特定非営利活動法人つるおかランド・バンク/山形県鶴岡市
地域を魅力的にする取り組み
<取材:2017年10月>
空き家・空き地・狭隘(きょうあい)
道路を一体で再生する新たな手法
「地域の未来を良くするために」官民のベクトルを合わせる
・【事例4】危険家屋解体(空き家特措法施行前の 2012 年に解体整地完了)
つるおかランド・バンクの仕組みについて
つるおかランド・バンクは、中心市街地の空洞化を起こしている居住地域を活性化させ、まちを元気にしていくことを目的とするNPO法人です。その設立には鶴岡市がおかれている状況が大きく関係していました。
(1)鶴岡市の状況と設立の経緯
鶴岡は人口が約13万人で5万世帯の規模の市です。ところが人口ピラミッドで見ると25歳人口が0歳児人口より少なく、出産・子育て世帯の多くが東京や仙台に流出しています。このままだと少子化が加速し、消滅可能都市になってしまいます。一方、2010年と2015年に実施した市の空き家実態調査によると5年間で533棟、年間約100棟ペースで空き家が増加していましたが、現在はもっと加速しており、このまま増加すれば空き家の数は2040年までには、少なくみても1万棟にのぼります。仮に50%解体したとしても5,000区画の空き地が生まれます。空き地の管理は大変なので、こちらの再生・再活用の手法を考えないとまち全体が沈んでしまうと考えていました。
15年程前から空き家や空き地で困っているという市民からの相談が来るようになりました。しかしお金になりにくく権利関係が面倒な案件については多くの不動産会社は対応しようとしません。不動産の困り事を解決するのも不動産会社の仕事ですし、この業界を良くしたいという思いがありましたので、対応について市にも相談しましたが、前例もなく個人の財産については関与できないと取り上げてくれず、市民からすると相談にのってくれたり、解決してくれるところはないという状況でした。また課題認識についても、2004年に市が都市計画の線引きをした際、市は「郊外の無秩序な開発が中心部の空洞化を起こしている」と言っていましたが、私たちは「中心部の空洞化問題は郊外とは別に問題がある」と思っていました。
しかし、時代とともに市も考え、その後実施した“中心居住地域の低未利用地2モデル地区の実態調査”を行うなど行政も少しずつ変わり、2011年には市と一緒にランド・バンク研究会を発足し、13年には“NPO法人つるおかランド・バンク”を設立しました。
(2)ランド・バンクの目的と活動メニュー
つるおかランド・バンクの手法は、空き家、空き地、狭隘道路を一体の問題としてとらえ、所有者や近隣の協力を得ながら生活しやすい環境にするために、小規模の土地を連鎖させて再生する「小規模連鎖型の区画再編事業」です。そのために、宅建士の他、司法書士、行政書士、土地家屋調査士、建築士など不動産に関わる有資格の専門家が集合して“プロボノ※1”のNPOとして対応します。ただ、対応するカテゴリーとして、民間の業者が活用できる空き家は民間の力で再利活用が可能ですので当法人ではあまり対象にせず、民間が手を付けず、行政も見向きたくない“問題あり物件”を主に扱います。そのような物件に“本物のまちづくり”につながる重要なものもありますのでそこを当法人が手掛けることにしています。
業務内容は、①ランド・バンクファンドによる助成事業 ②空き家委託管理事業 ③空き家コンバージョン事業 ④空き家バンク事業 ⑤ランド・バンク事業です。①はMINTO機 構から1,000万円、鶴岡市から1,800万円、関連団体から200万円の出資を受けて3,000万円のファンドを組成し、まちづくり整備事業やコーディネート活動支援などに助成します。②は当法人が受託者になり建物の外部点検を主にした“ライトコース”と、建物内部の通気・換気まで行う“しっかりコース”といったメニューを用意して空き家管理を行います。現在の実績は約20棟です。③は空き家をコンバージョンする際にファンドから上限100万円、補助率1/2までを助成します。今までに留学生用のシェアハウスや地区のコミュニティ施設、学童保育等に使われました。④の空き家バンク事業の実績※2ですが、これまで売却や賃貸希望の相談件数が847件あり、その内空き家バンクに登録された物件が216件、その中で宅建業者への対応依頼が166物件で、78物件が成約しました。また、解体業者への見積り依頼も117件あり、26物件が成約しました。市場で流通する物件は空き家バンク登録の対象外として地元の不動産会社に対応してもらいますので、流通にのりにくい“問題あり物件”が全部で64件解決したことになります。空き家の面白い活用例としては、リノベーションした農家の空き家に他県から就農希望の若者が入居してくれたり、解体予定の空き家を消防の救助訓練のために、実際の災害時の状況を再現して建物を破壊し、外から侵入して救助する訓練に利用したこともあります。
