住まい探しはハトマーク

価値住宅株式会社/東京都渋谷区

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2017年12月>

 

脱・手離れ。生涯顧客化で
新たな商機をつかむ

資産価値が毀損しない確かな市場をつくる

 

・消費者に選んでもらう意味のある会社にする

・中古物件の不安を解消する

・お客様を契約後もサポートし、「生涯顧客化」する

 


 

消費者に選んでもらう意味のある会社にする

─不動産業界の課題は何でしょうか?

 私が不動産業界に入ったのは23年前です。4人ほどで会社をスタートし仲介から始め、銀行融資が受けられるようになると建売住宅を手掛けるようになり、ピーク時には年間250棟、売上が60億くらいまでの会社に成長しました。しかし、建売会社といいながら、建物に関しては工務店に任せっきりで、雨漏りの対応もせず、アフターサービスもしない、いわば“売り逃げ”のような状態でした。私の考えを大きく変えたのが、2006年に施行された「住生活基本法」です。この法律で、新築中心のフローではなくストック重視の社会へと国の方針が大きく変換したのです。

 また、“人”の問題も会社の大きな課題でした。当時は人の入れ替えが激しく、常に求人サイトで新規募集をしている状況でした。海外の状況を調べてみると、米国の営業マンは会社に帰属するというよりも独立したエージェント制で、経験を積むとそれが実績となり収入に結びつくというシステムになっていました。つまり、取引の中で“人”そのものが評価され、しっかり勉強し、長くキャリアを積むほど市場において価値が上がる仕組みです。日本も、今後は米国のような仕組みにしないとこの業界には優秀な人材は残っていかないだろうと思いました。

 このように、人も顧客も契約も全て会社の資産になるはずなのに、それが全く蓄積されず、何の価値も生んでいないことに気付いたのです。そこで2008年に㈱バイヤーズスタイルを立ち上げ、2016年に価値住宅㈱に社名変更しました。

 

─エージェント制を採用されました。

業務内容

 創業以来目指してきたことは、「売買の時に、お客様に選んでもらう意味のある会社にしたい」ということです。消費者が不動産の取引をする際に声をかける業者数は、日本の場合は5~6社くらいだと思いますが、米国の場合は、約7割の人が1人のエージェントを選んで取引を進めるということでした※1。なぜ日本ではそんなに多くの業者に声をかけるのかといえば、物件情報の多くが業者毎に囲いこまれているためです。米国のように物件情報が正しく公開され、どの業者も同じ情報を提供できるようになれば、消費者は会社を選び、営業マン=人を選ぶはずです。そうすると、サービスの内容や取引の実績や評価が選ばれる基準になると考えました。では、「どのようなサービスを提供すればいいのか?」ということです。議論を重ねた結果、“買うのは一瞬、住むのは一生”という言葉があるように、“契約後の住まいのサポート”という部分に関わることが仲介会社として大切なのではないかと考えました。

 そのために取り組んできたことが3つあります。まず、「エージェント」から始めたこと、次に、開業以来全ての仲介物件に「住宅履歴情報」をつけたこと、3つ目が、「住宅管理会社」として事業展開をしたことです。

 ㈱バイヤーズスタイルは、買主(バイヤーズ)に寄り添うエージェントとして立ちあげました。米国の場合は、利益相反になるということで原則両手商売は禁止されていて買主と売主のエージェントは別です。そこで当社は、購入依頼は板橋支店で受け、売却依頼は本社で受けるようにして、部門もエージェントも別にしました。

 

 

中古物件の不安を解消する

─売主や買主から依頼が来た場合の進め方について教えてください。

中古物件の取引き全てにつける独自の取り組み

 当社では、中古物件の取引全てに①建物のインスペクション ②住宅履歴書 ③24時間無料コールセンター ④既存住宅売買瑕疵保険 を原則つけます。

 売却の依頼があった場合は、基本的に“価格査定マニュアル※2”を使い、建物の評価額をきちんと出します。日本の場合、住宅の状態にかかわらず築後20~25年程度で評価額を一律ゼロとしてしまいますが、マニュアルでは、インスペクションなどを通じて、基礎・躯体・設備の状態を個別に確認し、評価に反映します。

