有限会社MYJホーム/神奈川県大和市

地域の安全性を確保する取り組み

<取材:2017年9月>

 

貸主・借主双方が安心できる、
高齢者の住宅確保の仕組み

金融の経験生かし“入居から終活まで”サポートする

 

・手探りでスタートした高齢者支援

・“入居から終活まで”支える「20のサービス」

・死後の対応についても事前準備を行う

・オーナーの高齢化にも対応する

・高齢者を支えるネットワークの架け橋に

 


 

手探りでスタートした高齢者支援

─どのような経緯で高齢者の住宅斡旋を始めたのですか?

 私は地元の信用金庫に30年以上勤め、55歳で退職した後2003年に創業しました。信用金庫の顧客は主に中小企業で、在職中からお金と不動産は近い関係にあると感じていましたので、金融機関での経験がお客様の困りごとに役立つのではないかと思ったことが、不動産業を始めた理由です。

 最初は駐車場やアパートの管理から始め、2~3年後にインターネットを導入すると徐々に賃貸仲介件数が増えていきました。管理戸数は3カ年計画を立て増やしていき、現時点でオーナー22人、管理戸数51戸、駐車場は8カ所・108区画になりました。管理手数料は0%~5%の範囲でサービス内容と家賃によって変えています。

 創業当時はまだネットがそれほど普及していなかったため、そこそこの集客が見込めましたが、徐々に競争が激しくなり、何か特色を出していかないとこれからは厳しくなると考え、ネット営業は息子に任せ、私は高齢者向けの住宅斡旋を主体にすることにしました。しかし、高齢者を入居させようと同業者にお願いしてもなかなか承諾を得られませんでした。ただそれは仲介業者側が勝手に判断しているだけだと思い、直接知り合いのオーナーに相談すると、「入居してもらっても大丈夫」と理解を得ることができたので、そこから本格的に取り組むようになりました。

 

─高齢者向けの物件を確保するのは大変だったのではないでしょうか。

 当社は㈱住宅債権管理回収機構のグループ企業である㈱ユア・パートナーズと、東京・神奈川での任意売却や、競売による取得物件の売却に関して業務提携をしています。同社から2017年10月の新住宅セーフティネット法の施行と同時に、「取得した物件の管理を請け負い、できればそこに高齢者を入居させてほしい」という依頼がありました。その結果、新たに高齢者向けの物件を確保する道筋ができました。

 高齢者の入居斡旋に本格的に取り組んでみると、単に部屋探しをするだけでは片手落ちで、それ以外にもさまざまな支援が必要なことがわかりました。そこで金融機関にいた経験を生かし「20のサービス」を組み立てました。行政や社会福祉法人、弁護士や司法書士などいろいろな機関と提携しながら包括的なサポートの仕組みが出来上がりつつあります。

 

 

“入居から終活まで”支える「20のサービス」

─具体的なサービス内容を教えてください。

 当社のサービスは基本的には、高齢者本人に対する入居から死後を見据えた支援サービスと、高齢者に部屋を貸すときのオーナーの不安を解消するためのサービスになります。具体的には、①家賃保証や身元引受などの入居支援サービス ②「ドリームセンサー」やホームヘルパー、看護師などによる介護・医療・生活支援といった見守りサービス ③将来の不安解消のための任意後見人制度や家族信託、遺言書作成、葬儀生前契約、死後事務委任などの支援サービスで、“入居から終活まで”をトータルでサポートしています。

 

20のサービス一覧

入居相談から終活までの具体的な流れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─見守りサービスについて教えてください。

ドリームセンサーの仕組み

 高齢者向けの住宅確保には、オーナーが感じている孤独死や事故死などに対する不安を解消し、受け入れても安心だというシステムを作る必要があります。そのためにまず導入したのが「ドリームセンサー」です。これはトイレのドアに設置し、ドアの開け閉めをセンサーが感知し、一定時間動きがないと家族(指定先)と管理会社にメールが入り、それを受けて家族が電話や訪問するという異常を早期に発見する仕組みです。導入費用は1室12万円程度で、当社の管理物件ではオーナー負担で全戸導入しています。また、新規に管理の営業をする際もこの仕組みの導入を提案します。

 センサー以外にも、部屋の紹介の際に介護保険で受けられる見守りサービス、ホームヘルパーや看護師によるサポートの利用を勧めています。また、本人の意思で利用しないとなった場合でも、入居後には年数回訪問し、様子を見てもらうようにしています。さらに、介護認定を受けている入居者に関しては、万が一の場合に備え、ケアマネージャーから介護の内容を入手していますし、要介護で90歳以上の方には、正月は1週間のショートステイに入ってもらいます。

 神奈川県は行政のサービスが充実しているので、当社からも紹介をして入居者に利用してもらいます。どちらも有料ですが、県の「かながわまち協ホームネット」や、大和市にも24時間緊急通報などの見守りサービスがあり、80歳を過ぎていれば介護認定を受けていない方でも対象になります。

 

 

死後の対応についても事前準備を行う

─高齢者に対して“終活”も見据えたサービスを提供されています。

 入居時には本人と“いつまでこの部屋に住むつもりなのか”“老後プランはどう考えているのか”ということについて時間をかけて話をします。

 将来は子どもと住むという方は特段問題がありませんので、入居期間と連絡先だけ把握しますが、将来は介護施設に入るつもりだという方や、この部屋に最後まで住むつもりという方については対応が異なります。さらに、身寄りのある方とそうでない方でも用意するサービスは変わります。

