株式会社ルーヴィス/神奈川県横浜市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年10月>

 

「カリアゲ」で
築古の空き家を流動化させる

オーナーが次のステップを踏むための橋渡しを

 

・古い空き家で困っているオーナーを助けたい

・「カリアゲ」は、空き家オーナーが次のステップを踏むための橋渡し

・「カリアゲ」でエリアの活性化につなげる

・リスクを共有し、オーナーと一緒に賃貸経営を考える

 


 

古い空き家で困っているオーナーを助けたい

─不動産会社を始めた経緯を教えてください。

 実家は横浜駅西口で60年近く営業している賃貸管理が中心の不動産会社ですが、取り扱う物件のなかには、駅から徒歩圏内でも空室が結構あり、家賃を下げても、リフォームしても決まらないという状況がありました。築年の古い物件は、多分そういう方法では解決しないし、オーナー自身の収益も下がってしまうので、もう一度再投資して生まれ変わらせるようなやり方をしていかないと厳しいのではないかと思っていました。以前にアンティーク家具のインテリアショップで働き、古い家具を輸入してレストアすると価値が出て高く売れる経験をしていたので、不動産でもそのようなことができないかなと思っていました。ただ、実家も古い会社でしたし、オーナーも年配の方が多く、やり方を変えることに抵抗があったりスピード感に違いを感じ、独立して2005年に会社を設立しました。

 起業当時はまだリノベーションという言葉もなく、建物の改修をするために工務店と打ち合わせをしてもコスト構造がわからなかったり、こちらの意図を上手に伝えきれなかったりしました。そこで、もっと建築の知識を深めないと住みたい家を造ることは難しいと思い、不動産会社ではなく工務店として独立しました。しかし、経験のない工務店に仕事が来るはずもなく、まずはどうしたら現場を知ることができるかを考えて、工務店の下請け職人としてハウスクリーニングの仕事をすることにしました。1年半で400件もの仕事を受けることができましたが、あるとき金融機関からお金を借りないかと言われたので、新宿御苑の区分所有のマンションを購入し、設計事務所に頼んで職人と一緒にリノベーションをしたのです。その事例をもとに不動産会社を回ると、徐々にリノベーションの仕事が増えてきました。そこで、これからはリノベーションを事業の柱にして元請けになろうと決め、ハウスクリーニングの仕事はやめました。

 

─「カリアゲ」の仕組みを発想した背景を教えてください。

 平成25年の住宅土地統計調査において、全国に空き家が820万戸あり、空き家率が13.5%と発表されたとき、東京や神奈川といった都市部は、空き家率は低くても、空き家の絶対総数が集中していることに気付きました。またそのニュースを聞いて、“自分がもともとやりたかったのは、空き家で困っている人を助けたかったからではなかったか”と原点に立ち戻り、自分の立ち位置を確認したのです。

 既にそれまでの約13年間で、800件を超えるリノベーションの設計・施工の仕事を手掛けていたので、古い物件をどんなふうにすれば入居者の期待に沿うようにできるかというノウハウの蓄積ができていました。そのノウハウを生かしてボロボロの家でも収益化できる仕組みが提供できれば喜んでくれるオーナーも増えるだろうと、事業を考え始めました。

 

 

「カリアゲ」は、空き家オーナーが次のステップを踏むための橋渡し

─「カリアゲ」の仕組みについて教えてください。

 「カリアゲ」は空き家を流動化することを目的にし、当社がオーナーから空き家を借り上げる仕組みです。借り上げる物件の条件は、東京都か神奈川県に立地し、築30年以上であり、かつ1年以上空き家になっている物件です。空き家のオーナーとは原則6年間の定期借家契約を結び、周辺家賃相場の10%で借上げます。それを、当社が周辺賃料の42カ月分を上限に改修工事を施した上で賃貸をし、入居者募集から満室保証、滞納保証、入居手続き代行まで行います。その後も、24時間トラブル対応や設備のメンテナンス、退去の手続きまで全て当社がやりますのでオーナーは安心です。さらに7年目以降も、オーナーの希望があれば、引き続き当社が管理運営をし、それまでの賃料の75%で満室・滞納保証をします。また、満室・滞納保証が不要の場合、賃料の5%の代行料で物件管理(賃料集金、クレーム処理)も行います。

