株式会社ファースト・コラボレーション/高知県高知市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2017年11月>

 

「会社の発展と個人の幸せが
一致する」企業を目指す

“社員が主役”で会社は夢の実現のためのステージ

 

・社員がわくわく、のびのびと働き、協力し合う会社をつくりたい

・会社の幸せと個人の幸せを一致させる

・徹底して社員満足度を高める経営をする

・社員満足度を業績に結び付ける壮大な実験に挑む

・マネジメントは、管理ではなく「サポート」役

・出産後も安心して職場復帰できる「働くママさん計画」

 


 

社員がわくわく、のびのびと働き、協力し合う会社をつくりたい

─「日本でいちばん大切にしたい会社大賞※1」をはじめ多くの賞を受賞されています。

受賞歴も多数におよぶ

 私は高校卒業後、海上自衛隊に入りましたが、しばらくすると安定した職場環境に閉塞感を感じ、より刺激的な生き方を求め、いくつかの会社を経て20代後半に不動産業界に入りました。それまでの会社は社員同士の競争が激しい職場や、社員が協力し合っている楽しい職場などいろいろでしたが、共通していたのは「会社は社長のもので、社長の思いを実現するために従業員がいる」という考え方でした。しかし、自分の理想はその逆で「1人ひとりが輝いて、のびのびと、お互いが助け合いながら未来に夢を持って仕事をしている職場」をつくりたいとその当時から思っていました。

 不動産業界に入ってみると、どんなに知識や経験を積んでも新しい課題が次々と出てきて、取り巻く環境もどんどん変わり、その奥深さに触れるたびに、不動産の仕事は本当に面白いと思いました。それと同時に、この業界はダーティなイメージがあることも感じました。そのため「皆がわくわく働ける社員が主役の会社をつくり、不動産業者のイメージを変えたい。不動産業を明るく、誇りが持てる職業にしたい」という思いで取り組んできました。

 

─会社経営を支える軸として、経営理念の作成にかなり時間をかけたと伺いました。

笑顔があふれる社員の集合写真

 当社は、将来的な事業承継を考えていた先輩企業2社からの引き継ぎもあり、2002年に創業しました。会社の業績は悪くありませんでしたが、当時の社員はそれぞれが自分の考え方を主張しており、時間が経つにつれて職場の雰囲気もギスギス、ピリピリしてきました。この状態に危機感を感じ“どうすればいいか考えよう”と社員に問いかけ、全員で腹を割って話し合うことにしたのです。“お客様に対する関わり方”“社員の働き方”“大切にしている価値観”などについて約8カ月かけて議論し、皆に思いを出し尽くしてもらいました。すると“笑顔があふれる職場にしたい”“意見がどんどん出せる会社にしたい”“お客様に感謝されたい”など多くの意見が共通していたのです。そこでそれらを集約して、2004年に経営理念としてまとめました。

 当社の経営理念は「会社の発展と個人の幸せの一致を目指す」「お客様と感動の共有を目指す」「笑顔の輝く豊かな人間集団を目指す」ですが、経営理念は毎年見直し、修正、再確認をしています。同時に「ノルマなし、歩合なし、業務命令なし」という方針も決めました。

 

 

会社の幸せと個人の幸せを一致させる

─経営理念を毎年見直しているのですか?

 経営理念を策定した後も、経営者である私は決定できる立場にいるからわくわくしますが、果たして社員はどう感じているのだろうと常に考えていました。そこで、社員全員で議論する場を設けようと夏合宿をすることにしました。合宿では、創業から変わらずに会社が大事にしてきたことを再確認し、経営理念や経営方針などと共に、社員自身の信条や人生のビジョンについても徹底して話し合います。“何のためにこの仕事をしているのか”“自分の人生の目的はどういうものなのか”ということについて1人ひとりが書き出し、共有化します。昨年からは「経営指針書」を発行し、①私の幸福感-どんな人生を送りたいか- ②人生の理念/ビジョン-何をもって人に憶えられたいか- ③使命/役割-誰に対してどんな役割が発揮できるのか- ④私の信条 ⑤死ぬまでにやりたいこと など、合宿で語り合った項目を記入し、いつでもここに立ち返れるようにしています。このように、個人の夢やビジョンを皆で話し合うと、お互いの夢を知ることができ、仕事のベクトルが合ってきます。

