株式会社R65/東京都杉並区

地域の安全性を確保する取り組み

<取材:2018年8月>

 

高齢者が地域の中で自分らしく
生活できる世界を実現する

見守りサービスと保険で大家のリスクを回避

 

・元気な高齢者が普通に暮らせる世の中にしたい

・高齢者の賃貸市場は、規模が大きく優良なマーケット

・高齢者に賃貸するリスクを解消する方法を開発

・住宅確保要配慮者のための国の制度も充実しつつある

・R65不動産がなくなる世の中にしたい

 


 

元気な高齢者が普通に暮らせる世の中にしたい

─高齢者を対象に賃貸仲介業を始めた理由を教えてください。

 愛媛の大学を卒業後、地元の不動産会社に入社し、2年目に東京転勤となりました。東京に来て愛媛との違いを最も感じたのは、65歳以上で賃貸住宅を借りに来る方が非常に多かったことです。

 ある夏の暑い日に、80歳代の女性が物件を探しに店舗の窓口に来られました。私は反射的に断ろうとしましたが、その方から「これで不動産会社は5軒目です。しかもほかの会社はほとんど門前払いでした」と言われました。これはショックでした。たしかに、会社から教えられていたのは、賃貸仲介はいかに効率よく件数をこなすかが勝負ということでしたので、意思決定も遅く、大家からも拒否される確率の高い高齢者を断るのは不動産業界の常識でした。ただこのときは断り切れなくなって、レインズで200物件程度ピックアップし、片っ端から電話をしました。しかし「うちでは紹介できる物件はないっすね。ほかを当たってください」と言われ続け、結果的に承諾がとれたのはたったの5件で、その中からやっと部屋を決めることができました。

 ただその方は、鍵の引き渡しの時に娘さんと2人でテレビを抱えてくるくらい元気なお年寄りだったので、ほかの高齢者のときははたしてどうなるのかと不安が残りました。このことがきっかけで、このままでは自分の親や自分自身が年をとった時に住めるところがないかもしれないと感じるようになり、自分で責任が取れる範囲で挑戦しようと独立し、2015年に㈱R65を起業しました。

 

─高齢者の賃貸市場はどれくらいありますか?

図1/賃貸住宅における大家の抵抗値

 世帯主が65歳以上の夫婦の世帯数は約585万世帯あり、その内賃貸の世帯は約13%の75万世帯ですが、単身高齢者世帯になると約188万世帯で、その比率は34%にまで増えます。人数でいうと約262万人で、京都府の人口くらいの規模です。

 一方、供給側をみると、国交省による大家の意識調査では、借主が高齢者のみ世帯及び単身の高齢者の場合、賃貸する際の抵抗感が非常に高いという結果がでています(図1)。さらに、公営住宅もここ10年間で約2万5千戸減少し、入居倍率も全国平均で22倍、東京23区に限ると50倍を超えるといわれ、狭き門になっています。

図2/高齢者向け住宅の位置づけ

 高齢の方の住まいは、ほかにもサービス付き高齢者住宅(以下「サ高住」)や老人ホームなどの介護施設がありますが、サ高住は費用が月額で10~13万円と比較的高額で、立地は郊外に集中する傾向がありますし、老人ホーム等は介護度が低いと入所できなかったり、そもそも施設が足りない地域もあります。しかしなにより、元気な高齢者からすると「高齢者ばかりのところに住みたくない」「生活を管理されたくない」という気持ちが強く、一般の賃貸住宅を希望する方が多いのです(図2)。

 私がR65不動産を始めたのも、幼い頃見ていた祖母の背中がきっかけの一つです。祖母は亡くなる2年前まで自分の薬局で働き、自立した暮らしを送っていました。高齢者イコール介護施設というイメージがありますが、祖母のように、高齢者が自分らしい暮らしをいつまでも続けていられる世の中を実現していきたいと思ったのです。

 

 

高齢者の賃貸市場は、規模が大きく優良なマーケット

─賃貸住宅に住む高齢者のプロフィールを教えてください。

 65歳以上で賃貸住宅に転居した人の約30%が持ち家からの住み替えです。その理由の主なものは、「建物が老朽化したが、リフォームする資金がない」「配偶者が亡くなり、家が広すぎる」「庭の管理が大変だ」「子どもの近くに住みたい」というもので、子どもたちも「親を地方から呼び寄せたい」というケースが結構あります。

