株式会社オークハウス/東京都渋谷区

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年10月>

 

住まいを通じて「楽しみ、喜び、
成長する」機会を提供する

顧客志向で賃貸住宅のサービス化を目指す

 

・シェアハウスを“ソーシャルな場”にする

・ターゲットを明確にし、顧客志向のサービスを提供する

・シェアハウスの管理のノウハウを商品化し、新たな投資を呼び込む

・「株式会社銀河」 インバウンド賃貸経営のプラットフォームで不動産市場を活性化する

 


 

シェアハウスを“ソーシャルな場”にする

─日本ではシェアハウスはどのような変遷を経て広まってきたのでしょうか?

 1990年代の日本には、一部の高級賃貸物件を除いて、働く外国人が借りられるアパートはほとんどありませんでした。そのため、長く日本に滞在していた人が中心になり、複数で大きな戸建てを借りて住んでおり、「外人ハウス」などと呼ばれていました。その後「外人ハウス」や長期滞在が可能な安宿の「ゲストハウス」に、留学経験のある学生やバックパッカーとして世界を旅してきた日本人が、帰国後も外国人と交流したい、語学をよりブラッシュアップしたい等の理由で徐々に好んで住むようになりました。そのような物件からインターネットなどを通じて面白い文化が発信されるようになり、2000年代に入り「シェアハウス」として広まるようになりました。

 しかし、当初のシェアハウスには“入居者がルールを守らない”“家賃は安いがメンテナンスがあまり行き届いていない古い物件”というマイナス評価もありました。そのようななかで、入居者の募集、運営管理や建物管理などを総合的にサービスする業者が少しずつ現れ、マイナス部分を解消したことで利用者が増えていきました。当社は1992年の設立ですが、そのきっかけは、現会長の山中が当時所有していた不動産のうち、都内の古い戸建てをたまたま外国人に貸したことでした。彼らは自分たちで建物を改装して1階に住み、2階は転貸して入居者を募ることで、住居費ゼロで東京の暮らしを手に入れていました。それを見て“これはビジネスになる”と考えて起業したのです。その意味で当社はシェアハウスの草分け的存在で、現在の管理戸数は約7,000室と、業界NO.1の戸数になりました。

 

─御社のシェアハウスはどのように貸しているのですか? その特徴も教えてください。

 シェアハウスの開業にあたっては、まず不動産のオーナーに対し現地調査を行い、シェアハウスへの適正を判断し、収支計画や最適な設計プラン等を提案します。契約形態は、当社が10~15年という比較的長い期間で一括して借り上げ、入居者にはサブリースの形態で当社が貸主となり、最長6カ月の定期借家契約で貸し出します。シェアハウスへリノベーションする費用はオーナー負担で行いますが、当社が工事の施工・監理から、集客、客付け、入居者・施設管理まで一貫して行います。

 シェアハウスは、自室とは別に複数の入居者が共同利用できる共有スペースを持った賃貸住宅のことです。共有スペースには通常、キッチンやシャワー、浴室、トイレなどの水回りのほか、入居者が交流できるラウンジがあります。当社の物件は、企業の社宅や寮として使っていた物件を用途変更したものが多いため、都心まで30分以内で通えるところが多く、共有スペースも広くとれます。例えばソーシャルレジデンスたまプラーザでは、“ホテルのように快適に過ごせる空間作り”をコンセプトに、社員食堂をカフェ調のラウンジにして80インチテレビを置いたり、ボイラー室を大型スクリーンのあるシアタールームに、倉庫をシガーバーに、厨房を皆で一緒にご飯が作れる本格的なキッチンにリノベーションしました。ソーシャルレジデンス西葛西では、丸の内・大手町勤務の入居者が多いことを見込んでライブラリーやダンス・ヨガ・ピラティスなどができるマルチスタジオを設けたり、ソーシャルレジデンス東小金井には野外コートがあり、フットサルやテニス、バスケットボールが楽しめます。このように通常の一人暮らしでは手に入れられない設備を充実させながら、シングルルームの平均賃料は周辺家賃相場並みの5~6万円+共益費1.2~1.5万円に設定しています。

 

「ソーシャルレジデンスたまプラーザ」のラウンジ

シアタールーム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─そこでどのようなサービスを提供しているのですか?