 私はどうしても「会社の発展と個人の幸せが一致する」会社をつくりたかったのです。そこでこの合宿を通じ、会社のビジョンと個人のビジョンを合致させたいと思いました。

 また、経営理念は上から一方的に浸透させるものではなく、皆で語り合うものだと思います。社員とのコミュニケーションを通じて初めて経営理念は生きてきます。通常、企業が経営理念を示す時は、一番上位に経営理念やミッションがあり、その下にビジョン、目標設定、計画、日々の実行・実現といった形のピラミッドの絵になりますが、当社は逆です。経営理念やミッションを実現するためには“日々の行動”が一番大事ですので、それをピラミッドの一番上に掲げています。

 

─日常的にはどのようなコミュニケーションを心掛けていますか?

チームワークとコミュニケーションを大切にする

 経営理念の浸透は採用時から始まり、入社後も継続的に時間をかけています。採用の際は、5回以上の選考過程と1週間のインターンシップを通じて、当社の経営理念や考え方に共感する人に入社してもらいます。入社後は、日常の中で言葉の言い回しや動き方で気になったときに、「さっきの言葉はお客さん目線だった?」というように“教える”より質問を投げかけ、“自ら気付く”ことを重視して、先輩社員と後輩社員がコミュニケーションをとっています。

 

 

徹底して社員満足度を高める経営をする

─「社員が主役」の企業ということは具体的にどのような意味ですか。

 当社は、社長のための会社ではなく、社員1人ひとりが良い人生を送るための「社員が主役」の会社を目指しています。したがって、社員が会社のパートナーであるということより、社長が社員の良いパートナーになっているかということをいつも自分に問うています。そのために「逆ピラミッド」型の組織を作り、社員が一番上にいて、社長は一番下で、現場が働きやすいように支援することが社長の役割だと思っています。

 “社員が主役で会社はあくまでステージ”です。そして、そのステージは会社の仲間と一緒に作り、お客様に幸せを提供しながら広げていくものです。しかも、そのプロセスが満足感に満ちているのが理想です。社員の“熱意、元気、明るさ”がお客様へのおもてなしの心として表れますし、“高い意識と連帯感”は質の高いサービスに結びつきます。

 

─ノルマも歩合も業務命令もやめたということですが、目標設定はどのようにしていますか?

ノルマや歩合や業務命令をやめたのは、風通しの良い風土をつくり、チームワークとコミュニケーションを大事にし、“やるべき”より“やりたい”を重視しながら、社員が従うのではなく、自ら定めた目標に自発的に取り組んでもらうようにするためです。

 具体的には、夏合宿で会社の目標と将来の自分の目標から逆算して1年間の目標を定めます。そして、個人が決めた目標と会社の目標の進捗状況を皆で確認し、次のアクションにつなげるPDCAサイクルを回すことで、個人の頑張りと会社の業績が一致しているという実感が得られます。このように“稼ぐ力”と“幸せ”の両方のバランスがとれている会社が良い会社なのだと思います。

 ただ、会社において何を目標の指標とするかについては私が提案します。利益を指標にすればコスト削減という手段もありますし、売上を指標にすれば集客数という目標になるでしょう。しかし、指標を「お客様満足度」にすると手段がまるで変わってきます。何を指標にするかを決めるのが経営者の仕事で、その運用は現場のスタッフに任せています。

 

夏合宿でのプレゼンの様子

会社のビジョンと個人のビジョンを確認する「経営指針書」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─結果への評価はどうされていますか?

 そもそも評価とは何のためにするのか、そもそも必要なのか、ということを考えました。一般的に評価というのは他者評価であり、序列です。優れた結果を出した者が良い評価を受け、高い報酬を受け取ります。つまり賃金と評価がリンクします。当社でも360度評価という他者による相互評価を導入してランキングを出していたことがありましたが、結局は“人が変わるのは自己評価でしかない”という結論を得ました。360度評価は今も引き続き行っていますが、評価項目を大幅に減らし、それを基に行う自己評価を重視する方法に変えています。

 

─「ダイバーシティ」制度も取り入れています。

 ダイバーシティというと、一般的には女性や高齢者、障がい者など多様な人が働ける制度というとらえ方になりますが、当社は働き方を1人ひとりの多様性に合わせていくという考え方で、「成長支援制度」と呼んでいます。

