住まい探しはハトマーク

株式会社フラット・エージェンシー/京都府京都市

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2017年9月>

 

不動産業は地域に根付いた
「まちづくり業」

若手起業家、学生、留学生を支援し、地域を活性化させる

 

・地域の「まちづくり業」を目指す

・若手起業家支援と地域活性を目指す

・学生や留学生を支援し、課題を解決する

・本業を通じて社会の課題を解決する

 


 

地域の「まちづくり業」を目指す

─43年前の創業当時から学生向けのビジネスを展開していたのですか?

 創業のきっかけは、父が若い頃に世界を旅し、滞在先のイギリスで親身になって部屋を探してもらった経験から、日本に来る外国人のお世話をしたいと考えたことでした。当時は外国人の入居を許可してくれる大家は少なく、苦労をしたようですが、店舗の近くに大学が多かったことから、学生向けの賃貸の斡旋と管理を主として事業を広げていきました。

 

─まちづくりに早くから取り組まれています。

 1997年に当時の建設省から発表された「不動産業リノベーション報告書」には、“これからの不動産業はまちづくり産業を目指すべきだ”ということが示されていました。この業界は社会からあまり信頼されてないことをずっと感じていましたので、この言葉で当社が目指す方向が明確になりました。その頃から私たちは、地域の“よろず相談所”の役割を果たして人と人をつなぎ、地域にある課題や問題を拾い集めて、どうすれば解決できるのかについて考え始めました。

 

 

若手起業家支援と地域活性を目指す

─地元の商店街の活性化に取り組まれています。

 当社の近くにある新大宮商店街は古い商店街で、その中には京町家も結構並んでいます。3~4年前からシャッターを閉める店も増えており、どうしたら昔の活気を取り戻せるのかについて考えていました。そこで、当社は町家の改修の実績もありましたので、それを活用すれば若い事業家を呼べるのではないかと思い、商店の所有者に1軒1軒訪問して回りました。

 

─具体的にどのような手法で行ったのでしょう。

 ポイントは2つあります。「前払い家賃制度」を導入したことと、「若手起業家支援」と「地域活性」を目的に用途を検討したことです。

 商店のオーナーの中には改修費を出せない人もいますし、町家をそのまま子どもに承継したいという人もいます。そこで、オーナーと10年間の定期借家契約を結び、当社が所有者に10年分の家賃を一括で前払いします。その費用でオーナーは改修をし、改修後の物件を当社が転貸するスキームです。この方法なら、改修部分の所有権の帰属先はオーナーになりますし、転貸終了後はきれいな状態で家が戻ってきます。

 改修した町家はゲストハウスやカフェやバル、チョコレート製造販売などのお店になっています。町家を活用し、若い事業家が商店街に入ってくれば地域が活性化します。そのために、当初3年間は低い家賃設定にし、商売が順調になれば家賃を上げていくなど、彼らがスタートアップしやすい方法も取り入れています。また、当社でも一級建築士を採用し、町家の工事を直接請け負える体制を整えました。京都で事業をしたいという若い起業家は結構いますので、オーナーもテナントも当社も利益が上がる持続的なビジネスになりつつあります。

新大宮商店街の改修物件

 一方、部屋を借りに来る学生に聞くと、家と学校またはバイト先の往復しかしておらず、4年間過ごしても京都のことをあまり知らないことがわかりました。せっかく京都に勉強に来ているのだから、まちをもっと好きになってもらいたいという気持ちもあり、新大宮商店街が彼らの寄り道の場所になればと思っています。そのためには、若い事業家と商店街の人たちが融合して新たなコミュニティをつくることが大切ですし、私たち不動産業者は、そのお手伝いをしながら、地域の魅力をもっと外に発信しなくてはなりません。そうすれば、さらに地域に人が集まるようになり、結果的に私たちのビジネスにつながっていきます。

 商店街に180軒くらいの店があるなか、当社が若い事業者に仲介した案件はこの2年間で16件になりました。商店街の取り組みが盛り上がってきたおかげで、新しいお付き合いも生まれましたし、京都市がモデルケースとして注目してくれ、いろいろ相談してくれるようになりました。

 

