住まい探しはハトマーク

株式会社ブルースタジオ/東京都中野区

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2017年9月>

 

消費者の時代から当事者の時代へ

“あなた、ここ、いま”の視点でオンリーワンの価値を見つける

 

 

・「モノ」「コト」「時間」をデザインする

・空き家問題の本質とは

・時代の変化の中で今までの常識を疑う

・不動産の価値とは

・地域の価値を見立てる

・リノベーションによるまちづくり

・共感者を集める物語をつくる

・これからの不動産会社に求められるもの

・豊かなコミュニケーションをつくる

・パブリックマインドを持つ

 


 

「モノ」「コト」「時間」をデザインする

 当社は一級建築士事務所として立ち上げてから18年が経ちますが、「モノ」と「コト」と「時間」の3つをデザインする会社と表現しています。まず、一級建築士事務所としてモノの設計を行うHardware design。私たちは創業当時から既に、建物を単純につくればいいという時代は終わり、建物を使いこなすことを考える時代になったのではないかと思っていました。次に、企画やマーケティングなどを行うSoftware design。これはコトのデザインをする仕事で、通常はシンクタンクや広告制作会社がするような内容です。そして3つ目がSystem design。つまり時間のデザインをする仕事で、不動産の仲介や賃貸住宅の管理にあたります。不動産は他の耐久消費財と違い消費する対象ではなく、誰かの手に渡っていくものです。その継続性が不動産の特長で、不動産の仕事には時間をデザインするという感覚をもつことが必要です。当社は、物件の企画から不動産の仲介や管理まで手掛けることで、物件を一貫性のある「物語」に編集することができます。そして、この3つのデザインの一体化が不動産の価値の最大化をもたらすことになります。

 

 

空き家問題の本質とは

 空き家問題の本質を考える上で重要なのが、建物や敷地は一体誰のものなのか?という問いです。確かに不動産とは個々が権利を主張できるものですが、本当にその人だけのものだと言ってしまっていいのでしょうか。どの地方にも文化財の指定を受けるような大きな古民家があります。今ではそれを維持するには大変なコストや労力がかかりますが、かつては農村社会全体で支えていました。家族はもっと大勢いましたし、萱の屋根のふき替えや、年末の大掃除などは村人が総出で手伝っていました。大きな家というのは社会的な側面があり、地域社会で維持されていました。

 それが近代化の過程で、個人の所有物としての権利が守られるようになった反面、多くの負担を個人に強いることになりました。これは大きな古民家だけでなく、普通の家においても同様です。例えば核家族の親がかつて個人の資産として郊外に建てた家を子どもが相続しますが、子はすでに都心に家を持っているため郊外に残った家がそのまま空き家になってしまいます。家が個から個へ引き継がれると同時に、空き家という負担も個人に押し付けることになっています。「核家族化」と「持ち家」の幻想は空き家問題の本質なのです。

 そこで再認識すべきなのが、不動産は「社会的な存在」だということです。それを前提に、社会全体で建物や敷地をどう使いこなすか、どう活用するかということを考えることが必要です。

 かつて日本の社会には「私」と「公」の間に「共とも」にという意識があり、パブリックコモンがありました。町内会や自治会の活動のように、地域社会でお年寄りの面倒を見たり、お年寄りが子どもの面倒を見たりしながら、敷地を越えて地域の問題を解決していこうという共助の関係です。しかし、高度成長の過程で「共」にという意識が徐々に失われ、公はそれを解決するために盛んにハコモノ施設をつくりました。しかし、このような方法はもう制度としても財政的にも破綻しつつあり、これからは「共」にという関係を地域社会の中で新たに再生していくことが大切になります。

 

 

時代の変化の中で今までの常識を疑う

 日本はいよいよ人口減少の時代をむかえました。明治時代の末から約100年かけて1億2800万人まで増えた人口は、これから100年かけて元に戻ろうとしています。今後は人口が右上がりの高度成長時代につくられた常識は通じなくなるという前提に立つべきだと思います。

 高度成長時代には、多くの設計事務所や不動産会社はひたすら建物をつくることを考えていましたが、これからは「使いこなす」ことを考える時代になっていきます。その違いが端的に表れているのがリノベーションとリフォームの違いでしょう。RE(リ)はもう一度という意味で、リ・フォームはもう一度新たな形(フォーム)にするという建築上の作業を示しますが、リノベーションはREの後にイノベーションが続きます。つまり、もう一度革新や刷新をしようという発想があり、リフォームとは全く違う意味を示す言葉です。

