住まい探しはハトマーク

リネシス株式会社/秋田県秋田市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年8月>

 

「譲渡型賃貸住宅」で定住化を
促進し、人口減少を防ぐ

秋田から地方の課題解決ビジネスを全国に発信

 

・ローンに頼らずマイホームが持てる仕組みを作る

・持ち家でもない賃貸でもない革新的なマイホーム取得の選択肢

・挑戦者たれ、異端児たれ、風穴をあけろ

 


 

ローンに頼らずマイホームが持てる仕組みを作る

─秋田でビジネスを始めた経緯を教えてください。

 東京都文京区で経営していた不動産会社を、結婚を機に妻の故郷である秋田県大仙市に移転・設立し、自ら移住したところから始まります。

 私は横浜出身で、東京では不動産売買の経験しかなかったのですが、秋田は冬期間の雪で土地の境界確認ができず不動産売買ができないということもあり、賃貸仲介・賃貸管理業も兼業で始めました。新築から半年経っても入居率が50%を切ってしまっている物件もあり、敷金・礼金・仲介手数料を無料にして募集をしたところ、1カ月程で入居率が95%になりました。現在はそれを進化させて、「0円賃貸」という“入退去費用※1完全0円+オーナーに原状回復費用とリノベーション費用をキャッシュバック”するシステムを作り、全国にフランチャイズ展開を行いました。その後、7年前に秋田市にも出店し、管理戸数を2,000戸超まで増やしています。「0円賃貸」の仕組みのおかげで、稼働率は秋田市内で95%、県南地方は98%です。

 

─賃貸に入居しながらマイホームが持てる仕組みを考えたきっかけを教えてください。

 「0円賃貸」で入居した方は、実際、非正規雇用やひとり親世帯など、低所得の人が多かったわけです。また最近では携帯電話を3カ月滞納して信用情報に履歴が残った方や、晩婚化に伴う保証人の高齢化、奨学金を滞納した方も増えています。一方で、秋田県でもフリーランスやノマドワーカーといった人たちの移住もわずかながら増えています。しかし、そのような人たちが家を持とうとしても、現在の金融機関の旧態依然とした住宅ローンの仕組みでは審査が通りません。逆にどんどん厳しくなっている現状があります。25~49歳で世帯年収が200万~500万円の借家世帯は全国で約450万世帯あります。その中で持ち家志向のある方は67.5%にのぼり、潜在市場は約 300万世帯になります。仮に1世帯当たり2,000万円の戸建てを建てるとすると、市場規模は60兆円になります。一方、秋田県の人口は、2019年3月1日時点で97.5万人で、47都道府県ではワースト10に入ります。また、人口減少も進み、人口増減率は前年比マイナス1.4%と最下位で、2040年には消滅可能性都市といわれてしまう状況です。そこで、もし賃貸住宅の入居者がマイホームを持てる仕組みができれば、定住化を図ることができ、人口減少の抑止に貢献できるのではないかと考えました。

 

 

持ち家でもない賃貸でもない革新的なマイホーム取得の選択肢

─「譲渡型賃貸住宅」の仕組みを教えてください。

 住宅ローンでしか家を持てないという社会構造をなんとか変えたいと思い、新築戸建賃貸住宅で、家賃を一定期間払い続けると、最後に土地と建物が入居者に譲渡されマイホームになる「譲渡型賃貸住宅」という仕組みを作りました。これまでの賃貸住宅では、子どもの成長を柱に刻んでも、退去すると原状回復で消されてしまいます。そこで、一定期間、家賃を払い続けると最後はマイホームになり、家族の思い出も残せることから、この仕組みに「家賃が実る家」という名称をつけました。このシステムには当社以外に入居者、建築会社、投資家が関係しますが、それぞれの役割やメリットについて説明します。

(1)全体の流れ(図1)