 また、賃貸から賃貸への住み替えの場合は「夫が亡くなり年金が減ったので、もっと家賃が安い家に住みたい」「足腰が悪くなり、階段がつらいので1階に住みたい」という動機が多いです。さらに物件の老朽化に伴う建て替えにより、立ち退きを余儀なくされている場合もあります。この問題はとても深刻で、当社が紹介する物件の1/4が築30年を超える物件です。現在築35年を超える賃貸住宅は全国に1,369万戸あり、今後10年以内にどんどん建て替えられる可能性があります。

 家賃は、当社データによると月額5万円以下が約30%、6~8万円が約50%ですが、家賃10万円以上の方も2割程度います。また6割の方には保証人がついています。このように、65歳以上の方でも収入があり保証人がしっかりしている方もいますし、高齢者といってもさまざまです。

 さらに、高齢者の特長として入居期間が長いことがあげられます。一般的な入居期間は、大学生なら4~5年、社会人も3~4年で、更新のタイミングか結婚するまで。ファミリーなら6年くらいで、子どもが小学校に入るまでか、小学校入学後、同じ学区で継続して住む場合が多いです。それに対して高齢者は、4~6年という方は25%しかおらず、6年以上住んでいる人が64%で、しかもそのほとんどが10年以上住んでおり、平均入居期間は13年程度です。

 

─そうなると、大家も高齢者に貸すメリットが多いような気がします。

 10年という入居期間で考えると、学生や社会人なら2~3回転しますので、例えば家賃5万円の物件で3回転すると、延べで広告費が15万円、原状回復費も20万円程度かかりますし、築10年の物件が10年後は築20年になるので、新規募集時には家賃を減額したほうがいいと不動産会社にいわれます。しかし、高齢者に貸すとそのまま10年は住んでくれるので、広告費も、原状回復費も要りませんし、更新時に家賃を下げたとしてもせいぜい1~2%です。このように高齢者の賃貸はマーケットも大きいですし、賃貸経営的にも効率的です。

 実際に高齢者の入居を積極的に受け入れて、物件の利回りが20%近い大家さんもいます。当社に問い合わせがある高齢者も、まだ現役で仕事をしていたり、貯蓄が十分あったり、保証人となる子どもが見守りもしてくれるような方々です。リスクが管理できれば高齢者は優良顧客になるし、入居者からもとても喜ばれます。

 高齢者を受け入れる大家さんも増えており、R65不動産に登録する大家数は今年で500人を超え、昨年比で約4倍以上、物件数も8,000戸以上になりました。しかし、入居希望者数は昨年比で約10倍にも増え、紹介できる物件が足りない状況です。実際に当社に問い合わせされた理由を聞くと「物件の情報がない」という方が圧倒的に多く、仲介店舗の現場では、大家さんに確認することもなく、年齢だけで判断して「物件はないですね」と、門前払いをするケースがまだ多いのが実態です。

 

 

高齢者に賃貸するリスクを解消する方法を開発

─大家や管理会社が高齢者に部屋を貸さない理由は何ですか?

図3/男女別・年齢別の孤独死発生件数

 高齢者を入れるデメリットとして大きいのは、孤独死などの不安が強いことです。東京都福祉保健局※1の調べでは、東京23区において孤独死のピークは男性が60~64歳、女性は80~84歳、死後から発見されるまでの日数は、男性が12日、女性が6.5日となっています(図3)。つまり男性は定年直後に死亡する場合が多く、それまで仕事に追われてきたので地域とのつながりが薄く、亡くなっても一人住まいの場合発見が遅れる傾向にあるのに対し、女性は地域のつながりは多くあるものの、80歳をすぎると周りの同年代の人も亡くなって、少なくなるために発見が遅れるようです。このように65歳以上イコール孤独死と考えがちですが、実際は男女でピークが異なるし、必ずしも高齢になるほど孤独死が増えるわけではありません。

図4/高齢者が部屋を借りにくい理由

 しかし賃貸住宅で孤独死が発生すると、いわゆる「事故物件」と称され、物件の価値が低下し、新規に募集する際にお金と時間がかかります。そのため誰でもいいから入ってもらおうと、入居者を十分に選べなくなり、結果的に管理が大変になってさらに物件の価値が下がるという負のスパイラルに陥ります。その可能性を大きなリスクと感じるので、大家さんや不動産会社は高齢者に部屋を貸すのを嫌がるのです(図4)。

