住まい探しはハトマーク

株式会社大一不動産/栃木県大田原市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年10月>

 

お互いの価値観を認め、
「集合天才」の会社を目指す

各分野のプロがトータルで最適提案する 住環境創造企業

 

・プロパティマネジメントを事業の柱に

・栃木県で初めて賃貸管理業でISOを取得

・住環境創造企業を目指す

・専門性を磨き「集合天才」へ

・社会貢献は、“雇用”と“税金の支払い”

 


 

プロパティマネジメントを事業の柱に

─社長は異業種からこの業界に来られました。

 私は栃木県には縁もゆかりもなく、東京の大学を卒業してから大手都市銀行に入り、東京と大阪を舞台にビジネスをしていました。約25年前に家内の実家の不動産会社を立て直してほしいと依頼があり、この地で仕事をすることにしました。現在の事業の柱は、賃貸管理、建築、不動産売買、保険代理業ですが、当時は身内を含め社員は3名しかおらず、そのためどの仕事も人から習うのではなく全て独学で勉強しました。

 不動産業はお客様の大事な財産を扱っているために法令を遵守することは当然で、それ以上のことをしなければならないと思っていました。そのために、正しい情報を得たうえでの合意、つまりインフォームド・コンセントを大切にしました。例えば、売買の重要事項説明は売主にも同席してもらい2時間以上かけて行うため、私の関わる取引は時間がかかることで有名でしたが、買主にはとても喜ばれました。デメリットもちゃんと伝えることにし、アパートを建てたいという人がいてもその地域の空室率が高ければ断ることもありました。しかしその人は、別のハウスメーカーで建ててしまい、結局空室に困って、「やはりあなたの言った通りでした」と再度来られたのです。また、新築の依頼をもらった際に地盤を調べると軟弱であることがわかったので、鋼管杭を打たなければ責任が持てないと施主を説得しました。その結果、東日本大震災時の震度6強の地震に対し隣家は全壊しましたが、依頼物件は保険の補修範囲で済みました。今でもこの業界に入ったときの初心を忘れてはいけないと思っています。

 

─賃貸管理、建設、保険が事業の柱です。

 金融業界では、証券会社が売買の手数料で稼ぐのに対し、銀行は金利で稼ぎます。不動産業でもストックビジネスに着目していたところ、アメリカのプロパティマネジメントについて知る機会があり、これからは景気に左右されない管理業をビジネスの中心にすべきだと思い、その手法を学びました。オーナーの資産管理をしながら、その資産の最大化を図るビジネスに特化し、現在はオーナーの顧客が約400名、管理戸数は約5,500室になります。

 当時は社員がいなかったので、地図に物件をプロットし、名刺を3,000枚くらい刷って、全て1人で提案書を作り所有者にアタックしました。今でも7割は私が開拓したオーナーです。その後徐々に賃貸の斡旋や管理ができるようになったので、大手ハウスメーカーと付き合うようになりました。建築の原価管理をしてわかったことは、ハウスメーカーは値段が非常に高いということ。自社で施工すれば安くできるので、徹底的に自由度が高い間取りを作れば彼らに勝てると思いました。

 約10年ほど前から保険の斡旋を始めたのも、保険に入ってもらいたいからではなく、日本人は88%の人が生命保険に入っているのに対し、誰も自分の保険の内容を十分理解していないことに気付いたからです。多くの人は保険料を固定費として見ていますが、保険は見直したら安くなりますし、団体信用生命保険に代わる商品もあります。新たに住宅を購入したり賃貸に住む場合、ローンや家賃を試算しますが、そのタイミングで保証内容の整理と保険の見直しを一緒にアドバイスすると、仕事の中で自然と契約がとれるようになりました。契約件数は累計で7,000件を超え、「ライフサロン」という相談窓口も構えました。

 

 

栃木県で初めて賃貸管理業でISOを取得

─賃貸管理業務においてISO9001認証※1を取得した理由を教えてください。

 ISOは製造業から始まった国際基準です。当社が2004年に品質マネジメント部門でISOを取得したのは、製造業にならい、どのお客様に対しても同じシステムで対応できるように、同じ段取りを踏まえた業務のルールを作り、それを守っていこうと考えたからです。お客様からクレームの電話があった場合に優先順位をつけ、どこにつないで、何時間以内に対応をするなど、部署ごとにマニュアルを作り、見える化をしていきました。ただ、その内容はあくまで当社が“お客様起点”で行ってきた会社のルールをISOの仕組みに乗せただけで、ISO用の特別なルールを作ったわけではありません。

