岡庭建設株式会社/東京都西東京市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年2月>

 

「家づくり、家守り、家支え」を
ワンストップで目指す

地域の繁栄と防災の視点で地域活動に取り組む

 

・お客様と工務店の共通の目標、「みんなでいい家をつくる」

・家を建てる過程が学べる場を作る

・家を守ることを仕組み化する

・地域の繁栄と防災のために貢献する

 


 

お客様と工務店の共通の目標、「みんなでいい家をつくる」

─御社の沿革について教えてください。

 1970年に大工業をしていた現会長が㈲岡庭工務店を興し、1972年に岡庭建設㈱に組織変更して今年で47年目を迎えます。私が入社したのが24年前ですが、会長の息子である現社長は不動産業を経て当社に入り、私は設計事務所を経て当社に入って来たので、会長から社長へ事業承継する中で建築部門と不動産部門がうまくリンクし、現在のワンストップサービスの原型ができました。

 会長は先を見る目があり、将来は環境住宅が必要になることを予見し、太陽熱を生かした住宅を作りたいという意向を持っていました。当時はOMソーラーという太陽熱利用住宅に取り組み始めた頃で、導入するためには設計が必要になることから私に声がかかったのです。それを機に当社は設計部門を持つことになりましたが、当時、工務店で設計と施工部門を持っている所は多くはありませんでした。

 

─企業ポリシーの「みんなでつくる家」というのはどのような経緯から生まれたのですか?

みんなでつくる家

 入社した当時、家を建てたいと相談にくるお客様と接して感じたことは、お客様は発注する人、工務店は要望を聞きそのまま建てる人、という関係になってしまっているということでした。確かに工務店は受注をすることが大事ですが、お客様も“自分の望む家はこういうイメージだから”と、住まい手の意向に合わせて家をつくればいいという雰囲気が少なからずありました。しかし、設計の立場から“もっとこうした方がいいのに”と思うことも多分にありましたし、やはりお客様はプロではありませんので、いわれる通りに作っても結果的にイメージ通りのものにはなりません。大工も設計者も建築することが楽しいし、いい家を作りたいと思っていますので、工務店側からも前向きな提案をしていく方がいいのではないかと考えました。

 そこで、いい家を作るというゴールに向けて、皆が意見を出し合うことを大切にしようと、20数年前に「みんなでつくる家」を会社のビジョンとして掲げました。

 このビジョンは、昨年「みんなでつくる家、みんなでまもる家」に変えました。皆でつくった家をその後も愛着を持ってまもっていくことが大事だと考えたからです。ビジョンを掲げてからは、当社と価値観が合う人たちが共感して集まってきてくれるようになったと思います。それによって仕事がやりやすくなり楽しくなりました。

 

─商品について教えてください。

木箱の家 ki-bako

 自由に家を作りたい人のためのフルオーダー住宅の他に、2010年から「木箱の家ki-bako」を始めました。注文建築を長くやってきて、お客様の中には、理解が早い人もいればそうでない人もいますし、自分のオリジナリティをもって作ることが楽しいという人もいれば手短に簡単に作りたいという人もいることを感じました。そこで、「木箱の家」はセミプロダクトの形にし、プランは依頼者の意向に合わせ個別に作りますが、家具や材料は、自社オリジナルの手作り家具のパーツの中から組み合わせて作れるようにしました。2010年には「木箱の家」と「家づくり学校」という住宅の商品と地域に対する取り組みが総合的に評価され、グッドデザイン賞を受賞しました。

 

 

家を建てる過程が学べる場を作る

─「家づくり学校」を始められましたが、どのような意図だったのでしょうか?