 ただ「事故物件」というのは正式な定義がありません。法律用語でいう心理的瑕疵と判断されるものは、自殺や他殺の場合は該当しますが、病死つまり自然死には、どのような場合が該当するかについての定義がないのです。したがって自然死で亡くなられた場合は、「事故物件」扱いにするのではなく、その状態が何日も放置されることを防ぐことが重要だという解釈を、業界全体で広げることが大事だと思います。

 

 

─孤独死のリスクを回避するために、どのような方法があるのでしょうか。

 孤独死自体を防ぐことはできませんが、入居者が亡くなってもすぐ発見できる仕組みと、万が一亡くなった場合に、大家さんの負担が少なくなるような保険を組み合わせて提案をしています。

(1)見守り機器

図5/見守り電気の仕組み

 入居者に何か異常があったことを発見する見守りには、自動音声による見守り、センサーによる感知、郵便局や新聞販売店等民間の巡回サービス、介護職員による巡回、行政による巡回などがあります。介護職員や行政による巡回は地方自治体の規定や介護度によって内容が異なりますが、デイサービス等を受けている高齢者は、腰や足が悪いだけで、1週間に数回ヘルパー等が来ているのでリスクが低い入居者と考えられます。

 自動音声電話は入居者の操作が面倒だったり、センサーは月額の費用が高かったり、取り外しに工事が必要な場合があります。またプライバシーに対する配慮が低く、入居者は「生活を見張られているようで嫌だ」と感じることも多いようです。そこで当社は、天井のシーリングライトの中にモーションセンサーを入れ、人が通るとセンサーが検知し、8時間検知がなければ大家か不動産会社に報告、16時間なければ訪問をしてもらう機器を、NECと共同開発しました。さらに、電気の使用量を数カ月分記録し、そのデータを元に、“いつもと違う”電気の使用量を検知することで、異常を発見する仕組みも電力会社と開発しました。こちらは特別な機器の手配もいらず、入居者のプライバシーも侵害せず、電気の使用量だけでAIが部屋を見守るサービスです(図5)。

 

(2)賃貸住宅用管理費用保険

 賃貸住宅内で死亡事故が起こった場合に、遺品整理費用や特殊清掃・消臭費用、さらに事故後しばらく借り手がつかなかった場合の損失した家賃を保証する保険が、損保会社より発売されるようになりました。当社はアイアル少額短期保険と提携しており、1戸/室あたり月300円の保険料で、死亡事故があった場合、原状回復費用で最大100万円、家賃保証で最大200万円の補償がつきます。

 当社では2018年から、見守り機器と保険をパッケージにした「R65あんしん賃貸パック」を月額600円で提供しています。穏やかな見守りサービスを提供することで、自宅で亡くなることのできる自由を確保することも大切だと思います。

 

─その他、リスク回避のために行っていることはありますか。

 成約率を上げるために、65歳以上の入居が可であれば、当社のホームページに無料で物件を掲載できるようにしました。斜面に建っている物件やエレベーターのない2階の部屋などは厳しいですが、一般的に人気が低い1階住戸は高齢者にはむしろ適していますし、築年が古かったり、バス便物件でも、役所や病院に1本で行けるようであれば決まります。当社には入居希望者が多く集まっていますので、掲載物件のうち4割が成約しています。

 また、孤独死になる人の特徴は社会とのつながりが少ない人です。当社では、物件を探しに来られた際にはご本人とじっくり面談をし、できるだけ多くの情報を集めるようにしています。通常の入居審査で聞く項目は、現住所、連絡先、生年月日、収入金額、保証人の有無や属性などです。しかし、これだけではリスクは取り切れませんし、社会とのつながりの有無もわかりません。そこで、当社ではいくつか審査項目を付け加えています。まず健康状態や既往歴です。現在通っている病院を聞くことで身体のどこがどの程度悪いのかがわかります。次に、保証人とは別に緊急時の連絡先。親族だと日中連絡がつかない方も多いので、それ以外に、例えば定期的に水泳に通っているのであれば水泳仲間といった具合に、近くにいる知人の連絡先を聞き、もし水泳に来なかった場合は当社に連絡が入るようにしています。

 

 

住宅確保要配慮者のための国の制度も充実しつつある

─「新たな住宅セーフティネット法」が2017年に施行されました。

 「新たな住宅セーフティネット法」は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅の登録制度と、住宅の改修費や家賃低廉化、家賃債務保証料に対し補助金が出る制度です。2017年10月に施行されてから約1年間で、登録物件は7,000戸近くまで増えてきました※2。国交省が登録の手続きを簡素化したほか、登録料を無料にする地方自治体もでてきました。

