住まい探しはハトマーク

有限会社サイトーハウジング/東京都調布市

地域の安全性を確保する取り組み

<取材日:2024年7月4日>

 

居住支援協議会の活動を通じ、
障がい者の住宅確保のためのモデルを創る

地元の企業として信頼関係を構築し、紹介で成り立つビジネスを実践

 

・地元で生まれ、地元で事業を始め、地元のために活動する

・居住支援協議会を中心に、住宅確保要配慮者の住宅斡旋で高い成果を上げる

・まず、病気の内容を知ることから始める

・まちの不動産屋として顧客との信頼関係を大切にする

 


 

地元で生まれ、地元で事業を始め、地元のために活動する

─会社の沿革と業務内容について教えてください

 調布市飛田給で生まれ、地元で育ちました。高校卒業後は様々な職業を経験。その後、不動産会社で10年ほど経験を積んだのち、1996年に会社を設立しました。その意味で調布というまちを知り尽くした不動産業者ということになります。

 業務は、賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理を中心に不動産業全般の仕事を行っています。また、人との関わりを大切と考え、協会の仕事も積極的に引き受けてきました。1997年に(公社)東京都宅地建物取引業協会(以下、「東京都宅建協会」という)調布狛江支部の理事になり、2012年から3期6年にわたり支部長を務めました。東京本部でも2012年に理事、2018年からは常務理事となり、財務委員長も務めました。2024年からは東京都宅建政治連盟の幹事長を拝命しております。

 

─調布市の事業にも積極的に参加されていますね

 2014年に調布市居住支援協議会(以下「協議会」という)に東京都宅建協会の代表として参加。その2年後には同協議会の会長になりました。また、2016年調布市空き家等対策検討委員会、2020年からは調布市空き家等対策推進協議会の委員として活動しています。

 

 

居住支援協議会を中心に、住宅確保要配慮者の住宅斡旋で高い成果を上げる

─調布市の居住支援協議会に参加された経緯について教えてください

 調布市では1992年に「調布市住宅マスタープラン」を策定しましたが、第3次マスタープラン改定会議にメンバーとして参加することとなり、大きな方針として掲げられたのが、空き家の流通促進と有効活用及び住宅セーフティネットの構築です。その方針の下、調布市居住支援協議会が立ち上がり、私も委員として参加することになりました。

 座長は当初、大学教授でしたが、最終的に賃貸借契約に至る部屋探しをする業種ということもあり、不動産業界の人にやってもらう方がいいだろうと、会長を務めることとなりました。

 

─協議会の活動内容について教えてください

 協議会の委員は、不動産関係の4団体、福祉関係の4団体、調布市の子ども生活部、福祉健康部(生活困窮者、高齢者、障がい者担当)の各課長と都市整備部住宅課長で構成されています。

 事業内容は、まず、住宅確保要配慮者のための「住まいぬくもり相談室」(以下「相談室」という)を設置し、住まい探しや生活支援に関する相談事業。さらに、助成事業として①民間賃貸住宅に転居する際、協力不動産事業者の仲介を利用した場合の費用を助成する「民間賃貸住宅仲介支援事業」②入居の際に家賃保証会社を利用した場合の費用を助成する「民間賃貸住宅家賃等保証支援事業」③仲介した不動産業者に対して助成する「住宅確保要配慮者入居促進事業」。それに、単身入居者向けの安否確認システム(「ハローライト」)の提供事業になります。

 協議会の会長就任の依頼があった際に、「私たちは営利企業だから利益のことも考えますよ」と申し上げました(笑)。そこで、既に入居者に対しては助成金制度がありましたが宅建業者には無かったことから、実績が大分増えてきた一昨年から成約1件に対して3万円の助成金を出してもらえるようになりました。

 

─協議会の活動として高い実績をあげておられますね

「住まいサポート協力店」の店頭ステッカー

 住まいぬくもり相談室には2019年から5年間で延べ530人が相談に来られて、188人の方に民間賃貸住宅を斡旋することができました。5年間の平均成約率は35%ですが、昨年だけで見ると、相談者113人に対して61人が成約となり、成約率は50%を超えました。