 地元で40年近くやっていると、他社で建てたり分譲住宅を購入した人からも、家のことでいろいろ相談をいただくようになりました。相談理由を聞くと、“誰に聞けばいいかわからなかった”というものが多く、消費者はネットの普及で情報がとれるようになったけれど、直接相談できる相手も求めていることを感じました。日本では家を作る過程を学ぶ“住育”というものが学校教育にはないことから、相談所ではなく学べる場づくりをしようと思い、今から10年前に「家づくりの学校」を始めました。

 家づくりを始める方向けプログラムには、主に“1時間目”と“2時間目”があります。1時間目のテーマは、「設計・家づくりの進め方」として、家づくりを始める時に、“まず土地を探しに不動産会社へ行くべきか、建てる会社を探すべきか”“土地探しの際に、角地や駅に近い物件を選ぶと何故失敗するのか”“住宅展示場から始めることが良いのか”などの陥りやすい点について具体的な事例を示しながら、最初に知っておくべきことを学びます。2時間目は「しっかりつくる家とは」をテーマにし、住宅に必要な性能と、それがどのように安全とつながるのかについて、建築中の家などを使って学びます。また、当社では家を建てる際に必ず木を植えましょうと伝えているので、緑を見に行くプログラム等も他のカリキュラムで入れています。

家づくりの学校の様子

 消費者と話をしていると、不動産業者=建築士と思っている方や、分譲物件を売っているのは仲介会社の営業マンであるにもかかわらず、建築の知識が豊富だと思っている方が多くいらっしゃいます。やはり、建築が分かる人と不動産が分かる人が連携し、その人がどのような住まい方をしたいのか、ということを前提に土地を探すことが大切です。

 家づくりの学校は私が講師となり、大体月1〜2回のペースで年間20回ほど行っています。募集はネットと口コミだけですが、1回当たりの参加者は7、8人~15人程度で、これまでに累計で900名程度になりました。参加されるのは近所の方がほとんどですが、当社で建てる予定がない方でも気軽に来てもらいます。純粋に消費者のために、あったらいいなと思うことをしているだけで、ベタな取り組みです。この「家づくり学校」は2015年に西東京市の一店逸品事業に認定され、市のお墨付きをいただきました。

 

 

家を守ることを仕組み化する

─家を建てた後のアフターフォローにも力を入れています。

 工務店ですから住宅のメンテナンスをするのは当たり前です。また地域の工務店は、地域の人が家を作りたい、修繕したいという場合に対応するという重要な役割をもっています。そのため人のつながりがとても大切だという感覚が会社のDNAとしてありました。それまでのメンテナンスは施主から何かあったときに呼ばれ、行って対応するものでした。しかし、それはメンテナンスではなく、ただの補修です。何かが起きてからでは遅く、何かが起きる前に未然に防ぐための「維持管理」こそが重要です。そのため、定期的なメンテナンスの必要性はわかっていましたが、なかなかそれを仕組み化することができず、15年前にようやく1年目、2年目点検をする制度を作りました。

 その後、約10年前に住宅瑕疵担保履行法が制定され、工務店の業界団体であるJBN※1も発足し、それを期に当社でも、新築の顧客に対して3カ月、1年、2年、5年、10年の点検制度に切り替えました。さらに、既存住宅瑕疵保険もできましたので、中古住宅の流通のあり方も研究し、制度に組み入れ、3年前に「おうちクリニック」という点検の仕組みを確立しました。

おうちクリニックと家づくりの学校のパンフレット

 「おうちクリニック」は、住まいを見守り、トラブルに備え、管理をサポートする、いわば「住宅のかかりつけ医」の役割です。“守る”“長持ちさせる”“価値を保つ”“安心して暮らす”ことを目的とし、「木の家会員」「木ノベ会員」「家まもり会員」の3コースを設けました。「木の家会員」は、当社で家を建てた方は自動的に会員になり、10年目までは無償で点検を行うほか、希望者は年1万円を積み立てることで、防蟻工事や修繕に充当することができます。「木ノベ会員」は当社でリフォームした会員で、希望者は有償で3年毎の点検を受けられます。どちらも10年目以降の点検はインスペクションのガイドラインにのっとり進めますが、新築で建てた家は「インスペクトハウス」として既存住宅瑕疵保険に入れる状態を保ち、リフォームした家は「点検済住宅」としてその状態が維持できるように努めます。

 また、最近相談で増えてきているのが、自分の家を建てた会社が倒産してしまったという方です。そのために作ったコースが「家まもり会員」で、こちらも3年毎に点検をします。何故このコースを作ったかというと、地域守りのためです。相談先のなくなった家を誰かが見守らないと、いずれそれが空き家になり、朽ちていき、地域の資産が損なわれることになります。地域の価値を守るためにも管理を受けることが必要だと思いましたし、その過程でいろいろな困り事の相談にものることができれば、地域の空き家対策にもなります。