 ISOを取得する過程で、社員の中には自分たちが苦労して作り上げたという自負心が育ちましたし、取得後に入社した社員はこんなにしっかりした業界なんだと認識を新たに持ってくれて、皆の意識が変わりました。しかし、その後15年近く経ち、ISOの考え方も収益力向上のほうに舵を切ったように感じますし、不動産業はサービス業ですので決められたことをそのまま守っていればいいわけではありません。さらに“お客様目線”に立ち、常にサービスを進化させていくことが大事だと思い、これからは自分たち方式で顧客の満足を高めようと、一度休むことにしました。ただ、建築業の方ではCO2の排出を規制する環境のISOは引き続き取得しています。

 

 

住環境創造企業を目指す

─新しい方向性を象徴しているのがDIです。マークに込められた思いを聞かせてください。

DIグループのスタッフが大切にしている言葉

 当社でもコーポレートアイデンティティーを作ろうと思い、DIというロゴマークを創りました。DIというのは当社名のDAIICHIのDAIとICHIの頭文字ですが、「であい」と読めます。そこで、出会った後はどこに向かうべきかということを考えました。そして浮かんだのが、dreamとimpression、つまり“夢”と“感動”です。そこから私たちは、“出逢いから始めて夢と感動に向かおう”、そのために“一つの出逢いを大切にしよう”ということを企業のモットーにしました。2005年には建設会社をM&Aで傘下に入れ、㈱大一不動産、大一 建設 ㈱、 ㈱DI・SANWA CORPORATIONをDIグループとし、ブランドを統一するために社章(バッジ)や揃いのTシャツ、スタジアムジャンパーを作りました。

 

─「お客様目線」で取り組んでいることを教えてください。

 25年前に当社を任されたときから、お客様の住環境やライフプランに対してワンストップでサービスを提供する企業を目指したいと思っていました。総合病院では、内科、外科、小児科等の医者がいて、患者に何かあれば全ての部門の医師が専門分野の技術を総動員して対応します。同様に、お客様の要望に対して不動産、建築、保険のプロフェッショナルが、その方のためにトータルでカスタマイズした最適な提案ができるようにしたいと思っています。

 お客様の満足を高めるために実践していることもいくつかあります。まず、恒常的に実施しているお客様アンケートです。入居者はもちろん、オーナーにも管理内容について聞きます。結果は社員全員で共有しますが、“大変不満”と回答してくれる場合は逆に満足に持って行きやすく、むしろ“普通”と回答する人に注意が必要です。

 また、営業・管理・建築部門で横断的にチームを作り、クレームがあった場合やオーナーの所へは極力チームの人間が複数で行くようにしています。複数で行った方が相手は“大事にされている”と感じ、喜びが倍になりますし、1人だとトラブルの責任を抱えたり、自分にとって都合のいい報告をしがちです。複数で行くとコストが倍になるとよくいわれますが、私は人をコストと思っていません。人は武器です。複数で行くことで先方は愛情を持ってくれます。

 入居者のトラブルを防ぐために、期間を決めて設備の事前点検もしています。グループには建設部門があるので、不具合があればグループの人間がすぐ直しに行けることも強みです。さらに、入居者から緊急の連絡がある場合は、外部委託のコールセンターではなく、自社で直接電話を受けられるようにしています。ただ、それが社員の負担になってしまってはまずいので、そのサービスは契約者だけに伝えています。

 

─人間力で課題を解決されています。

社員・お客様・地域の人との様々な交流

 今後、作業系の業務はAIの技術で補っていくことになると思いますが、プロジェクト系は難しいと思います。IT技術は当社も積極的に活用していくつもりですが、あくまでツールです。やはりお客様の要望に応え、喜んでもらえるようになるには人の対応が必要で、しかもそれなりの教養をもった人間でなければなりません。プロとしての専門知識は当然必要ですが、お客様は一般教養がある人に奥深さや魅力を感じます。私はお客様と接する時は、事前に先方の専門分野を調べ、「先生、これはどういうことなんですか?」と聞くようにします。すると出会いが1回で終わらず、その方との関係性が継続します。人が一生に出会える人数は限られますので、出会いを大事にしていきたいと思います。やはり企業は人が財産です。社員の人間力を高めていくことが大切です。

 

 

