株式会社長井事務所/新潟県新潟市
地域の安全性を確保する取り組み
<取材:2018年8月>
共助の気持ちで。
生活保護者の入居支援に尽力
新潟県独自の空き家対策事業モデルを構築
不動産業は人生相談業
─御社の事業内容について教えてください。
独立する前はハウスメーカーに勤めていましたが、宅建士の資格を持っていたことと、地元に貢献したいという思いから不動産業を起業しました。現在は宅地分譲、新築物件の販売、住宅リフォーム、賃貸仲介・管理を主な業務としています。起業当時は不動産業の実務経験がなかったため、ハウスメーカーでの経験を生かして新築住宅やリフォーム工事などの建築系の仕事をしていました。その後、近隣の人たちからアパートを借りたいといった相談も入るようになったため、宅建業の免許を取得し賃貸仲介業務を始めました。免許取得当初は教えてくれる人もあまりいなかったため、独学で業務を少しずつ覚えていきました。
社名は不動産の名称はつけませんでした。宅建業はハウスメーカーと違い、免許でできる業務の範囲が広い職業なので、お客様の相談には何でものれるようにしたいという思いで事務所という名称をつけました。また、不動産の仕事は人生相談であるという認識から、最近は一般の方の相続や債権の相談にも力を入れています。
生活保護者の住宅斡旋に取り組む
─生活保護者の入居支援に取り組んだ経緯を教えてください。
学生の頃から日本赤十字社の活動に共感し、救急員養成指導員の資格を目指して講習会に参加するにつれ、「人を助ける」という気持ちを強く持っていました。また、私が住む茜町の町内会長を14年、地域コミュニティ協議会の役員を10年、自主防災会にいたっては立ち上げから携り、今年で4年役員を務めています。このように、仕事とは直接関係ないところでもいろいろな活動をしてきました。
そうしたなかで、新潟県宅建協会新潟支部から生活保護者の入居支援業者の募集があり、登録をしました。実際に生活保護の方と話すと、南区や中央区、西区など市内への居住を希望している人が多かったため、知り合いの大家のもとへお願いに行きました。そして、新潟市には代理納付の制度があるので家賃は間違いなく入るということ、生活保護者とは私自身が直接面談をして審査するので「大家さんにはできるだけ迷惑はおかけ致しません」と伝えました。すると何人かの大家さんが賛同してくれました。ただやみくもに全ての大家さんにお願いするのではなく、上限3万5,500円という家賃設定を受け入れてもらえるか、物件の空室はどれくらいあるか、どれくらいの期間空いているかなどを把握したうえで、可能性の高い方にお願いに行きます。最終的な決め手になるのは、何よりも私を信用してもらえるかどうかだと思います。
─入居までの流れについて教えてください。
例えば南区を希望する人がいると、新潟県宅建協会からFAXが入るので、それをもとに新潟市の担当者と生活保護者に電話をします。電話を持っていない人の場合は、市の窓口で直接本人と会います。個人情報の問題もあり、市から事前にプロフィールを教えてもらうことはほとんどできないので、面談にあたっては、入居予定者の細かい部分のお話までお聞きします。同時に、会った時の自分の感覚も大切にします。また、出身地によって人の気質に差があるため、出身地も聞くようにしています。
最初の頃は知識や経験がなく苦労をすることもたくさんありました。例えば、入居後に本人が窃盗や喧嘩などをした場合は、すぐに生活保護が中止になり代理納付が止められてしまいます。それを知らなかったので、実際にそういう状況になったとき、大家さんとの話し合いは大変でしたし、その人に退去してもらうにはどのように通知したらいいのかすらも知りませんでした。賃貸借契約書の内容についても手探りで進め、経験を重ねていくなかで徐々に学んでいきました。
6年くらい前から生活保護者の入居斡旋をしており、今までの斡旋人数は60人くらいになります。残念ながらそのなかで1割くらいの人はトラブルを起こします。入居後、生活面については市役所の担当者が月に1回本人と面談してフォローをしてくれますが、1人で100人程度を担当しているため、なかなか手が回りません。当社の役割は賃貸物件の管理ですので、入居者からクレーム等が発生した場合は、直接現場に出向いたり電話で対応をしています。
