住まい探しはハトマーク

公益社団法人埼玉県宅地建物取引業協会埼玉東支部草加地区

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2018年1月>

 

宅建協会として「リノベーション
まちづくり」にコミット

地域・テナント・業者がwin-winの仕組みを目指す

 

全国各地で地域の活性化を目的とした「リノベーションスクール」が開催されている。しかしそれに対して、本来まちづくりの主役を務めるべき不動産業者の関与は薄いように思われる。その中で、草加市では宅建協会の役員らが主体的に参加し、スクールで検討された事業をより現実的なものにすべく後押しをしている。そこで、草加市とまちづくりに取り組んでいる宅建業者4社に話を聞いた。

 

・行政が進めるまちづくりにコミットする

・黒子になって、若い事業家とオーナーの条件を調整する

・まち、オーナー、不動産業者がwin-winになれるビジネスへ

・「まちづくり」の成否のカギは不動産会社が握っている

 


 

行政が進めるまちづくりにコミットする

不動産部会での打ち合わせの様子

 草加市は「そうかリノベーションまちづくり構想」を策定するため、2015年に検討委員会を設置し、不動産業界からは草加地区長の木村氏が委員として参加しました。7回に渡る検討会での議論は市民にも公開され、まとめられた構想案には不動産業者の意見も多く反映されました。

 翌年には構想案に従って「そうかリノベーションまちづくり協議会」が設立され、不動産部会、金融部会、建築部会、家守部会、学生連携部会に分かれ専門的な見地から意見を出し合いました。不動産部会は6名から成り、4名が埼玉県宅建協会埼玉東支部の会員で、その内3名が草加地区の理事を務めています。

 

 

 

 

株式会社草加不動産木村忠義 氏 

所在地:草加市高砂2-7-1(アコス南館1F)
電 話:048-927-5555
業務内容:アパート・マンション/事務所・店舗/駐車場等の賃貸仲介・管理、新築戸建/中古マンション・戸建/土地等の売買・仲介

 

 

 

株式会社村上不動産村 上昌巳 氏
所在地:草加市高砂2-10-21
電 話:048-925-2050
H P:http://www.murakamif.com/
業務内容:アパート・マンション/事務所・店舗/駐車場等の賃貸仲介・管理、不動産コンサルティング、定借プランナー、競売不動産取り扱い

 

株式会社リヴ 坂斉洋司 氏

所在地:草加市中央1-5-25
電 話:048-923-0021
H P:http://livsoka.com/
業務内容:注文住宅・リフォーム・設計・インテリアコーディネート、住まい相談の窓口、地元地域の活性化事業としてカルチャー教室等実施

 

有限会社東邦ハウジング 五十嵐佳之 氏

所在地:草加市高砂2-18-9
電 話:048-920-6355
H P:http://www.toho-h.co.jp/
業務内容:アパート・マンション/事務所・店舗/駐車場等の賃貸仲介・管理、新築戸建/中古マンション・戸建/土地等の売買・仲介

 

 

 

黒子になって、若い事業家とオーナーの条件を調整する

 私たちは地元の業者ですので、リノベーションスクールで対象になった物件が空いている理由も、オーナーの考えも知っていて、その多くは不動産業者の観点からは手を出しにくいと判断したものばかりです。しかし、オーナーは行政からの依頼ということもあり、貸すことに対して好意的に対応してくれました。リノベーションスクールでは、元気はあるけれど地元のネットワークもノウハウもない若者たちが、3日間の徹夜の作業を通じて提案書を作るので、すぐにでも事業ができそうな雰囲気になります。しかし、実際に交渉してみると、物件の状態やオーナーの考えと事業が合わないことが多いのです。第1回リノベーションスクールで事業が検討され、家守(やもり)会社が進めてきた案件は、オーナーとの間でリスク負担の調整がうまくできず契約書が作れなかったり、物件を調査してみると耐震補強が足りなかったり、解体してみるとアスベストが出てきたりといったトラブルが発生し、そのままでは予算がオーバーし、事業計画が頓挫しそうになりました。そこで私たち不動産業者が間に入り、事業を進めることができるようになったのです。不動産業者が最初から関われば、契約書の中に特約をつけてリスクを回避したり、工事中に思わぬトラブルが発生してもオーナーと調整し、予算をかさ上げして解決することができますが、家守会社はやりたいことやデザインが優先し、リスク管理があまりうまくできません。

 そうした反省を踏まえ、行政からは、リノベーションスクールで検討した事業が実現できるように、事業者とオーナーの間に入って調整して欲しいと要望されました。そこで、第2回目からは不動産部会がノウハウを提供し、物件の調査や契約書の作成アドバイスなど、黒子となって彼らの事業を支援することにしました。

 

地場野菜を使った洋風おばんざいとお酒を楽しめる バル「野菜とお酒のバル スバル」

ベッドタウンパパや地域の人たちが集うコンセプト料 理教室「キッチンスタジオ アオイエ」(2018年4月 オープン)