 この仕組みは2016年1月から始め、約3年で19棟、46室の実績となりました。第1号は私の親族の物件でしたが、運よくテレビ東京の番組“ワールドビジネスサテライト”で紹介されるなどしたことから、今でもまったく営業をしない状態で年間80~100件の問い合わせがあります。オーナーは50~60代の方がほとんどで、金銭的に困っている人はあまりいません。物件は、親から家を相続したけれど自分たちは住む気がなく、かといって処分するのも忍びないということで、活用方法もわからないまま10年、15年と空き家の状態で放置してしまった、という場合が多いです。また、賃貸マンションの一部や、貸しビル1棟という物件もありますし、底地を所有していて建物が戻ってきてしまったという地主や、法人がオーナーという場合も結構あります。このような物件は、10年以上もまったく手を入れていないので、これまでやっていたリノベーションのやり方では流動化できないだろうと思いました。そこで、改修費用を当社が負担し、その間家賃は相場の1割しか払いませんが、人が住める状態にして、それまで1円の収益も生まなかった物件を月数万円の家賃が入る状態で、6年後にオーナーにお返しするという仕組みを考えたのです。私たちは何もその建物を100年持つようにしようと思っているわけではなく、返却後にはオーナーが建て替えてもいいと思います。ただ、空き家をそのままにしておけば放火されるかもしれないですし、柱がシロアリにやられたら倒壊の危険もあります。そうするとその建物は外部不経済を起こし、地域全体に悪影響を及ぼします。「カリアゲ」は、10年を一つのスパンで見たときに、オーナーが次のステップを考えるための布石として、その橋渡しを6年でやろうとしています。私たちはユーザーが借りたいと思う物件を造るのは比較的得意ですし、6年なら少なくても3組の入居者を見つければよく、責任をもって運営できるので、物件をオーナーから一旦預かっている感じです。

 

「カリアゲ」の仕組み

 

─耐震性の低い物件などはどうするのですか。

 問い合わせがあった物件は全て現地を見に行きますが、借り上げられる物件は2割程度です。やはり借主には危険のない状態で住んでもらわなくてはなりませんので、著しく耐震性が低く倒壊リスクが高いものはお断りします。改修する際に優先順位が高いのは、構造と雨水の浸入部分ですので、耐震工事はできるだけ行いますし、シロアリに食われている柱があれば取り替えたり、雨漏りを防ぐために屋根も原則ふき替えます。

 

─そこまでやって収支は合うのでしょうか。

 立地が良くないうえに、建物の状態がかなり悪く、面積が広い物件といった投資回収が厳しい物件は受けることができません。改修のための投資として家賃相場の42カ月分の設定だと3年半で回収できる目安になりますが、郊外の物件は賃料が高くとれないので、例外的に8年の契約というものもあります。ただ、それ以上になると借り上げ中に追加投資をしたり、入居者の内装の好みも変わってくるのでお断りしています。

 

─家賃設定はどうしているのでしょうか。

リノベーションをすると新築より高く貸せるという話を聞くことがありますが、それは疑問です。確かに瞬間的には高く貸せるかもしれませんが、その水準は長く維持できないので、当社は新築の賃料相場の9割程度で家賃設定しています。借主が納得感のある値付けをして、2年毎に再契約して6年を迎えるほうがいいという考え方です。従ってリノベーション工事の内容も、出口の賃料の値付けをして、全体予算から逆算して決めていくというやり方です。

 

─内装工事はどのレベルまでやるのですか。

リノベーション事例:阪東橋の平屋

 危険性を排除するためにまず建物の躯体やインフラをしっかり整えますので、内装工事の優先順位は一番低く、構造や雨水の浸入部分の改修工事後の残りの費用で内装を考えます。従って予算が足りない場合はDIY可能としたりしますが、古い設備でもそのまま使えそうなものはなるべく残します。ただ、入居者のターゲットは20代後半から40代前半なので、バランス釜など、それがあることが入居の障害になるものは入れ替えます。また、内装を考える際には、普通に生活するうえで設備に過不足がないということは最低ラインになります。そのうえで、キッチンやお風呂に少し感じのいいタイルを貼ったり、雰囲気のいい照明をつけたりすることで、費用をあまりかけずにユーザーの印象に残るものをいくつか部屋に仕込むようにしています。

 リノベーションを始めた15年くらい前は、物件の機能を強化し、差別化しようと設備などを充実させていましたが、今は、気持ちがいいとか、面白いとか、格好いいといった、お客様の趣味や嗜好に合うようにデザイン面で優位性を出すようにしています。その方がオーナーにとって初期コストや維持コストが低減するし、我々の仕事としても面白い。現在は借上げた部屋は全部埋まっていて稼働率100%です。いつの時代も需要はあるけれど供給が足りないもの、ほかに同じようなものがないものを供給すれば、必ず買ってくれる人や借りてくれる人はいます。