 相談室に来られた方の住宅の斡旋については協力店が対応します。そこで、私が支部長の時に、協会役員や全日さんでも知り合いの業者に声をかけたところ、協力店は30社になりました。手を挙げてくれた業者は、大手企業は1社もおらず、皆さんまちの不動産会社で、助成金があるからということが動機なのではなく、地域で困っている人がいれば純粋に助けたいという気持ちで参加してくれています。

 また、相談会は月2回の実施で年間96の相談枠でしたが、相談に来る方も増えたことから、昨年から月3回(第1・3・5木曜日)開催し、年間112まで相談枠を増やしました。

 相談者の属性は、高齢者が56%、障がい者が23%、ひとり親世帯が9%で、全体の65%が生活保護の住宅扶助費以内の家賃(53,700円)の物件を希望していました※1。相談理由は、居住中のアパートの取り壊しに伴う立ち退きや、現在の家賃が住宅扶助費の上限を超過したためという内容が多く、協力店以外の不動産会社に相談に行っても相手にされなかったり、不動産会社の敷居が高くて入れず、市役所に相談したら相談室を紹介されたという方が多数でした。

 相談については、相談対応の受託者であるホームネット(株)の担当者が対応し、本人の状況、転居理由、希望条件等をヒアリング、希望条件を調整し、ホームネットから協力店に物件紹介を依頼します。希望物件が見つかれば、当該協力店に個人情報を開示し、協力店から相談者に直接連絡してもらう、という流れになります。

※1 2023年4月1日~2024年3月31日実績

 

─高い成約率を実現できている理由を教えてください

 まず、行政側の代々の担当課長が熱い方で熱心だということが挙げられます。当時の課長が市長に直談判して協議会を立ち上げてから、当初は何から始めていいかわからないこともあり、住宅確保要配慮者がどのような理由で部屋探しに困っているかを知るために、相談窓口を立ち上げました。その後、相談のフローを構築し、希望者が増えたことから月1回だった相談会を隔週に増やしていきました。また、協議会の担当課が住宅課ということも進めやすい要因の一つだと思います。市も「とにかく住まいとなる家を見つける」ということを方針にしていますので、私たち宅建業者の意見も尊重していただいています。

「住まいぬくもり相談室」のチラシ

 

 また、協議会の会長は会議では座長ですので、自分の意見がなかなか言えません。そこで、副会長のポストを設けてもらい、議事進行は副会長に任せ、私にも発言権をもらいました。そして、「これについて福祉の方はどう思いますか」など参加者の意見を促すようにすると、とても活発な会議体になったのです(笑)。そのことが、住宅確保要配慮者への支援に関する議論にも発展していきました。

 さらに、相談窓口をホームネットさんに引き受けてもらった点も大きな要因です。相談内容は難しいものが多く、専門的なスキルがいることから居住支援法人である同社に入ってもらうことにしました。相談者から住宅課に相談が入ると、しっかりヒアリングし、内容をある程度把握した上で予約を入れます。面談の場面でも、的を射た質問をしながら希望条件を汲み上げて協力店に物件探索依頼をするので、成約率が飛躍的に高まりました。よく市民相談に行っても、それは住宅課、これは福祉課と、たらい回しにされる場合が多いと思いますが、調布市の場合は、ホームネットさん含め、関係する全ての課が協議会に参加しているので、情報が共有され連携がとれている点も要因だと思います。

 

 

 

まず、病気の内容を知ることから始める

─協議会では精神疾患患者の居住支援に取り組み始めましたが、大家さんや管理会社にも拒絶感が強いと聞いています

 精神に病気がある方も、契約時に伝えられなければ普通に入居いただいているケースがあります。ただ、ある日突然クライシスに陥り、大騒ぎになって警察沙汰になる場合があります。聞いてみると精神に疾患があるということですが、管理会社としては病気のことは聞いていないにもかかわらず、家主からは「お前が入れたんだから何とかしろ」と言われます。警察を呼んでも事件になるまでは対応してくれませんし、多くの宅建業者は地域包括支援センターやケースワーカーの存在すら知りません。一度そのような経験をすると家主も管理会社も、精神に疾患がある方は絶対駄目となってしまいます。