生活保護者の入居にあたっては、代理納付制度が必須です。この制度が全国的にもまだ少なく限られていることを踏まえると、新潟市で導入されていることは大変ありがたいことだと感謝しています。ただ、先日出席した新潟県居住支援協議会では、何らかのトラブルを起こして退去を強いられた人の次の住居の確保をどうするかという問題が議論になっており、そのような課題が解決するにはまだ時間がかかると思います。これまでは、県営住宅や市営住宅などの公営住宅が社会的弱者のセーフティネットとしての役割を果たしていましたが、これからは縮小せざるを得ず、民間賃貸住宅にその役割を求めている気がします。今はその移行時期だと思いますので、今後、行政と民間がより密に意見交換をしながら、より良い方法を模索していく必要があると思います。
─社会的弱者に手を差し伸べる気持ちが強いのは県民性なのでしょうか。
明治時代、越後の国は日本で一番人口が多く、信濃川や阿賀野川が流れ、水が豊かなことから稲作が盛んに行われてきました。ただ当時は農業土木の技術もなく未整備で、川は三国山脈から流れ込んだ大量の水で毎年のように氾濫し、この地域の農民は胸まで水に浸かりながら米作りをすることもあったようです。
そのような厳しい自然環境の中で米作りをしていた先祖の苦労は、計り知れないものがあります。そうした歴史があるからこそ「困った人のために」という助け合いの県民性が生まれ、現代にも引き継がれているのではないかと思っています。
─町内会の会長を務めるなど、地域コミュニティの維持に尽力されています。
地域コミュニティの大切さは災害が実際に起こった時に感じるものです。日頃は町内会に何も起こらないことが一番です。しかしいざ災害が発生したときに初動対応できる“心づもり”が、コミュニティの中に備わっているかどうかが重要です。
新潟市では地域コミュニティ協議会を立ち上げ、災害時の対応について「自助・共助・公助」ということを呼びかけています。まず自分の身は自分が守らなければならないという意識をもち(自助)、次に地域で地域の人を守り(共助)、最後に、自助・共助ではできないことを「公助」で行うということを、町内会の皆さんに繰り返し伝えています。また、新潟市ではイオン㈱等と提携して大豪雨などが起こった場合の避難場所に指定していますが、災害時にはそのような場所に避難するとともに、お互いの呼びかけが大事だという事も繰り返し話しています。町内に住む身体が不自由な要援護者については、町内会長の私が把握し、対応することにしています。そのようなことから生活保護者の支援も自然な気持ちで行っています。
私は佐久間象山が残した「そしるものはなんじの そしるにまかす わろオものはなんじの わろオにまかせん てんこうもと われをしる たにんの しるをもとめず」という論語の一文を座右の銘にしています。日々の自分の行いは、将来必ず結果として残っていくと思います。そして、自分が生きているときに何をしたかを後生に伝えていければいいと考え、次の方にバトンタッチしていくことが私の役目だと思っています。
生活保護者の入居支援も特別なノウハウがあるわけではなく、人と人、心と心の繋がりです。そして最後は自分がなんとかする、自分がやるしかないという覚悟をもって取り組むことが大切です。そのために必要なやり方は、経験のなかで覚え、身に付いていくものです。
長井勝志(ながい かつし) 氏
昭和33年、“米どころ”新潟県新潟市に生まれる。高校卒業後、ホテル業、不動産業の職を経験し、平成15年に個人事業主である「長井事務所」を創業。平成24年に法人として「株式会社長井事務所」を設立。
地域活動では、茜町町内会長・白根コミュニティ協議会総務委員・白根地区中部防災会副会長等の役職を歴任。地域に密着した事業展開を行っている。
株式会社長井事務所
代表者:長井 勝志
所在地:新潟県新潟市南区鯵潟661 長井ビル
電 話:025-371-0007
H P:https://itp.ne.jp/info/154574036185351440/
業務内容:宅地分譲、新築物件の販売、住宅リフォーム、賃貸仲介・管理をはじめ、不動産コンサルタント、不動産投資顧問業、下宿、シェアハウス、留学生寮の管理、家電修理サービスなどを行う。生活保護者の入居支援や地域コミュニティの維持にも尽力している。