「ソーシャルレジデンス西葛西」のライブラリー

 シェアハウスでは、国籍も職業も学歴も関係ありません。人との出会いを通じて人間力を磨くことができます。そこで、創業25年を迎えたタイミングで、シェアハウスをただ“住む場所”ということではなく、“交流したり、共有することが魅力で、入居者が学び、成長をする機会を提供する場”、つまり“ソーシャルな場”として再定義しました。そして、「ソーシャルアプリ」「ソーシャルアクティビティ」「ソーシャルオフィス」の機能をもつ物件を「ソーシャルレジデンス」と呼ぶようにしました。

 ソーシャルレジデンスで行われる“おもしろい・たのしい・ためになる”、そして“共有し成長できる”イベントや勉強会、ワークショップなどのことを「ソーシャルアプリ」、入居者が行うボランティアやドネーションなどの地域活動のことを「 ソーシャルアクティビティ」、職住一体型でSOHOとして利用するフリーランスの人たちが集まり、そこから創出されるビジネスをサポートする場を「ソーシャルオフィス」と呼んでいます。

「ソーシャルレジデンス東小金井」の屋外コートでのアクティビティ

 そのような活動を行うには、場所の確保、告知や集客、当日の運用や手配など手間がかかり、思いついても断念してしまうことが多いのですが、当社のスタッフが実現に向けてサポートをします。入居者にはシェフ、ネイリスト、絵の先生、ヨガのインストラクターなど多様な能力を持つ人がたくさんいます。その人たちが自分の特技を生かして教室やワークショップを開くためのお手伝いをします。また、物件毎のイベントも当社の管理スタッフであるハウスマネージャーが企画し運営します。お花見やクリスマスパーティなどの季節の催しはもちろん、物件間の人のつながりをつくるためにインターナショナルパーティを開いたり、物件対抗のフットサル大会なども企画します。ソーシャルレジデンス蒲田では、“蒲フェス”といって全入居者が参加しバンドを組み、屋台を出すなど、まさに学園祭のようなイベントが年4回開かれます。当社では、シェアハウスの醍醐味の一つであるコミュニケーションや交流の機会を、入居者や他の業者に任せるのではなく、当社のスタッフ自身がマネージメントしているところが大きな特長です。

 

 

ターゲットを明確にし、顧客志向のサービスを提供する

─入居者の視点に立ったサービスを提供しています。

図1/ポジショニングマップ

 マーケティングをするうえで、市場の中でのポジショニングを明確にしています。図1のポジショニングマップで示すように、縦軸に賃料、横軸に契約期間をおいた場合、当社の位置づけは2年未満という短期滞在の外国人の賃貸市場が主なターゲットになります。昔はそこには、ホテルの長期滞在かサービスアパートメントしかありませんでした。実際に利用者を分析すると、これまでに延べ93カ国の外国人が利用し、その割合は42%でその内59%がアジア人です。職業は会社員の比率は55%で、残りはフリーランス、学生、アーティストといった人たちです。女性は44%で、年齢は54%が20代、33%が30代です。このように入居者のターゲットを明確にし、その層に支持されるようにサービス内容を徹底的に磨きました。特徴的なものをいくつか紹介します。

 

●「おもしろい・たのしい・ためになる」コミュニティ

 当社の経営理念は、“住まいを通じて楽しみ、喜び、成長する機会を提供すること”です。

 入居者はここで暮らすのが楽しいから、友人を連れてきて一緒にイベントに参加します。するとその友人がSNSで楽しさを拡散してくれます。そのため広告費をかけなくても入居希望者が集まります。

物件毎にいろいろなイベントが行われている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初期費用は初月契約料のみ