図1/「譲渡型賃貸住宅」の仕組み

 まず入居したいと思う人は、専用Webサイトで会員登録し、建築を希望する場所と建物の間取り、設備や色のオプションを選びます。建築希望場所を指定する際は、学区を指定することもできますし、駐車場の台数なども指定できます。次に10~28年の賃貸期間ごとの月額賃料が表示されますので、その中から入居者が自身で払える家賃を選択します。最後に勤務先、借入状況、連帯保証人、同居人等の情報を入れて、収入証明書類等を添付して申込むと、当社が入居審査を行います。審査を通過したら入居者は登録事務手数料(5万円)と保証金(20万円)を入金して申込みが完了となります。申込みが入ると、加盟店である地元の建築会社が1年間を目安に土地の選定を行います。建設地が確定した段階で、既に募集していた投資家と土地の購入契約と工事請負契約を結び着工します。入居者が選んだ間取りをもとに建築を開始し、約6カ月後に引渡しという流れとなります。入居の際には、賃貸期間終了後の所有権移転を担保するために、投資家と入居者との間で定期賃貸借契約と譲渡予約契約を結びます。そして、入居者が選んだ賃貸期間の満了後、土地建物が投資家から入居者へ無償譲渡されます。もし土地が見つからず着工できない場合は、入居申込契約を解除し、保証金を返却します。一方、入居者が入居後5年以内に契約を解除した場合は、入居者に違約金が発生します。また、長期の賃貸契約のため、団体信用生命保険のような機能をもつ安価な保険も、入居者向けに用意しています。

 

(2)入居者のメリット

 現在はマイホームを取得するには住宅ローンしか手がなく、金融機関のローン審査でマイホームが取得できるかどうかが決められてしまいます。当社が提供するこの方法なら、賃貸の入居審査だけでセミオーダーのマイホームの取得が可能です。賃貸期間が満了すると自己所有になることが保証され、途中で退去することも可能です。住宅ローンのように、支払いが滞っても財産を差し押さえられることはありません。

 

(3)投資家のメリット

 投資家が必要な費用は、土地購入代金、建築費用、固定資産税、毎月の管理費(全国一律2,000円)、建物や設備の修繕費、登記費用などです。投資利回りは全国一律で、賃貸借期間が20年の場合、表面利回りは7.5%(実質利回りは6.0〜6.5%)です。

 新築で土地込みの利回りですので、一般的な利回りといえますが、最大の特徴は、この利回りが20年間、持続していくということです。これまでの賃貸経営のように家賃が下がっていくことに落胆し、空室の度に不安になることはありません。入居者へのオプションとして、最終的に譲渡という出口を設けているため、退去リスクが低くローリスクでミドルリターンとなっています。特に商品の特長として以下の4点が挙げられます。①建築前に入居者と賃貸期間と賃料が確定し、経年等による賃料の下落がなく※2、総収入が確定すること ②原則、空室が発生しないこと ③原状回復の費用負担、広告費、不動産会社への手数料支払いなどの支出がないこと ④屋根・外壁・設備などの修繕対応義務期間が15年で済むことです。入居者のプロフィールからすると投資家は滞納の不安が拭えないと思いますが、これまで滞納実績は一度もありません。保証人や滞納保証をつけたりしていますが、入居者は最後に自分の家になるという希望があるので、家賃の支払いの優先度を高くしているためと考えています。

 ただ、それでも入居者が途中で退去する可能性が少なからずありますので、そのリスクに備えていくつかの出口を用意しています。①残存期間で再度入居者を獲得する ②入居5年経過後なら入居者に途中売却する ③中古住宅として売却する ④通常の戸建て賃貸として運用する、などです。中古住宅として売却する場合でも、それまでの賃料収入と売却価格の合計が、購入時の金額を上回るように設計していますし、当社に登録している投資家へ転売したり、中古住宅の買取再販会社に業販で販売することもできるので安心です。

 

(4)建築会社・不動産会社のメリット

建物と間取りのプラン例

 入居者から申し込みが入ると、「家賃が実る家」のFCネットワークに加盟している建設会社もしくは不動産会社に発注されます。建設会社も新築着工棟数が減少するなかで、当社からの紹介を受けることで、広告費、営業や設計スタッフなどの販管費を最小限に抑えることが可能になります。不動産会社の場合には、賃貸客への販売や既存資産家とのパイプを活かした投資提案も可能です。

安心の自動受注システム「MOOS」

 当社FCに加盟すると、入居希望の申込完了時に原価を自動で計算でき、顧客とのコミュニケーション機能などがある「MOOS」というWebシステムを導入することができます。また、FC本部のカスタマーサポートセンターが、加盟店に代わり追客して契約まで進めてくれます。現在は終了していますが、当システムは経産省の「サービス等生産性向上IT導入支援事業」の事業者に採択されており、この仕組みを使うと加盟店も補助金が受けられる制度もありました。「家賃が実る家」を最初に試算した時は、投資家への想定利回りと建設会社の収益を合わせた時点で無理だと思ったのですが、その後「MOOS」というWebシステムを構築し、建築受注コストを大幅に削減することで双方の利益が成立する仕組みになりました。