空室を多く抱えた賃貸住宅に対して、リフォームの考え方で対処すると、和室を洋室に変えるとか、ユニットバスを風呂トイレ別にするといったハードウエア面での解決方法になります。それに対してリノベーションでは、まず何故その物件が空室だらけになってしまったのかという状況を俯瞰します。周辺がいつの間にかオフィス街になり住宅のニーズがなくなったという状況であれば、設備を変えるのではなく、用途変更して住宅をオフィスにした方がいいかもしれません。このように今までの常識を疑い、状況を俯瞰して考えるところからスタートすることがリノベーションという発想です。

 

 

不動産の価値とは

 不動産の本質的な価値はどこにあるのでしょうか? 敷地でしょうか、建物でしょうか? 不動産価値の本質は敷地や建物そのものにあるのではありません。その敷地がある周りのエリアにこそ価値があるのです。何故なら、その不動産があるまちが衰退してしまえば、どんなに建物が高性能、高品質であっても、どんなに敷地が広くても価値はなくなってしまいます。つまり「敷地に価値はなく、エリアに価値がある」ということです。

 そして、エリアの価値を形成するのは“人”です。まちは建物の集合体ではなく、人が住んでいてこそまちになります。エリアとは人が集積している場所であり、エリアの価値は人と人のコミュニケーションといっても過言ではありません。

 さらに不動産には「結果に価値無し、プロセスに価値あり」という側面もあります。賃貸住宅であれば満室稼働していることがいい結果なのでしょうが、通常は不動産を長期にわたり保有することを考えると、現在満室だとしても5年後に空室だらけではそのプロジェクトは失敗かもしれません。不動産の価値とは成功・失敗ではなく、継続して生きたものとする事ができているかどうか、つまりマネジメントのプロセスそのものに価値があるといえるわけです。

 

 

地域の価値を見立てる

 地域の価値を形づくるのは「蓄積」の価値、つまり“蓄積していくということの価値”だと思います。この蓄積の価値と人の価値を合わせて別の言葉に言い換えると「日常」という言葉になります。人々の暮らしというのは偉大なる日常であり、それを積み重ねていくことが価値になります。1920年代に柳宗悦が中心となり民藝運動をおこしました。全国各地の焼き物や織物、漆器や木竹工などの日用雑器など、それまで美術史が評価してこなかった無名の職人による「用の美」を発掘し世に紹介する動きです。民藝とは、日本人が積み重ねてきた生活文化の美、機能美であり、その蓄積にこそ宿るという美に対する意識です。先人たちが工夫に工夫を重ね積み上げてきた多くの価値を再発見し、再編集し、新たな価値をつくり出すことがこれからの時代には必要になります。

 そのためには「見立てる」ことが重要です。私たちが進めている“リノベーションによるまちづくり”は、地域にある空間資源や人的資源など、地域に眠っている潜在価値をもう一度再発見し、見立て、編集し直すことによって地域の価値は再生するという発想です。地域に普通に存在する、場合によっては打ち捨てられたものを見立てて美しいと感じる、この発想が持てるのであれば、埃だらけの空き家に対しても、美しいとか、面白いという感覚が生まれても不思議ではありません。

 ここ数年、全国の自治体は“リノベーションによるまちづくり”を模索し始めました。もうハコモノでは地域は発展しない、そればかりか負担ばかりが増大する。これからは公主導の大きなまちづくりではなく、民間主導の小さなまちづくりが必要だと行政も気付き始めています。民間の活力を生かすということは、新たにハコモノをつくるのではなく、既存の建物を見立てて使いこなすことによって地域を活性化させるまちづくりの手法です。

 

【事例①:うめこみち】

東京都大田区にある旧家の、江戸時代から7代続く家主の資産運用プロジェクト。戦前から残る築90年の母屋、戦中に建てられた賃貸住宅、これからつくる賃貸物件を1つの家族と見立て、メゾネットと戸建ての賃貸住宅を建て、駐車場をコモンガーデンにした。建物完成のタイミングで家主が近所の人たちに声をかけ、コモンスペースで餅つきをしてふるまうことで地域の交流が図られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リノベーションによるまちづくり

 見立てることから始まるまちづくりはどのように進めればいいのでしょうか。私は地方自治体の依頼を受けて、今まで40都市以上の中心市街地を訪れていますが、まず初めに行うのが「宝探し」です。それは普段その地域で暮らしている人にとって当たり前すぎて見えない、日常の中で忘れられている潜在的な地域の価値を見つける作業です。地域の人たちと一緒に、楽しみながらまち歩きを行います。