 当社の物件は全て「敷金・礼金・仲介手数料が0」「連帯保証人・家賃保証会社が不要」「家具・家電付き」「契約料は初回のみ」「インターネット使用料0」「物件間の移動もOK」「最短1カ月から契約可能」「人種・性別・国籍・職業・収入による制限なし」となっています。そのため短期滞在の外国人はスーツケース一つで住むことができ、初期費用もかからない合理的な仕組みにしています。また、「スマート会員制度」という保証金を預けてもらうと毎月の家賃が最大で4万円割引されるディスカウントプログラムも始めました。日本の賃貸市場は今までは貸し手優位の契約でしたが、これからは古い既存の仕組みを変え、入居者目線でサービスを考え、新たな顧客を創造する時代になってきたと思います。

 

●オークワーカー制度

 入居者の募集は全て自社サイトのみで行っており、海外からも含めると反響数は毎月2,000~3,000件程度あります。平均稼働率が約95%で、空室は毎月300~400件ですが、部屋が足りない状態です。自社サイトでは動画や写真をたくさん掲載し、どんな人が住み、どんなイベントが行われているか、この物件に住むとどんな暮らしができるのかが伝わるようにしています。また、外国人が日本の賃貸に住みにくい理由の一つに、外国から家を探せないことがありますが、当社の場合、入居希望者の60%が下見をせず、海外からWebで直接申し込みをしています。そのため、自社でコールセンターを設け、5言語で対応し、海外からの問い合わせに対してしっかりとコミュニケーションがとれるようにしています。このように当社は、短期滞在の外国人が来日する際の窓口的な存在になっています。

 また、当社の入居者の15%が紹介です。海外に住むとなるとやはり不安ですので、口コミが重要になります。そこで「オークワーカー」という制度を設けました。文字通り入居者が当社と一緒に仕事をするサービスのことです。入居者がSNSやブログを書いたり、「オークメモリーズ」という当社のサイト内のコーナーに感動した場面の写真などを投稿することで、物件のPRをしたり、入居者の紹介があった場合にPAO※1というポイントを付与します。また、料理教室や英会話教室を開くなど自分のスキルを使って物件のコミュニティの活性化に寄与してくれた場合にもポイントが付き、家賃に充当することができます。入居者の中には獲得したポイントで全ての家賃を賄っている外国人もいます(笑)。

 

●自社スタッフによる直接管理

 当社ではスタッフ1人当たり約170室を管理していますが、100室以上ある規模の大きい物件はハウスマネージャーが常駐管理します。全員がバイリンガルで、入居者との交流を楽しいと感じる、ホスピタリティにあふれる人間を採用しています。当然日常の入居者トラブルの対応はありますが、彼らには物件運営のために大きな裁量権を与えています。入居者の案内、面談、審査、契約、入居者管理、施設管理、イベント運営、家賃回収など全て彼らが行います。ハウスマネージャーには異動がありますが、人気のマネージャーが異動する際は、入居者が一緒に物件を移ることもよくあります。

 連帯保証人がいなくて大丈夫か?とよく言われますが、家賃は99.9%回収できています。入居審査においては、まず、両親か会社に連絡して本人確認をします。さらに約1時間かけて直接面談をし、物件のルールを説明します。人種・国籍・年齢といった属性ではなくルールを守れる人物かどうかが入居審査の主な判断基準です。家賃の督促はマネージャーが毎月必ず全員に直接電話で行います。これもコミュニケーションの一環で、こうすることで未回収はほとんど起こりません。

 

─まさにサービス業としての賃貸事業を展開されています。

ソーシャルレジデンス(パンフレット抜粋)

 当社では、口コミを増やしたり、入居者が広告を出す仕組みを取り入れるなどしてマーケティングコストを最小化する一方で、物件内のコミュニケーションを充実させるという部分に大きなコストをかけています。

 一般的な賃貸事業は建物を建てて貸しているだけですので、一次産業的です。それに対して、当社はそこに高い付加価値をつけた三次産業のサービス業であり、サービスを売っている発想で賃貸事業を展開しています。

 そして、その対価としてソーシャルレジデンスの入居者には高いお金を払っていただいています。一般の賃料相場と比較するとグロス賃料は同等の水準ですが、ソーシャルレジデンスは㎡単価でみると相場の130%から153%になります。ハード面からみると単なる風呂・トイレ共同の1Rマンションですが、交流と共有の機会をつくり、“人と出会う楽しさ”や“成長できる喜び”を味わえるという付加価値を賃料に反映しています。