─「TAMARIBA」というコミュニティスペースも運営されています。

 学生に聞いても地域の人に聞いても、残念ながら不動産会社には怖いイメージがあり、簡単には相談に行きにくいといわれます。そこで、オープンな雰囲気にして地域の人に気軽に相談に来てもらえるような場所として「TAMARIBA(たまり場)」をつくりました。社有の賃貸マンションの商業スペースを改装し、1階にカフェとオープンスペース、奥に「すまい相談室」を設け、2階を管理事務所にしました。相談室は常駐ではなく、相談員が2階から下りてきます。カフェで儲けるつもりは全くありませんでしたが、リフォームの案件を年20数件ほどいただくようになりました。

 当初は不動産の相談窓口として始めましたが、最近では地域の人が使ってくれるようになりました。1階のオープンスペースは無料で貸し出しているので、絵画展などのイベントが年130回ほど開かれています。正月には餅つき大会、夏にはマルシェを開催します。地域の人が集まり交流が生まれ、徐々に地域に根付いた場所になりつつあります。

 

コミュニティスペース「TAMARIBA」外観

「TAMARIBA」でのイベントの様子(夏マルシェ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─商店街以外にも、学校や工場跡地などいろいろな活用の提案をされています。

シェアアトリエ「THE SITE」

 10年前に閉校になった美術学校の所有者から、建物の活用方法について相談され、シェアアトリエ「THE SITE」をつくりました。この物件から自転車で行ける範囲には京都造形芸術大学や京都精華大学など芸術大学がいくつかあり、その学生たちに聞くと、卒業したあと引き続き制作をしたり、作品を保管しておく場所がなく、結局あきらめたり実家に戻ったりしているとのことでした。確かに芸術で活躍できる人はごく一握りかもしれませんが、卒業後も京都に残り、活動してもらいたいとの思いで、安い家賃で借りられる工房兼シェアアトリエをつくったのです。

 「385PLACE」は西陣織の工場で、オーナーから使っていないフロアを貸せないかと相談があった物件です。この物件は西陣織の需要が高かった時代に建てられた立派な建物ですが、一般的な事務所では立地的にテナントを見つけるのが難しい場所です。ここも、近くに同志社大学や立命館大学があることから、学生や若い起業家が使えるシェアオフィスにしました。

 

─京町家の保全にも尽力されています。

 京町家は京都の宝です。2000年に当社が開催したセミナーがきっかけで京町家を仲介したことがありますが、そのあと借主が何千万円もかけて改修した物件を見て、その素晴らしさに感動し、町家の利用が京都の活性化につながると確信しました。そこで十数年前からその保全と活用に取り組み、店舗と住居合わせて累計で250軒程度を再生してきました。当社は賃貸事業が中心なので買取りではなく、借りて運用する方法をとっていますので、最近は、空き家になってはいるけれどまだ手放したくないというオーナーからの問い合わせが増えています。京町家については同業者が一緒になって守っていこうという雰囲気が形成されており、京都府景観条例ができたのもその影響が大きいと思います。(公財)京都市景観・まちづくりセンターには現会長の父が参加し、京町家の専門相談員という役割も務めています。

 

 

学生や留学生を支援し、課題を解決する

─賃貸物件もさまざまな形態で運営されています。「シェアフラット」について教えてください。

 「シェアフラット」は十数年前に始めました。管理していたマンションで学生が自殺したことがきっかけです。周りの人に聞くと本人には誰も相談する人がおらず、悩みを1人で抱えてしまっていたようです。そこで、学生向けの賃貸物件をシェアハウス方式にして入居者間で交流ができる物件を開発しました。コンセプトを“not alone1人暮らしだけど1人じゃない”とし、名前はシェアハウスとアパート(フラット)をかけ、商標登録もしました。この方式にすることで家賃も安く抑えられるため学生にはさらにメリットが出ます。かねてからビジネスを通じて社会の課題解決をしたいと考えていましたが、シェアフラットがその1つの解になりました。大学に案内すると好評で100室単位で借り上げてもらっています。現在20棟運営していますが、物件毎にフェイスブックを設けたり、新入生歓迎会や座談会形式で就職セミナーなどもしています。

 

─マンスリーマンションはどのような人が対象なのですか?

