公益社団法人新潟県宅地建物取引業協会
地域の安全性を確保する取り組み
<取材:2018年8月>
生活保護者に対して
約1,000件の住宅を斡旋
新潟県独自の空き家対策事業モデルを構築
新潟県宅地建物取引業協会(会長:志田常弘氏)は、2009年~2019年3月までの約10年間で、新潟市の生活保護申請者に対して1,002件の住宅を斡旋してきた。当協会では社会貢献委員会を設置し、空き家対策を中心に、各種団体と連携してより良い地域社会を形成するため、積極的に地域活動に取り組んでいる。
住宅確保要配慮者への入居支援に取り組む
─生活保護者に対する住宅の斡旋について、どのような方法で会員の協力を得ていますか
渡辺氏:何らかの理由により経済的に困窮し、生活保護を申請する方が住まいを求める場合、居住しようとする地域の市町村が対応することが基本となります。しかし、市町村によっては他の地域に住んでいた人でも受け入れを行う場合があり、特に新潟市は積極的に生活保護者の入居支援に取り組んでいます。そこで、市から宅建協会に協力の依頼があった場合は、公益社団法人として行政や市民から信頼を得るための良い機会と考え、積極的に協力することにしました。
新潟県宅建協会事務局:宅建協会として生活保護者へ住宅斡旋の取り組みを始めた背景には、2008年頃より新潟市内でも賃貸住宅の空室率が目立ち始めたことと、その一方で、市では生活保護者の住宅確保に苦慮していた状況がありました。特に住宅の提供に関して入居を断られる件数が増加傾向にあったことから、市の担当者から当協会へ相談がありました。そこで、新潟市と宅建協会で打ち合わせを重ね、住宅費の上限金額、敷金等の基準、代理納付の適用と入居後の家賃支払方法、生活保護者が失踪・死亡した場合や入院した場合の取り扱い等について確認事項を取りまとめました。また生活保護申請から入居までのフロー図を作成し、具体的な受け入れの対応方法を詰めていきました(図1)。そのなかには通常の賃貸借契約とは違う部分、例えば、通常前家賃としていただくものが生活保護者の場合は当月払いであったり、敷金等についても、福祉事務所での診断会議で審査が通ってはじめて支給されるなど、一般の不動産取引の慣例とは違う部分もあります。
協力会員については、市との確認事項や例外的な項目について周知したうえで募ったところ、当初は三十数社が手を挙げてくれました。そこで、宅建協会で区毎に名簿を作成し、入居者の紹介の順番等のルールを決め2009年から運用を開始しましたが、実際に始めてみると、やはりリスクが高いと判断し協力を取りやめる会員も出て、常時協力してくれるのは十数社になりました。ただ当初から協力してくれたこれらの会員がいたからこそ、現在も協会として継続した取り組みができていると思います。その後、広報誌等を通じて、新潟市の生活保護者に対する居住支援を協会が行っている様子を継続的に会員へ伝えていったところ、賛同してくれる会員も徐々に増えていきました。
小林氏:各支部では、行政からの依頼があれば各会員がそれぞれ独自に住宅の斡旋を行っています。柏崎市では、生活保護者の場合でも一般の人とまったく同じように、住宅扶助として支給される家賃の範囲内で物件紹介をしています。私の経験からも、生活保護者への入居の斡旋は特段難しいことはなく、むしろ市から毎月決まって生活保護費が支給されるので家賃の滞納がありません。そのため安心して入居を進めることができます。
ただし、市町村によっては連帯保証人が必要で、さらに同一市町村の人でなければ駄目な場合や人数が2人必要な場合があり、特に2人となるとなかなか見つからないことがあります。しかし、最近は家賃保証会社を利用していますので、生活保護者の入居斡旋に関して業者がリスクを負うことは少なくなりました。むしろ、連帯保証人の確保の点では生活保護者ではなく外国からの留学生のほうが難しく、柏崎市には大学が2つあるだけに早急な対応が必要です。
渡辺氏:三条支部でも年間10件程度、市から住宅の斡旋依頼があります。その場合、三条市役所の福祉課が窓口となり生活保護者本人と面談し、希望する区域にある不動産業者を紹介し、本人が不動産業者を直接訪ねるという流れになっています。ただ、個人情報の観点から不動産会社には本人のプロフィールを事前に教えてもらえないため、物件の紹介に時間がかかることがあります。
実際、生活保護者の中には病院通いをしている人も多く、三条市の場合、公共交通手段が少ないため、病院までの距離やバス利用の可否などを考えると物件を見つけるのが難しくなります。また、精神に疾患を抱えている方の場合は紹介できる物件がほとんどありません。今後、取り組みが進んでいる新潟市や他市町村での対応について、行政と各支部が情報共有できれば、難しいとあきらめるのではなく、もっと具体的な支援ができるようになると思います。