 今、精神の病気を患う人がすごく増えている実感があり、入居した時は大丈夫でもその後変わってしまう人も非常に多いです。私たち含め、病気になるかどうかは紙一重だと思います。実際、まじめな人で、勤め先の会社の経営が行き詰まって解雇になり、精神的に病んでしまい働けなくなり生活保護受給者になってしまったケースもあります。市としては、若ければ社会復帰もしやすいので、早く病を治して社会人として仕事を始めて欲しいでしょうし、不動産会社としても空き室になった部屋を埋めなくてはなりません。このように空き家と居住支援は表裏一体の関係なのです。

 

─貴社でも精神疾患患者等の対応をされているのですか?

カウンター席は間仕切りを設け、会話が周囲に漏れないようにしている

 当社には、高齢者や母子家庭、夫からDVを受けて離婚前提で家を探している人たちが相談に来ます。調布駅周辺にも70件ほど不動産会社がありますが、大手はじめ多くの会社は、そのような事情があるお客さんは対応したがりません。そこで、当社のようなまちの不動産会社に「他社で断られました」と来られます。当社の営業もそのような方のお世話を何人もしているので、精神の病気を患われているかどうかがわかる時もあります。そこで、「うちの大家さんなら相談にのってもらえる物件があるので、何でも話してくれますか」と問いかけると、「実は通院してるんです」というように、少しずつ事情を話してくれるようになります。そして、通っている病院がわかれば部屋を探すことも可能になるのです。

 大家さんに相談すると「何かあれば社長が責任とってくれるんだろう」と、任してくれる大家さんが何人かいます。また、収益物件として実物も見ず利回りだけで購入した投資家の物件は、満室にさえできればいいのでOKをもらいやすいという現実もあります。実際、近くの大学の学生向けに昔建てたアパートも、学生数が減っているため部屋を埋めるのに困っている物件もいくつかあります。そのような物件に、昔は断っていた高齢者に保険や見守り機器を活用することで一度入居してもらい、問題なければ次からはOKとなります。

 

─協議会では精神疾患患者の居住支援をどう進めていくのですか

 住宅確保要配慮者の居住支援を進める上で最後に残る課題が、精神疾患患者に対する支援です。昨年の相談者の属性を見ても、高齢者に次いで多かったのがこの方々なのです。そこで、この問題に取り組むために、まず私たちが病気についてちゃんと理解することから始めることにしました。実際に精神疾患をお持ちの方でも、普段は病気があるということは全くわからない場合があります。ただ、ある季節になると発症するとか、ゴミが捨てられなくなるなど、精神疾患と言ってもどのような症状がどのくらいの頻度で発症し、発症したらどう対応するべきなのかについて知る必要があります。そこで、病院の先生や看護師に話を聞いて協議会の中で共有することにしました。調布市には精神科のある病院が3カ所ありますが、協議会として各院長に面談を申込み、治療現場の人たちに面談させてもらいました。

 患者さんには、通院している人でも年に1/3だけ入院する人などいろいろなパターンがあるようです。しかし、退院できるのに部屋が見つからず結局再入院せざるをえない人もいるということを聞き、私たちはその方たちのために部屋を探す一方、病院で担当者をつけ、入居者がクライシスに陥ったら、すぐその担当者に連絡し、どういう処置をすべきかを指示してもらう。そうすれば、精神に疾患がある方にも住宅を斡旋できるのではないかと、病院と検討を始めています。

 

─精神疾患患者の住居斡旋に取り組む協議会は全国でも珍しいと思います

 居住支援の議論も結局は精神疾患患者の対応で行き詰ります。そこに取り組むことにしたのは、東京都でも多分調布市だけだと思います。最近では、近隣の市も協議会を傍聴に来られています。

