有限会社トラックスホーム/大阪府大阪市

地域の安全性を確保する取り組み

<取材:2017年10月>

 

住宅弱者の物件確保のために
投資家を呼び込む

10年後を見据え、まちのために貢献する

 

・地域の状況に危機感を感じる

・収益物件を仕立て、部屋を確保する

・地域の将来を見据えインバウンド向けビジネスを展開

・社会的弱者を一度受け止める存在が必要だ

・社会的弱者が自分の価値観を変えてくれた

 


 

地域の状況に危機感を感じる

─住宅確保要配慮者への住宅斡旋に積極的に取り組まれています。

 10年程前のある夜、仲間と3人でつくった不動産会社に1人のお年寄りが訪ねて来られ、「何も食べていない」とおっしゃったので、知り合いの牧師に連絡し、釜ヶ崎にある教会で預かってもらいました。すると翌日、その牧師から「彼には収入が無いから生活保護の手続きをするために部屋を探して欲しい」と言われ対応しました。これが生活保護者に部屋を斡旋した初めての経験です。それまでは、生活保護を必要とする人がいることは知っていましたが、自分とは無縁の存在だと思っていました。しかし、牧師からは「これからこのような人が増えるので、その人たちのために部屋を探せば人助けになるし、西成のためにもなる。お金は大家から仲介手数料をもらえばいい」と教えられました。

 その後も高齢者や生活保護者のために部屋を探すことがありましたが、空き家はあっても大家は貸してくれません。その難しさを知るにつれ、私は今までお金がある人は相手にしてきたけれど、生活弱者を相手にしてこなかったことに初めて気付きました。そして、西成のまちがおかれている状況と社会における生活弱者の状況を深く知るに至り、独立して今の会社を立ち上げました。

 

─西成はどのような状況だったのですか?

 昔はベルトや靴といった皮の加工業をする小さなメーカーがたくさんありましたが、しばらくすると神戸の長田地区にも同様の皮革工場ができ、やはり西成ブランドと神戸ブランドでは勝ち目がなく、西成のメーカーは徐々に長田のメーカーの下請けになっていきました。状況が大きく変わったのは、1995年に起きた阪神淡路大震災です。長田にあったメーカーのほとんどが震災でつぶれてしまった結果、そのあおりを受けて西成の工場もバタバタと倒産していき、工場が1つつぶれる度に、経営者や従業員の家がどんどん空き家になっていきました。

 

 

収益物件を仕立て、部屋を確保する

─どのようにして生活弱者のための物件を確保していったのでしょうか。

 空き家が増えつつある中で、ふと「生活保護者を入れてくれる部屋を探すのではなく、空き家だらけの古いアパートを改修し、そこに生活保護者を入れて投資物件として買ってもらえればいいのではないか」と考えました。古いアパートはローンがつかないため現金を持っている人しか買えませんが、投資家は利回りで判断します。西成区の生活扶助費は月4万円で、物件次第では18~20%程度の利回りになりますので、投資家を探して改修費を出してもらい、高収益物件として買ってもらうことにしたのです。

 その頃は生活保護者が専用で入れるアパートなどありませんでしたし、そのような商売は認知されておらず、「生活弱者をさらに弱者にする商売をしている」などといわれたこともあります。しかし、生活保護者に部屋を貸してくれる大家はいなかったので、他に方法もありません。そうして、独立した時はゼロの状態でしたが、短期間で管理戸数を500戸まで確保することができました。

 

─事業の組み立て方について教えてください。

 このビジネスは、投資家は儲かりますが、入居斡旋とその後の管理にとても手間がかかる仕事なので、当社はそれほど収益が上がりません。収益の柱の1つは、物件を販売する時の仲介手数料です。昔は1,000万円以上の物件もありましたが、今では500万円以下の物件がほとんどで、安いものでは100万円のものもあります。次に物件の管理手数料ですが、1室平均で月2,000円~3,000円程度です。入居者からは仲介手数料が入りますが、一括での支払いは無理なので4万円の家賃の部屋の場合、5,000円を8回に分けたりします。当社が物件をサブリースするというアイデアもありましたが、生活保護の考え方からそれはできませんでした。完全な囲い込みになるため、いわゆる“貧困ビジネス”と見られてしまい、自分が取り組んでいることを否定することになります。

 

 

地域の将来を見据えインバウンド向けビジネスを展開

─ゲストハウスも運営されていますが、その狙いは何でしょうか?