三条市では市営住宅などの公営住宅に入居する場合、連帯保証人が必ず必要です。保証人には一定の所得が求められ、民間賃貸住宅より厳しい条件となります。また生活保護者のための特別枠があるわけではなく、一般の人と同様に抽選となることから、公営住宅への入居は非常に難しくなっています。
そうしたことを踏まえ新潟県宅建協会では、長年にわたり「民間賃貸住宅の公営住宅としての借り上げ」を新潟県および各市町村に対し要望しています。
小林氏:柏崎市から依頼があった事例ですが、障がいの程度が軽い人で、民間のアパートに住みたいと希望する4名の方を入居させられないかとの相談を受けました。4名は同じアパートに住むこと、日常の買い物をするために近くにスーパーがあることを希望しており、会員に協力依頼をしたところ住宅を斡旋することができました。彼らは昼間は施設の作業所で働いており、送り迎えは施設関係者が行い給料も施設から出ます。自炊や買い物も自分たちだけでできるし、日常の生活で困ることはほとんどない人たちです。人口8万5,000人の柏崎市には障がい者が約4,300人もいます。生活を送るうえでほかの人に迷惑がかかることがない限り、できるだけ健常者と同じ生活ができるよう支援をしていきたいと思います。
空き家対策に向けた新たなビジネスモデルの構築
─空き家問題については他県に先駆けて取り組んでいます。
渡辺氏:新潟県宅建協会では、空き家が全国的な社会課題になる前から積極的に取り組んでいます。平成25年・26年度においては、国交省の「空き家管理等基盤強化推進事業」に、宅建協会では全国で初めて選定されました。この事業では、消費者からの相談体制を、新潟県宅建協会、土地家屋調査士会、行政書士会等と連携して構築するとともに、宅建協会本部および各地域11支部と佐渡地区の計13カ所に相談窓口を設置し、県内全域で相談が受けられるようにしました。さらに相談員の育成にも力を入れており、マニュアルの作成のほか、相談業務の実務、空き家の解体、建物検査、リフォーム、管理等をテーマに研修会を実施し、研修を受けた会員を相談員にしています。
消費者から相談を受けた相談員は、マニュアルに基づき、売却依頼の場合は固定資産税評価証明書を提出してもらい、物件概要の聞き取りや現地調査を踏まえて査定価格の提示と媒介を取得し、承諾を得たものを空き家相談物件専用のホームページに掲載します。ホームページへの掲載件数は2014年から2018年12月までの累計で123件。さらに相談事業に基づき実際に成約に至った件数は68件、成約金額は1億7,308万円強、媒介手数料額は1,392万円強となりました。成約報酬のうち、5%を本部のホームページ維持費に、10%を各支部の物件調査費用に充当しています。
─空き家事業モデルとして「新潟県不動産流通活性化連携協議会」を立ち上げました。
小林氏:新潟ならではの空き家事業モデルを構築しようと、新潟県宅建協会ほか13の専門家団体と3金融機関、さらに新潟県および14市町村と連携し、空き家等に関する継続的な相談体制の構築、特定空き家等の継続的な調査体制の構築、そして空き家等を維持管理し資産価値を高め、中古住宅市場での流通を促進するために、2016年3月「新潟県不動産流通活性化連携協議会」(以下「協議会」)を設立しました。
協議会は平成29年・30年度の国土交通省の「住宅ストック維持・向上促進事業」に採択された任意団体になり、これまで培ってきた相談事業を一歩進める形で新潟県の住宅ストックの維持向上、評価、流通、金融等の一体的な仕組み作りを行っています。
具体的には、空き家の中でも良質な住宅を消費者に提供することを目指し、価格査定マニュアルに基づいた評価、インスペクションの実施、既存住宅瑕疵保険の加入、引渡し後の建物維持管理および住宅履歴の保存を条件にした「新潟R住宅」という住宅認定制度を立ち上げました。
さらに2018年10月からは、㈱大光銀行が“新潟R住宅連携商品”として「たいこうリバースモーゲージローンⅢ」を開始しました。これは、自宅を担保に老後資金やリフォーム資金として融資し、契約者が亡くなった場合には相続人に返済を求めない仕組みで、会員は協議会のシステムを使い、物件調査情報と価格査定額を入力すると、金融機関保証会社側で審査に必要な情報を取得できます。金融の仕組みが付加されたことで、高齢化社会を見据えて既存住宅の流動化がより進むものと期待しています。
─各市町村とも空き家の流通に関する協定を積極的に結んでいます。
渡辺氏:2011年9月の村上市との協定を皮切りに、県下30市町村のうち22の市町村と空き家の流通に関する協定を締結し※1、行政と各支部が連絡を取り合いながら空き家の流動化に向けて対応しています。また、空き家1件につき5万円を調査費として交付する市もあり、土地の物件調査、売却は宅建協会会員が行うなど役割分担をしています。
─どのような方が相談に来られますか?
