公益社団法人埼玉県宅地建物取引業協会
地域を魅力的にする取り組み
<取材:2018年1月>
不動産業者のための「タウンマネジメント・スクール」を開催
「負」動産を「豊」動産に。宅建業者が空き家再生を通じ地域活性化の原動力へ
公益社団法人埼玉県宅地建物取引業協会(以下「埼玉宅建」)は、2018年1月30日・31日の2日間にわたり「タウンマネジメント・スクール(以下「スクール」)を開催した。スクールでは、「地域資産の活用により空き家対策と地域の活性化に貢献できる高度な不動産人材を育成すること」及び「専門家とのネットワークの構築」を目的に、空き家の先進的な有効活用事例と手法を、その実践者から学習すると共に、現地視察やチームディスカッションを通じて理解と認識を深める研修プログラムとなっている。10年後の市場予測をもとに、中小不動産業者がどのような未来を描くことができるのか、年代や業種を超えて県内各エリアから72名の参加者が集まり、共通のゴールに向けて熱い議論を交わした。
埼玉宅建ビジョン実践の第一歩として開催
─タウンマネジメント・スクールを開催した理由を教えてください。
スクールを開催した最も大きな理由は、2015年に当協会で「ハトマークグループ・ビジョン埼玉」を策定したことです。このビジョンは、埼玉宅建が10年後に目指す組織の理想の姿とその実現に向けた取り組みをまとめたもので、「埼玉県宅建協会は、生活者・会員・行政のため、宅地建物取引の安全と公正確保に繋がる事業を推進し、地域密着で営業を行う会員の専門的知識・技能向上などを通じて、生活者の安心・安全な宅地建物取引の実現に貢献する」という組織の活動指針を作りました。このビジョンでは、埼玉宅建の顧客認識を「生活者」「会員」「行政」とし、“会員の安心安全な取引の実現”“生活者に対するハトマークブランドの確立”“行政が目指す、住みやすい「まち」の実現をサポート”することによって、win-winの好循環サイクルを実現し、会員のビジネスチャンスを創出したいと考えています。このサイクルを回すということは、埼玉宅建のアクションが全ての顧客に連鎖して反応するという考え方であるため、何より会員の理解と協力が必要不可欠になります。そこで、そのための第一歩としてこのスクールを企画しました。
─宅建業者によるタウンマネジメントというテーマにはどのような狙いがあったのでしょうか?
埼玉宅建の50周年式典に合わせて埼玉県の上田知事と対談する機会があり、地域の宅建業者は「まちの大家さん」、つまり地域のコミュニティを支える「大家さん」になってもらいたいという強い要望をいただきました。10~20年前に、先のことを考えずに行われた乱開発で供給された不動産が、空き家問題として顕在化し、今では「負」動産になってしまいました。それを「豊」動産に変えていくことが、私たち地域の宅建業者のこれからの役割だと思います。その役割を果たすためには、空き家を活用するための柔軟な想像力や建築知識、資金調達の方法などを身に付けなければなりません。しかも空き家単体の再生だけを考えるのではなく、空き家があるその地域がどうすれば魅力的なまちになり、そのために地域全体をどのように再生していくべきかということまで視野を広げて考える必要があります。
そこで今回のスクールでは、空き家対策や地域の活性化に関わり、地域の価値向上に貢献できる人材になるために必要な要素を学ぶプログラムを用意しました。まず講演形式による座学では、宅建業者が取り組むまちづくりの事例や、建物単体の空き室対策ではなく、地域活動を通じて地域全体の空き家の解消に取り組んでいる事例、建築的なアイデアを入れることで費用をかけずに実現できる空き家解決手法、老朽空き家を買い取り、収益物件として再生する方法など、具体的に実践している講師から学び、さらに、まちづくりや空き家活用が実際に行われている現場を見学します。そして、そこから得た情報を参考にしながら、自分たちの事業とまちの将来について自らが考え、参加者同士で情報交換しながら議論を深めました。
─研修内容に対する参加者の反応はいかがでしたか?
今回の研修は、ワークショップ形式で自ら発言をしなくてはなりませんし、有料ということもあり参加者が集まるかどうか心配しましたが、蓋を開けてみたら申込みが殺到し、定員を超えてすぐに〆切となりました。
最終日に行われた各チームの発表からも、参加者の将来に対する強い問題意識を感じましたが、実は会員の皆さんは、常日頃からそのような危機感を持っており、今回のような議論をしたり課題を共有する場を求めていたのかもしれません。
─スクールを開催してどのようなことを感じましたか?
私たち不動産業者は今までいかに将来を見据えた仕事をしてこなかったかということを、改めて認識させられました。普段は目先の仕事ばかりに追われ、日々の中で将来のことをじっくり考えてみる時間もありません。スクールの冒頭、清水先生※1から“10年後、自分たちや自分たちのまちがどうなるかを考えてみてください”と投げかけられたときに、参加者はそこで初めて、将来の市場を予測し、そこから逆算して今すべきことを考えなければならないということに気付いたと思います。気付くためには学ばなければならないし、学んで知らないと先には進めません。今回のスクールは、まさに学んで知って気付く素晴らしい場になったと思います。その気付きがこれからのまちづくりや地域の活性化の仕事につながっていくのではないでしょうか。
─今後埼玉宅建ではどのようなことを計画されていますか?
