調布市役所/東京都調布市
地域の安全性を確保する取り組み
<取材日:2024年7月4日>
空き家の適正管理を促すために、
利活用の推進と相談機能を充実させる
2023年の住宅土地統計調査によると全国の空き家の戸数は900万戸(空き家率13.8%)と、5年前の調査より51万戸増加し、過去最高になった。ただ、大都市圏は地方圏より空き家率は低く(東京都の空き家率は11.0%)、空き家問題は地方の課題と認識されがちだ。しかし、調布市は早くから空き家問題に積極的に取り組み、「空家等対策計画」を策定し、全国に先駆けて空家等管理活用支援法人を指定するなど積極的な活動をしている。そこで、その取り組み内容について、調布市都市整備部住宅課課長市川竜也氏、課長補佐熊代將人氏、東京都宅建協会調布狛江支部前支部長齊藤仁志氏に話を伺った。
大都市における空き家の現状と課題
─調布市の空き家の現状と課題について教えてください
熊代氏:2020年度に調布市独自で空き家実態調査を行ったところ、690戸の空き家が確認できました。翌年、それらの所有者に意向調査をしたところ、“今は特段困っていない”“忙しくて手が回らない”“相続の話し合いが進んでいない”などの状況があるのと同時に、“どこに相談していいかわからない”といった声もありました。そこで、相談機能を充実させてそのような方たちを支援していく必要があると考えています。
─空き家対策の取り組みに関する具体的な内容について教えてください
熊代氏:まず、2019年に「調布市空き家等対策推進協議会」を立ち上げ、2020年4月に「調布市空き家等の対策の推進に関する条例」を制定。同時に「調布市空き家等対策計画」を策定しました。作成した計画は、2023年3月に改定し、現在「第二期調布市空き家等対策計画」に基づき事業を進めています。
具体的な取組みとしては、まず、空き家の利活用を進めています。第1期の対策計画では、富士見町で空き家を定期借家契約で賃借し、2022年に「まちなかラボ富士見BASE」をオープン。空き家を利活用し、チャレンジショップを運営する3事業者を中心に、アートを通じた子供たちのワークショップや紙芝居の読み聞かせを行う等、地域の居場所づくりを目指しました。契約は貸主と借主の直接契約で、解体費が増えない範囲でDIY可能としてもらいました。富士見BASEは2022年で契約終了になりましたが、現在は飛田給に「トビバコ」という、空き家を活用した新たな拠点を設けています。
次に、空き家の相談窓口(「住まいの未来相談窓口」)を2020年度に開設しました。市が相談窓口の協力事業者を公募、最終的に金融機関や行政書士会等6事業者と提携し、ワンストップで相談を受けられる体制を整えました。開設当初は年に1度セミナーを開催し、相談を受け付けていましたが、今年5月から「住まいの終活相談」として奇数月の第3金曜日に相談窓口を常設することにし、3枠の相談枠を設けています。
三つ目として、2023年に空き家バンクを開設しました。空き家バンクについては、市が空き家の所有者と空き家を利活用したいという希望者を募集し、直接つなげる役割をしています。
─利用したい人の登録情報がオープンになっている点がユニークだと思います
熊代氏:空き家の所有者にとっても利用希望者がいるということがわかれば、貸してもいいという気持ちになると思います。利用希望者は市に申請し、市は書類等の審査を行った上で利用者登録し、公開する内容を確認した上で情報をオープンにします。
─市の空き家の取り組みに宅建協会はどう連携しているのでしょうか
齊藤氏:宅建協会の代表として、市の空き家等対策推進協議会に委員として参加しています。また、協会として事業者登録はしていませんが、6事業者からの相談案件について物件の価格査定等の依頼があれば、すぐに対応するバックアップ体制をとっています。また、市民課で開催する不動産取引相談についても相談員を派遣しています。
空家等管理活用支援法人を活用
─空家等管理活用支援法人を東京都で初めて指定されました。その狙いを教えてください
熊代氏:今年から空き家相談窓口を常設化しましたが、さらに相談機能の充実を図りたいと考えました。そこで、昨年末施行された、「空家等対策の推進に関する特別措置法」の改正で創設された空家等管理活用支援法人として、NPO法人空家・空地管理センターを指定しました。同法人は東京都のワンストップ相談窓口の委託事業者でもあり、昨年市のセミナーを開催した際にも連携した実績もありました。