カリアゲ事例:善福寺の家

 失敗例から学んだこともあります。丸ノ内線中野新橋駅近くにある3連長屋の1区画で和室6畳+DK4.5畳という間取りの部屋を借り上げたことがあります。駅から徒歩2分だったので、床はフローリングにしましたが、和室はそのままにし、天井も白く塗っただけの状態で募集したところ、まったく反響がありませんでした。そこで、3カ月後に50万円程度追加投資をし、和室を洋室に変え、壁も天井も板を貼り直して塗り替え、照明も付け替えたところ、すぐに決まりました。このことから、やはり消費者はいろいろな情報を収集し、その中からじっくりと物件を選んでいて、手を抜けばすぐ見抜かれてしまうということがわかり、とても勉強になりました。

 家をつくれば売れるという時代はとっくに終わり、これからはターゲットを明確にし、その人たちがこれだったら買いたいと思えるような、決め手になる何かを仕込まないと売れない時代になったと実感しています。その意味で今後は素人の大家さんでは賃貸経営は厳しくなるでしょうし、逆に、ちゃんと市場のなかで物件を勝たせることができる不動産会社や管理会社の価値は高くなっていくと思います。

 

─「カリアゲ」物件の借主はどのようなプロフィールの人が多いですか。

 借上げている物件は、以前は30㎡クラスの部屋が多かったのですが、今はどちらかというと80~120㎡の広い部屋にシフトしています。リノベーションという市場ができ始めたのが10~15年前くらいですが、その時に30㎡程度のリノベーションをした部屋に住んでいた人たちが結婚し、子どもができて小学校に上がる年齢になり、16万~20万円台前半の家賃の広い戸建てを借りてくれます。その人たちは、縛られることなく、住みたいと思うところに自由に住むという積極的な賃貸派で、駅からの距離というより学区で家を選び、子どもが小学校入学から卒業するまでの長期間借りてくれる優良な顧客です。まさにリノベーション卒業マーケットが新たに生まれた気がします。

 

 

「カリアゲ」でエリアの活性化につなげる

─全国に「カリアゲ」のネットワークを作っています。

 「カリアゲ」の仕組みを始めたら全国の不動産業者から問い合わせが来るようになりました。当社は自分たちが施工できるエリアしかカバーしませんので、全国の知り合いをネットワーク化し、空き家で困っているオーナーを助けられたらいいと思いました。㈱あきやカンパニーという別会社で「カリアゲJAPAN」というプラットフォームを作り、当社のノウハウを提供しています。現在、北は秋田から南は沖縄まで13社とフランチャイズ契約を結んでいますが、地方は建物が広い割には賃料水準が低く、6年間では収益化しにくいという点が課題です。賃貸では合わないので、借り上げではなく買い取って再販するビジネスモデルも始めました。

 

─「カリアゲ」を使ってユニークな取り組みをされています。

 京浜急行電鉄㈱から1年半程前に、“沿線の活性化をしたいので一緒にやりましょう”と声をかけてもらいました。京急沿線でも東京近郊の場合は近所の人が住み替えて借りてくれますが、比較的郊外の能見台駅以南の横須賀方面になると、需要より空き家の戸数のほうが多く近隣からの住み替えが期待できないために、東京や横浜からどうやって人を呼んでくるかを考えています。例えば、“農業ができる庭がある家”といったようなアイデアなどを検討しています。

みやがわベーグル

 三浦半島の南端にある人口わずか1,300人の宮川町で、さびれたヨットハーバーに面する釣り具屋さんの倉庫を、月2.5万円で借り上げて“ベーグルショップ”にしました。そこは住宅として直しても、家賃の上限額や空室の期間を考えると投資回収は難しいと判断しました。物件周辺は商店自体が少ないエリアなので、逆に店舗にリノベーションしてその売上から投資回収をしていったほうがチャレンジとしては面白いと考えました。現在土日限定でベーグル店として運営していますが、雑誌等の取材もあり話題の店になっています。