(3)ランド・バンク事業の具体的事例
[事例1][事例2]参照
鶴岡市の中心居住地域は、戦災にあわなかったために、①城下町特有の“大きな街割 ②狭い道路や行止まり道路 ③雪が降ると車の利用や通行が大変”という“三重苦”問題があり、車社会に対応できていないまちになっています。この問題を低予算で改善し、活気のあるまちにしていくために、“狭隘道路を小規模連鎖型でつなげて、6m道路に徐々に変えていく”手法や、“狭小や無接道宅地は土地を再編し再利用できるように変えていく”手法をとりました。それには、権利関係の整理や放棄地をつくらないようにすることが必要ですが、専門家の知識と経験が不可欠になります。
【事例1】狭小地・狭隘道路解決
空き地で長年売れなかった狭小地(B)の隣の空き家(A)が売りに出ました。どちらも前面道路が3.4mと狭く、車の交叉もできない所でした。そこで、前面道路を道路中心線から3mセットバックし、幅員約5mの車が交叉できる部分を確保し、両所有者に2区画をまとめて売却する事を提案し売り出したところ、若い子育て世代が購入し新築の家を建てました。その結果、子どもの笑い声が聞こえるようになり、交通の便も良くなりまちが明るくなりました。今は隣の空き家も解体し、新築の家が建ち始めました。
【事例2】行止まり私道路付け替えによる面整備
狭いクランクの私道と市道の為、4区画の空き家と1区画の空き地になっている地区がありました。BとDの空き家所有者からの相談で、解体後、甲と乙の方にそれぞれ買っていただくことにより、真っすぐな私道として利用が可能になり、奥の空き地に乙の子供世帯が新築する事によって親世帯との近居も実現。前面の市道も拡幅する事によって地域の車社会の利便性にも貢献し、相続放棄された危険家屋の空き家Aも除去作業を進めており、ゴーストタウン化していた地区の活用ができただけでなく、近居によるコミュニティも継続。危険家屋の除去による安全と、市道を拡幅することで地域の車社会に対応した交叉交通も確保でき、地域の皆様にとっても喜ばしい結果となってきております。
(4)事業を推進するために不可欠なコーディネート助成金
[事例3][事例4]参照
山形県宅建協会鶴岡地区の会員66社の内、ランド・バンク(協力)会員は16社で、物件の媒介依頼があれば協会のランド・バンク委員会において条件が平等になるよう協力会員に振り分けます。ランド・バンクへの相談件数はこれまで847件になります※2が、その中で市場の流通にのりにくい“問題あり物件”が166件あり、その内78件成約しました。その中の売買で成約した67件の内分けを見ると、価格が200万円以下の物件が33件あり全体の48%を占めます。その内100万円以下の物件は22件、さらにその中の13件は50万円以下でした。このように相談案件にはまちづくりにつながる重要な物件があるにもかかわらず、低廉価格のため会員が手をつけたがらないという現実がありました。
そこで、つるおかランド・バンクでは、電話やメール、面接などのお客様とのやりとりやライフライン調査費用、契約書・重説作成費用等の実費と、他士業の金額を参考にして算出した労賃に難易度をかけて総費用を出し、成約した場合には「コーディネート助成金」として協力会員に支払っています。
さらに、鶴岡市では、空き家、空き地、狭隘道路の問題を一体解決するために、中心居住地域に限り、狭隘道路の隅切りや、行止まり道路をつないだり道を広げるために必要と認められた土地の寄付を受ける仕組みを設けました。これは全国でも珍しいことだと思います。
【事例3】移住希望者への賃貸契約
海岸線に近い築約70年の家屋で、所有者は東京近郊の施設に入っており、長年空き家になっていた物件です。借主は、鶴岡への移住を希望している若者です。仕事はパソコンでできるため、サーフィンができる所で賃料の安い物件を探していました。所有者も「固定資産税相当でいいよ」と年間賃料3万円ほどで貸してくれたので、仲介手数料は月額にすると2千数百円でした。