 

─会員の属性や事業の実績等を教えてください。

マイホーム取得希望者の会員数は既に5,820名。 本社を置く秋田県のほか、関東1都6県、福岡県、岡山県、宮城県など日本全国での集客が始まっています。当社に登録されている入居希望会員の年収は200万~400万円が33%、400万~600万円が20%。年齢は40歳代が42%、30歳代が27%で、職業は多い順に建設業、医療・福祉業、卸売・小売業、サービス業です。

 2019年3月現在の登録投資家数は307名、FC加盟店は10社で、 パートナー店も9社です。これまでの累計総受注棟数は44戸※3で、最初の入居者は2人の子どもがいるひとり親世帯の方でした。

 

─入居者審査はどのようにされているのですか。

 2012年に滞納家賃保証事業に参入し、2015年に「0円賃貸」の全国ネットワーク展開を始めました。そこで、全国の加盟店向けに入居審査をし、家賃保証をしてきました。入居者は年収が低い世帯も多いので、間取りを変え家賃を下げるとか、連帯保証人を追加するなど、落とす審査ではなくできるだけ「通す審査」をしてきました。自社保証実績分で承認率は98.7%、回収率は99.4%です。「譲渡型賃貸住宅」は長期の賃貸借になりますので、独自のスコアリングで審査基準を作り展開しています。

 

─栃木県宇都宮市に店舗をオープンしました。

 「家賃が実る家」は、家賃収入を最大化することで、売却益がなくても成り立つ不動産投資手法がないかと考え、長期にわたってビジネスモデルを磨いてきました。このシステムが成り立つ場所は、賃貸需要があり、中古住宅としても再販ができるエリアです。ただ、土地価格の坪単価が100万円以上の場所になると賃料が上がりすぎてしまいますし、山間部や農村など取引事例がほとんどない場所も難しいです。その結果、坪単価が10〜50万円前後で土地が購入できる栃木県、茨城県、群馬県といった北関東エリアを中心に展開することにしました。どの県も大手企業の生産拠点が多く、地元出身で下請け企業に勤めていたり、 派遣社員のため家がなかなか買えないという人が多い点もテストをした秋田と似ています。そこで、2018年10月に宇都宮営業所をオープンしました。それまでは インターネットで希望者を募り販売していましたが、宇都宮営業所は当社スタッフが直接対面で説明し販売する店舗です。実店舗を設けることでどれくらいスピードが上がり、成約率が高まるのかも計測しようと思っています。

 

─「家賃が実る家」の商品力を今後どう強化していきますか。

マイホームがもらえる会社宣言

 まず商品のバリエーションを強化していこうと思います。品質を維持しながら建築原価を下げ、低価格商品のラインアップを増やすと共に、ZEH住宅や耐震・制震の機能を強化したハイスペックな商品も増やす予定です。2018年10月にはカーサ・プロジェクト㈱※4と提携し、高品質でデザイン性の高い商品も提供するようになりました。また、企業には「家賃が実る家」を社員の福利厚生の一環として提案していきます。社員が払う月額賃料に会社から家賃補助費を出すことで、20年勤続すると家がもらえることになれば、社員の離職防止にもなりますし、採用力強化にもつながります。企業は建物を自社所有にし、社員と賃貸借契約や譲渡予約契約を結ぶこともできますし、借り上げ社宅として社員に提供することも可能です。「マイホームがもらえる会社」として福利厚生制度を構築していけば、住まいと職の双方を満たし、移住促進効果にもつながると考えています。

 

 

挑戦者たれ、異端児たれ、風穴をあけろ

─移住定住促進など地域の課題解決につながる仕組みです。

 「家賃が実る家」は、流動性が高い賃貸住宅の入居者を、マイホームが持てるという夢と共に定住人口へ転換させるという側面があります。そのため地方自治体と連携していけば、移住定住に結び付く仕組みとして空き家や空き地の有効活用ができる可能性があります。

 日本最速で人口減少や少子高齢化が進み、地価の下落率も日本一の秋田県は、いわば“日本の課題最先端の地”であり、“日本の未来を投影している地”です。当社は「0円賃貸」や「譲渡型賃貸住宅」というビジネスモデルを開発してきましたが、秋田で通用するモデルならば全国どこでも通用すると思います。地域の課題解決のために秋田で研究開発し、実験場所として秋田でテストランさせ一定の成果が得られれば、そのビジネスモデルを全国に普及させたいという想いがあります。そのために、“全国ネットワーク事業”を当社の事業内容の最上位に据えています。