都内のホテルで20年以上修行したシェフによる、家 族(子連れ)で行ける「洋食屋 aTable(あたーぶる)」 (2018年5月オープン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まち、オーナー、不動産業者がwin-winになれるビジネスへ

 リノベーションまちづくりを推進するには、成功案件を増やすことが重要で、そのためには多くの不動産業者の参加が必要です。しかし、流通にのせるリスクのある物件と素性のわからないテナントを結びつけ、1カ月の手数料で責任も負うような仕事は、通常は受けにくいものです。そこでこれからは、私たちが人となりをよく知るオーナーのテナント募集中の物件を、このスクールの場に出すことができないかと考えています。リノベーションスクールは、私たちがあまり得意でない、利用の構想力や若いスモールビジネスの事業者という借り手を集める力があります。そこで不動産業者が家守会社の役割を果たし、場合によってはテナントからの手数料を無しにするなどして、契約内容を調整し、委任を受けている空き物件とマッチングできれば、事業者も不動産業者も契約のリスクを低減でき、win-winのビジネスにすることができるのではないかと考えています。ただしその際に参加できるのは、この地域の活性化に貢献しようという意思のある不動産業者にしようと思っています。草加市はあと3年はスクールを実施する予定ですので、それまでに形にしていくつもりです。

 私たちがこれまでまちづくりの活動に関わって、重要だと再認識したことがいくつかあります。まず、この事業をうまく進めるには、先にテナントを決めて、改修にかかる資金調達方法も私たちから提案できることが必要だということです。やはり、開業資金が潤沢なテナントや改修資金が豊富なオーナーは少なく、その資金をどう調達するかという点に私たちの介在価値があります。次に、テナントは誰でもいいというわけではないということです。やはりテナントには町会に入り、商店街の活動に協力する意思がある人を入れるべきだと思います。市外からやってきて、町会にも入らないテナントのところには地元の人は行きませんし、店も長続きしません。そうではなく、飲食店であれば町会や商店街活動に協力してもらう代わりに、私たちも開店時には花輪を出し、近所の人に食べに行くよう働きかけ、評判の店になるような関係づくりをしていくことが大切です。地域のお祭りに参加したり、イベントに協賛してもらう一方で、その店に皆で食事に行こうという気持ちが生まれる。そのような新たなテナントと地域をつなぐ役割も、私たち不動産業者の大事な仕事だと思います。

 

 

 

草加市自治文化部 産業振興課長    髙橋浩志郎 氏

「まちづくり」の成否のカギは
不動産会社が握っている

草加市の地域経営課題

 草加市では、2015年から「そうかリノベーションまちづくり」を推進しています。まちづくりというと行政が主体となって行うというイメージが強いですが、今は全く逆で、地域の皆さんが主体となってまちの未来を描き、それを行政がお手伝いするようになってきています。そして、それを実現する上で、キープレイヤーになるのが不動産業者の皆さんです。

草加市高砂二丁目地内まちづくり推進事業用地の提案内容イメージ図

 草加市の人口は、2014年4月現在で244,715人でしたが、2018年1月現在では247,991人と増加しています。しかし、将来推計を見ると人口の増加は今後約5年で頭打ちになり、その後は減少し続け、今から約40年後には約19万人になってしまいます。草加市は東京のベッドタウンとして、結婚や子育てを機に移り住んできた住宅の一次取得者が多く、人口構成を見ると35~44歳の占める比率が約65%と、全国比で見ても高い割合です。しかし、彼らがそのまま年をとっていけば20年後には一気に高齢化が進みます。

 通勤先を見ると、東京都が36%と最も多く、市内で従業する方は33%にすぎません。一般的な地方都市で市内従業の割合が約7割といわれていますので、草加市はその半分です。

 転入・転出の状況は、ここ5年間で見ると、人口の11%が入れ替わっており、やや転出超過の傾向です。人の移動は沿線を軸に動いており、隣接の東京都足立区からは転入超過、埼玉県越谷市には転出超過になっています。今は、草加市は都内に比べ物件価格が比較的割安で手頃なので都内から人が入ってきますが、今後人口減少と都内の中古物件の価格が下落すれば状況は変わってくると思われます。

 

そうかリノベーションまちづくりの出発点

 国交省が夜間人口や生産年齢人口の増減率などから、東京都市圏の沿線の将来比較をしています※1。それによると、2005年を起点として30年後には、東武伊勢崎線は21沿線中最も人口が減少し、最も高齢化の影響が大きい沿線になると予測されており、沿線人口は約23%減少し、生産年齢人口に至っては36%減少するという数字になります。東武鉄道は、東京スカイツリーの建設に始まり、ここ10年間、沿線の名称変更、アーバンパークライン沿線開発、スカイツリーラインとの直通運転開始など将来を見据えていろいろな事業を行っていますが、東京から距離が遠くなる沿線北部から人口減少と高齢化は加速していきます。