 

─家守りについて消費者ニーズは高いですか。

 「おうちクリニック」に申し込んでいるのはまだ圧倒的に新築の方です。ただ、家を守ることが大事だという普及活動を地道にやっていけば、いつか日本でも点検文化が根付いていくと思います。作る側も住む側も基本的に引き渡して終了と思っていますので、作り手側からアナウンスしていかないと、点検文化は広まらないと思います。

 

─リフォーム事業はいつから始めたのですか?

 リフォーム事業は当社で新築を建てた既存顧客からの要望がきっかけで始めました。そのため、「おかにわリフォーム工房」というわかりやすい名前にしました。リフォーム部門ができたことで、「つくる」部門の岡庭建設と、「まもる」部門のおかにわリフォーム工房と、「支える」部門の岡庭不動産が三位一体でワンストップサービスを提供することができるようになりました。

 このように、私たちは家を「作る」以外にも、「学ぶ」ことと「守る」ことが大切だと思っています。消費者も工務店もほとんどが作ることしか考えていませんが、家づくりを失敗しないためにも、消費者には事前に知識を学んでもらいたいですし、家を建てたら終わりではないことも知って欲しいと思います。家を作る期間は長くても3年ですが、その後40年、50年と住んでいきます。したがって、家をどう守るかということの重要性について多くの人に理解してもらいたいと思っています。

 

 

地域の繁栄と防災のために貢献する

─地域活動についても積極的に取り組んでいます。「庭之市」はどういうイベントなのですか?

「庭之市~おにわのまるしぇ」の様子

 「庭之市」というマルシェは今年で6年目になります。当社のような中小工務店が半世紀近く地元で事業をできているのは、やはり地元の人たちのおかげです。地域の人や地域のお店にはいつまでも元気でいてほしいと思いますし、皆さんへのお礼の意味も込めて始めました。西東京市は小さな町ですが、頑張っている小さな事業者が実はたくさんいます。しかし、この地域も最近郊外に大型ショッピングセンターができ、かなり人が奪われています。気が付いたらまちから素敵なお店がなくなっていた、ということになると困るので、地元で頑張っているお店が集まって宣伝できる仕組みがないかと考えていました。

 庭之市は毎年1回、3月の最終土曜日に開催します。当社が場所を提供し、地元の魅力的なお店15店ほどに参加してもらい、地元の人や既存顧客に声をかけて遊びに来てもらっています。また、当社では体験農園を併設した住宅を建設し、住まい手さんと地元の農家さんと一緒に、おかにわファームという農業サークルの運営に取り組んでいます。そこで採れたお野菜を生かした逸品を庭之市に出店してもらっています。

 このように、庭之市は地域の人たちとつながり、既存顧客ともつながり、それらを介して当社の存在を知ってもらうための取り組みでもあるのです。

 

─既存顧客のフォローはどうされていますか?

おかにわファミリーでもある落語家の寄席も開催された

 当社では既存顧客のことを「おかにわファミリー」と呼んでいます。年末に開催する“おかにわファミリー忘年会”には、毎年200名近くが参加します。普通忘年会は会社の人だけでやりますが、当社はお客様と一緒に行います。建築棟数も増え、いつもお客様全員と会えるわけではありません。既存顧客の中には当社に対する不満もあるでしょうし、“今年は庭に植えた桜が咲いたよ”といった喜びを伝えたい人もいるはずです。実際その場で“扉が堅い”とか“あそこに換気扇があると寒い”などと教えてもらえます。やはりお客様と顔を合わせ、意見を直接聞くことは大切です。

 また、最近はインスタグラムに皆さんの実際の暮らしぶりをアップしてもらっています。2年前からは“インスタ選手権”を始め、「おかにわフォトアワード」として入賞された方々には商品券を贈呈しています。

 