 具体的には、3つのコースを設定しています。まず「エンジョイハードコース」で、これは一般的な正社員の総合職のコースです。次に「エンジョイワークコース」です。これは、入社時点で既に子育てをしていたり、休日の趣味と両立させるような働き方をしたい人のためのコースです。最後が、「ワークライフバランスコース」で、妊娠、子育て、介護、療養など人生の一時期に発生する事態に対応するコースです。やはり人は幸せになりたいし、各々ビジョンや夢を持っています。その夢を叶えるために、仕事を通じて人間として成長できるステージを、会社が用意することをダイバーシティととらえています。

 このような制度ではマネジメントが大変ではないかといわれることもありますが、その際のマネジメントとは管理のことで、従業員性悪説から来ています。社員の意識が高く自立して働いていれば管理は必要ありません。

 むしろ当社のマネジメントで求めていることは、個々の社員に対して「やるべきこと(MUST)」「やりたいこと(WILL)」「できること(CAN)」を整理し、一致させるためにどうしていけばいいのかについて、本人と一緒に掘り下げていく役割です。“その責任を果たしたい”ということと“こういう自分になりたい”ということが一致し、“それができるために能力向上”をしていけば本人の成長につながります。

 そのための日々の支援が管理職の重要な役目です。人間ですからどうしても楽をしたいという気持ちがおきますが、それで一番傷つくのは自分自身です。そのような社員に対し、言葉を選び、寄り添いながら励ましてあげるのが上司の役割です。経営の指標は社長が決め、会社の目標と個人の目標は社員が決め、MUSTとWILLとCANが重なるよう社員の目標を整理し、壁にぶつかったときに支えることが管理職の目標になります。

 

 

社員満足度を業績に結び付ける壮大な実験に挑む

─社員満足度をどうすれば顧客満足度や業績につなげられるのでしょうか?

 自分が空腹であればお客様にはサービスができません。逆に自分が満たされていれば還元できます。私が考える仕事の目的は「社員自身とその家族の幸せ。そして、縁のある人々の幸せに貢献すること」です。そして、「社員1人ひとりが未来に夢を持ち、働く幸せを感じる」会社を目指しています。一般的には“社員満足度”という言葉を使うのでしょうが、当社では「幸せ度」という言葉を使います。社員が幸せな気持ちに満ちていれば、お客様の幸せを願うことができます。いわば“幸せのおすそ分け”のようなものです。

 そして、社員が幸せであれば“利他”の気持ちを持ちます。そうなれば“お客様に喜んでもらいたい”“感動を与えたい”という気持ちが強くなります。その結果、顧客満足度が上がり業績に直結するはずです。不動産業はクレームやリスクも大きく、それぞれに向き合っていくのは大変な仕事ですが、人の住まいや暮らしの選択に関わり、“その人が幸せになる”ことを実現する仕事です。当社の組織のあり方や試みは、“社員の幸せが、会社の発展と一致する”ということを証明するための壮大な実験であり、その答えをイエスにするための挑戦だと思っています。

 

─これからの不動産会社には、どのような役割が求められるでしょうか?

 仲介業というマッチングビジネスは、将来はAIに取って代わられるのではないかと懸念されていますが、私たちの仕事は、マイナス情報を精査し、膨大な情報の中から各物件の違いを客観的に説明するとともに、顧客自身も気付いていないニーズを掘り起こし、カウンセリングをしながら進める役目です。そのためには人と情報にきちんと向き合っていくことが必要で、人間力や共感力が大切になります。

 また、私たちは「地域の安全とコミュニティの形成」に寄与できると思います。高知県は人口減少と南海トラフ地震という課題を抱えています。単身高齢者が増え、人とのつながりが希薄になっている状況で、人をつなぐ役割を行政だけで行うことは難しいと思います。不動産会社は仕事上、入居者の年齢や家族構成などを知り得ているので、いざという時の安否の確認などをすることができます。地域の人が安心して幸せに暮らせるための「地域守り」の役割を担えるのは私たち中小不動産業者です。その役割を果たしていけば、地域の問題も解決できますし、自分たちの仕事に対する誇りも生まれると思います。

 

※1 第5回受賞。人を大切にする経営学会(代表発起人、坂本光司氏 法政大学大学院政策創造研究科教授他)主催。「人を幸せにする経営」を実践している会社を表彰。過去5年、①人員整理を目的とした解雇や退職勧奨をしていない ②外注・協力企業等へコストダウンを強制していない ③障がい者雇用率は法定雇用率以上 ④黒字経営である ⑤重大な労働災害がない、の5条件が応募資格。本賞における「人」とは、①従業員とその家族 ②外注先・仕入先 ③顧客 ④地域社会 ⑤株主の5者を指す。

