公益社団法人富山県宅地建物取引業協会高岡支部

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2018年7月>

 

市民が主役のまちづくりを
「チーム高岡」で支えていく

地域のために若者が挑戦できる環境を整える

 

・専門家が集まって地域の空き家問題を解決する

・市民が主役になって“まちづくり”を検討する

・生活者と行政の間に立ち、まちづくりを応援する

・事例紹介 山町筋(やまちょうすじ)の商業施設「山町ヴァレー」

・事例紹介 金屋町の移住体験施設「さまのこハウス」

・事例紹介 博労町の交流拠点「博労町まちかどサロン」

・事例紹介 町家体験ゲストハウス「ほんまちの家」

 


 

専門家が集まって地域の空き家問題を解決する

─高岡市空き家活用推進協議会設立の経緯を教えてください。

 高岡市は加賀二代目藩主前田利長が築いた高岡城の城下町として発展し、一国一城令による高岡城の廃城後は商工振興策を積極的に推進し、物資集散の都市として発展しました。今でも人口規模では富山県第2の都市ですが、2005年の18万3千人をピークに減少し続け、約20年後の2040年には13万9千人※1になると推計されています。また、空き家率も14.7%※2と全国の平均値より1ポイント以上高いことから、富山県宅建協会高岡支部(以下「高岡支部」)は高岡市と連携し、空き家問題に総合的に取り組むために、2012年に「高岡市空き家活用推進協議会」を立ち上げました。

 空き家問題は単独の組織だけでは対応が困難なことから、協議会は高岡支部のほか、富山県建築士会、富山県司法書士会、富山県土地家屋調査士会の各高岡支部および富山県、高岡市の6団体で構成しています。また、構成団体の管轄エリアでもある、隣接する氷見市・射水市とも連携しながら、相談体制の整備に向けた取り組みを行い、2014年には氷見市空き家活用推進協議会を立ち上げました。

 協議会は高岡市の助成金を受けながら、2012年から3年間、国交省の「空き家管理基盤強化推進事業」、2014年から4年間「高岡市博労地区まちづくり計画委託事業」、2016年、国交省の「先駆的空き家対策モデル事業」、2017年「地域の空き家等の利活用等に関するモデル事業」および「高岡市(富山県)の地域ぐるみ空き家対策支援事業」といった事業を受託し、地域に根付いた活動をしながら少しずつ成果をあげています。

 

─協議会の具体的な活動内容を教えてください。

 協議会では空き家の維持管理・利活用・流通促進・未然防止を軸に、主に以下のテーマに取り組んできました。

①相談事業

空き家相談事業

 「空き家と住まいの総合相談所」を高岡支部の事務所内に開設し、月2回の相談会を実施しています。相談は、協議会から委託を受けた高岡支部の幹事30人が交代で直接受けていますが、電話やメールでの相談にも日常的に対応しています。

 2016年度の相談件数は76件あり、その内47件が売買や賃貸に関するもので、宅建業者に紹介したものが18件、その内成約に至ったものが7件で、相談件数に対する成約件数の割合は1割程度でした。その理由は、物件価格が売買の場合で200万~300万円のものが多く、権利関係が複雑で調査も大変な一方、当事者の合意を得るのに時間がかかるケースが多い点にあります。また、宅建士が総合相談員として窓口の役割を果たす際に、その内容を判断して各専門家を紹介するだけにとどまってしまっている点もあげられます。

 

②相談員の研修・育成

 「相談所の役割は相談を受けるだけではなく、解決してあげることだ」との思いから、幅広い専門知識を得るために外部講師を招き、勉強会を実施しています。特に、市民の関心が高いホームインスペクションによる建物診断や耐震補強、隣地境界に関するトラブル対策、民泊の利用方法などをテーマにして専門性の向上に努めています。

相談員のワークショップ

 さらに、東京工業大学の真野洋介研究室とも連携して、協議会の登録相談員を対象に、ワークショップを月1回開催し、空き家の適正管理や空き家発生の未然防止策等について、相談員の知識や理解を深めています。具体的には、対話型と体験型のワークショップを行い、空き家関連の市の助成金制度、空き家データベース化と流通の仕組み作り、狭小間口・長大奥行の敷地物件の解決策、ホームインスペクションの有効性などをテーマとしました。