管理を請け負っているホテル「HANARE」

 ゲストハウスは10年後を見据えた次のビジネスとして始めました。西成区は住人の高齢化が進み、生活保護者も平均年齢までは生きられません。これから10年も経つと西成区の人口は1/4が減少し、このままではまちがもたなくなります。一方、この辺りでもバックパックを背負った外国人を見かけるようになりました。そこで、大阪の中心部まで電車で30分以内で行ける割には物価の安い西成なら外国人も集まってくるだろうと思い、7~8年前にインバウンド需要向けのゲストハウスを始めました。物件は投資家が購入し、ゲストハウスに改修後、当社が賃貸して運営をします。キッチンとシャワーとトイレが共同のため、改修にあたっては水回りの工事は1カ所で済み、アパートにするより工事費が割安になります。アパートの場合は改修工事に1室あたり150~160万円程度かかるため、4部屋ある物件の場合、物件価格が400万円だとしても改修費を合わせると1,000万円を超えてしまいます。大きな資金をもたない投資家のことも考えて、試行錯誤の末に出した回答の1つでもありました。

3棟27室の民泊施設「FDS BIJOU SUITES」

 しかし、結論からいうとこの事業は失敗でした。実際の利用者は旅行者ではなく、留学生や研修生、ビザが切れていき場がなくなった人などで、日本で稼いだらそのまま帰国する人が多く、利用期間も1~3カ月です。宿泊費が安い割には利用者の数が安定せず、管理の人件費とオーナーに支払う賃料が毎月固定で発生しますので、逆ザヤが発生してしまいました。そこで現在はゲストハウスを縮小して民泊とホテルに事業を転換しています。

 民泊をするには外国語とネットの技術が必要なので募集と運用は外部の会社に任せ、当社は部屋の片付けや掃除を請け負います。仕事は10時に始めて15時に終わるのでシングルマザーにはうってつけで、地域の雇用がつくれます。現在100室程度までになり、約20人が交代で働いています。

 

 

 

社会的弱者を一度受け止める存在が必要だ

─アパートの入居者の募集から入居までは、どのように運んでいますか?

 生活保護者を役所から紹介されることは全くありません。口コミで当社のことが伝わっているようで、多くの方は人づてでやってこられます。また、大阪には生活保護者を集めて紹介するブローカーもいますので、彼らの質を見極めながらお付き合いをしています。しかし、このようなブローカーを生んでいるのは実は行政で、本来は行政がブローカーを使わなくてもいい仕組みを作るべきだと思います。

 当社に部屋探しに来られたら、まず私が1時間ほど面接します。面接のポイントは、その人が周りの人とうまくやっていけるかどうかです。病歴や家族、生まれてからの経緯などいろいろ聞いていると、その人がウソをつくタイプかどうかがわかります。刑余者はどうしても過去を隠そうとしますが、何も隠さず、罪の償いが終わったという事実だけ教えてもらえばいいのです。面接の後は一旦帰らせて、翌日再度本人が来れば契約書を作り、役所に行ってもらい、部屋の鍵を渡します。

 今でも10人に部屋を斡旋したら1人くらいの割合で後ろ足で砂をかけられるようなことがありますし、10人中2人は3カ月経ったらいなくなってしまいます。しかし、それは仕方がないと思っています。どこかで誰かが彼らを一度受けとめてあげないと駄目なんです。ここから出て行った人も、いつかどこかで、「こんなおっさんおった」と思い出し、悪いことをするのを思いとどまってくれたらそれでいいと思います。入居者には商売感覚ではなく情をもって接しています。そうしないと彼らはまた元のところに戻ってしまうからです。

 

─家財保険や家賃保証は利用されていますか?