この物件がランド・バンクの取引最低記録です。会員業者は成約するまで東京近郊の所有者と移住希望者の間で遠距離の交渉をして苦労しているので、ランド・バンクのコーディネート助成金を利用し81,000円を補助しました。
【事例4】危険家屋解体(空き家特措法施行前の 2012 年に解体整地完了)
危険家屋として20年以上空き家になっていた有名な物件がありました。土地所有者が2名・地上権者3名・建物所有者5名のうち2名が未相続の状態です。風が吹くと近所にトタンが飛ぶため、近隣の皆が困っていました。所有者等ステークホルダー全員が「壊したい!壊してほしい!」と言っていましたが、それまで官も民も、誰も相談にのってくれなかったそうです。
そこへランド・バンクが入った結果、無事に取り壊すことができましたが、解体するまでの交渉に延べ80時間以上、コンタクト数220件以上の労力が掛かりました。しかもその法定の報酬は4万1,000千円でした。
この事例が民間では誰も働かない事を証明し、コーディネート助成金という制度を作る足掛かりとなりました。また2012年「やまがた公益大賞」を受賞する事もできました。
(5)官民連携をうまく機能させるために
いままで行政は、空き家問題に関して“実働できない、個別的である、前例がない”と、民間業者は“不採算ではやりたくない、面倒くさい”などといってきました。この両者のベクトルを「地域の未来を良くするために」という目的に合わせ、その目的を達成するために、行政は政策や制度で後押しをし、民間は現場の課題を具体的に解決する役割を果たすことが大切です。やはり、空き家にちゃんと向き合う官と、地域をよくしたいと思う民がいてはじめて本当の官民連携になります。そのためには「公益性」という考えを持ち、行政・市民・民間業者が三方良しになるよう取り組む必要があります。その方法として、トライセクト・リーダーという行政と民間と非営利の垣根を超えて、社会問題を解決するための“協働”ができるような組織を作ることも一案でしょう。しかし現状では、ソーシャルビジネスとしては不採算で成立が難しいため、公的資金を導入しなければと提案しています。
つるおかランド・バンクを船に例えると、「相談者を乗せ、公益的な考え方やコーディネート助成金というモチベーションマネーを燃料として入れ、プロの専門家集団と行政がエンジン役になり、プロのノウハウと行政の協働によって治療法や処方箋というルートを描き、まちを元気にするという目的地に向かって進む」ということになります。ランド・バンク事業はその手法の1つですし、相談内容をカルテ化し、治療法や処方箋を体系化・類型化することで、ノウハウを公開して全国に提供していくことができると思っています。
しかし、その船を動かそうとしても、人間関係や相続問題、法律・規制などの風雨や波潮流など錯綜する問題にあいます。それを解決するためには時間とコストがかかりますが、乗り越えないとまちづくりや地域の活性化、立地適正化は進みません。しかし残された時間はあまりなく、団塊世代の方々の高齢化でたくさんの不動産が空き家・空き地になる可能性があるため、その前になんとか道筋をつける必要が急務であると思います。
(6)シニア住宅を利用した中心居住地域再生スキーム
鶴岡市でも、子の世代が郊外の住宅地に家を建てる一方、親の世代が住む中心地は高齢者が多く空き家も増え、地域が空洞化し、コミュニティが継続されないという問題が起きています。そこで、親は中心地にある大きな自宅をリフォームして子の世代に引渡し、自分たちは近くの空き地に介護対応の便利でコンパクトな“新シニア向け住宅”を建てて住むことで、親子の近居を実現し、コミュニティの継続と在宅介護の課題解決ができないかと考えています。
※1 各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を生かして社会貢献するボランティア活動全般。また、それに参加する専門家自身(出典:Wikipedia)。
※2 平成26年4月~平成30年2月末の延べ件数。
特定非営利活動法人つるおかランド・バンク
理事長:阿部 俊夫
所在地:山形県鶴岡市ほなみ町1-2-C
電 話:0235-64-1567
H P: http://t-landbank.org/
業務内容:1.ランドバンク事業 2.空き家バンク事業 3.空き家委託管理事業 4.空き家コンバージョン事業 5.「つるおかランド・バンクファンド」による助成事業。
組織参加機関:山形県宅地建物取引業協会鶴岡・建設業協会鶴岡支部・行政書士会鶴岡支部・土地家屋調査士会鶴岡支部等。