同法人へ委託する業務内容は、①空き家等相談窓口業務②空き家問題に関する情報発信やセミナー等啓発事業③空き家の適正管理業務④他自治体との空き家施策広域連携事業で、市の空き家施策の補完的な役割を担ってもらう予定です。
具体的には、住まいの終活相談窓口の相談員の派遣を依頼しており、相談内容に応じて先ほどの6つの専門事業者と連携しながら、相談者の課題を解決していきたいと考えています。
空き家を利活用し、地域の賑わいの拠点をつくる
─空き家の利活用については補助金制度を設けておられます
熊代氏:「空き家等リノベーションスタートアップ補助金」という制度を設け、“地域の活動拠点づくり”を目的として空き家を利活用する場合、改修費の4/5を上限に(限度額50万円)補助をしています。「トビバコ」もこの制度を利用しています。
─利活用を進めるにあたり、「まちづくりプロデューサー」を立てておられます。こちらもユニークな方法です
市川氏:2020年度から東京都による3ヶ年の補助採択を受け「調布市エリアリノベーション事業」を展開し、富士見BASEの運営等を行ってきました。2023年度以降も「空き家等リノベーション促進事業」として継続することにしましたが、その事業として認定するために、学識者や市内在住の建築士の方々に「まちづくりプロデューサー」になっていただき、事業を審査してもらうことにしたのです。そして、事業として認定した後は建物の改修費等資金が必要になりますので、スタートアップ補助金として助成することにしました。
─空き家の利活用を促進する上で何が課題になるのでしょうか
市川氏:空き家はあるのに空き家が市場に出てこないことが課題です。先ほど2020年の調査で690戸の空き家があると申しましたが、5年前の調査では576戸と、2割弱増えています。内容を調べてみると、576戸の内370戸は既に解消し、新たに484戸が生まれているという状況です。つまり空き家の内2/3は市場で流通し、残りの1/3が滞留している、これが都市部に近い調布市の空き家の特徴だと思います。残りの1/3については、貸したくないという所有者の意向もありますが、権利関係が複雑になっているのも多いようです。
齊藤氏:空き家の解消事由はほとんどが売却です。貸したいという所有者もいますが、旧耐震の建物で耐震補強がされておらず、そのまま貸すのは難しい。また、空き家で滞留している物件は、道路付けの問題や所有者不明などの問題を抱えており、解決までに時間がかかります。
市川氏:そのように、流通に至るまでに解決しなくてはならない問題が複雑にからんでいることから、行政や専門家同士が連携して課題を整理し、流通にのせていくことが相談窓口の一つのゴールだと考えて、その枠組みを構築しているところです。
─今後の取り組みについて教えてください
熊代氏:相談窓口の常設化と合わせて空き家所有者に対する普及啓発を進めていきたいと思います。具体的には8月に三鷹市、狛江市、府中市と4市が連携して合同のセミナーを開催します(8/4実施済)。空き家は市内にあるが所有者が市外に住んでいることも多いので、近隣の市町村と連携して広域で対応していきたいと思います。
さらに、産学官連携で空き家新聞(仮称)を発行することで、空き家のネガティブなイメージを払拭し、市民にもっと空き家問題について関心をもってもらいたいと思っています。
市川氏:当市の空き家政策の柱は、“空き家の適正管理”です。その過程の中で、活用できるものはスタートアップ助成金などを使いながら利活用し、適正管理に向けてどうすればいいかわからないという方に対して相談窓口の充実をしていきたいと考えています。
調布市
調布市は、東京都のほぼ中央、多摩地区の南東部に位置し、新宿副都心へ15キロの距離にある。地形は武蔵野台地の南部の位置にあり、北に深大寺の森、南に多摩川など、豊かな自然に恵まれている(緑被率は約31.0%)。そのような、環境の良さと利便性などから住宅地として人気が高まり、2024年4月1日現在の世帯数は124.148世帯、人口は239.247人と、2000年5月に20万人を突破してからも伸び続けている。