 

─「終身建物賃貸借制度」も改正されました。

 高齢者の賃貸を拒む理由として「賃借権が相続される」ことがあげられます。入居者が死亡した場合、相続人が賃借権と残置物に関する所有権を放棄しないと、原状回復の工事も新規募集もできません。高齢者の場合は相続人が見つからなかったり、相続人が複数いて合意をとるまでに時間がかかるケースが多く、それが入居を拒む理由にもつながっています。

 そこで、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」を根拠に、賃貸人が知事の認可を受けた場合、賃借人が死亡した時に終了する賃借人本人一代限りの賃貸借契約により、相続性が排除され、高齢者に安心して賃貸できる「終身建物賃貸借制度」ができました。さらに2018年にはバリアフリー等の認可基準も大幅に緩和されました。

 このように、大家のリスクが軽減されるように、国も制度を整えつつあります。

 

 

R65不動産がなくなる世の中にしたい

─株式会社R65+という会社を作りました。

図6/入居者と大家を支えるモデル

 入居した時は健康だった方でも、その後状態が変化し、認知症の症状が出て共同生活を営むことができなくなるケースがでてきました。福祉の方と組んで対応することが急務ですが、不動産業界にはそのノウハウや対処の事例がありません。認知症や賃借権の相続の問題など、当社で取りきれないリスクを解決するために専門家と連携する必要性を感じます。そこでR65+という会社を作り、司法書士、整理収納のプロ、ファイナンシャルプランナー、賃貸管理や仲介のプロなどの専門家で組織を構成し、大家さんや高齢者の相談にのっています。また、保証人がいない人のために一括借り上げをし、高齢者住宅としての転貸事業も行っています(図6)。

 

─不動産会社は高齢者の住宅斡旋にどう取り組んでいけばいいでしょうか。

 高齢者及び単身高齢者世帯は、これから三大都市圏で飛躍的に増えていきます。人生100年時代を迎えるにあたり、この市場には大きなビジネスチャンスがあるといえます。ただ、不動産業界は過去30年間、高齢者には部屋を貸したくないとしてきましたので、高齢者に貸した場合の課題にどう対処すべきかという事例や、ノウハウの蓄積がまったくありません。

 多くの不動産会社にお願いしたいのは、「R65あんしん賃貸パック」の導入と検証の協力です。また、福祉などの団体との連携に関する事例研究も共同で行いたいと思います。それができれば、これから地域で見守ることもしやすくなると思います。そして、賃貸する上で大きな障害になっている「事故物件」の定義を、業界や有識者の方と協力して明確化したいと思います。

 今後、高齢者を受け入れてもいいという大家さんや不動産会社が増えていけば、R65不動産の役割は終わります。高齢者に住宅を貸すことが事業として有効だと思う会社が増えて、高齢者の入居に対する障害がなくなり、どこの不動産会社に行っても普通に賃貸物件が紹介できるような状態になれば、私もR65不動産を引退できると思います。

 

※1 東京都監察医務院では、自殺・事故死・死因不明死を「異常死」に該当するとし(病死とわかっている場合は「自然死」)、その内、自宅で死亡した人の一人暮らしを「孤独死」と定義している。

※2 2018年12月25日現在で登録物件数433件、登録戸数6,900戸。

 


 

山本 遼(やまもと りょう) 氏

愛媛大学卒業後、愛媛県の不動産会社に就職。入社2年目で東京支店設立のため上京。25歳で高齢者の賃貸問題を解決したい想いでR65不動産を設立。
主なメディア出演歴:朝日新聞、産経新聞、テレビ東京「ガイアの夜明け」、フジテレビ「とくダネ」、NHK「おはようニッポン」、NHK「首都圏ネットワーク」など。

 

 

 

 

株式会社R65

代表者:山本 遼
所在地:東京都杉並区荻窪4-24-18
電 話:050-3702-2103
H P:https://r65.info/
業務内容:65歳以上の高齢者の住まい探しを専門に行う不動産仲介会社。大家や不動産会社向けに、高齢者が入居できる物件のサイト運営や、高齢者の見守りと保険を組み合わせた「R65あんしん賃貸パック」を提供し、高齢者の入居斡旋を推進している。