 ワークショップからは自由で新しい発想が生まれ、積極的な意見交換の場になりつつあります。そこから出てきたアイデアに基づき、相談事業強化グループ、技術・支援メニュー開発グループ、空き家ネットワーク構築グループ、空き家利活用者マッチンググループ、といったワーキンググループを作り、試験的な取り組みを進めています。

 

③空き家等の適正管理等の啓発と普及

 一方、市民への啓発活動としては、地域の実情にあった対策を進めていくため、地域へ直接出向いて町内会を対象とした「空き家談義(出前空き家相談会)」を随時開催。そこで町内会が抱える課題の共有や空き家情報を収集し、地域住民と連携した空き家の管理体制の構築と、対策への合意形成に努めています。

 特に力をいれているのは空き家の未然防止です。高岡市の空き家率は全国平均に比べると高いですが、宅建業者の感覚でいうと、この数字はまだ個別対応で済む範囲内だと思います。ただ問題なのは、物件や地域によってかなり優劣がつき始めていることと、高齢化率の上昇と若い世代に住み継ぎができていないことから、ある時期に空き家が爆発的に増える可能性があることです。そのために、適正な空き家管理の促進、管理不全の予防、空き家になる前の相続対策などについて「空き家活用セミナー」や「まちづくりフォーラム」を開催し、市民の意識の底上げを図っています。

 

博労町まちづくり検討会議

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市民が主役になって“まちづくり”を検討する

─博労(ばくろう)地区で進めている「まちなか再構築事業」の背景について教えてください。

点検まちあるき

 高岡市は、戦災に遭わなかったことや城下町として発展したことから、まちなかに狭隘道路が多く、建物も密集しています。また親世代が亡くなった後、子世代への住み継ぎがスムーズにいっておらず、空き家が増え、木造住宅が老朽化したまま更新されず、災害に対して強い構造のまちとはいえない状況でした。そこで高岡市は、2013年から「まちなか再構築事業」をスタートし、博労地区8自治会をモデル地区に選定して、災害に強いまちづくりを目指すことにしました。

 まちづくりの検討にあたっては市民が主体となって進めることとし、高岡市や協議会の専門家はサポートする役割に徹することにしました。そしてオブザーバー役の真野研究室の学生にファシリテーターをお願いし、ワークショップ形成による防災まちづくりの議論を始めました。

 2014年には、まず「点検まちあるき」を行い、まちの魅力とともに、まちの課題や問題点を共有しました。その後「博労町まちづくり検討会議」を開催し、ワークショップを重ね、そこで出てきたさまざまな意見を集約しながらまちづくり計画を策定しました。翌年には各自治会の連絡協議会を設立し、全体計画の調整や情報共有を行いながらまちづくり事業を行っています。

 

─まちづくり計画から生まれた具体的なプロジェクトについて教えてください。

 1つ目が幸町の2軒長屋の除却事業です。空き家になった長屋が老朽化し、通学する小学生や歩行者にとって危険な状況にあったため、周辺住民から改善が望まれていましたが、自治会では所有者の連絡先が把握できずそのままになっていました。それを協議会が中心となり、連絡先を見つけて所有者の意向調整を行い、市の補助金を組み合わせて除却費の負担軽減を提案したことで、老朽建物の除却と隣接居住者への所有権の移転が実現しました。さらに、この除却によって狭隘道路を解消し、道路の整備に向けた検討の道筋ができました。

 2つ目が博労町の「まちかどサロン」作りです。まちあるきやまちづくり検討会議を通じて、防災のためには、災害時に救急車や消防車が通れるように狭隘道路を解消したり緊急避難場所を確保することが必要だ、という話が出ましたが、ワークショップの中では「もうすでに、ここはほとんど老人しかいないまちになっている。災害時には、声をかけ、助け合うといった地域のコミュニティをしっかりすることが大切だ」「そのためには人のつながりが必要だ。人が減っていくなかでどういうコミュニティを作ればいいのかを考えるべきだ」という意見がでました。それを契機に、議論は多世代の方が顔をあわせ、気楽に交流することができるサロンを作ろうという方向性になりました。これには私もびっくりしました。

 それ以外には、空き家を公民館として整備した南町四区公民館の事業や、内外連動型の火災報知器の設置を行いました。

 