 具体的な事例として、当社で扱った築35年の戸建ての売却事例があります。この物件を当社が査定すると、建物が440万円、土地が3,040万円で合計3,480万円の評価になりました。一方、他社では建物評価は全くされず、全体で2,980万円の査定価格でした。しかし、結果的に3カ月後には3,430万円で成約したのです。

 建物インスペクションの結果と合わせて価格査定の根拠を買主に説明すると、割と納得して購入してもらえますし、ちゃんと検査し評価された物件を買いたいという方が最近確実に増えています。5年ほど前は中古住宅を購入する方は、新築を買うには資金が足りないという人が多かったのですが、ここ2~3年は5,000万円以上で中古物件を買いたいという人も来るようになり、価値があるものを安く買って自分のスタイルに変えて住みたいという人が増えてきました。

 また、2016年からは自社保証を付けた仲介を始めました。通常、既存住宅瑕疵保険はインスペクション実施業者が被保険者になりますが、保険の加入を促すのは当社ですので、その場合は当社が被保険者になって保証します。

 

─「住宅履歴」は業界の中でなかなか浸透していません。

 欧米と違い日本で既存住宅の流通が促進しない理由に「どんな建物かわからない家は買いたくない」という消費者心理があります。当社では創業以来全ての契約において住宅履歴を作成し、まず10年間保管しています。新築時の設計図書等の書類や居住中のリフォームや設備更新の情報を弊社のデータシステム(いえかるて※3)に登録します。お客様にはIDとパスワードを渡して、ご自身で適宜情報の更新もできるようにしています。

 

─「売却の窓口」はどのようなサービスですか。

 「売却の窓口」は、2014年度国交省の「中古不動産取引における情報提供促進モデル事業」に採択され、スタートしました。売却依頼を受ける際に、“価格査定マニュアルの使用、建物のインスペクションの実施、既存住宅瑕疵保険の付保、住宅履歴の整備をして流通させる”という思いを1つにしたボランタリーチェーンです。残念ながらこのような売り方を促進しても“面倒くさい”“ビジネスの香りがしない”など多くの不動産会社は取り組みません。しかし私たちは物件を調査して正しく評価し、情報公開して流通市場に出すという方法を通じて市場を活性化し、売却物件の受託を積極的に増やしていこうと展開しています。大手企業が取り組んでいることは中小不動産業者でもできるということをお客様に示し、信頼が得られるビジネスをしようと他社に声をかけています。加盟店数は全国で30店以上になりました※4。

 

─その他に顧客向けのサービスはありますか?

 欧米では一般的ですが、売却する際に物件の魅力を高め、購入希望者の印象を高くする「ホームステージング」を行っています。

ホームステージングの一例

 また、「カチッとハウスR」というリフォームプランのVR提供サービスも開始しました。これは、リフォーム後のイメージができないために中古住宅購入の決断ができないという理由を払拭するため、リフォーム後の3D画像や概算の見積りを提供します。また、この仕組みは売却の窓口の加盟店も利用でき、リフォームプランをそのまま地元の工務店に持ち込むことができます。

 リフォームに関するある調査では、戸建て・マンションとも新築の購入者は10年間何もしないが、中古物件の購入者は、戸建住宅では10年以内に8割以上の人が、マンションでも6割近い人がリフォームをしているという数字が出ていました。新築住宅は引き渡し後10年はほとんど仕事にはなりませんが、中古住宅の場合はリフォームで大きなビジネスチャンスがあることになります。売却の窓口の地方の加盟会社には、「10年で両手の売上になるようにしよう」と言っています。売買時の手数料は低いですが、契約後もお客様との関係を構築し続ければ必ずいつか売上につながるということです。そのようなビジネスをしていかないとこれからの中小業者は厳しくなると思います。

