創造系不動産株式会社/東京都墨田区

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年8月>

 

建築×不動産の両面から
家づくりに貢献

専門家同士の連携が顧客価値を最大化する

 

・建築と不動産のあいだを追究する

・ファイナンス面でフォローをし続けることで成約率を高める

・建築業も不動産業も役割の再定義が必要

 


 

建築と不動産のあいだを追究する

─御社は誰に何を提供する会社なのですか。

 消費者が“家を建てる”場合、土地探しに始まり、建築家や工務店との打ち合わせ、資金の調達、税金の手続きなど煩雑なプロセスが生じます。それにもかかわらず現状では、ものづくりのプロである建築業界と取引やお金の計算のプロである不動産業界の間に壁があり、上手く連携していません。そのために、建築と不動産のフローが分断されて無駄や矛盾が生じ、お客様はストレスを感じています。そこで当社は、「建築と不動産のあいだを追究する」を経営理念にし、“家を建てる”というゴールに向けてお客様が最適な選択ができるように、不動産に関わる専門家と建築に関わる専門家を横断的につなげる役割を果たしています。

 

─どのような経緯でそのポジションの仕事をしようとしたのですか。

 大学で建築工学とデザインを学び、東京の設計事務所に勤めていましたが、10年前に辞めることになりました。普通ならそのタイミングで独立をしますが、資金がなかったこともあり、設計事務所時代にお付き合いのあった不動産会社の社長に誘われたのを機に、そこで働くことにしました。当初は1級建築士としてマンション開発や商業施設開発のプロデューサーの仕事をしていましたが、リーマンショック以降、大型開発の仕事がまったくなくなってしまいました。そのため会社を辞めるか営業マンになるかの選択を迫られ、結局後者を選択したのです。ただ、それまでずっと建築設計の仕事をしていたので、デザインの話しかできませんし、接客やコミュニケーションをとるのも上手ではありません。そんな状態だったので、社長以下全員が営業は無理だと思っていたようですが、なんと1年目で仲介部門のトップセールスになったのです。なぜトップになれたかというと、卒業後初めて、建築家として活躍している仲間のところに行き、“何か仕事はないか?”と聞いて回ったからです。学生時代は京都で建築家の岸和郎氏に師事していましたので、そこで知り合った大学の先輩後輩を含めると、業界の第一線で活躍する建築家たちがたくさんいました。ただやはり自分は建築家にならなかったという挫折感もあり、“不動産業者にまで落ちちゃったよ”というレッテルを貼られたらどうしようと、最初は彼らのところに行くのが嫌で嫌で仕方がありませんでした。しかしその気持ちを振り切ってお願いに行くと、“施主の土地を探して欲しい”という依頼がどんどん入り、毎月契約できるようになったのです。

 その時に感じたのは、家を建てたいというお客様の中には、物件を探すのに不動産業者のところではなく、まず建築家のところに相談にいく人も多いということでした。しかし、建築家は不動産会社の人間とは合わないと思っており、知り合いも少ないため、建築業と不動産業の間に大きな壁がありました。そのため建築家は、建築に明るく、不動産に関する相談ができる人をずっと探していたのです。そこで私は、建築家にとっての不動産会社のポジションになり、建築家にとって有益な存在になろうと思いました。

 その後、社内で建築家からの紹介を販路としたビジネスを事業化させたいと提案しましたが、“そんなビジネスは続くはずはない”と一蹴されたので、創造系不動産㈱を2011年に立ち上げたのです。

 

─建設業では、出口戦略として宅建免許を取得する会社も増えていますが、何が違うのでしょう。

 私は、建築と不動産の領域の間で家を建てたいという人をサポートすることで、いい家づくりができる、ということを証明したいと思っています。

 創業したときは、大学時代の先輩後輩を中心に30人の建築家を専門にサポートしていましたが、私が「建築と不動産のあいだ」※1を出版してから潮目が変わりました。この本を読んだ建築士の資格を持つ人たちが、自分のキャリアをブレイクスルーするため当社に勤めたいとやってきたのです。現在営業マンは10名いますが、全員が設計事務所出身です。その結果、輪が広がっていき、今では全国の200社近い設計事務所から仕事をもらえるようになりました。今後数年で400社くらいになるのではないかと思っています。