幸町の2軒長屋の除却

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─これからの展開について教えてください。

 市民から狭隘道路の改善の要望が寄せられる際、「道路はほとんどが請願道路で、その整備のためには市民も土地の一部を寄付するなど、痛みを伴うことをしなくてはならない」と説明します。するとそこから「自分たちに必要なのは広い道路ではなく生活道路だ」という意見が出てくるようになり、道路を拡幅しなくても、側溝の整備やすみ切りの設置、電柱の移設などを組み合わせれば改善が可能ではないかという現実的な案が出てきました。さらに、幸町のプロジェクトのように1軒単位で考えるのではなく、隣接する不動産と一体的に活用し、道路環境を含めて整備し直すことで、建て替えがしやすい敷地の創出ができます。そのような方法で、全て行政に頼るのではなく、市民の自主的な議論を通じて、若い世代が住みたくなるようなまちづくりを進めていきたいと思います。

 さらに、2017年からは空き家の流通に向けた情報プラットフォームの構築を始めました。モデル地区を対象に、町内会といった地縁組織や地域住民から空き家等の情報を収集し、データベース化して共有する仕組みづくりを目指しています。まちなかにある、市場では流通しにくい「第三の空き家」の存在を可視化することで、建物の改修や若い世代への住み継ぎを促すきっかけにしたいと考えています。

 

 

生活者と行政の間に立ち、まちづくりを応援する

─まちづくり計画は、具体的にどのように進めていったのですか?

 補助金を利用した事業は、行政主導で進めたり、建築士や宅建士などの専門家が主導することが多いのですが、高岡市の成功の秘訣は市民主導型にあります。市民が主体となりまちの課題やビジョンを共有しながら解決に向けて意見を交わし、それを高岡市、協議会、大学の産学官がサポートする形で進めました。計画が実現するまでには大変な時間と労力がかかりましたが、多世代の多様な人たちが議論をし、決めていくことが重要だったと思います。

 高岡市では、地元の企業と第3セクターが運営している商業施設「山町ヴァレー」、地域住民によるNPO組織が運営する移住体験施設「さまのこハウス」、高岡市商工会議所の有志でプロジェクトチームを立ち上げ、直接投資をして空き家を宿泊施設にした「ほんまちの家」やシェアハウス、博労町のように自治会が主体となって運営する「まちかどサロン」など、いろいろなグループが空き家を活用して面白い取り組みをし始めています。そして嬉しいことに、それらのプロジェクトには宅建業者が必ず参加しています。

 私たちの活動は、地域のスーパースターたちによる先駆的なビジネスモデルとは違い、宅建業者が地域に密着し、行政と市民の間に立ち、市民が自立的にまちづくりを考え、実践できるよう寄り添いながらサポートすることが目的です。また、そのような活動のなかから新たなビジネスモデルのアイデアが生まれます。それに挑戦する若者(プレイヤー)を育て応援していくことも重要な役割です。スーパースターたちだけに依存するのではなく、「オール高岡」「チーム高岡」でやっていけばいいと思っています。

 

─今後のまちづくりのビジョンについて教えてください。

 まちづくりに関わるプレイヤーに必要な条件は、まず“ふるさと愛や地域愛のある人”です。自分が生まれたところであろうと、現在ビジネスをしているところであろうと、地域に愛情をもっていることが大事です。2つ目が“利他的な考えを持つ人”です。儲かりそうだからという気持ちだけでプロジェクトに参加する人は長く続きません。そして3つ目が“新しいことにチャレンジしたいというファイトあふれる人”です。やはり挑戦しないと成果は得られません。高岡もこのような要素を持った人が商売抜きでプロジェクトを引っ張っています。まちづくりを通じて経験することは全て自分の肥やしになります。たとえそれが直接的にビジネスにつながらなくても、そこでの経験がその後のキャリアのなかで必ず役に立ちますし、人のつながりも活動のなかで生まれてきます。

 プレイヤーは宅建業者の場合もそうでない場合もありますが、地域の視点に立てば、地域のために果敢にチャレンジしてくれる方であれば誰でもいいわけです。私たちはそういった方々に寄り添い、挑戦できる環境を作って行くのが役目です。高岡支部の支部長として、地域に対する愛情や感謝の気持ちを持ちながら懸命に取り組んでいます。

 昔の人は「一人前の男は、“仕事とつとめ”をしなくてはならない」と言っていました。“仕事”は働いて家族を食べさせることですが、“つとめ”というのは地域や社会に対して奉仕することです。仕事だけできるのは半人前、つとめができて初めて一人前、と私は教わってきました。高岡を少しでも住みやすい社会にして、自分の孫や曾孫の代に引き継げるように努力したいと思います。