 

 

シェアハウスの管理のノウハウを商品化し、新たな投資を呼び込む

─今までにない住まい方ができる物件も展開しています。

 「オークアパートメント」は、サービスアパートメントの領域のマンスリーマンションのことです。シェアハウスと同様に、初期費用は初月の契約料のみで、敷金・礼金・仲介手数料無料、連帯保証人不要、家具・家電付き、インターネット利用料込みで1カ月から利用可能です。違う点は、自室にキッチン、浴室(シャワー)、トイレが完備された賃貸住宅ということです。入居者の中にはソーシャルレジデンスのようなイベントは特に必要がないと思っている人も2割くらいいます。物件の管理はコミュニティ管理の部分が少し薄いだけでほかは一緒です。その意味で入居者にとってはコンシェルジュ付きアパートのようなものかもしれません。

 また、西麻布や学芸大学のように都心立地にあり、設備や内装面でワンランク上の「グラン」というシェアハウスも始めました。さらに、最近は企業と法人契約をするケースも増えてきました。当社のシェアハウスなら新たに雇用する複数の外国人を1カ所に入居させることができ、コミュニケーションの面でも安心です。2018年には入管法の改正もあり、今後この需要はさらに増えると思います。

 

※1 オークハウスが発行するポイントの総称。1PAO=1円換算で割引等に適用ができる。因みに入居者を紹介すると10,000PAOがゲットできる。

 

「株式会社銀河」

インバウンド賃貸経営のプラットフォームで
不動産市場を活性化する

 オークハウスで蓄積した賃貸物件の運営管理ノウハウを生かし、インバウンド賃貸経営のプラットフォームを作る予定です。日本の賃貸市場には約2,280万戸のストックがあり、空き家率は約18%※2です。その一方で、新築の賃貸住宅は年間約40万戸※3建てられています。

 銀河は、オークハウスが外国人向けに運営してきた独自の賃貸方法を用い、外国人向け賃貸住宅やコミュニティ付き賃貸住宅をビジネスパートナーと共に全国で運営していくことを目的として活動しています。

 不動産会社向けには、賃貸を希望する外国人の募集と外国語での問い合わせの対応業務、そして外国人向け賃貸管理ノウハウをパッケージ化し、空室対策の一つの手段として提供していきます。

 また、建設会社向けには、コミュニティの付いた短期滞在型の大型賃貸マンション「ソーシャルレジデンスアカデミア」の企画運営パッケージを提供し、ビジネスパートナーと共に大都市に増やしていく予定です。

 

※2 「2013年住宅土地統計調査」総務省

※3 2017年「建築着工統計」国交省


代表者:海老原 大介

所在地:東京都渋谷区3-3-2 渋谷MKビル5F

電 話:03-5468-1756

 


 

海老原大介(えびはら だいすけ) 氏

1977年生まれ。大学卒業後、広告代理店での勤務を経て2007年に株式会社オークハウスに入社。入居者管理業務を経験した後、事業開発部長としてシェアハウス開発を担当。その後、営業部長として5,000人の入居者管理を統括。現在は営業本部長を務め、企画・設計から入居者管理までの全行程を行った経験を生かし、新規事業である外国人向けの賃貸経営プランの販売と入居者向け営業業務に邁進中。インバウンド賃貸経営のプラットフォームを提供する株式会社銀河の代表取締役を兼任。

 

 

 

株式会社オークハウス

代表者:山中 広機
所在地:東京都渋谷区渋谷3-3-2 渋谷MKビル5F
電 話:03-6452-6961
H P:https://www.oakhouse.jp/
業務内容:外国人および帰国日本人のためのハウスビジネスを開始し、その後、企業の独身寮や中古マンションなどを借り上げて改装し、シェアハウスとして賃貸する。最近は物件の特性やユーザーニーズに合わせ、ホテルやホステル、サービスアパートメント、マンスリー賃貸などを展開している。