まで、ビジネスモデルが川上から川下までつながっていくようになりました。
不動産賃貸業を“経営”ととらえ、長い期間お客様に寄り添う
─不動産コンサルティングでフィーをいただくとなると、不断の勉強は欠かせませんね
不動産コンサルティングマスターの資格を取得したのを始めとして、相続対策の提案のために、コンサルティングマスターの中の相続対策専門士や相続アドバイザー※1の資格や、賃貸不動産業を経営的視点で提案するために、IREM認定不動産経営管理士(CPM®)、賃貸不動産経営管理士など、約10年の間に必要な資格を取得しました。ただ、勉強しただけでは身に着かないですし、すぐ忘れてしまいますので、実践する事が大切です。今でもトライアンドエラーを繰り返しています。
また、私にとって大きかったのが大阪府不動産コンサルティング協会※2への加入です。開業当時は我流で仕事をしていましたが、数年後協会のことを知り入会したところ、研究熱心で、経験豊富な方がたくさんおられました。今でも困ったことがあると親身になって相談にのってくれる仲間がいることは心強いです。
─不動産コンサルティングの仕事の流れを教えてください
初回だけは無料相談ということで、お客様の現在把握を行います。資産規模や、資産をこれから増やしていきたいのか、子どもが複数いるので遺産分割を見越して相続税対策をしたいのかなど、本人の希望をヒアリングします。ハウスメーカーからの活用提案に対して、新築に建て替えるべきか、そのまま維持していくべきか悩んでいる、という相談が増えています。コンサルティング契約の締結後に、お客様が所有する土地の有効活用であれば、物件調査をして活用方法に対する企画提案を行います。それ以降は、建築や売買、管理など具体的な業務内容よって各種契約が発生しますが、最終的にお客様の目的が達成できるまで伴走していきます。
私が目指しているのは“アセットマネジメント(AM)型コンサルティング”というものです。大家業を“経営”と“承継”いう視点でとらえ、当社がオーナーのいわば経営企画部長の立場で、資産内容や相談内容によって毎月一定のフィーをいただきながら、他の専門家や銀行などの窓口になって長期間に渡りサポートしていきたいと考えています。
投資効率を考えたリノベーションや戸建て賃貸を提案する
─リノベーションの実例について教えてください
リノベーションは建物が古くなり価値が下がった物件に提案します。改修内容を設計事務所に全て任せると、写真映えのするようなプランを提案してくれますが、コストが高くなりがちです。そこで、当社はターゲットを決め、内装デザインや設備仕様のグレードなどのコンセプトを作り、デザイナーと調整したり、工務店にも細かく指示をします。施工費は物件によって異なりますが、マンションの一室の場合、新家賃の3年分くらいで回収するように企画します。施行後に賃貸の募集をすると10日程度で申込が入りますので、オーナーさんからのリピート率は高いです。このようにリノベーションで投資効率を高め、収益性も上げながら、相続対策につなげていきます。
─土地活用でデザイナーズ戸建賃貸を提案し、商品化されています
土地を守っていきたいオーナーに対して、土地の有効活用の一つとして賃貸用の戸建て住宅を提案しています。オーナーの土地が駅から遠い場合、アパートやマンションを建てても厳しい場合があります。そこで、コストを抑えてデザイン性のある戸建て賃貸を建てたら、長期的に商品力もあり、面白いのではないかと考えました。オーナーにとっては節税対策にもなりますし、3棟ほど建てれば将来分割して売却もできます。戸建て賃貸はファミリー層の人気は高く、供給が少ないため需要が見込めます。さらに、戸建てに住んでいた方が引っ越しする場合、音やペットの問題から次も戸建てという人が多く、長く住んでもらえるということもセールスポイントになります。
そこで、初めは自社で土地を仕入れて賃貸用の戸建て住宅を建築し、Felice(フェリス)というブランドで商品化。その後、土地活用商品として展開する事にしました。建築費が高騰したので、今は8%程度の建築利回りですが、高利回り商品としてオーナーにも喜んでもらっています。
─シェアハウスや民泊など新たな活用方法も提案されています。
大阪市内は特区民泊の制度があるので、オーナーさんから民泊の活用相談が入ってきます。現在2件民泊を運営していますが、1件は当社が借上げたもので、もう1件は空き家を購入後新築し、民泊として運用しています。
また、広い一戸建てを所有するオーナーさんから、家を残したいので活用方法を考えて欲しいと相談がありました。最寄駅から5、6分の立地で、広さが200㎡、8LDKと部屋数が多く、一般賃貸では募集が厳しい物件だったので、シェアハウスにしました。
このように、オーナーさんの希望や物件の状況によって、いろいろな活用の仕方を自社でチャレンジし、ノウハウとして蓄積しようとしています。
長屋の改修は、『心の豊かさの利回り』を上げる仕事
─空き家の相談を受けて、長屋の活用にも取り組んでおられます