 地方では、移住・定住のためではなく、都心の人が遊びに行くために拠点を作るという利用の仕方もこれからは増えると思います。しかも、1人で借りて家賃を10万円払うのではなく、仲間と3万円ずつシェアするといった借り方です。ここを住宅ではなくベーグル屋さんにしたのも、移住者に来てもらうのではなく、“面白そうな店ができたみたいだから一度行ってみようか”と、東京から来てもらうきっかけになればいいと考えたからです。そこから三浦半島のほかの場所に回遊してもらえれば地域にお金が落ちるし、このエリアを気に入って家を買おうという人が出てくるかもしれません。最初はすごく軽い感じで構わないので、まず来てもらえるようなきっかけを作ることが、地方では大事なのではないかなと思っています。

 ただ、地域やローカルのことは、外部の一事業者ではコントロールできるわけはなく、やはりそこに住んでいる人が、どういうまちにしたいのかということを考えてまちづくりをしていくのが一番いいと思います。まちの魅力はやはり多様性があることなので、それがないと継続していかないと思います。

 

 

リスクを共有し、オーナーと一緒に賃貸経営を考える

─賃貸オーナー向けに「タテカエ」というサービスを開始されました。

 リノベーションという方法で古い物件の利活用を進めるなかで、もっと多角的にオーナーをコンサルティングすることが必要だと思い、賃貸管理の仕事に取り組むことにしました。収益物件が築15年と25年で売却されるケースが多いと聞き、原因を探ると大規模修繕のタイミングだということでした。実際に長期の修繕計画を立てている個人オーナーはあまりおらず、さらに、家賃収入があるにもかかわらず手元にキャッシュが残っていなかったり、ローンの残債があり銀行からの借入枠がほとんどないオーナーが意外と多いことを知りました。そこで、大規模修繕に関して当社でお手伝いできることはないかと考えたのが「タテカエ」というサービスです。

「タテカエ」の仕組み

 コンビニエンス業界では、本部がコンビニのオーナーに建設協力金を一括で払い、オーナーは分割して返済することで店舗を建て営業が開始できる方式がありますが、それにヒントを得て、大規模修繕に関して貸金業に抵触せず合法的なやり方を考えました。「タテカエ」は、すでに当社と賃貸管理業務委託契約を結んでいて、大規模修繕の費用がないオーナーに、修繕協力金としてその費用を一旦預け、オーナーは当社の子会社に修繕工事を発注し、毎月の家賃から分割して当社にその費用を返済するという仕組みです。返済期間は5~10年で、修繕協力金の上限は8,000万円としました。この方法は、当社も大きなリスクを負いますが、オーナーと一緒に賃貸経営を考えることができるので、管理会社の視点からもいい方法ではないかと思っています。

 

─これからの不動産会社には何が求められるでしょうか。

 昔は人口が増加する前提だったので、住宅地は郊外に広がり、家も拡張していきました。これからは人口減少時代ですので、まちもコンパクトに集約させ、家の減築を提案することも必要になるでしょう。また、建築業も請負の仕事が減っていくでしょうし、情報の公開が進み、個人間取引ができるようになれば、不動産仲介会社は不要になります。賃貸管理会社も同様に、管理料として毎月家賃の5%程を定率でもらい、クレーム対応や集金代行をしているとはいえ保証会社等を使っていることを考えると、このままでは存在価値が問われます。空室が増えていくなか、経営コンサルティングができ、オーナーの資産を目減りさせず、最大化することができる攻めの管理会社がこれからは求められると思います。

 今後は不動産業も建築業もビジネスモデルの再構築が必要ですが、むしろ面白い時代になると思います。当社も10年後を見据えて、いろいろ実験をしながら検証していきたいと思います。

 


 

福井信行(ふくい のぶゆき) 氏

1975年神奈川県生まれ。大学中退後3年半のニート生活を経て木工所勤務。1996年よりACME FURNITUREにてアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れを担当。不動産会社勤務を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2015年より費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。2016年三浦市宮川町に「人がこなさそうな場所にある商店=みやがわベーグル」をオープン。カリアゲJAPAN代表取締役、オンデザインパートナーズ事業アドバイザーなども兼務している。

 

 

 

株式会社ルーヴィス

代表者:福井 信行
所在地:神奈川県横浜市南区高根町3-17-3 メトロ阪東橋駅前7F・8F
電 話:045-315-4484
H P:https://www.roovice.com/
業務内容:東京・神奈川を中心に、住宅店舗事務所の設計・施工、リノベーションの施工・監理、家具製作・販売、空き家のサブリース、不動産仲介・不動産賃貸業を行う。特に古い空き家や空室の流動化に注力し、リノベーションは800件以上、2015年から始めた「カリアゲ」は50件近い実績を上げている。