専門性を磨き「集合天才」へ

─お客様と同様に、社員を大切にする経営をされています。

 経営者として、サラリーマン時代を経験したことがとても役に立っています。銀行では非常に厳しい支店長の下で働いていました。最初の支店長はTQC※2という総合的品質管理の手法を銀行業界にとり入れた方であり、PDCAという考え方も教えてもらいました。次の支店長は、その支店を日本一にした方で、その方に私はいつも叱られていました。怒られていた理由は「お前はなんでもっとやらないんだ」「お前はもっとできるだろう」というもので、支店長はいつも私に関心を持ち、私に期待してくれていたのでした。

 私はいつも怒られていましたが、よく飲みにも連れて行ってもらいました。なぜ仲が良かったのかというと、お互いの価値観を共有できていたからなのです。経営の中で最も重要なポイントは社員との価値観の共有です。最近では多様性という言葉を使いますが、その人の価値観を認め、いろいろな価値観をもった人間がいるから会社が成り立っていると認識することが重要です。野球でエースのピッチャーになる人もいれば、レギュラーになれなくても、スコアラーとしてチーム分析をする側に回り活躍する人もいるように、それぞれの人の価値観を理解しているのが組織のトップです。社員は“自分は組織のためにこれができるのではないか”と思うことができれば、必然的に一生懸命やってくれるようになります。そして各人が“組織のために役に立っている”と実感が持てれば個人の自信にもつながります。

店舗内のディスプレイ

 “人”という字にあるように、夫婦でも男性は女性に支えられていて、奥さんがいなければ何もできません。会社の経営も同様で、社員がいなければ私1人では何もできません。社員に対しても“あなたに出逢えてよかった”という気持ちで接することが大切です。

 私が目指すのは「集合天才」です。ゼネラル・エレクトリック社のこの言葉を知った時、これだ!と思いました。「集合天才」とは、“各々の専門分野において長けている状況を作れば、一個の天才をも凌ぐ存在を作り出すことができる”ということです。やはり10人いれば10の違う能力があり、価値あるものを世に送り出すためには、1人ひとりは普通でも、お互いが協力し、各々の能力を生かすことができる組織であることが大切です。

 

─社員にも夢と感動が必要ということですね。

 私は仕事が楽しいと思ったことがありません(笑)。楽しいのではなく、お客様から「ありがとう」と言われた時の嬉しさや感動を求めて仕事をしています。「小板橋さんに会ったおかげで人生が開けた」と言ってくれる人がいるのです。私にはそれが全てで、自分の知識と知恵をお客様に提供し、喜んでもらい、しかもお金をいただけるなんて最高です。感動したことのない人間は人を感動させることはできません。お客様に対しては顧客満足よりさらに上の“感動”を提供したいと思っていますし、頑張っている人間が喜べる組織を作り、ラグビーのOne for all, All for one(1人はみんなのために、みんなは1人のために)という気持ちが持てる会社にしたいと思っています。

 

 

社会貢献は、“雇用”と“税金の支払い”

─地域貢献事業にも積極的に取り組んでいます。

 大田原市の人口は7万4,000人ですが、毎年400~500人減少しています。地域を盛り上げていくために、農泊体験や農業体験を通じて移住定住の促進を支援する㈱大田原ツーリズムと合同会社を作り、那珂川町で歴史的建造物に指定された古民家を再生し、国内の観光客を呼び込む取り組みをしています。また空き家対策としては、㈱大田原まちづくりカンパニーの取締役としても活動しています。さらに、NPO法人大田原市移住定住サポートセンターの理事として、大田原市は東京から新幹線を使えば70分程で来られる非常に便利な所だということを、都内の説明会でPRをしています。

 また、那須ブラーゼンというプロのサイクリングチームのスポンサーになりました。サイクリングは環境や健康にもいいので、いずれは広島県のさざなみ海道のようなサイクリングロードを那須から日光まで引きたいという夢を持っています。

 2009年の消費者庁の発足がきっかけとなり設立された、全国環境改善事業協同組合の理事長も務めています。当初はアレルギーやシックハウス症候群、化学物質過敏症など環境由来の健康問題にも取り組んでいましたが、状況がだいぶ改善されてきたので、最近はクリーンエネルギーや省エネルギーの分野に比重をシフトしています。

 