 空き家対策の活動に取り組みはじめたことで、行政や地域の生活者の方々とずいぶん距離が近くなったと感じますし、宅建士の地位も少しずつ向上しているように感じます。これからも「宅建協会の未来=会員企業の未来=地域の未来」のために、精力的に活動を展開していきたいと考えています。

 

※1 国立社会保障・人口問題研究所 2018年推計値

※2 総務省「H25年住宅・土地統計調査」

 

 

【事例紹介】重伝建地区※3の空き家活用事例

有限会社酢谷不動産 取締役社長     清水 悟 氏

山町筋(やまちょうすじ)の商業施設
「山町ヴァレー」

運営:㈱町衆高岡

 

 山町筋は高岡市の商業の中心地として栄えてきた町並みです。街道筋には多くの商家が建ち並び、高度成長期には繊維問屋が加わってさらに賑わいを増しました。しかし、昭和40年以降、生鮮市場や問屋の郊外移転とともに店舗数は大幅に減少してしまいました。

 文具商だった旧谷道(たにみち)家は、大正時代に山町筋の一つである現在の小馬出町(こうまだしまち)に店を構え、北陸初の木造3階建ての洋館建築と土蔵群を抱えていましたが、2012年頃から空き家になっていました。山町筋は2000年に重伝建地区に指定され、一帯には土蔵造りの町家やレンガ造りの洋風建築など、戦災を免れた建築物が多く残っています。高岡市も観光の拠点として道路等を整備したことから、地元の有志7人が“町衆高岡”という会社を立ち上げ、旧谷道家の利活用を検討するプロジェクトを始めました。

山町ヴァレーの外観

 プロジェクトの事業費は1億円以上かかっています。第3セクターの末広開発㈱が土地を借上げ、建物を取得し、2016年から約3年かけてリノベーションをしました。そして2018年に「山町ヴァレー」としてオープンし、高岡の町衆文化を発信する拠点を目指しています。建物の管理運営は末広開発が行い、町衆高岡はそこから委託を受け、テナントの誘致、イベント等の企画立案と実施を行います。

中庭と改修した蔵

 私は砺波(となみ)市の出身ですが、川原町にある叔父の会社を引き継ぎました。もともとまちづくりに興味があり機会があれば手伝いたいという思いから、5年前に町衆高岡に加わりました。現在ここには、高岡産ほうれん草を使ったラーメン店、高岡で消費の多い昆布の料理とクラフトビールの店、高岡の伝統産業の銅器着色を行う工房など8店舗が入っています。各店舗の業態は全て異なり、ビジネスオーナーはほとんどが高岡出身で、初めて商売にチャレンジする方ばかりです。テナントの半分は私がご紹介しましたが、その選択にあたって大事にしたのは、町衆文化の発信というコンセプトを共有し、山町筋を盛り上げてくれる事業者かどうかということでした。またこの地域は商業が中心で、昔から新しく商売を始める方を応援する風土があり、出店にあたっては事業計画や事業資金のアドバイスもしました。

 高岡市ではこの場所以外にもいくつか面白いプロジェクトがスタートしています。メンバーは皆近所に住む顔見知りの人です。これからは各プロジェクトをつなげていって高岡全体を盛り上げていきたいと思います。

 

※3 重要伝統的建造物群保存地区。市町村が条例等により決定した伝統的建造物群保存地区のうち、特に価値が高いものとして国が選定したものを指す。

 

 

【事例紹介】重伝建地区の空き家活用事例

三建住宅販売株式会社 代表取締役社長      坪田伊歩 氏

NPO法人       金屋町元気プロジェクト    事務局長       藤田正英 氏

金屋町の移住体験施設
「さまのこハウス」

運営:NPO法人金屋町元気プロジェクト

 

 金屋町は高岡市内では最も古いまちであり、地場産業である銅器やアルミ産業の基礎を築いた鋳物発祥の地として大いに栄えました。2012年には重伝建地区に選定され、さらに路面が整備されて、石畳の通りに面した建物は「さまのこ」といわれる千本格子を備え、風情のある街並みを形成しています。金屋町では住民が「金屋町まちづくり憲章」を定め、まちづくりに取り組んできました。また、地域の住民を中心として構成される“金屋町元気プロジェクト”は、観光化するのではなく定住促進を目的に、子育て世代やクリエーターが住みたくなるようなまちづくりを目指して活動をしています。

