住まい探しはハトマーク

株式会社泉不動産/愛知県名古屋市

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2017年8月>

 

信頼は社会への貢献の対価である

不動産で人を幸せにする、最良の提案を探求

 

・借地・借家の管理業に特化する

・日本初、産学協同で長屋活用のリノベーションスクールを実施

・地元業者だからできる被害者支援

・リスクを考え、人が幸せになる不動産活用を提案する

 


 

借地・借家の管理業に特化する

─この地域はまだ古い長屋が多く残っています。

 当社は宅建免許制度ができた1952年に創業し、1962年に株式会社となり免許登録しました。法人としては、今年創業66年の不動産会社です。当社がある名古屋市中村区はJR名古屋駅の東西に隣接する利便性の高い地域です。駅前には高層ビルが林立する一方で、終戦前後に建築された古い長屋が今なお多く立ち並んでいます。

 20代の頃、ある地主から「お前たち不動産屋は私の持っている更地の土地を欲しがるが、私たちが一番困っているのは借地や古い借家の世話。値上げや契約更新、補修交渉をしようと思っても大手も銀行も本気で手伝ってくれへん」と言われました。

 不動産屋の2代目としてこの言葉はショックでした。しかも借地借家人も困っていたのが現状でした。古い長屋の借家管理は当時、家賃統制令もあり、手間も掛かりトラブルもありますが、「誰もやらない事なら、しっかりと正面から取り組みましょう」ということから始まりました。

 1989年には管理部を発足し、本格的に「老朽化した建物・借地借家問題」に取り組むようになりました。戦時中の住宅供給不足を受けて、1941年の借家法の改正で貸主に正当な事由がなければ賃貸借を終了できなくなり、1939年から続く地代家賃統制令(1986年解除)で家賃水準は低く抑えられました。そのため、賃貸業は回転率の高い学生マンションやワンルームマンションに傾斜していき、戦後からある長屋は、賃料の値上げもしにくく、老朽化で修繕費がかかることから、金食い虫で負の不動産として見られています。そのため当社は居住用においてはアパートやマンションの管理は極力行わず、30年近く借地と借家の管理に特化してきました。

 入居者は高齢者も多く、家賃の値上げをお願いする際は鬼といわれることもありますが、“今の住まいをいい状態で続けるにはお互いが協力するしかない”と腹を割って話します。また、借地・借家人に対しては毎月全員に請求書を出しています。駐車場を含めると何千通にもなりますが、借主には“貸してもらっている”ことを、地主には“借りていただいている感謝の気持ち”を毎月確認してもらうために必要なことだと思います。

 

 

日本初、産学協同で長屋活用のリノベーションスクールを実施

─老朽化した長屋の改修は困難が伴います。

中村区の長屋

 家主は潜在的には建て替えたいという要望を持っていますが、マンションや商業ビルに建て替えたとしても採算がとれる保証がありません。また、入居者のほとんどが高齢者で、生活保護を受けている方もいますので、安易に退去を求めることもできません。さらに、連棟式のため3軒長屋の真ん中の1軒が空いても解体できなかったり、借地と借家が混在する場合もあり、いつもその場しのぎの補修ですませていました。

 長屋をプラスの資産にするためにどうすべきかを考えていた時に、たまたま名古屋大学の小松尚准教授とお話する機会があり、当時話題になっていた映画の「“千と千尋の神隠し”に出ていた古い旅館が若者の間でカッコいいと受けるのなら、学生を対象にして長屋の面白さをわかってもらうプロジェクトをやってみたらどうか」と盛り上がりました。それが『向こう三軒両隣 一緒に住まうまちづくりワークショップ長屋再生計画!』です。今のリノベーションスクールのようなもので、2002年に名古屋大学小松研究室+子ども建築研究会へ参画・協賛し実施しました。

長屋再生計画のポスターと資料

 具体的には、大学や高校にポスターを貼り参加者を集め、大学生にはすべての長屋を訪問し、写真を撮り、構造や間取りなどを調べ、図面を起こし、系統だてて整理してもらいました。長屋の中には、お稲荷さんがあったり中庭があったりするものがあります。その中の1軒の長屋を公開し、どう使ったら面白い活用ができるのかについて考え、発表をしてもらうことにしました。そこでまず、参加者全員で現地見学をし、その後チーム分けをしてワークショップを行い、活用方法が決まったら段ボールで模型を作り、最後に作品を並べ発表コンテストをしたのです。作品はいろいろなアイデアに富んだものでしたが、そこから出てきた共通のキーワードは“コミュニケーション”でした。つまり、“長屋を通じて地域のコミュニケーションを図り、地域コミュニティを再生する”というものです。発表コンテストには当社が管理している家主全員に参加してもらい、「あなたの持っている長屋は決して負の財産ではなく、やり方次第ではプラスの財産になります。子どもたちはその可能性をこんなに評価しているのですよ」ということをわかってもらうようにしました。

 

学生たちによる発表会の様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─家主に意識の変化はみられましたか?