 当社の売上の半分は仲介手数料で、半分がコンサルティング料です。不動産の取引のプロとしてトップクラスでいたいというモチベーションで仕事をしていますので、不動産業以外の設計デザイン業務を受託することは社内で禁止しています。建設会社や設計事務所が不動産業までワンストップでやる場合は多いですが、当社とはビジネスモデルが違いますし、顧客サービスの視点で考えると不十分だと思います。近江商人の三方良しの考え方のように、顧客満足の最大化と経済的利益を両立するためには、当社は不動産業に専念し、建築家や設計デザイナーと組んで、チームとして顧客価値を高めることが最良の方法だと思います。

 

 

ファイナンス面でフォローをし続けることで成約率を高める

─具体的な役割と進め方を教えてください。

図1/建築不動産フロー ©創造系不動産

 家づくりのプロセスには、図1のように大きく6つのフェーズがあります。その中で当社は、まず家を建てる動機や施主が実現したいライフプラン、法人の場合は経営ビジョンなどを聞きながら、優先順位をつけたり、譲れない条件などを整理し、物件のイメージを共有化します。次に、ファイナンシャルプランです。資金計画の立案、ローン控除や税金等の計算、賃貸物件の場合は収支計算をしたうえで、建築費を見込みながら物件を探します。そして顧客と一緒に物件を見に行き、気に入った物件があれば物件調査をし、契約します。同時に、ライフプランにあった建物やインテリアを建築家や設計デザイナーと一緒に考えます。

図2/ファイナンスのプロセスを管理する ©創造系不動産

 特に設計事務所に喜ばれるのは、ファイナンス面のサポートです。当社は、単に資金計画をして住宅ローンを斡旋し、土地の決済をして終了ではなく、その後も顧客をフォローし、建物の引渡しまでの金融機関との調整、施工会社への支払いのタイミングや割合の取り決め、設計料の支払い、つなぎ融資が必要な場合はその手当なども行い、独自のフォーマットを作りファイナンスのプロセスを管理できるようにしています。現状、設計事務所を訪れる人の8割以上は最終的に大手ハウスメーカーで家を建てています。それは、建築家が単に慣習としてファイナンスの業務を行わず、フォローができないことが大きな要因です。当社は物件探しに始まり、決済した後も建物が完成するまで顧客をサポートしますので、設計事務所に来たお客様は高い確率で成約します。そして、設計事務所に対する顧客の満足度が上がるため、紹介が生まれ、さらに設計事務所の仕事が増えるという循環ができ、建築家からも感謝されます。今までは5件相談が来ても、4件がハウスメーカーに行ってしまい、1件しか成約できなかった建築家が、私たちのサポートによって4件成約できるようになれば、自分たちの作品を倍も世に出すことができます。

 当社は設計事務所から顧客を紹介されますので、そこにコストはかけません。しかも、大手不動産会社では1~2割といわれている成約率が、当社の場合は6~7割と3倍以上です。結果、3倍以上お客様にエネルギーをかけることができるので顧客満足度が上がり、成約率がさらに高まります。ここまで手間をかけると収益率が悪くなるのではないかと指摘されることもありますが、逆に利益は上がりますし、何より、当社だけでなく設計事務所にも利益をもたらすことになります。

 

─具体的な事例を教えてください。

●イマケンビル

東京都墨田区にある、築56年の3階建てRC造の建物を再生したプロジェクトです。オーナーのところにはいろいろな建設会社が訪れ、建て替えてビルにしたほうがいい、それなら銀行も何億も融資すると言ってきたそうです。しかしオーナーは賢明な方で、欧米では古い建物を残すのに日本ではなぜすぐ壊して新築にするのかと疑問をもち、設計事務所のヤマサキアトリエへ相談に来られました。

イケマンビルの「喫茶ランドリー」 ©阿野太一

 このビルを建て替えるのか、リノベーションするのか。用途も、オフィスや店舗にするのか住宅にするのか、いろいろな可能性を模索するため、私たちはまちを歩き回り、まちの状況を把握しながら、用途地域、世帯数、人口動態、賃料相場、どんな店舗が適しているのか等の市場調査を行い、それぞれの場合について事業性やキャッシュフローを検討し、ベストな計画を追究しました。その結果、1棟全体をリノベーションし、1階を店舗、2階・3階を事務所と賃貸住宅として貸し出すことにしました。さらに物件は法定耐用年

図3/イケマンビルにおけるビジネスフロー

数を超えていたので、リノベーションにあたり耐震性能を向上させ、IS値※2を引き上げれば今後50年は維持できる、という数字を算出することで、金融機関から満額の融資を引き出すことができました。