 

 

お客様を契約後もサポートし、「生涯顧客化」する

─「住宅管理会社」として提供するサービス内容について教えて下さい。

 前の会社で“売りっ放し”をしていた苦い経験から、「住宅を取引した後に、お客様にどのような価値を提供できるのか」を考えてビジネスを構築しました。「住宅管理会社」として行っていることは、①購入後、定期的な建物のインスペクションの実施 ②「住宅履歴情報」を整備し、毎年1回当社から電話やお手紙を郵送してリフォーム内容や設備の更新情報をリサーチ代行登録 ③半年に1回「維持管理報告書」を送付 ④10年間24時間緊急駆けつけコールセンター の4点で、毎月お客様から500円をいただいています。

 このような仕事は、本来は建物を建てた工務店やハウスメーカーの仕事かもしれませんが、中古物件になり所有者が変わってしまうと継続的なフォローはしてくれなくなります。そこで当社が実施することとし、定期メンテナンスのない新築住宅の仲介においても提供しています。

 

─今後中小の宅建業者が生き残っていくには何が必要でしょうか?

 一番大切なことは、お客様と生涯かかわっていくという「脱・手離れのよさ」です。売買の契約後も買主としっかりとした関係を構築していれば、そこからリフォームのビジネスや紹介が生まれることもあります。当社は「生涯顧客化」という名のもとに、契約後もお客様と離れず、住まいをサポートし続けます。10年後をしっかりと見据え、お客様との関係をどう継続していくか、中小不動産業者の商機はそこにしかないと思います。

 国交省の数字では、中古流通市場が活性化している米国では住宅に対する投資額と資産評価額が近いのに対し、日本では資産が著しく毀損し、評価額が大幅に減少しています。その差を埋めるのに必要なことが、お客様の資産を正しく評価することです。資産が正しく評価されれば、物件の価値が維持されることになります。そうなれば、所有者は資産性を維持するためにメンテナンスに投資をします。その結果、物件の価値が向上し、市場で高く売却され、流通市場が活性化するという循環が生まれます。私は日本の流通市場をこのような市場にすることを目指しています。

 「生涯顧客化」といって進めているのは、「資産価値を毀損しないビジネスをする」ということでもあります。「住まいの『付加価値売却』そして『購入』さらに住宅管理へ。日本における新たな住宅循環システムを作る」ことが私の大きなミッションです。

 

※1 NAR(全米リアルター協会)調べ。

※2 (公財)不動産流通推進センター作成。

※3 (一社)住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会における住宅履歴情報の名称。高橋社長は理事を務める。

※4 2017年12月末現在。

 


 

高橋正典 氏

価値住宅株式会社 代表取締役。単なる「物件紹介」にとどまらず、顧客に寄り添うエージェントとして「生涯顧客化」を目指し、仲介会社初となる仲介物件への住宅履歴情報の蓄積を行い、引渡し後における「住宅管理事業」を展開。また、1つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる、不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営している。著書に『プロだけが知っている!中古住宅の選び方・買い方』(朝日新聞出版)、『マイホームは中古の戸建てを買いなさい!』(ダイヤモンド社)他。

 

 

 

価値住宅株式会社

代表者:高橋 正典
所在地:東京都渋谷区代々木3-28-6 いちご西参道ビル2階
電 話:03-3375-1250
H P:https://kachi-jyutaku.co.jp/
業務内容:不動産事業(不動産売買や賃貸に関する媒介・管理業務/相続・資産活用に関するコンサルティング業務)、住宅管理事業(インスペクション等による住宅の定期点検業務/資産価値維持・向上に関するメンテナンス計画の作成及び実施/住宅履歴情報の蓄積等)、リフォーム事業、不動産売買に関するFC・VC事業など。