 経営をする上で大切なのは商品開発力です。これからは、ハコを建て、中に人を入れれば収益を生むという、不動産会社のやり方をそのまま押し付けるプロダクトアウト型を脱却し、入居者目線で商品やサービスを生み出すマーケットイン型に商品をシフトしていくべきと考えています。

 

─東京から来た“よそ者”が秋田を活性化しようとしています。

駅東地区夏祭りの様子

 東京に住んでいれば地方が抱えている課題に対して関心が持てないですし、地方にいても日々暮らしていると感覚が麻痺してしまい、油断が生まれます。現在の人口減少や地価の下落はいわば“静かなる有事”で、じわじわと危機が迫ってきている感じです。東北のマーケットは瀕死の状態なのに、不動産業界は管理物件を取った取られたという小さな議論を繰り返しています。そうではなく、もっと大きな事業の輪が広げられるようにならなければと思っています。東日本大震災以降、東北地方で上場した企業は1社もないほど、経済は低迷しています。そんななかで、東京から来た人間ではありますが、先頭に立って取り組み、挑戦する力を伝えていきたいと考えています。

 2017年から秋田駅前で始めた「駅東夏祭り」もその一つです。それまでは駅前にある24の町内会が、それぞれ小さなお祭りを行っていました。そんななかで、当社は町内会の住民を対象にした大きな祭りを企画実行しました。初年度は町内の人も様子見でしたが、2018年は皆さんが非常に協力してくれて、2,400人もの地域の方が集まりました。

 

─自社だけでなく、事業に関わる全員のことを考えています。

書籍の紹介

 2015年に国連で採択されたSDGs※5の報告書を読み、これからは関わる全員がWinになり、しかも課題解決型でないといけないと思いました。地方が抱える課題を解決することと、関わる人が全てWinになることを成立させるのは非常に困難ですので、頭をひねって考えていかなくてはなりません。オーナー向けセミナーをすると、自分の物件だけ勝つにはどうすればいいかとよく聞かれます。しかし周りが空室だらけなのに、一人だけ勝つのは無理です。不動産会社も建築会社も、同様に自分の会社だけ受注を取りたいと思っています。しかし、その地域が市場として成り立つ要件を満たしていなければ無理なことです。首都圏と秋田という両極端を経験してきた人間として、経営理念に掲げた「挑戦者たれ、異端児たれ、風穴をあけろ」を実践し、地方の課題解決に尽力し、次の世代に引き継いでいきたいと思います。

 

 

 

 

※1 敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料、家賃保証料、原状回復費用など入退去時のコストをすべて含む。

※2 借地借家法第38条7項により、定期賃貸借契約では賃借増減請求権を特約で排除できる。

※3 マイホーム取得希望者、投資家、加盟店、実績等の数字はいずれも2019年3月末時点のもの。自社保証実績の数字も同様。

※4 東京都渋谷区、 代表取締役 縣桂一郎氏 戸建て賃貸住宅シリーズ「casita(カシータ)」を展開(加盟店約80社)。

※5 2001年に策定されたミレニアム開発目標の後継として、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標。

 


 

森 裕嗣(もり ゆうじ) 氏

1973年神奈川県横浜市生まれ。17歳から鳶職、電工など工事現場に従事したのち、大学入学資格検定取得後24歳で大学入学。不動産デベロッパー会社勤務を経て、都内で不動産会社設立。結婚を機に、秋田県へ移住し、不動産会社を設立。人口減少、地価下落などが日本最速で進み、消滅地方都市の象徴とも言われる秋田県を、日本の地方部の未来を先取りできる先端地域と位置付け、社会問題を解決するビジネスモデルを構築し、全国に発信している。

 

 

 

 

リネシス株式会社

代表者:森 裕嗣
所在地:秋田県秋田市広面屋敷田311-1
電 話:018-893-5040
H P:https://www.renesys.co.jp/
業務内容:秋田発の全国ネットワーク事業として、「0円賃貸」、譲渡型賃貸住宅「家賃が実る家」の仕組みを全国に展開。秋田市および県南部を中心に、賃貸仲介・賃貸管理、売買仲介、不動産投資コンサルティング、賃貸保証、住宅建設業などを行う。また、厚労省から女性活躍推進企業、若者応援宣言企業の認定を受けた。