 草加市も詳しく見てみると、中心市街地にある旧町地区はマンション開発が進み、人口も世帯数も増え、20~54歳の比率が高くなりました。しかし課題は、市内での購買率が激減していることです。詳しく調べてみると、食料品や日用雑貨などの毎日の必需品を草加市内で買う人は約88%いますが、洋服・衣料品の購入になると約55%、外食の場合は約61%となり、家族で買い物を楽しむとなると約18%まで減少してしまいます。つまり休日は約8割が草加市外に行っており、その行先の多くは同じ県内の越谷市にある大型ショッピングセンターの“越谷レイクタウン”であることがわかりました。

 大型ショッピングセンターができると、経済効果が見込めて雇用も生まれますが、テナントはほとんどが大手チェーンのため使われたお金は東京に行ってしまいます。また、大規模商業施設の建設設備単価は大体坪単価で35~40万円くらいだそうですので、10年で投資回収を終えることができるそうです。この先高齢化が進み、マーケットが見込めないと判断すれば容易に撤退ができるために、未来永劫そこで営業し続けるとは限りません。

 草加市中心市街地の固定資産税評価額の5年毎の推移を見ると、バブル崩壊後からマイナスの地域が増えています。つまり、草加市は人口は増えていますが、駅前で買い物をしたり、休日に余暇を過ごす人が減ってしまい、まちの価値がどんどん下落していることになります。不動産の価値が下がれば賃貸ビルのテナントが埋めにくくなります。そこで、行政としても人口が増えている今から先を見越して、まちの価値を上げていくことに取り組まねばならないと考えました。

 

リノベーションまちづくりの始動

 草加市では2013年に「草加駅東口周辺にぎわい創出調査」を実施しました。調査によると、草加駅周辺は、“個性や都市空間の魅力に欠ける”“地区内の消費は伸び悩んでいる”“住民間の交流が不足し、地域コミュニティも弱体化している”という結果が出ました。そこで、旧道沿線エリアを草加の「都市核」とし、その生き残り策を考えることにしました。

 また、まちづくりの考え方も切り替えました。これまでの行政のまちづくりは施設等を作ることを中心にしていましたが、そうではなく、まちに人々が集うようなコンテンツや仕掛作りをすることにしたのです。そして、それは民間主導で進めるべきで、行政の役割は、民間の人たちがまちに必要なビジネスを興し、まちを変えていくことを手助けし、応援していくことであると考えました。そこで、2015年に「そうかリノベーションまちづくり」がスタートしたのです。

 リノベーションまちづくりは、中心市街地にある遊休不動産をリノベーションの手法を用いて再生し、用途や機能を変更し、建物の性能を向上させてその価値を上げていこうというものです。これによって、新たな産業の創出、雇用の創出、コミュニティの再生などの、地域経営課題を解決し、エリアの価値向上につなげます。ただ、リノベーションしたからといってもすぐに価値が上がり家賃相場が上がるわけではなく、徐々に価値を高めていくことを目指しています。

リノベーションスクールの様子

 さらに「リノベーションまちづくり実施5カ年計画」を策定し、戦略的都市政策を公と民が協力して描きました。2015年には「そうかリノベーションまちづくり構想」検討委員会、翌年にはそうかリノベーションまちづくり協議会を立ち上げ、まちづくりの考え方や構想について参加メンバーと共有し、アクションプランに落とし込みました。具体的には、「家守会社」を立ち上げて、不動産のオーナーとビジネスオーナーをつなぐ役割を果たし、そこが不動産のオーナーから物件を借上げて、ビジネスオーナーに転貸する仕組みです。そして、その仕組みを推進するエンジンになるのが「リノベーションスクール」で、年1回ずつ計5回開催する予定です。

 今年までに2回実施し、家守会社はすでに3つ立ち上がりました。第1回からは、18年間空き家だった元寿司屋を地元の野菜を使ったバルに改装し、市が所有する道路拡張の残り地を、飲食店とチャレンジショップに変えて今年オープンする予定です。さらに、第2回からは、元金属会社の建物を洋食屋に、元喫茶店をカフェに、木賃アパートをお父さん向けの料理教室にしてスタートする計画も進んでいます。このように、不動産オーナーにも市の取り組みが伝わり始め、少しずつ案件が増え、まちが変わり始めています。

 

地域の不動産業者に期待すること

子連れで働けるシェアアトリエ&カフェ「つなぐば」(2018年6月オープン)

 「そうかリノベーションまちづくり」の正否の鍵を握るのは、不動産オーナーと不動産会社です。若い起業家が事業をしたくても、オーナーが物件を提供してくれなければできません。若い起業家とオーナーの間に入り、事業の内容と想いを翻訳して伝え、理解を求められるのは、オーナーと信頼関係のある不動産会社だけです。行政も不動産会社と連携しながらオーナーの意識を変え、まちづくりのために協力してもらえるよう働きかけていきたいと思います。まちづくりを進めるには地域の不動産会社の役割は大変重要になります。

 

※1 国土交通省「東京都市圏における鉄道沿線の動向と東武伊勢崎線沿線地域の予測・分析」