 次に全員が会場に集まり「大喜利(おおぎり)」をします。笑点のコーナーに“なぞかけ”というものがあります。司会者が「・・とかけて・・と説く、その心は?」と問いかけ、その答えが非常に面白かったり納得感の高いものだったりすると会場が沸いて解答者は座布団がもらえます。それをまちづくりにも生かします。つまり、「・・とかけて」というのは見つけた宝物のこと、「・・と説く」というのは見立てるということです。そして「その心は?」とは伝えることで、プレゼンテーションです。それを聞いて会場が沸けば共感になります。地域の人にとって当たり前の景色になってしまったあの空き家をどう見立て、どう使うのかというプレゼンテーションを行い、会場が沸けば、“なるほどね”という共感を得たことになります。そして共感した人たちが家に帰り、家族や友達に話をすれば共感の輪が広がります。

 私たちが賃貸住宅の企画運営に関わる場合は、入居者を募集するのではなく、共感者を募集するのだと考えます。共感の対義語は消費です。高度成長時代は消費者をどう囲い込むかということが重要でしたが、これからは共感によって生まれる当事者を集めることが大事です。消費者は何も生み出しません。当事者は自らの力で状況をつくり出します。つまり“みんな同じまちに住む人々なのだからまちを良くすることを一緒に考え行動しようじゃないか”という「共(とも)」にの意識です。そして、当事者を増やすためには、親しみの持てるわかりやすいビジョンや物語を作ることが必要です。

 

【事例②:ホシノタニ団地】

小田急線座間駅前にある築45年の社員寮を賃貸住宅にリノベーションした。駐車場を「子どもたちが安全に遊べる駅前広場」にし、まちに開くことで賃貸住宅と地域住人との“境界をボカ”した。2016年グッドデザイン金賞受賞。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共感者を集める物語をつくる

 ビジョンや物語を作るには3つの視点から考えます。その不動産に関して、「あなたでなければ」「その場所でなければ」、そして「今このタイミングでなければ」、この3点において他と何が違うのか、オンリーワンの価値は何かということを明らかにします。しかもできるだけわかり易い言葉で。

 何故この3つの視点が必要なのかというと、高度成長時代には豊かさの象徴として「あなたでなくても、ここでなくても、今でなくても」いいものを求めてきました。そして、高性能で同質なものを、全国どこでも、昼間でも深夜でも手に入れられる状況をつくってきました。賃貸住宅やまちについても同様です。東京と同じ価値基準で物件やまちづくりをしてしまったために、どこも特長がなく選ばれないまちになってしまいました。

 「あなたでなければ」「その場所でなければ」「今でなければ」ということは、言い換えると「人の価値」「場所の価値」「時間の価値」ということになります。さらに別の言い方をすれば「キャスト」「シーン」「シナリオ」です。キャストは登場人物、シーンは舞台装置、そして時間の流れを生み出すシナリオです。つまり物語です。“あなた、ここ、いま”の3点においてオンリーワンであるという理由を明確にわかりやすく整理するだけで、物件が物語を持ち共感を呼びます。そして物語をもった物件や地域には、“主体性をもった当事者による共感によってつながれた持続性のあるコミュニケーション”が生まれます。

 

 

これからの不動産会社に求められるもの

 不動産会社は、建物や土地を客観的に見ることができるという意味では「社会的な存在」です。遊休資産の活用策を考えるには個人のオーナーだけでは無理ですから、社会的な存在である不動産会社が積極的に関わることが大切です。

 また、まちの担い手になるという意識を持つことも重要です。個人の資産を上手に管理することだけが不動産会社の役割ではなく、その資産も地域を構成する要素の一つであり、地域の価値が無くなってしまえば、その不動産の価値をもたらす基盤そのものを失ってしまうことに気付いてほしいと思います。まちの担い手になれる不動産会社が積極的に、地域の未来がどうあるべきなのかについて考えて動かないと、そのまちは人に選ばれないまちになってしまいます。

 そのためにはオーナーの意識の変革を促す必要があります。どのまちにも昔ながらの資産家や名士といわれる人たちが多くいます。その人たちの悩みの一つが相続問題です。しかし残念ながらほとんどの場合、古い立派な屋敷や森が失われて、分譲マンションや細分化されてどこにでもある戸建て住宅に変わっていきます。そうなる前に、古い屋敷に対して活用策を積極的に提案し収益を生むモデルにできれば、資産の承継だけでなく地域社会の文化も守ることができます。古い屋敷がまちの魅力になり、選ばれるまちとして存続するための要素になることで、オーナーは地域社会のアイデンティティの一部を担うことができます。

