住まい探しはハトマーク

上野不動産/京都府京都市

地域の安全性を確保する取り組み

<取材:2017年9月>

 

住宅確保要配慮者
1,000人以上の住宅を斡旋

高齢者の市場には大きな可能性がある

 

・行政とともに社会的弱者の住宅支援に取り組む

・損得抜きの誠実な行動が信頼獲得の源泉

・サブリース等自社の仕組みで物件を確保

・高齢者市場は有望なマーケット

 


 

行政とともに社会的弱者の住宅支援に取り組む

─高齢者や生活保護者の住宅斡旋に、どのような経緯で積極的に取り組まれるようになったのですか?

 大学を卒業後、京都の不動産会社に就職し、店長として複数の店舗を統括する立場にまでなりました。しかし、不動産以外の業種の仕事も経験してみたいと思ったことと、損得の意識が強く“自分のために”ということが最優先の業界の雰囲気に疑問を感じ、30歳になった頃に会社を辞めました。社会的弱者への住宅斡旋の仕事については、前職の時に、京都市の職員がケースワーカーの方と一緒に飛び込みで来店されたことがあり、高齢者や生活保護者の賃貸の契約を何件か担当したことがありました。退職後しばらくして、京都市の職員の方から“高齢者たちの住宅斡旋の仕事をしてくれる不動産業者を探している、是非手伝って欲しい”と声がかかったことから、高齢者など住宅確保要配慮者といわれる方たちを対象に仕事をすることにしました。

 

─今までどれくらいの方の斡旋をされたのでしょうか?

 独立してから10年以上が経ちますが、今まで高齢者を中心に延べ1,000人以上の方に住宅のお世話をしてきました。対象は高齢者、生活保護者、精神障がい者、長期入院者、刑余者や保護観察対象者など様々です。そのため、市役所以外に司法書士、弁護士、病院などからも部屋探しの依頼がきます。今は2名の社員と共に3人体制でやっています。

 

─どのような仕組みで住宅の斡旋を行われているのでしょうか?

 市などから住宅探しの依頼があった場合は、簡易宿泊所や本人の自宅など、まず依頼された場所まで本人に会いに行きます。そこで部屋の要望と、通院している病院や頻度、本人のプロフィールなどをヒアリングします。しかし、本人の背景まで詳しく聞くことはしません。質問するのは一般の人とほとんど同じ内容です。そして、次回の面談日を決めて物件の案内をする流れです。

 今まで斡旋した人は、身寄りのない方、身内はいるが疎遠になってしまっている方が9割を占めますので、ほとんどの場合、緊急連絡先も保証人もいません。当社が保証人になる場合もありますし、私が連絡先になり、事前に入居者本人の了解を得て、緊急の場合は警察立会いの下で鍵を開けることもあります。高齢者であれば最終的にその方が亡くなるまで当社が面倒を見ていくというスタンスです。

 

 

損得抜きの誠実な行動が信頼獲得の源泉

─物件を斡旋する上でオーナーを説得するのは大変ではないですか?

 物件のオーナーは、“高齢者が死亡したら次に部屋が貸せないのではないか。生活保護者や精神障がい者を入れると何か問題が起きるのではないか”など、実際に経験していないにも関わらず、風評でマイナスのイメージを勝手に持っているだけです。入居者は皆さん真面目でいい人ばかりです。1,000人のうち3人がたまたまトラブルを起こし目立ってしまうと、全てが悪いとしてしまうのが今の世の中ですが、ほとんどの方は問題なくきちんと住んでいます。そのため、物件のオーナーや客付けをさせてもらう管理会社には「何かあったら私が全て走って対応します」と伝えます。そうして一度高齢者に入居してもらい、特に問題が起こらないとオーナーが実感すれば、それからは普通に部屋を貸してくれるようになりますし、仮に部屋の中で孤独死があったとしても当社ならすぐに新しい入居者を入れることができます。京都市には代理納付制度があるので、「代理納付は役所から直接お家賃が入るということですので、家賃の滞納を防げるためオーナー様も安心です」と説得することもあります。