─空き家対策も地域で取り組んでいます。

「西東京空き家会議」の様子

 空き家問題がメディアで取りざたされる中で、市内の異業種の仲間たちから西東京市の空き家はどうなるのだろう、という相談がありました。そこで地域の仲間が集まって「西東京空き家会議」というものを始めました。集まっているのは、駄菓子店、クラフトビール店、プロデューサー、FM西東京などで、発信する人、意見をまとめる人、アイデアを提供する人など、まちに住んで、まちに対する思いの強い人たちが、当事者意識をもって解決していこうとしています。会議では、「空き家はまちの“問題”ではなく“資産”になる」という方向性で、空き家の利活用や活用したい人とのマッチングができないかと考えています。当社のスタッフは30名程になりましたが、6割は地元に住んでいます。会議の参加メンバーも社員の知り合いや、子ども同士が友達、ということなどからつながりました。社内でもその活動を応援する体制をとっており、空き店舗をどう活用するかをテーマに、社内コンペなども行っています。

 

─地域のための防災活動にも取り組んでいます。

「R-ECO HOUSE」のモデルハウス

 私は内閣府が進める国土強靭化計画の民間制度の委員を務めており、そこでは、大地震に備えた「レジリエンス住宅※2」のあり方について検討を進めています。当社でも普通の生活の中でも対応できる防災住宅のあり方を伝えようと、2年前に「R-ECO HOUSE」という“ゼロエネルギー+災害時活躍住宅”というモデルを作りました。これは、平時は愉しく暮らし、有事には災害の備えができるという家です。具体的には、炊き出しに使える薪ストーブや、太陽熱の蓄電システム、雨水をためる仕組みなどを実装しています。

 

 一方、有事の場合は人のつながりがとても大切です。そこで「ツナガル」プロジェクトを始めました。「R-ECO HOUSE」のモデルハウスを会場にして、有事にはお互いの連絡が取れる関係をつくることを目的に、いろいろな人が参加できるワークショップや料理教室などを開催しています。

 また、私は工務店と職人の団体「全木協東京都協会」の会長も務め、東京都と、有事の際は木で仮設住宅を作る役割を担う災害協定を結びました。熊本地震の際も駆けつけましたが、首都圏の災害時には当社が陣頭指揮をとり、東京の工務店と職人たちと共に木造仮設住宅建設に携わります。

 

─不動産業者との連携も試みています。

ウエスト東京不動産流通ネットワーク

 中古の流通を見据え、工務店も宅建業者との連携を模索していかなくてはならないと考えていた時に、国交省の「中古不動産取引における情報提供促進モデル事業」に応募し、提案が採択されました。これは、「ウエスト東京不動産流通ネットワーク」といって、東京西部エリアの中古住宅の売買を支援する地域型の事業者ネットワークです。活動を始めた当初は、宅建業者はインスペクションや瑕疵保険についてほとんど知りませんでしたが、その後勉強会や現地見学会などを通じて、参加者は一級建物アドバイザーや空き家相談士の資格を持つまでになりました。不動産業と建築業が連携することで、新しい発想や従来とは違う新たなビジネスを生んでいきたいと思います。

 

 

※1 一般社団法人 JBN・全国工務店協会、中小工務店の全国組織。

※2 レジリエンスとは、外部からの影響に立ち向かう強靭さや回復力を意味し、防災力と同義。

 


 

池田浩和 氏

岡庭建設(株)専務取締役。一級建築士。同社の設計を主に携わり、太陽熱、長寿命、木を活かしたエコ住宅を手掛けている。2010年にはグッドデザイン賞、2015年キッズデザイン賞、2016年ウッドデザイン賞を受賞。また、(一社)JBN・全国工務店協会、(一社)東京家づくり工務店の会、 (一社)全木協東京都協会他工務店団体等の役員を務める。

 

 

 

 

岡庭建設株式会社

代表者:岡庭 伸行
所在地:東京都西東京市富士町1-13-11
電 話:0120-28-1166
H P:http://www.okaniwa.jp/
業務内容: 土地探しから設計、建築、アフターフォローまでワンストップで展開する工務店。太陽熱、長寿命、木を生かしたエコ住宅を手掛け、自然素材や雨水利用など地球環境に配慮した家づくりやリフォーム、リノベーションを行う。