大阪市内に長屋や戸建てを多数お持ちの大地主さんから、「建物が古いので大手ハウスメーカーが建て替えの営業に来るけど、建て替えてもエリア的に賃料が低く、賃貸経営で成功するイメージが想像できない。できれば長屋を残していきたいけれど、どうしたらいいものか?」と相談がありました。物件のある地域は、市内でも高齢化が進み生活保護受給世帯も多く、家賃が上げづらいエリアです。長屋の再生に携わった経験や、若い人が求めるリノベーションを行っていたことから、「お金はかかるけど、長屋を残すことができますし、若い層の人居者を引き込み、相場賃料よりも上げることができると思います」とお話をしました。すると、「子どもたちに長屋を相続していくにしても、今のボロボロの長屋の状態では子どもに承継させられない。子どもが承継したいと思う長屋に自分の代でしておきたいので、長屋再生でお金がかかってもかまわないから、なんとかして欲しい」とおっしゃっていただきました。そこで、1軒あたり800万~900万円、3軒長屋合計で3,000万円近くかけて改修し、賃貸物件として募集したところ、30代のファミリー世帯がすぐ入居してくれました。「今までは周りは高齢者ばかりで、“おばあちゃん元気か?”がお決まりの挨拶だったのが、若い方に住んでもらい、“おはようございます、いってらっしゃい”と、挨拶や触れ合いができるようになるなんて考えられへん」と地主さんにとても喜んでもらえました。長屋は改修に大きなコストがかかるので投資利回りは低くなりますが、地主さんの『心の豊かさの利回り』を上げることができた案件です。
一度若者が移って来ると、“長屋好き”といった共通の価値観を持つ人が集まって来ます。その後も同じ地主さんの長屋を5、6軒改修したところ、長屋の住人同士で新たなコミュニティができつつあります。地主さんからも「売らなあかんと思っていたのに、残せるようになっただけでなく若い人が来るようになった」と喜んでいただき、地主さんと協働で“まちづくり”をすることができたと実感しています。
─今後も長屋を活用したまちづくりは広まっていくのでしょうか
長屋にしろ戸建にしろ空き家になってしまったものを、改修して残そうと考える人は少ないと思います。その理由は、改修にお金がかかりすぎる点と、相続人が複数いる場合、換価分割して現金で分配しないと、遺産分割協議が進まない点があります。そのため、活用するより売却するケースが多くなります。
不動産コンサルティングは中小不動産業者だからできる仕事
─今年6月に発表された「不動産業による空き家対策推進プログラム」では、コンサルティング業務の位置づけが明確になりました
私が不動産コンサルティングを軸にしようと思い始めた動機は、まだ業界的に未成立の分野かもしれないが、時代が複雑になっていくことで、悩める不動産オーナーから必要とされるブルーオーシャンの分野だと考えたからです。すぐに稼いでいくのは難しいかもしれませんが、これからの中小不動産業者が生き残るために、大手と差別化ができる仕事だと思いました。
大手企業は、仲介業務を中心に短期的利益をあげなくてはなりませんので、お客様とは単発のおつきあいになりがちです。一方、コンサルティングの仕事は半年から1年ぐらいかかりますので、お客様の要望を確認しながら長い時間寄り添い、信頼関係を深めた後、不動産ビジネスを受注していくことが多いです。このように、不動産コンサルティングの仕事は、地域に根付いて商売を行う中小不動産業者が生き残るための一つの方策になると思います。
国交省の「不動産業による空き家対策推進プログラム」において、コンサルティング業務の位置づけが明確になったことはありがたいことです。実際、空き家問題に取り組む場合も、相続人の権利関係を調整し、出口を見つけるといったコンサルティングの仕事の要素が入っています。だからといって、誰もがすぐにそれ相応のフィーを得られるわけではなく、経験や事例を積み重ねていく事で、コンサルティングフィーの受領につなげていくことができるのだと思います。
─コンサルティングの仕事が広まって不動産業の魅力が高まるといいですね
不動産業は、残念ながら若い人にとって人気のある業界ではありません。当社でも、ようやく不動産コンサルティングの仕事は面白いと若い社員が言ってくれるようになりました。この仕事に若い人たちが魅力を感じ、優秀な人材がこの業界に入ってもらうことで、業界の地位向上につなげていきたいと思います。
※1NPO法人相続アドバイザー協議会の認定資格
※2一般社団法人 大阪府不動産コンサルティング協会(大阪市中央区)、会長:井勢敦史氏
岡原 隆裕氏
岡山県笠岡市出身。立命館大学法学部卒業、(現)NECネッツエスアイ株式会社、数社の不動産会社を経て2013年7月に(株)つばさ資産パートナーズを創業。市区町村や業界団体でのセミナー多数。
(一社)大阪府不動産コンサルティング協会 副会長。きたしん総合研究所(北おおさか信用金庫G) 不動産コンサルティング分野 アドバイザー
株式会社つばさ資産パートナーズ
会社概要
2013年7月10日設立。不動産コンサルティング事業を主軸に、不動産管理業、不動産仲介業務、リノベーション業務を行う。さらに、不動産相続・活用コンサルティング業務を行い、不動産で悩む人の課題解決を行う。3ケ月に1回程度「つばさ資産塾」を主宰し、不動産相続、運用、活用セミナーを行っている。