そのような、誰が見ても素晴らしい古くて大きい家を、空いているなら是非使いたいと思う人はたくさんいます。特に地方都市に対して熱いまなざしを向けているのは20代の若者です。しかし、そういう人たちと物件のマッチングが上手くできていません。その橋渡しの役割を果たすことができるのも不動産会社です。

 “あなた、ここ、いま”という視点で物件や地域のビジョンをつくるには、特殊な才能や特別なことが求められているわけではありません。そこに住む人たちの日常生活に目を向けて好奇心を持って掘り下げればいいのです。そのためには、まず地域に興味をもち、それまでまちづくりに関心がなかった人や、行政がやってくれるものだと人任せだった人たちの意識が変わることが大切です。

 

【事例③:シーナと一平】

東京都豊島区主催の“リノベーションまちづくり”で生まれたプロジェクト。椎名町の商店街にある店舗併用住宅を地域の拠点にリノベーションした。高齢者は多いがまだ活気がある商店街であり、近隣にはマンションが多く子育て世代が流入し、池袋の近くでインバウンド需要が期待できる。そこで、高齢者と子育て世代、日常を経験できる商店街とインバウンド需要をつなぐ装置として、1階をミシンカフェ、2階をゲストハウスに用途変更した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊かなコミュニケーションをつくる

 オーナーには“塀をなくしましょう。門をあけましょう”ということをお願いしています。今までは、個々のセキュリティやプライバシーを確保することが安心で豊かさの象徴でした。そのために境界線を明確にし、壁を厚く、塀を高く、鍵や防犯カメラをいくつもつけてきました。しかし、本当の暮らしの豊かさは「コミュニケーション」の中にあります。家族や親しい近所の人と話したり、一緒に食事をしたりといったコミュニケーションが豊かであれば、暮らしは豊かだと感じるはずです。セキュリティやプライバシーのために境界を明確にするということは、そのコミュニケーションを絶つことを意味しています。

 地域福祉もハコモノやサービスに頼るのではなく、地域の中のコミュニケーションによって互助や共助の関係を築いていくことが地域社会の中で暮らす安心感をもたらします。社会福祉制度の問題も空き家の問題も、個の権利を守り境界線を明らかにしてきたがゆえにその責任が個におしつけられ、表出したものです。日本は都心でも地方でもお互いがあまり干渉せず、関係性を排除してきました。これからは、まちの中で挨拶できる関係、まちにどんな人が住んでいるのかがお互いにわかっている関係性をどう再構築するかという事がとても重要になります。

 

 

パブリックマインドを持つ

 古くからの地主や資産家は、町内会や商店会の会長を何年間も務めたり、氏子総代やお祭りの家長をしてきた、本来地域社会の中で発言力がある人たちです。その人たちが積極的に地域に対して心を開いていけば、まちにいろいろな変化が起きてきます。自分の資産や不動産の価値を高めていくためには地域社会との関係性が不可欠なものだというパブリックマインドを持ち、地域をどうしたいと思っているのか、そのために自分の資産をどう位置付けていくのかなどについて自ら情報発信をしていけば、賛同してくれる人が生まれてきます。ヨーロッパではこれを“ノブリス・オブリージュ(富める者の義務)”といい、ごく当たり前に資産家が持つべきスタンスと考えられています。

 不動産会社も“何もしなくていいのであなたの資産運用を任せてください”ではなく、「地域社会を良い方向に変えるためのサポートをします」と、パブリックマインドを持って接することでオーナーの心を動かしていくことが大切です。それができるのはむしろ60代以上の、戦後の日本の社会の仕組みをつくってきた老舗の不動産会社の方々なのかもしれません。

 

 


 

大島芳彦 氏

株式会社ブルースタジオ クリエイティブディレクター 専務取締役
1970年東京都生まれ。2000年ブルースタジオにて遊休不動産の再生流通活性化をテーマとした「リノベーション」事業を起業。建築設計のほか、不動産商品企画、コンサルティング、グラフィックデザイン、プロパティマネジメントなども手掛ける。2015年、全国で展開する地域再生ワークショップ「リノベーションスクール」の実績により日本建築学会教育賞受賞。「ホシノタニ団地」では2016年度グッドデザイン金賞(経産大臣賞)を受賞。大阪工業大学建築学科客員教授。東京理科大学建築学科非常勤講師。