今回のスクールに参加したある支部長は、地域活性化の方法として市の主催でこのようなスクールを実施することを市長に提言したそうです。私たちはまだ、宅建業者には社会問題を解決する大事な役割があるということを認識し始めた段階ですが、これから現場では具体的な動きがいろいろと出てくると思います。一方で宅建業者も商売ですから、地域活性化の活動はボランティアではなく利益を生まなければなりません。ただこれまでのように、単に物件を右から左に仲介するだけではなく、地域の資産として空き家を生かす方法を考え、再生することが新たなビジネスチャンスになり、結果的に地域の魅力を高め、社会貢献にもなるという考えを浸透していくことが大切です。そして、そのきっかけ作りを埼玉宅建が行っていきたいと思っています。
スクールの参加者には、地域に戻ったら1つでもいいので空き家の活用を具体的に実践して欲しいと思います。地域の宅建業者の役割はこれからますます重要になっていきますし、地域や行政からの期待値は高まります。今回学んだことを地域の活性化に役立て、その原動力になって欲しいと思います。
※1 清水千弘 氏 [日本大学スポーツ科学部]
【1日目講演①】
既存建物の活用によるエリア価値向上とBuy Local運動
講師:小山隆輝 氏 (丸順不動産株式会社 代表取締役)
住みたいと思ってもらえるまちを目指さなければ、本当に衰退してからでは手遅れになる。空き家問題を不動産単体の問題ではなくまちやエリア全体の問題として捉えると、そのエリアの価値を向上させなければ根本的な問題の解決にはならない。自分が商いをしている地域を畑ととらえるなら、その畑は人任せにせず、自分で耕すべきだ。不動産の活用を通じて地域に貢献し、地域の不動産価値を高めることこそが本物の地域密着。空き家所有者に寄り添い一緒に解決法を考え、専門知識と経験を生かして市場で流動化できる状態にする。これは不動産業者にしかできない。是非、地域活性化やエリアの価値向上を不動産業者として取り組んで欲しい。
【1日目講演②】
地域貢献を通じて空き家・空き室を解消する
講師:杉本浩司 氏(株式会社エスエストラスト 代表取締役)
企業のキャッチコピーは「不動産屋がここまでやるか」。地域活動の実践を通じて、地域における会社と人のブランド力を高め、大手と差別化を図るとともにポータルサイトに頼らない、「紹介」で成り立つビジネスを目指す。そのために大切なことは「地域に何ができるのか」の意識と具体的な取り組み。地域を盛り上げ、エリアの価値を向上させることが自分たちのビジネスの拡大につながる。人と人がつながれば地域のためにさらにいろいろなことができる。不動産業はまちに人を呼び込み、生活してもらうことで成り立つ商売。まちの価値を知り、その価値を高めていくことが大切。地域を活性化させれば住み続けたいと思う人が増える。
【2日目講演①】
木造空き家・アパートの新たな改修方法
講師:連勇太朗 氏 (NPO法人モクチン企画 代表理事)
個々の木賃アパートに魅力を加えれば、群として地域全体の価値向上のために生かせる。木賃アパートの新しい使い方を提案し、新しい風を吹き込むことでまちそのものの魅力も上がる。地元密着の不動産会社こそが物件を魅力的にし、まちの価値を上げられる。ライフスタイルの多様化で、築古・木賃の物件でも少しの予算とアイデアで若い人を呼び込むことができる。重要なのは10人に1人が良いと思う部屋をつくること。木賃アパートの活用は利回りも良く、地域資源の活用という意味でも有益。まちの価値が上がれば家賃も上がり持続可能な賃貸経営につながる。木賃アパートの再生ノウハウを持つことでオーナーからの信頼も得られる。
【2日目講演②】
リノベーションにおける資金調達の考え方
講師:栗本唯 氏 (清陽通商株式会社 代表取締役)
不動産の買い取りはまちづくりの有効な手法。これからは不動産会社がタウンマネージャーになり、まちを活性化する担い手として活躍するチャンスがある。「訳あり、築古、ボロボロ、駅から遠い」という皆が手を出しにくい物件をどこよりも安く買い取って再生し、それを人が集まるような物件にする。その結果、物件と地域を活性化させ、地域の人から喜ばれ自社の利益も最大化する。事業投資として収益化する道筋が描ければ、単体の物件に限らず多くの物件を再生することができ、エリア価値の向上が持続的な取り組みになる。そのためには物件の目利きと資金調達の技術が必要になるが、そこは不動産業者の最も得意な分野である。
内山俊夫 氏
1951年信州上田生まれ。大学卒業後、製薬会社勤務ののち、1980年に妻実家の不動産会社へ入社。同社取締役を経て、株式会社エー・アンド・エムを設立し、代表取締役就任。
2016年度より公益社団法人埼玉県宅地建物取引業協会会長として、みんなを笑顔にするために「クリーン・ビジョン・アクション」のスローガンを掲げ、会員ファーストと地域発展の視点からハトマークグループ・ビジョン埼玉の実現に向けて精力的に取り組んでいる。