 いずれにしても、最初の入居の承諾をもらうまでが大変ですが、先入観や偏見などを持たずに高齢者や生活保護者に部屋を貸しているオーナーの物件は、満室稼働しています。また、そのようなオーナーは寛容な方が多いです。

 オーナーに対して不動産会社がすべきことは、入居者の退去後、できるだけ早く空室を埋め収入の安定化を図ることです。そのためには、短期的な視点ではなく長期的にオーナーの収入が安定することを考えなくてはなりません。その視点に立つと、比較的長期間の入居が見込め、住宅のニーズも高い高齢者や生活保護の人たちはいいお客様になると考えられます。

 

─しかし、実際に事故が起こり、苦労したこともあるのではないですか。

 刑余者や保護観察の方の住宅のお世話もしているので、市役所だけでなく警察から連絡が入ることもあります。実際に間違って家宅捜索をされたり、刑務所から告訴されたこともありました。その人たちには罪を犯したという事実はついてまわりますが、人生をリセットするために誰かが部屋のセッティングをしてあげなくてはなりません。

 精神障がい者の場合は、症状が悪化する人は薬をきちんと飲まないケースが多いので、何かトラブルがあった場合は本人と話をして一緒に病院へ行くようにします。ただ、その場合も本人の話をちゃんと聞いてあげて、同調することが大切です。トラブルが起きたとしても、決してその人自身が悪いわけではなく病気がそうさせているだけで、一番苦しんでいるのは本人です。本人も苦しく自分ではコントロールできないわけですから、そのことを理解することが大切です。そのためには、日頃から入居者との人間関係づくりがとても大事になります。

 先日も保護司から連絡がありましたが、紹介された人は所持金が全くなかったため、私が一時的に費用を立て替えて翌月から入居ができるようにしました。また、ある病院から「(元契約者の)長期入院患者が別の病院に転院するので迎えに来て欲しい」と連絡があり、その病院から別の病院に連れて行き、最後は家まで送り届けたこともありました。

 このように、私たちの仕事は契約とは全く関係のない仕事も多いのですが、それを誠実に行うことで依頼者や入居者の信頼を得て、次の仕事に結びつくこともあります。

 

 

サブリース等自社の仕組みで物件を確保

─高齢者等の住宅斡旋をするための制度も充実してきました。

 ここ数年、火災保険会社や家賃保証会社のサービス内容が充実してきました。高齢者が部屋で孤独死となった場合、今までは私が全て処理しリフォームも費用持ち出しでやっていましたが、死亡時の特殊清掃費用や遺品整理費用が保険でまかなえるようになりました。

 また最近は、室内センサー等を利用して入居者の異変を早期発見する見守りの仕組みもあります。ただ当社の入居者は監視されたくないという方が多いので、まだ本格的には導入していません。

 入居後の見守りについては、デイサービスを利用できる人や宅配弁当を頼む人はその方たちと連携し、それ以外は毎月集金することで行っています。集金については代理納付制度を利用しようとしましたが、社員から「その制度を利用すると楽になるけど、会いに行かないと入居者の様子が変わっているかどうかわからない」と反対があり、そのまま続けています。

 

─貴社独自の制度もすごく充実しています。

 オーナーの理解が進み始めたといっても、家を探している高齢者や社会的弱者の人たちの数に対して、物件の数が全く追いついていません。そこで、オーナーの希望に応じて、『サブリース契約』『専任で入居者の募集とその後の管理を行う契約』『他社と並行して入居者の募集をする契約』の3種類のプランを用意して、できるだけ多くの物件を確保するようにしています。

 サブリース契約の場合は、①(10年以上の)長期契約が可能 ②契約期間内の賃料の値下げ交渉は一切なし ③賃料一括前払い可能 ④原状回復費用は原則当社負担 としています。