 マンスリーマンションを始めたのは、佛教大学から夏のスクーリングで全国から短期間人が来るのでなんとかならないか、という相談があり、空き部屋を短期間貸したことがきっかけです。京都には大学だけでなく京セラやロームなどの大企業があり、全世界から研究者が1カ月から1年単位でやってきます。研究者がトランク1つでやってきて、その期間暮らせるキッチンと家具付きの部屋のニーズが年々高まっており、今では売上の2割以上を占めるようになりました。そのような部屋が京都では250室あり、平均稼働率は85%ですので、ほぼ空きがない状態です。敷金・礼金・仲介手数料なしで貸していますが、大学や大手企業が借主なので安心です。

 

─留学生の支援も熱心にされています。

 京都市には現在1万人の留学生がいますが、1万5,000人まで増やそうと計画しています。大家の意識は大分変わってきましたが、受け入れる物件はまだ少ないのが実情です。そこで、当社では7年前に、他社に先駆けて複数名の外国人を正社員で雇用しました。彼らには部屋探しだけでなく、ゴミ出しの指導や入居ルールの説明などと共に、生活面での困りごとの相談といったサポートもしてもらっています。入居審査も家賃保証も当社が行いますが、住み方をきちんと理解してもらっているので事故は全くありません。そのおかげで大家の理解も進み、海外の研究者や留学生を年間約300件程度斡旋できるようになりました。

 さらに、京都市が留学生の就職支援や交流促進をしようと立ち上げた「京都グローカルセンター」というプロジェクトにも参加しています。入居した留学生と話していたら、“就職の応募の仕方がわからない”“大手企業しか受けていない”という話を聞きました。そこで、地元京都にも素晴らしい会社があることを知らせようと、当社が主催して留学生向けのセミナーをしています。このような長年の取り組みが認められて(公財)京都府国際センターから感謝状が贈呈されました。

「シェアフラット」外観と内部の様子

 

 

本業を通じて社会の課題を解決する

─ユーザーの声に真摯に耳を傾けて事業展開されています。

 2017年には、京都のまちの課題を不動産を通じて解決してきたことが評価され、京都市ソーシャルイノベーション研究所から第2回「これからの1000年を紡ぐ企業認定」を受けました。学生でも留学生でも差別せずお客様1人ひとりの声を聞いて、それに対してどうしたら応えられるのか、という事をずっと考えています。

 「THE SITE」では改修費用に4,500万円という見積もりが来た時には悩みましたが、芸大の学生から、卒業後に活動する場所がないという話をずっと聞いていましたので、社会のためだと思い投資を決断しました。新大宮商店街も、“だんだんシャッターが多くなったね”という地元の人の話がきっかけで始めましたし、シェアフラットも痛ましい事故がきっかけでした。きっかけは何であれ、社会の要望が高い事業には必ず実績がついてきます。

創業40周年記念の集合写真

 新しいプロジェクトに取り組むには、自らリスクをとることが大切ですが、その決断が難しいのも事実です。しかし最終的には、“その事業が社会の役に立つのか”“その事業が社会の課題を解決するのか”という視点で思い切って判断していくことが大事だと思います。

 よく京都は“勝ち組のまちだ”といわれますが、それだけ大手や競合は参入してきますし、人口減少の中でこの先どうしていくのか、日々悩んでいます。学生は大勢いますが、下手をすれば京都に4年間いるだけで、素通りされるまちになってしまう危機感があります。

 順調に業績が伸びているのも社員のおかげです。社員はインセンティブや人事制度ではなく“お客様の喜びが私たちの喜び”“社会に貢献し社会から必要とされる企業になる”という企業理念に共感してくれています。就職セミナーでも、「君たちの仕事は不動産業ではなく“まちづくり業”だよ」と説明しています。

 

 


 

吉田創一 氏

1977年 京都市生まれ。2001年、京都産業大学卒業後、ミサワホーム近畿株式会社に入社。住宅メーカー営業勤務ののち、2005年、株式会社フラット・エージェンシーに入社。2015年、代表取締役に就任。
『まちづくり・コミュニティ・サービス』をキーワードとした創造的な住空間を演出し、安心・安全、豊かで楽しい暮らしを提供することを使命として取り組んでいる。単なる不動産会社ではなく、まちづくりに貢献できる企業を目指して邁進中。

 

 

 

株式会社フラット・エージェンシー

代表者:吉田 創一
所在地:京都市北区紫野西御所田町 9-1
電 話:0120-75-0669
H P:https://flat-a.co.jp/
業務内容:賃貸仲介や不動産売買、建築、リフォーム業をはじめ、京町家の保全と再生に関わる事業や、短期滞在型賃貸などを展開する。また、新大宮商店街の活性化などにも積極的に取り組んでおり、多目的スペース等を併設した地域の交流サロン『TAMARIBA』を運営している。