 「さまのこハウス」は築100年前後の建物で、空き家になって10年は経っていました。この家をリノベーションして移住体験施設として利用することにしたのは、金屋町での暮らしを体験することで、その魅力を知り移住を検討するきっかけにして欲しいとの思いから生まれたものです。また、これから空き家をリノベーションして住もうと検討する方のための、モデルルーム的な意味合いも兼ねています。

 施設は木造の2階建てで、富山大学の横山准教授に依頼して中庭を整備し、奥の建物の一部を新築しました。母屋は2階に客室2部屋、新館には洋室2部屋を設け、キッチン、トイレ、バスは共用です。また、母屋の入口すぐのところには若手作家の作品展示スペースがあり、中庭はバーベキューなどをしながら宿泊者が交流できるようにしています。改修費は4,500万円で、県・市の補助金と地元企業からの寄付を使い、不足部分はNPOが出資し、宿泊費で回収していく計画です。

 金屋町には毎年6月、前田利長公の命日に行う御印祭(ごいんさい)というお祭りがあります。1,000人以上が集まる大きなお祭りですが、その運営は地域の住民が行います。土地建物取得のためにNPO法人を作りましたが、もともと金屋町には、そのような組織がなくても地域の住民がひとつになって活動する土壌がありました。全国でも移住体験施設を1つの町内会が運営しているケースは珍しいと思います。嬉しいことに最近、一度まちを出ても、再びこのまちに戻ってくる人が年に何人か出てきました。

 

さまのこハウスの外観

金屋町の街並み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【事例紹介】防災まちづくりモデル地区

博労町の交流拠点「博労町まちかどサロン」

高岡市都市創造部    都市計画課都市再生係   主任       鷲田 潤 氏

高岡市空き家活用推進協議会事務局        東京工業大学 大学院   加納亮介 氏

博労町全自治会長    株式会社創計画研究所  代表取締役      川口 宏 氏

運営:博労町自治会

 

鷲田氏博労町で進めているのは高岡市の「まちなか再構築事業」で、2013年からスタートしています。高岡市は戦災を受けていない土地ということもあり、中心市街地のまちなか区域(約260ha)は非常に狭い道路や老朽木造住宅が多く、空き家も増え建物も密集していることから、災害に強いまちづくりを目指し、まちなか区域の再構築を進めています。まず、まちなか区域の中の博労地区を防災モデル地区に選定し、その中の8自治会をモデル自治会とし、まち歩きや住民によるワークショップを重ね、課題を抽出してまちづくりの目標設定をしました。その過程で専門知識を持つ人の知恵も必要なので、高岡市空き家活用推進協議会の酒井さんや真野准教授および研究室の学生と一緒に検討を進めました。まちづくりの目標を“多世代が安心・安全に暮らせて住みたくなるまちづくり”と定め、4つの方針を立てました。1つ目が地区レベルでの住環境の向上をはかること、2つ目がまちなかの土地や建物の流通を促進すること、3つ目が多世代が参加するコミュニティを作ること、4つ目が歴史や文化が結集したまちなみを保全・継承することです。

 その結果、2016年から少しずつ成果が出てきました。それが、2軒長屋の除却や火災報知器の設置、そして「博労町まちかどサロン」の整備などです。2018年度からは、狭い道路の拡張の方法についても話し合いをしていきたいと思っています。

 

博労町まちかどサロンの外観

博労地区まちづくり計画

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川口氏博労町は1960年には217世帯、人口980人の規模のまちでしたが、2014年には116世帯、人口270人と、世帯数は半減、人口は1/4にまで減ってしまいました。それに伴い空き家が増加し、コミュニティも衰退。そのような背景のなかでこの事業に取り組みました。

 高岡には国の重要有形民俗文化財・無形民俗文化財、ユネスコの無形文化財に登録された御車山祭(みくるまやままつり)があります。博労町は曳山巡行した7基の山車が全て入ってくるうえ、曳山を先導する母衣武者(ほろむしゃ)の甲冑一式を持っていたため、休憩所の確保や母衣を展示する場所の確保が必要ですが、それが年々難しくなりつつありました。さらに、点検まちあるきなどを通じてまちの課題を話し合った結果、「まちに集会場が必要ではないか」「緊急車両が通れない狭隘道路が多い」「緊急避難場所がない」という意見が出てきました。

