住まい探しはハトマーク

有限会社松栄地所/富山県氷見市

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2018年7月>

 

面白い人が集まり、
楽しく暮らせるまちにする

新たなビジネスオーナーをまち全体で応援!

 

富山県氷見市において、地域に賑わいとビジネスを生み出すための取り組みを展開する㈲松栄地所、移住定住の促進や支援を行う氷見市IJU(移住)応援センターみらいエンジン 藤田氏、そして富山県宅建協会高岡支部長の酒井氏に、まちづくりについての考えとそれぞれの役割をうかがった。

 

・急速な人口減少と空き家の増加に歯止めをかける

・氷見の魅力を日本全国に発信する

・空き家の物件化が移住定住促進のキーポイントに

 


 

急速な人口減少と空き家の増加に歯止めをかける

─氷見市の空き家の状況を教えてください。

延夫氏氷見市は人口約48,000人ですが、既に1980年代後半から減り始めており、30年後の2045年には26,000人にまで減少すると推計され、消滅可能性都市といわれています。また、空き家総数も3,000戸を超え、空き家率は16.1%と富山県全体より3.5ポイント高い数字です。なかでも“その他住宅”の空き家の比率は12.4%で、富山県が5.4%であることを考慮すると非常に高い数値になっています。

 しかし、氷見は自然の恵みに包まれ、幸せで豊かな暮らしを実現するにはもってこいのまちだと思います。私は人口が減って仮に1万人のまちになったとしても、「面白い人が集まり、楽しく暮らせるまち」であればいいと思います。

 

─ご子息がUターンで氷見に戻ってきました。

佳太氏学校を卒業したあと大阪のシンクタンクに勤務していましたが、20代半ばになり、ふと人生に何か1本軸があったほうがいいと考え、まちづくりに関わる仕事ができれば面白いなということを思い始めました。

 私は、人口はある程度維持した方がいいと思います。子どもの頃小銭を握りしめて通った駄菓子屋や古本屋、おもちゃ屋などで友達と遊んだり、兄の友達と仲良くなったことが私のこのまちでの原体験になっています。これから生まれてくる世代にも私たちと同じような体験ができるようにするためには、そのようなお店がつぶれない程度の人口を維持していく必要があると思います。

 また人口が減ってきて、地域の住民たちが「このまちはもう終わりだ」ということを日頃から言っているのをもう聞きたくないという思いもありました。そこで、㈱ユメミガチという会社を作り、1人でも、経験なしでも、若者でも、想いをもってビジネスにチャレンジすれば成功できるという事例を作ることができれば、あとに続く若い世代がやりやすくなるのではないかと思いました。

 

 

氷見の魅力を日本全国に発信する

─昔の民宿をオーベルジュ※1として再生されています。

酒井氏松木社長は地域愛にあふれた、地域のリーダー的存在です。空き家や空き店舗などで困っている方からの相談も多く、ビジネスというより地域を元気にしなくてはならないという観点から、利用法は二の次にして物件を購入しています。

 

延夫氏この物件は、民宿を廃業されたもので、数年前に地元の人から相談があったので、このまま放置するのはもったいないと考え購入し、しばらく自分の遊び場として使っていました。そんな折、息子が今年の初め※2に地元に戻ってくることになったので、テナントとして息子の会社に貸し、運用させることにしました。

 

佳太氏シンクタンクでは旅館業界の経営コンサルタントをやっていたことから、宿ならなんとかできると思ったことと、そこからまちに人を送り込むことでまち全体を面白くすることにつなげられるのではないかと考えました。

 

─計画の内容を教えてください。

佳太氏氷見が全国や世界に向けて発信できる魅力は3つあります。まず「食」です。氷見漁港に水揚げされる“マグロ”や“寒ブリ”“氷見いわし”などは全国的に有名ですが、山の幸もとてもおいしいです。次に「景観」です。氷見海岸から海面に望む立山連峰は世界三大景観の一つといわれています。特に冬は絶景です。そして3つ目が「人」です。氷見の人は皆とてもおせっかいです。何か行き詰まったことがあっても、ここには親身に話を聞いてくれる大人がたくさんいます。

 

酒井氏旅の魅力は歴史を感じるということもありますが、歴史的な要素がなくても、感性として目に入る景色や、食べた瞬間に美味しいと思う感動、そして親切にしてもらった経験が人を惹きつけるのだと思います。

 

佳太氏ここを「移り住みたくなる宿“イミグレ”」と名付け、“氷見の絶景と、食と、人に出会える一軒宿”をコンセプトにして、今年の11月にオープンします※2。

 北陸の食材を中心にした料理と景色を自然のなかで一緒に楽しんでもらうことを基本にし、レストランは劇場型の配置、全席オーシャンビューです。天気のいい日は立山連峰を望めます。宿泊施設は、旅館業の免許をとり計6室設けました。

 改修費は5,700万円かかりましたが、その一部をクラウドファンディングでも募集し、計360万円程度集めることができました。応募者のうち1/3が私も父もまったく知らない方だったのには驚きました。

 