 

─協議会として、次の目標について教えてください

 住宅確保要配慮者の中でも、高齢者については、人の死の告知のガイドラインや残置物処理に関するモデル条項等を国が整備しましたし、見守りシステムや保険の利用ができるようになりました。生活保護受給者に対しても、代理納付制度の実施により、家賃滞納の心配なく賃貸住宅を斡旋することが可能になってきました。

 それと同じように、精神に疾患がある方に対しても、入居斡旋のモデルを作りたいと考えています。具体的には、協会側は精神科のある病院の近くの不動産協力店をネットワーク化し、病院から退院するので部屋を探して欲しいという連絡があれば、近くで部屋を探し、トラブルがあった場合は病院の担当者が駆けつけてくれるという仕組みの、パートナーシップ契約を東京都宅建協会調布狛江支部と病院との間で結べないかという協議を開始しています。病院側からは担当者をつけられない、個人情報の扱い等の問題をクリアしなければならないという課題を提示されていますが、まずは事例を積み重ねていきたいと思っています。例えば、比較的症状の軽い方で、精神科に入院していたからという理由で入居を拒絶された人に部屋を斡旋し、入居後もその方の支援者たちが見守ることで、3年、5年と普通に生活できればそれが実績になります。その様なケースが増えれば満床で受け入れに困っている病院にとっても助かるはずです。そして、このようなシステムができたあかつきには会長を辞めることもできるだろうと思っています(笑)。

 さらに、刑余者や児童養護施設出所者の住宅確保も今後の課題です。刑余者については、保護司さんを講師にセミナーも行いました。このように、協議会の活動はどんどん横に広がっています。時には白熱した議論になることもありますのでとても面白いです(笑)。

 

 

まちの不動産屋として顧客との信頼関係を大切にする

─ここまで地域のために取り組む理由はなぜですか?

 生まれも育ちも調布ですから、事業を始めるのも調布以外には考えられませんでした。そうなると、何か不手際があっても地元からは逃げることはできませんので、きちんとした仕事を心がけています。

 

─お客様の6割近くは紹介者と聞きましたが

地域の課題解決に向けて熱く語ってくれた齊藤社長

 開業してから28年を迎え、3、4回目の部屋探しのお客様や、行きつけの飲食店のお客様やその友人など、リピーターやご紹介による成約率は全体の6割に及びます。例えば家賃が5万円の部屋でも、契約にあたっては30万円近くの契約金が必要になりますし、2年間賃料を払い続けるとなると120万円支払うという大きな買い物になるわけです。それを考えると、「今決めないと」と即決を迫る営業はできません。借主とも、契約した時より契約をした後からが本当のお付き合いになると考え、スタッフ含めそういうスタンスで接しています。借主にとっては“どこを借りるか”より“どこで借りるか”が重要なはずなのです。そのために、借主に対するアフターサービスがなくては絶対に成り立たない仕事だと思います。

 当社の管理物件は500戸近くありますが、そのうち約6割が家賃の支払いに来店されます。普段から入居者と顔を合わせ、コミュニケーションをとっていれば、入居者の困りごとをいつも把握することができます。昔からのまちの不動産屋が当たり前にやっていたことをしているだけですし、良き相談相手になるようお客様と接し続けています。

 

 


 

齊藤仁志 氏

1962年調布市飛田給に生まれ地元の公立小学校中学校卒業。

都立高校を卒業後は13回の転職を重ね25歳で不動産業に巡り会う。

この仕事を天職と捉え34歳で独立開業し現在に至る。

人の人生の深いところまで関わり本音で付き合っていかないと難しいこの仕事にやり甲斐を感じ不動産のプロとして街を知り尽くした者としてこれからも調布の街を舞台に頑張っていこうと考えている。

趣味は模型作りと少々のゴルフ

 

地元の企業として地域を盛り上げていく

有限会社サイトーハウジング

事業概要

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