─自社でも地域との交流の機会を作っています。

企画イベント「親子で学ぶお金の仕組み」

 夏休み特別企画として、2017年から、小中学生とその親子を対象にした「親子で学ぶお金の仕組み」というイベントを開催しています。財務省職員の方を講師に招き、ブロックチェーンや為替などをテーマにして、金融や経済の仕組みを学ぶきっかけを作っています。インターネットのおかげで全国どこにいてもビジネスに取り組めるようになりました。地元を離れて東京や海外の大学で学んだあと、空気のいい地元に戻り起業する子どもが増えればいいなと思っています。

DI感謝祭り

 また5年前から毎年秋分の日に「DI祭り」という地域感謝祭を自社の敷地内でやっています。これは当社と取引のあるお客様だけではなく、地域の皆さんにも来てもらっており、今年の参加者は1,200名を超えました。上棟式のやぐらを組んでお菓子をまいたり、「与一の里・大田原」の伝承文化として発足した与一子ども太鼓の演奏があったり、子ども木工教室を開いたり、社員も地域の人と一緒に楽しみます。私も子どもの頃、お神輿を担いだり、山車を引いてお菓子をもらったことが良い思い出として記憶の中に残っています。親子教室と同様、大きくなって子どもの頃の楽しかったことを思い出し、故郷に帰ってこようかなと思うきっかけになればいいと思っています。

 

─障がい者雇用の問題にも取り組んでいます。

 2年前に精神障がい者を対象にした(一社)社会福祉総合支援協会を立ち上げ、アスミル大田原という就労移行支援事務所を開設しました。ある日、東京の有名大学を出て、市役所に二十数年勤めた方が当社に再就職されました。しかし、その方は初日に出社したきりで、次の日からは毎日“行けません”と電話が入り結局半年後に退社されました。その人の知り合いに聞くと、とても「真面目」な方で、長年勤めた市役所でいろいろあって精神の病を患ったとのことでした。その時に、“こんな不幸なことはない。真面目な人間がおかしくなる社会は駄目だ”と思ったのです。そこで仲間たちと会社を立ち上げ、精神障がい者の就労支援をすることにしました。施設には現在17名いますが、人と付き合うことは上手くできなくても、能力が非常に高い人ばかりです。ある本に、障がいを持つ人が日本からアメリカに行くと救われる人が多い、と書いてありました。アメリカの良いところは多様性に寛容なところです。日本は画一的な考え方を好み、集合天才を生みにくい状況があります。障がいを持つ人が周りの空気を読めなかったとしても、そういうものだから仕方がないと周りの人が思えるかどうかだけのことなのです。私はその人の状況を理解し、能力を引き出せる組織を作れば、精神に障がいを持つ人も社会で光ることができると確信していますし、それを証明したいと思っています。

 2018年4月から障がい者の法定雇用率が2.2%になり、対象も従業員数が45.5人まで広がります。雇用すると大変なので、罰金を払い採用しないという選択をする企業もたくさんあります。問われるのは、どちらを選択する企業になるかということです。

 障がい者の問題は福祉や行政に任せればいいという人がいます。私は社会貢献には“雇用”と“税金の支払い”の2つがあると思います。障がい者にただお金を出すのではなく、ビジネスをさせないといけないと思っています。働くということは税金を払うことです。そのことが誇りだと思えるような世界に、彼らの居場所を作ってあげることがとても大事なことだと思います。

 


 

小板橋博幸(こいたばし ひろゆき) 氏

1963年高崎市生まれ。幼稚園は宇都宮。1970年より東京で育つ。東京の大学を卒業後、三和銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行し、融資業務、渉外業務を担当。1993年、義理の父が営む㈱大一不動産を立て直すため入社。当時は珍しかった賃貸管理業へ本格的に取り組み、人口74,000人の地域で約5,500室を管理(2019年3月現在)。現在、不動産賃貸管理、売買、分譲、リフォーム、生保、損保、住宅建築・一般建築(店舗、病院等)総合不動産・建設業を営んでいる。その傍ら、地域活性化のため、NPO法人大田原市移住定住サポートセンターの理事、㈱大田原市まちづくりカンパニー取締役を務めている。

 

 

株式会社大一不動産

代表者:小板橋 博幸
所在地:栃木県大田原市紫塚1丁目14-13
電 話:0287-22-5119
H P:http://www.e-di.com/
業務内容:大田原市、那須塩原市を中心に、不動産賃貸管理・仲介、不動産売買・分譲・仲介、不動産コンサルティング、生命保険の募集に関する業務を展開する。また、大一建設㈱、㈱DI・SANWA CORPORATIONのDIグループで、顧客に対してトータルカスタマイズの最適提案を行う。