 この辺りは下町で家内制の小さな町工場が多く、駅から遠くて交通量や人通りも少なく、カフェや人が集まれる場所がありませんでした。そこで、単なる不動産的な価値基準ではなく、“地域で必要なものは何か”ということを中心に考え、㈱グランドレベル※3の田中さんに企画・運営をお願いし、ビルの1階に「喫茶ランドリー」を開いてもらいました。喫茶店の奥にランドリーやミシン、アイロンを置いてまちの人が利用できる家事室を設け、地域に開いた喫茶店になったのです。すると、若い子育てママや近所の老人が集まり、自由にくつろげる場所になりました。このプロジェクトでは、当社は事業の検討から現在の賃貸管理までを設計事務所と共に行うという方法を開発しました。

 

●㈱カナエル※4との取り組み

カナエル神奈川西支店(設計監理:KINO architects)

 創業50年を迎えるLPガス会社の新しい支社ビルの計画です。私はこの会社に2年間コンサルティングの仕事で関わり、社員の営業教育のお手伝いをしました。家を建てたり新築住宅を買う場合、ガス会社は建築会社から一方的に決められ、消費者には選ぶ自由がありません。さらに業界の慣習として料金も非公開なために、その不公平性や不透明性に消費者は不信感を抱いていました。それに対して㈱カナエルは業界慣習を覆し、「正直サービス事業」という新しいコンセプトを創り、料金をオープン化するという画期的な取り組みを始めました。私は営業マンがその利点を消費者に伝え、価格競争に巻き込まれないように、営業同行などをするとともに、家族構成や年収などの顧客の情報を聞き出す研修を徹底的に行いました。同社は1万を超える顧客と接点があることから、ヒアリングした情報を「カナエルiリフォーム」という一戸建てのリノベーション事業の販路として生かすようにしたのです。そのような努力もあり、会社の業績は大きく向上しました。業績が伸びたことから新たに支店兼ショールームを作ることになり、今度はオフィスのコンサルティングの仕事で1年間携わることになりました。

 計画にあたっては、ブランディングデザイナー、建築家、PRの専門家と一緒にプロジェクトチームを組み、経営陣や各部門の担当者とのワークショップなどを通じてイメージを固めていきました。ガス会社という社会のインフラを担う事業を展開していることから、土地は郊外のロードサイドに確保し、地域に根差し、地域のコミュニティも利用できる開かれた建物にしたのです。

 このように企業からオフィスを作りたいと相談があっても、そもそもオフィスは必要なのか?ということからコンサルティングすることが求められる時代になりました。そのために、建築家も財務諸表を分析して5年後、10年後にその会社がどのような売上、利益、社員数になるのか仮説をたて、提案する能力が必要になってきます。

 

●西日暮里のシェアハウス

 築古の木造住宅をリノベーションしてシェアハウスにしたいという、静岡と東京で活動する勝亦丸山建築計画から依頼があった案件です。建物を自由にリノベーションしたいという希望があったので、当初は購入を前提に物件を探しましたが、収益性の問題と、まちとの関係性を保ったシェアハウスにしたいという想いから、DIYが可能で原状回復義務のない条件の賃貸物件を提案しました。物件は見つかりましたが、DIY賃貸の場合、建物の改修に関する貸主と借主の責任の範囲、契約期間、退去時の取り決めなど、一般の賃貸借契約に比べて注意すべきことがたくさんあります。さらに、DIY工事に関する合意書も同時に結ぶ必要があり、双方が納得いくようにするために、当社が両者の橋渡しをする役割を果たしました。

西日暮里のシェアハウス ©千葉正人

 実際に工事を進めてみると、建物に予想外の損傷がありました。本来、建物の構造部分の修繕や配管の刷新などは契約上オーナー負担になりますが、DIY賃貸の場合は判断が難しい部分があり、貸主と借主の理解と協力が必要でした。築古の木造戸建ての空き家を有効活用するにはDIY賃貸の手法が有効だと思いますが、そのためには事業者の想いを理解してくれる社会性の高いオーナーと、専門性と親密さをもった「世話焼きコンサルタント」の不動産会社が必要で、3者が信頼関係を築いて進められるかどうかがポイントになります。

 完成したシェアハウス内には、地方から来る人も利用できるゲストルームやアトリエもあつらえられ、地方との多拠点生活が可能な場としての機能も備わっています。こうした空き家の利活用も増やしていきたいという意欲もあり、当社としても、賃貸経営のアドバイザーとして今後もきめ細かくサポートしていきたいと思います。