 専任で入居者の募集とその後の管理を行う契約の場合は、①2カ月以内成約を約束し、3カ月以上空室の場合は当社が100%家賃保証 ②契約中の家賃管理の実施 ③入居期間中の入居者への対応 ④退去時の立会い などを行います。

 他社と並行して入居者の募集をする場合も、仲介で客付けした後、入居後の責任の所在を当社とし、家賃の未納や騒音問題などのトラブルにも全て当社が対応します。

 特にデトムワンというオーナーズマンションの分譲物件は多くのサブリースをしています。築年は古いのですが、エレベーターがあり、冷蔵庫や洗濯機が標準装備なので最適です。1棟のマンションやアパートを持っているオーナーの物件でも最初は一室の仲介から始まり、その後信頼を得て1棟全部をサブリースさせてもらっている例もあります。

 それ以外にも、“京都市すこやか住宅ネット(京都市居住支援協議会)”の協力店や、“京都市地域の空き家相談員”に登録して物件情報を集めるようにしています。

 

─売上はどのようにあげていますか?

 基本的な収入源は仲介手数料です。京都市の場合、生活保護は他市よりも手厚く、引っ越し費用として一人当たり30万円が支給されますので、市からの紹介の場合は仲介手数料をいただくことができます。逆にサブリースの場合は、例えばオーナーから4万円で借りて、4万2,000円で転貸できれば上出来ですので、あまり収益はあがりません。ただ、サブリース物件を持てれば緊急の場合のシェルターとして活用することができるので安心です。

 

 

高齢者市場は有望なマーケット

─住宅確保要配慮者に対する住宅の斡旋に取り組むためには、どのようなことが大切ですか?

 これから日本は本格的な高齢化社会をむかえ、高齢者の住宅マーケットは大きくなりますし、そこにビジネスチャンスがあると思います。ただ、中途半端な気持ちではできませんし、覚悟を持って取り組む必要があります。

 この仕事をするにあたり、私も最初はオーナー目線で考えていました。オーナーのために「入居者には問題を起こさずきちんと住んで欲しい。そのためには何かあったら私がすぐ駆けつけて対処しよう」と思って行動していました。その結果、いろいろなケースに遭遇し、その都度必死に対応してきたことで、今何をすればいいのか、どう対処すればいいのかがわかるようになりました。

 オーナー同様、行政に対する目線も必要です。入居者のために行政ではできないサービスをしっかりやることが、行政からの信頼獲得につながります。決して目先の利益や損得は考えません。お金が関わらない仕事、利害関係のない行動を地道にしていると信用度が上がり、どこからともなく仕事が舞い込んできます。私たちはボランティアではなくビジネスをしていますが、いつのまにかビジネスがボランティアをしている感じです。そしてこの仕事をしていて本当に「仕事の神様はいる」ということを実感しています。

 私は会社を大きくしようとは思いませんが、オンリーワンの存在になりたいと思っています。当社は市から紹介を受けて入居者の部屋探しの仕事をさせてもらっているわけですから、現場で起こっている問題や、現状の制度に何が足りないかなどについて、行政に対して発信していく立場にあることに気付きました。これからはその役割もしっかりと果たしていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高齢者や生活保護者のための物件が不足しているため、部屋の確保を目的にサブリースを積極的に行っている。(左:フォーユコンフォルト二条城前、右:デトムワン西陣)

 

 


 

上野一郎 氏

大学卒業後、京都の不動産会社に就職し、店長として複数の店舗を統括する。退職後、上野不動産を設立し、身寄りのない高齢者や生活保護者、精神障がい者を対象に住居探しの手助けを行う。

 

 

 

 

 

上野不動産

代表者:上野 一郎
所在地:京都市中京区壬生馬場町19番地3
電 話:075-354-6152
H P:http://uenofudousan.jp.net/
業務内容:単身高齢者や障がい者など、住宅確保要配慮者への住居の斡旋を専門に行う不動産会社。不動産のフィールドを越えて入居者のケア、サービスを実施し注目を集めている。また、物件確保のための自社独自の取り組みも積極的に行う。