全席オーシャンビューの劇場型レストラン

イミグレの外観

オーシャンビューの客室

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空き家の物件化が移住定住促進のキーポイントに

─氷見市IJU(移住)応援センター「みらいエンジン」の役割について教えてください。

みらいエンジン マネージャー 藤田智彦氏/「まちのタマル場」にて

藤田氏当センターは、氷見市の委託事業としてグリーンノートレーベル㈱が運営しています。業務内容は、移住定住の促進、情報発信、窓口業務で、住まいに関しては空き家情報のとりまとめと、空き家の所有者からの相談受付をしています。また、移住してきた人の定着支援として交流イベントや相談があった時に地域の人を紹介する役割も果たしています。

 

─移住の実績はどれくらいあるのでしょうか。

藤田氏:センターがオープンしてから約2年※2になりますが、累積で50名くらいの方が、当センターを通じて移住して来られました。プロフィールは30~40代の氷見市や高岡市の企業に勤めるサラリーマンが多く、元の居住地は富山県内と県外が半々くらいです。最近は子どものために環境のいいところで育てたいという理由で来られる方もいます。

 

延夫氏宅建業者の立場で最も問題なのは、移住希望者が来ても貸せる物件がないということです。現在もセンターに相談中の人は30組程度いますが、その内10~15組は物件さえ見つかればすぐにでも移住すると言ってくれています。

 空き家はたくさんありますが、放置したままにしているのでボロボロの物件が多く、賃貸するには改修コストがかかりすぎて所有者が二の足を踏んでいます。リフォームした場合は市から100万円※3の補助金が出ますが、500万〜600万円程度かかる場合が多く、物件化するにはハードルが高いのが実情です。氷見市でも空き家活用推進協議会を立ち上げ、物件化に関して相続者からの相談にのっていますが、所有者が亡くなってもすぐ売却や賃貸には出せないという人が多く、結局4、5年経ってしまい、その間管理をしないために雨漏り等が発生して家が傷んでしまうという悪循環が起きています。そうなる前に手を打ち、この問題を解決していくのが我々宅建業者の役割です。

 

─新しくこの地域でスモールビジネスを始める方も増えてきました。

佳太氏私の姉も、父が購入した市街地の物件で干物屋を始めましたし、Uターンして地ビールを作りビアカフェを始めた人もいます。東京から来て氷見市役所に2年勤めた後、旧呉服屋のビルをリノベーションして民泊とカフェを始めた夫婦もいます。このように少しずつ、この地域でビジネスを始める人が出てきました。

 

酒井氏東京で移住セミナーをしたとき、富山県人会の青年部の方とお話をする機会があり、Uターン希望の若者が結構いるけれど、故郷の現在の様子がわからなくて心配なことも多いと聞きました。そこで、氷見に移住を考えている方に向けて、氷見市が移住者へどのような取り組みをしているかお話し、佳太君のような実例も紹介しました。相談できる同世代の人が身近にいるととても心強いものですし、実際にUターンをして頑張っている若い方がいれば、若者同士のつながりが生まれることで、起業するための精神的なハードルがさがると思います。

 

延夫氏新たにビジネスを始める人に対しては、地域の人が手伝い、関わりながら、そのビジネスが続くようにサポートをしていくべきです。幸い氷見市は、移住者に対する支援制度が県内では比較的厚いといわれています。行政と宅建業界がうまく連携し、両輪となって地域を面白くしていきたいと思っています。

 

藤田氏私も千葉県からの移住組ですが、氷見には住むのに嫌な理由、駄目な理由がまったくみつかりません。これからも氷見の魅力を伝えていきたいと思います。

※1 主に郊外や地方にある宿泊施設を備えたレストランのこと。

※2 2018年8月時点。

※3 平成30年度現在。

 

干もの家氷見

Beer cafe BREWMIN

カフェと民泊施設「HOUSEHOLD」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

松木延夫 氏(まつき のぶお)(左)

1958年氷見市生まれ。大学卒業後太平建築(資材メーカー)就職。
1986年家業である㈲まつき(建築資材販売会社)へ戻る。
1988年㈲松栄地所を開業。楽しくて素敵な街を目指して活動中。

松木佳太 氏(まつき けいた)(右)

1991年氷見市生まれ。大阪大学卒業後、船井総合研究所(経営コンサル会社)入社。2018年1月㈱ユメミガチ設立。同11月、『イミグレ』開業。“今でも素敵な氷見をもっと素敵に”が目下のテーマ。

 

 

有限会社松栄地所

代表者:松木 延夫
所在地:富山県氷見市鞍川1426
電 話:0766-74-5686
H P:https://shoueijisho.i-e.jp/
業務内容:氷見市を中心に、土地建物の売買・仲介から建築・リフォーム、宅地造成および新築建売販売まで、総合的な事業を展開。㈱ユメミガチに建物を賃貸し、2018年11月、昔の民宿をオーベルジュとして再生し「イミグレ」をオープンした。

 

 

 

酒井 誠(さかい まこと) 氏

1955年富山県高岡市生まれ。1985に㈲ハウジングサカイを設立し、地域密着の不動産業を行う。2012年富山県宅建協会高岡支部支部長に就任。翌年に県協会が公益社団法人に移行することから支部でも公益性の高い事業に取組むため、就任の年に高岡市空き家活用推進協議会を設立、国交省の空き家管理基盤強化推進事業に選定される。2014年からは高岡市から博労地区まちづくり計画を受託し、市民が主体のまちづくりをテーマにオール宅建(高岡)で取り組んでいる。