 

 

建築業も不動産業も役割の再定義が必要

─創造系不動産スクールの内容について教えてください。

創造系不動産スクールの様子

 現在開講しているのは、建築不動産コンサルタントコース(14期募集中)と経営戦略基礎コース(4期募集中)です。2つのコースに共通しているのは、どちらも建築の専門家を対象にし、不動産やビジネスのことを中心に教える点です。コンサルタントコースは隔週5回×3時間の計15時間で費用は5万円です。多くの建築家は専門分野の外側の仕組みを知りたがっているので、このコースでは、自分の周辺業界との関係性を把握し、意識を外部に向けるきっかけにすることを目標にしています。講義では、人材マネジメント会社の社長、ブランディングデザイナー、金融機関出身の不動産コンサルタントなど、複数の事業を横断的に展開している企業のトップを講師に招き、知識より“気付き”に焦点をあてます。建築業界の人に、不動産業や金融業という異なる価値観を理解することがいかに価値を持つかということを伝え、ビジネスの成功に本気でコミットする人を育てたいと思っています。実際に受講後は、約半数の人が新規ビジネスを生み出しています。

 一方、経営戦略基礎コースは徹底的に知識の提供をしています。不動産オーナーや企業の経営環境も大きく変わり、建築業界もその状況を理解した上で提案することが求められます。そこで、このコースではマーケティング、会計戦略、人材組織、建築不動産の4つの分野の知識を深め、建築の専門家でありながら企業の経営コンサルティングができる人材を育てたいと思っています。

 

─建築業と不動産業は、これから何が必要になってくるのでしょうか?

 日本の人口が減少し経済が減速するなかで、若い世代、特に30代より下の世代は自分たちの役割を“再定義”し始めています。若い建築家やクリエイターは不動産をとても魅力的なものだと感じています。しかし、彼らには不動産業との接点がありません。当社はその両者を結び付ける役割を果たそうとしていますが、建築業界も不動産業界も自分たちの役割の再定義が必要だと思います。

 高度成長時代の建築設計の仕事は、意匠設計以外に、構造設計、機械設計、電気設計、ランドスケープデザイン等がどんどん分業化し、さらにそれぞれが専門家として深化し、建築家はそれらをまとめる指揮者の役割をしていました。しかし、これからは“収れんの時代”になります。分業化することで専門性は高まりましたが、逆に顧客は時間と手間というコストを負担することになります。他の産業でも営業とマーケティング部門、製造と開発部門は仲が悪く上手く連携していないことがありますが、お互い専門性が強いためどうしてもそうなりがちです。しかし、それらをまとめられる仕組みがあれば顧客に対するパフォーマンスは最大になります。当社の「建築と不動産のあいだを追究する」という方針も、その役割としての意気込みをそのまま表現しているのです。

 

※1 学芸出版社(2015年)

※2 Seismic Index of Structure:構造耐震指標

※3 株式会社グランドレベル/代表取締役社長 田中元子氏 本社:東京都墨田区

※4 株式会社カナエル/代表取締役社長 関口剛 氏 本社:神奈川県横浜市 ガス料金のオープン化の取り組みが2014年グッドデザイン賞に選ばれた。

 


 

高橋寿太郎(たかはし じゅたろう) 氏

1975年大阪市生まれ。大学では建築学を修め、建築設計事務所で多数の建物を設計しつつ、一級建築士を取得。不動産会社に転職し、開発・売買仲介・賃貸管理などの現場で営業を習得。建築と不動産業界間の壁に課題意識を持ち、2011年に創造系不動産㈱を創業。多くの建築家やデザイナーから支持される不動産コンサルティング会社として業務拡大する一方で、様々な業団体での講演、「不動産流通推進センター」の教育プログラム開発への参加、「創造系不動産スクール」の運営、千葉の外房で地方ビジネスを研究する「いすみラーニングセンター」の創設など、教育事業を手掛ける。また、企業向けの人材教育研修も行っている。

 

 

創造系不動産株式会社

代表者:高橋 寿太郎
所在地:東京都墨田区千歳2-6-9-201
電 話:03-6277-6653
H P:http://www.souzou-kei.com/
業務内容:建築デザインと不動産の両面から家づくりをサポートする不動産会社。建築技術と不動産取引の橋渡しをし、契約からファイナンス、入居後のアフターフォローまで、建築家やデザイナー、各種専門家と共働し一貫したサービスを提供する。