 長屋の改修にスポットライトをあてたおかげで“古いものは悪いもの”という考え方も薄れてきたと思います。この地区では建築家の向井一規氏※1に依頼をし、「RE長屋-ITO」をはじめ4軒の長屋をリノベーションしました。どれも家主には好評で、機能に加えてデザインにもお金を払っていいという雰囲気がでてきました。住居系のリノベーションは10軒程度行いましたが、それ以外にも店舗へのコンバージョンも手掛けており、四間道(しけみち)では、当社のプロデュースで土蔵をフレンチレストランや和食の料理店にしました。

 不動産業者は建築家と違い、単純に長屋や壊せない建物を残し、おしゃれにリノベーションをすればいいという発想だけではなく、改修による収支を考えながら、再生後の維持管理の方法を含めた事業全体を組み立てることが大切です。

 

名古屋城下を流れる堀川の西側に位置する四間道に立つ、土蔵を改修したレストラン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地元業者だからできる被害者支援

─DVやストーカー被害者の支援をしています。

 不動産の仕事をしていると、警察から物件や身元調査を依頼されることがあります。あるとき、犯罪の被害者のために部屋を探してほしいと依頼がありました。当社ではアパートやマンションの管理はしていないため大手管理会社を紹介しましたが、その会社で引っ越し理由などを詳しく聞かれて、本人がその場で泣き崩れてしまったそうです。そこで、当社の社員を同席させて本人と婦人警官の3名で店に行き、社員が本人の代理人となり話をまとめました。その後、地域でも「被害者支援連絡協議会」が立ち上がり、その後10年以上お手伝いしています。

 支援の際には、性犯罪やDV、ストーカー被害などを受けた女性の心の傷を深めないように事前に警察から本人の状況を聞き、面談の場所も必ず個室を用意します。紹介する物件は安心して暮らすことができるよう、防犯カメラ、オートロックなどのセキュリティ完備、5階以上でエレベーターから近い部屋などの条件設定を行い、経験豊かな女性営業社員が担当します。それ以外にも被害者と同じ目線で、身体のスピードを合わせ、つかず離れず寄り添ってあげることが大切です。大事なのは守秘義務だけではなく被害者への心遣いです。そのために、社員はセミナー等に参加して心のケアの方法を学んだり、犯罪リスクについて社内で情報共有もしています。また、被害者が無職の場合でも保証人がたてられるようにし、初期費用も極力かからないよう管理会社と調整します。

 この活動を通じて社員には、不動産業は社会のためにあり、不動産業界が信頼されるかどうかは社会へ貢献した対価として得られるものだ、ということをわかって欲しいと思っています。

 

 

リスクを考え、人が幸せになる不動産活用を提案する

─今後、不動産業者の役割は変わりますか?

 不動産業界を取り巻く環境が大きく変わっています。AIが進歩すれば単純なマッチング業務だけでは私たちの仕事は必要がなくなります。これからはお客様への提案のレベルを高めると共に、仕事を通じて世の中を良くすることを考えなくてはなりません。長屋の再生プロジェクトや被害者支援を行っているのもそのためです。

 当社は事業領域を「人と不動産の関わり」としています。人×不動産=幸せ、つまり不動産は人を幸せに導くものであり、そのために不動産業者の関わり方がとても重要だということです。高度成長期のような、不動産を持ってさえいれば幸せになる時代は終わりました。私たちが関わり最適な不動産の活用方法を提案し、その先にある幸せを実現しなくてはなりません。そのためには深い専門知識をもち、リスクを踏まえた高度な判断ができることが不動産業者の必要条件になります。

 

─大都市圏は大手企業による開発ラッシュです。

 ある地主から、某駅前の土地の利活用について相談がありました。大手ゼネコンやデベロッパーからは何十億もかける高層階建ての総合ビルの提案があったようでしたが、当社では大きな借金をして長期に渡り運営維持をしていくにはリスクが高いと判断し、数億円の平屋でキャッシュフロー重視の提案をしました。結果地主は当社の提案を選択し、リスクも少なく高額な家賃を得ています。また、空き地の管理に困っていた地主には、アパートを建てるのではなく「どんぐり広場」にして自治体に賃貸する提案をしたこともあります。高度成長期には、土地があればビルやマンションを提案すればよく、ワンパターンで楽な仕事のようでしたが、これからは創造力を生かして既存の物件や地域に魅力を与え、長期的な独自資源の観点から提案をすることが求められています。

 日本は東京の一極集中が進み、どこの都市も東京と同じまちづくりをしています。そのしっぺ返しが今地方に来ています。私たち地域の不動産業者は、これからはどのようにまちをつくり、地域の魅力を高めていくかを考えなくてはなりません。

 最近若い社員が取り組んでいるのが学童保育です。学童保育を行うには行政との協議と地元の方達とのしっかりとした連携が必要となってきます。

 これからのまちづくりの1つの方向にPFI※2の考え方があります。必要な施設を行政に代わって民間がつくりそれをマーケットで生かすところに不動産業の未来があるかもしれません。その延長上にあるのが「地域のサポート」です。行政の仕事などをお手伝いしながら地域の未来図を地元の方達と一緒になって描いていくつもりです。それは行政だけの仕事ではなく、私たち不動産業者も積極的に関わっていくべきだと思うからです。

 

※1 建築家。愛知県名古屋市。向井一規建築設計工房代表。

※2 Private Finance Initiative。公共施設等に民間の資金等を活用すること。

 


 

小酒井比呂志 氏

1955年生まれ、名古屋市出身。大学卒業後、畑違いの業界に就職する。1980年に兄から呼び戻され、株式会社泉不動産へ入社。1985年、代表取締役就任。パラオ博物館改修ボランティアに参加。現在、被害者支援連絡協議会会員、社会福祉法人理事、公益財団法人評議員、NPO法人各理事を兼任。

 

 

 

 

株式会社泉不動産

代表者: 小酒井 比呂志
所在地:愛知県名古屋市中村区井深町15番17号
電 話:052-452-8900
H P:http://izumi-realestate.com/
業務内容:名古屋市中村区で65年以上にわたり不動産売買仲介、賃貸仲介、不動産管理、貸事務所、バイクガレージ、月極駐車場を行う。また、長屋再生事業や不動産の活用事例研究の他、犯罪被害者とその家族のために不動産に関する情報提供等をしている。