 火災保険はオーナーに入ってもらいますが、家財保険や家賃保証を使うのはやめました。家財保険の手続きが大変な割には、代理店手数料は1件1,000円程度にしかなりませんし、本来出して欲しいときに保険料が支払われなかったこともあります。また、借主の負担を低く抑えるような商品の開発も依頼しましたが受けてくれる保険会社はありませんでした。家賃保証会社についても同様です。生活保護者は保証料が払えませんし、そもそも保証を拒絶されることもよくあります。

 

─部屋で亡くなった場合の残置物の処分はどうされていますか?

 入居者が部屋で亡くなった場合は全て私が処理をします。処分費用はオーナーに出してもらいますが、極力費用が少なくなるように、できるだけこちらでゴミなどを減らします。そのようなことまでしているので、管理費を月2,000円程度もらっても収支は合いません。しかし、この仕事を通じて知り合いも増えましたし、西成のまちに貢献できているということが実感でき、自分に期待が持てるようになりました。

 

─物件やオーナーはどのように見つけますか?

 物件は自転車で毎日地域を回って探し、空き物件があれば基本的に飛び込みます。よく「毎日回っていたらもう当たりつくしただろう」などと言われますが、まだ全体の数%にすぎません。投資家も最近は人づてに聞いて当社に探しに来られます。またこちらが地域を回っていると出会えるものです。先日も物件を探している雰囲気の人がいたので路上で声をかけ、購入してもらいました。

 

 

社会的弱者が自分の価値観を変えてくれた

 不動産の仕事を始めた頃は、社会貢献などという気持ちは全くありませんでした。私を変えてくれたのは、入居者たちです。この仕事を通じて人が好きになってきましたし、私を心温かい人間に変えてくれたのも差別されてきた人、社会的に虐げられてきた人たちです。残念ながら年に数十人の孤独死に遭遇しますが、今でも平気な顔で処理することなどできません。胸騒ぎがして、鍵を持って行くと既に亡くなっていて、その度にいつも「ごめんな、1人で往かせて。もっと早く相談してくれたらよかったのに」と思います。

 西成区には代理納付制度がないこともあり、私たちが月1回は入居者を訪問します。要介護の人にはヘルパーを頼むように伝えますが本人が嫌がるケースが多いです。一度生活保護を受けるとそこから抜け出せる人は100人に1人もいません。そのために必要なのは教育です。生活保護者の多くは人との結びつきを自ら切った人、切られた人、家族を持っていない人、家族に捨てられた人など、共同生活に慣れていない人ばかりです。私のところには日本のみならず世界各国から先生や学生が視察に来られますが、病院ではなく生活保護者が学べる機会をつくって欲しいと伝えています。

 今後は生活保護者だけでなく、低額の年金生活者や貧しい外国人が問題になってくるでしょう。西成と同じような地域は他にもあると思いますが、先鞭をつけて取り組み、全国に発信していきたいと思います。私にできることは自分が生きてきた歴史や経験を話すことです。これからも、昔はたくさんいた「まちのうるさい親父」の役割を果たすつもりです。

 


 

川田洋史 氏

1956年大阪浪速区で生を受ける。高校卒業後、家業の喫茶店で約8年間働いたのち、半年間渡英。その後不動産会社に入社し、何度か転職を繰り返し、現会社設立。西成区内の民生業務及び空き家対策、民泊、ホテル関係の事業を広めている。

 

 

 

 

 

有限会社トラックスホーム

代表者:川田 洋史
所在地:大阪市西成区旭1丁目3番25号
電 話:06-7492-1630
H P:https://osakaguesthouse.jimdo.com/
業務内容:大阪市西成区で、住宅弱者の居住支援を行っている。収益物件として投資資金を呼び込み、生活弱者のために住居を確保。最近では地域の将来を見据え、ゲストハウス、民泊、ホテル事業も展開している。