 

 

取締役経営企画部部長 岡部祐政 氏

マネジメントは、
管理ではなく「サポート」役

 周りからはよく「ノルマなしでサークルみたいに笑っていて、本当に業績が伸びるのか?」と言われますが、当社のやり方が世の中に広まれば“サザエさん症候群”の人たちもゼロになると思います。皆が明るく楽しく、笑顔で冗談が言い合える職場で、会社が発展し個人の夢も叶えられたら、それが理想の職場になり、そこで理想の人生を送ることができます。当社の取り組みはそのための挑戦であり、中小不動産業者でも実現できることを証明したいと思っています。

 管理職として「マネジメントが大変だろう」とも言われます。確かにマネジメントを“コントロールすること”と捉えると難しいと思います。しかし、当社のやり方に合わせるのではなく、“各個人の個性を尊重し、将来に向けて歩みたい姿を話し合いながらサポートしていく”ことと考えればさほど苦労はありません。若手や中堅を問わず、会社における役割と、本人の夢やビジョンのすり合わせを手伝い、歩んでいく中で本人が迷った時にはサポートをしています。

 

 

賃貸管理グループ課長 別役和美 氏

出産後も安心して職場復帰できる
「働くママさん計画」

 ㈱ファーストコラボレーションでは、2006年より「働くママさん計画」をスタートした。これは、3人の女性社員が出産を機に相次いで退職していったことに問題意識を持った社員から発案されたもので、配置や勤務時間、日数、早退出は本人の自由、さらに親子出社や社内子守もOKという制度。社内には授乳コーナーも設置されている。

 別役氏はこの制度を利用した第一世代であり、エイブルの加盟店が参加する「顧客満足度調査ランキング」では2年連続1位に輝いた。しかも後輩も育成し、3人の社員を日本一に導いている。

 

 女性が働く上でもっとも仕事に影響するのは出産です。若手社員が増えるほどこのタイミングが一気に来て、業務への影響が大きくなりますので、会社としても準備することにしました。女子社員が入社した時や、結婚が視野に入ったタイミングなどで、先輩社員が結婚後の子づくり計画のイメージをヒアリングし、“出産スケジュール表”を作成します。また産休や育休に入ったときは、仕事やお客様はチームが引き継ぎ、一方で復帰後の勤務イメージやスケジュールなども本人と話し合いながら進めていきます。

 この取り組みを始めてから、出産や育児が理由の退職者はゼロになりました。個人的には、産休中は不安や寂しさもありましたが、復帰してみたら仕事を引き継いでくれた後輩が頼もしくなっていて嬉しかったです。

 顧客満足度に関しては、お客様から投げられたボールを受け止め、応えていくために精一杯努力することが大切です。最初は無我夢中でしたが、徐々に“このお客様はどうしたら感動できるか”ということを考えること自体が楽しくなりました。お客様は十人十色で感動するポイントも人それぞれです。同じことが通じるとは限りません。そこに面白さを感じ、すっかりはまってしまいました。

 

 


 

武樋泰臣 氏

1961年高知県生まれ。高校卒業後、自衛隊に入隊。10回以上の転職を経て、2002年に理想の職場を作ろうと起業。現在、不動産賃貸仲介業のエイブル加盟店を高知県内で5店舗、売買仲介業として1店舗を運営。また、管理業務の拠点としては管理センターを設置している。平成24年度「おもてなし経営企業選」選出、第5回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞受賞、第4回「ホワイト企業大賞」ワークライフインテグレーション経営賞受賞など受賞歴多数。人本経営が高く評価されている。

 

 

 

株式会社ファースト・コラボレーション

代表者:武樋 泰臣
所在地:高知県高知市南川添8-17
電 話:088-882-1110
H P:http://first-1.jp
業務内容:賃貸仲介と賃貸管理を中心にコンサルティングやリフォームなども手がける。「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」「おもてなし経営企業選」「ダイバーシティ経営企業100選」「地域未来牽引企業」「将来世帯応援企業賞」「高知市男女共同参画推進企業」「高知市次世代育成支援企業」など受賞多数。