渡辺氏:売買・賃貸の比率を見ると圧倒的に売買が多くなっています。購入者の地域はかなり広範囲で、東京や市外からの移住者や市内に住みながらセカンドハウスとして購入する人など多岐にわたります。
小林氏:柏崎市の場合、地域は6対4で県外からの購入希望者が多いです。また最近多いのが、子どもは大学進学で東京や関東に行き、大学卒業後そのまま就職して家も購入し、定住してしまう一方、両親は新潟の家に住み続けたのちに亡くなり、結果として、その実家が空き家になってしまうというケースです。実家を維持するためには固定資産税が発生し、年間の支払い負担も大きいことから、価格は安くてもいいから売りたいという人からの相談が増えています。相談者は帰省した際に実家の売却の相談に来るなど、年間を通して相談が入ります。
─新潟県の移住定住促進事業にも協力しています。
小林氏:総務省調べの移住相談件数を見ると、新潟県は2016年、2017年ともに長野県に次いで2位となっています。新潟県もUIターンセミナー、にいがた暮らしセミナー、UIターン就職・暮らしセミナーを積極的に開催するなど移住定住促進に力を入れています。セミナー開催にあたっては、新潟県からの要請に基づき新潟県宅建協会からも役員と事務局職員を派遣し協力しています。
新潟県に移住定住を希望する人のなかには農業を希望する方もいますが、最近は酒造りなどに興味を持っている方もおります。新潟の一大イベントとして3月に「にいがた酒の陣」が開催されますが、2018年の来場者は延べ14万人以上となりました。新潟県内はもとより東京や関東からも多くの方が参加しており、それだけ新潟の日本酒に魅力を感じる人が増えてきたと思います。
新潟県は食文化としてのお酒、お米が有名ですが、海も山もあり自然が豊かであること、新幹線が通っており東京から近いこともあり、新潟県庁を中心とした積極的な広報活動により移住定住の希望者が増加しています。
新潟県宅建協会のビジョンの策定
─社会貢献委員会を中心に社会問題の解決に取り組んでいます。
小林氏:生活保護申請者への住宅斡旋事業や、空き家の流通に関する協定以外に、行政とはこれまで数多くの協定や覚書を締結してきました(表1)。
特に災害協定については、宅建協会の中でも全国で初めての提携になります。これらの協定は宅建協会から要望をしたものもありますが、新潟県や市町村からの要請に基づいたものも多いです。
渡辺氏:新潟県宅建協会は2017年に「ハトマークビジョン2017」を作成しました。“誇れる職業への挑戦”をテーマに、これからの宅建業者は、社会が抱えている問題を解決する“問題解決業”になるべきで、そのためには高い専門知識をもつ人材へ進化しなければ生き残れないと考えました。協会としても、地域社会との連携、行政との連携、会員業務支援等の諸事業に着手しています。
小林氏:現在、宅建協会に最も対応が求められている社会的課題は、社会的弱者の入居支援と空き家の問題です。宅建協会が要望している民間賃貸住宅が公営住宅として借り上げてもらえれば、住宅確保要配慮者の入居確保と空き家問題の解決にもつながります。公益法人として、一丁目一番地のこととしてこれらの問題に取り組んでいきたいと思っています。
※1 2018年12月末時点
小林正行(こばやし まさゆき) 氏
1948年新潟県柏崎市生まれ。1971年中央大学経済学部産業経済学科卒業後、大手民間食品会社入社。その後、1995年に宅建業「株式会社アーク不動産」を開業し、代表取締役社長として、柏崎市の地域活性化のために不動産売買・賃貸業を行う。2010年より柏崎支部長、宅建協会理事(副会長)として、協会運営、社会貢献事業、国交省の住宅ストック維持向上促進事業の取り組みに尽力し、「1丁目1番地は空き家の流通」と位置づけ、手腕を発揮する。
渡辺 稔(わたなべ みのる) 氏
1957年新潟県三条市生まれ。1979年大学卒業後、不動産業に従事し、1996年三条市都市計画マスタープラン策定委員や三条市総合計画審議委員を務め、2010年から現在に至るまで(公社)新潟県宅地建物取引業協会理事として協会運営に携わる。新潟県との交流・定住促進のための不動産取引相談等に関する協定に基づくUIターン事業に注力し、新潟県の都市圏での相談事業に積極的に参加し、新潟への定住人口を増やすために一翼を担う。