 介護施設に入る予定の方は、いずれ身一つでの入所になるので、身寄りがいるいないにかかわらず入居前に荷物は極力処分をしてもらいます。

 また、葬儀生前契約支援サービスも提供しています。身寄りのない方には大和市役所の制度を紹介しますが、当社でもプログラムを用意しており、希望者には協力葬儀事業者と相談して葬儀プランを提案します。費用については一括で払えない方には互助会(月額2,000円位)に入ってもらい、一括払いの場合は保証金50万円程度を死亡事務費用として預かり、葬儀の際に充当します。

 死亡事務は生活保護者の場合は行政が全て行いますが、それ以外の方については個人が行う必要があることから、葬儀、遺品整理、役所への届け、年金や健康保険の資格喪失、住民税の納付や公共料金の解約手続き、銀行預金の解約、生命保険の受け取り等、面倒な仕事も当社でお手伝いをするようにしています。

 

─任意後見制度や家族信託の紹介サービスも行っています。

 入居者の将来不安の解消のために任意後見人制度の推進をし、財産管理、身上介護、死後事務委任など入居者の判断力が低下した場合に備えています。家賃収入の入るオーナーは家族信託を選択するケースが多く、その相談にものっています。

 また、入居時には家系図と財産一覧、身寄りのない人には戸籍謄本を持参してもらいます。そして、預貯金や資産があり、その処分や相続が心配な方には当社が相談にのりながら、遺言書の文案作りのお手伝いをし、最終的に公証人役場で遺言書を作成してもらいます。相続人がいないにも関わらず相続財産がある方の場合は、法定手続きの窓口や弁護士、司法書士を紹介します。

 高齢者は、死後、家族や子どもに迷惑をかけたくないと思っている人がほとんどですので、入居者全員にエンディングノートをプレゼントし、連絡先、自分の歴史、保険や年金も含めた財産の内容、終末医療(延命治療の可否、臓器移植)の意思、葬儀やお墓の希望などについて書いてもらうようにしています。

 

 

オーナーの高齢化にも対応する

─家賃保証や保険はどう利用していますか。

相談シートや管理業務委任状などツールも整備

 家賃保証会社に2年間働きかけ、家賃保証と保険をセットにした“家賃債務保証サービス”をつくってもらいました。通常の死亡保険は室内で亡くなることが前提で、病院などで死亡した場合は保険がおりませんが、この保証サービスは病院での死亡以外に認知症で行方不明になったり、外で事故を起こした時も対象になります。室内での死亡が50万円、屋外で死亡した場合は30万円まで保険がおり、残留遺品の処分や原状回復費用も50万円まで出ます。入居者には100%加入してもらい、万が一の場合のオーナーのリスクに備えるようにしています。

 また不動産会社は保証人にはなれませんが、連絡先になることはできます。そこで、身寄りがなく介護保険を受けていない方の場合には私が連絡先となり、亡くなった場合に当社が整理業務などを行うことについて事前に承諾をもらっています。

 

─入居者だけでなく、オーナー側も高齢化が進んでいます。

 当社が管理を受けているオーナーで認知症になった方がいました。そうなると家賃保証会社は集金代行をストップしますし、契約や更新、リフォームの発注、銀行のお金の引き落としもできなくなってしまいます。そのような事態を避けるために、オーナーが元気なうちに管理委任契約を結び、突然の事故が発生した場合でも賃貸経営がスムーズに継続できるようにしています。

 

 

高齢者を支えるネットワークの架け橋に

─多くの不動産業者が高齢者の住宅斡旋に取り組んでいくには何が必要でしょうか?

 高齢者とオーナーに安心してもらえるよう「20のサービス」を用意しましたが、全てを当社が行っているわけではありません。やはり高齢者の居住支援については専門家のネットワークを作ることが重要です。当社でも、ケアマネージャーや病院、福祉施設、金融機関、葬儀社、遺品整理業者、司法書士、弁護士などと連携していますし、さまざまな支援制度を用意している行政との連携も欠かせません。

 一方、不動産会社に相談しても、そのまま専門家に丸投げではオーナーも頼りにしてくれませんので、後見人制度、家族信託、相続、遺言書作成などの制度の仕組みや流れについては不動産業者も最低限の説明ができるようにしておく必要があります。これからは、不動産業界もセミナーや研修会などを通じて、高齢者にアドバイスができるような人材を育成することが大事だと思います。

 首都圏はこれから本格的に高齢化を迎え、高齢者の市場はどんどん大きくなります。中小不動産業者も必要な知識をしっかり身に付け、ビジネスチャンスを逃さないようにすべきです。そして、何よりも地元密着の業者こそが、地域の高齢者の幸せを実現する役割を果たせるのだと思います。

 


 

宮路常幸 氏

1948年鹿児島県薩摩川内市生まれの団塊世代。高校卒業後、東京に憧れ城南信用金庫に入職。2003年に退職後、有限会社MYJホームを設立し、代表取締役に就任。住み手・貸し手の双方が満足できる住まいの可能性を探り、取り組んでいる。趣味は、農家の出身であることから季節の野菜を栽培する家庭菜園。週2日ほどは畑で汗を流す。

 

 

 

 

有限会社MYJホーム

代表者:宮路 常幸
所在地:神奈川県大和市中央林間2-11-6
電 話:046-271-2020
H P:http://www.myj.co.jp
業務内容: 小田急江ノ島線の中央林間駅を中心に、不動産仲介、不動産管理を行う。地元ならではの情報や地域に関する情報にアンテナをはり顧客ニーズに応えるとともに、高齢者向けに住宅の斡旋を積極的に行う。そのために、見守りサービスから死後事務処理まで多様なサービスを用意している。