 

御車山祭の曳山

母衣武者の展示

 そこで、まちの中心にある大正時代の建物で、長い間文房具屋と駄菓子屋をやっていた旧中村邸をサロンとして活用することにしました。しばらくは空き家となっていましたが、かつては子どもたちのたまり場として誰もが利用したことがある、住民の思い入れの深い場所です。サロンは、誰でも気軽に集まり会話が始まる場所にすることで希薄になりつつあるコミュニティを再構築すること、これから主役になる若い世代に自治会を受け継ぐきっかけにすること、歴史的な建物を住み継ぐことで、高岡の歴史を伝える場所にすることを目指しています。

 活用の方向性が決まった後は、2015年から自治会の旧役員が中心となり、まちかどサロンプロジェクトを発足し、青年、老人、子育てママ、女性のグループを作り、“従来型の公民館ではなく、誰もが気楽に集まれるしつらえにするには何が必要か”“ここで何をしたいのか”といった改修の方針や空間のコンセプト、完成後のサロンの使い方について、それぞれが月1~2回の頻度で話し合いをして幅広く意見を吸い上げました。最終的には会議は大小含め3年半で120回以上に及びました。

 改修前には大掃除会をやり、そこで出てきた物を蚤の市を開いて販売したり、大学生に協力してもらい夏休み子ども自習室を開いたりしました。また竣工間際には、親子で参加する漆喰塗りのワークショップなどを開くことで住民間の交流をさらに深めました。

 

市民によるワークショップ

エコバック作り教室や、漆喰で壁づくりをする親子によるワークショップを開催

完成後のサロンの様子

 改修のための総事業費は約1,940万円で、1,000万円は国と高岡市の補助金で賄いましたが、全てを行政に頼るのではなく地域もお金を出しました。博労町は公民館がなかったことから、その建設のために代々の自治会長が貯えてきた自治会預金500万円と、町内会の住民からの建設協力金、残りは企業からの協賛金を使ったのです。

 サロンは今年4月にオープンし、早速翌月には御車山祭の山宿として利用しました。さらに案内地図をリニューアルし、町建ての頃の町名や由来を記載したり、町名の由来となった馬の鞍をモチーフに、井波の彫刻師 南部白雲氏に看板を作成してもらいました。現在は毎週金・土・日の3日間の営業ですが、当初の狙い通り、世代の違う住民がここで会話をしたり、お嫁にいった人が“懐かしい”とたまに戻ってきてくれ、昔話に花を咲かせたりしています。

 

 

 

【事例紹介】まちなか空き家活用事例

「ほんまちの家」オーナー たかまち鑑定法人代表 (不動産鑑定士)   服部恵子 氏

町家体験ゲストハウス」
「ほんまちの家」

運営:高岡まちっこプロジェクトメンバー

管理人:加納亮介 氏

 

 高岡まちっこプロジェクトは高岡市商工会議所の有志のメンバーで構成され、空き家の活用、まちあるきツアーの企画などを通じて、高岡のまちなか区域に興味関心を持ってもらうきっかけづくりをしています。

 ほんまちの家は、プロジェクトメンバーの1人が大きな五右衛門風呂と蔵を残したいと思って購入したもので、耐震補強や水回りの整備を中心に改修工事を行いゲストハウスにしました。1階にリビング、2階に寝室が2部屋、水回りは建物の奥にあり、さらにその奥に建っている蔵を管理人室として利用しています。コンセプトは“町家が体験できる宿”。この地域に多く見られる狭小間口・長大奥行長屋の活用事例として注目されています。

 

ほんまちの家の外観

建物に隣接する蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

酒井 誠(さかい まこと) 氏

1955年富山県高岡市生まれ。1985に㈲ハウジングサカイを設立し、地域密着の不動産業を行う。2012年富山県宅建協会高岡支部支部長に就任。翌年に県協会が公益社団法人に移行することから支部でも公益性の高い事業に取組むため、就任の年に高岡市空き家活用推進協議会を設立、国交省の空き家管理基盤強化推進事業に選定される。2014年からは高岡市から博労地区まちづくり計画を受託し、市民が主体のまちづくりをテーマにオール宅建(高岡)で取り組んでいる。