住まい探しはハトマーク

福田和則 氏/株式会社エンジョイワークス

地域を魅力的にする取り組み

第4回次世代不動産研究会

<講演:2020年2月>

 

共感を集める仕掛けで
持続的なまちづくりを実現

“空き家再生プロデューサー”を育成し全国で自走させる

 

・「共感投資」のプラットフォームを創る

・これからの不動産業はどのように変わっていくべきか

・「共感投資」という考え方

・タッチポイントを増やし「共感」を集める

・「空き家再生プロデューサー」育成プログラム

・新しい「不動産業4.0」を目指す

・「共感」の可視化へ

 


 

「共感投資」のプラットフォームを創る

 当社は2007年に創業し、不動産の仲介や建築設計を中心に事業を展開してきました。ここ数年は不動産特定共同事業(以下、不特事業)やクラウドファンディングといったファンドの運営をはじめ、カフェやゲストハウスといった場の運営やまちづくりのコンサルティングなどを手掛けています。企業のミッションには「ライフスタイル(暮らし方、働き方、生き方)について自ら考え、自ら選択することのできる仕掛けを提供し、共創する機会を生み出すことで、持続可能で豊かな社会の実現に貢献します」ということを掲げています。そしてこのミッションを達成するため、“みんなで一緒にまちづくり!”を合言葉に、実験を繰り返しながら住民参加型のまちづくりにチャレンジしています。

写真1/バーベキューによるコミュニケーションの様子

 例えば不動産の仲介をする場合も、家を買いたい人にはまずまちづくりの仲間になってもらいたいので、物件紹介をする前にその地域の人たちのライフスタイルを知ってもらうようにします。例えばその手段として、バーベキューに参加してもらうことを通じて地域の皆さんと友達になってもらい、地域を気に入ったうえで物件を購入してもらいます。このように当社の仕事は、バーベキューに始まりバーベキューに終わります(笑)。家の設計の場合も同様に、できるだけお客様自身に手を動かしてもらおうと、家づくりノートを渡し、どんな家にしたいのかというコンセプトや図面を描き、模型も自分で作ってもらいます。当社の設計士はその過程ではなるべく手を出さず、最終的な確認図面に落とすところだけを行っています。そのような家づくりをすると、お客様が「オープンハウスをしたい」と言ってくれて、家を建てたいという人がいれば、お客様自身が説明し勝手に営業してくれるようなことが起こります。土地・建物を分譲する場合にも、開発申請等プロがすべきことは行いますが、その土地をどのように活用するかは、お客様に積極的に参加してもらい決めていきます。このように、ビジネスのプロセスにおいてできるだけ多くの人たちとコミュニケーションをとる機会を設け、その場にコミュニティや仲間が生まれるようにしています(写真1)。

 

 

これからの不動産業はどのように変わっていくべきか

 2017年の不特法の改正は、当社にとって大きな転機になりました。まず、2018年に小規模不動産特定共同事業者(以下、小規模不特事業者)に登録し、2019年には資本を増強して不動産特定共同事業者の資格を取得しました。またクラウドファンディングで投資家を募集することができるようになったことから、第二種金融商品取引業者の免許を取得し、不特法の3号と4号事業者の登録も申請しました。小規模不特事業者に登録した理由は、中小不動産業者でも空き家を再生する際に小口の投資を募ることができ、それを通じてプロジェクトに関係する人を増やすことができると思ったからです。さらに地域ごとに小規模不特事業者が生まれるようになれば、各地域の魅力に合った新しいプロジェクトの創出が可能になり、共感を幅広く集めることで地方でもお金が回る仕組みが成り立つと思いました。また、クラウドファンディングも単純な募集サイトではなく投資型にし、皆でまちづくりを目指せるような「共感投資のプラットフォーム」になることを目指しました。

 

(1)泊まれる蔵プロジェクト

写真2/女性たちの意見から生まれた“非日常を体験できる空間”

 小規模不特事業で、築100年以上の蔵を宿泊施設に改修した事例です。耐震調査をしたところ大きな問題はなさそうだったので、宿として活用することにしましたが、中の広さは上下合わせて20㎡しかないため、できることはある程度限られていました。そこで、コンセプトを“非日常を体験できる空間”とし、どのような施設にするかについては女性の皆さんと一緒に考えることにしました。そのためFacebookや Instagramで情報発信するとともに、女性に集まってもらうイベントを20回近く開催しました。イベントでは“この宿にどんなアートがあるといいと思いますか?”“どんなインテリアにするといいですか?”といったテーマを投げかけ、彼女たちから出た意見を積極的に盛り込んでいきました(写真2)。実際に“インテリア女子”の皆さんから出た“女子会がしやすい”という意見を採用して、2階のベッドは小上がりにしてマットレスを置くようにし、その土台を“DIY女子”の皆さんと一緒に作りました。また、ゲストハウスや宿の運営に興味のある“経営女子”の皆さんには、どのような運営をすればいいかについて意見をもらいました。参加した皆さんには、自分たちが宿づくりに関わったという意識を持ってもらえたと思います(写真3)。

 

写真3/宿づくりに関わった女性メンバー

図1/泊まれる蔵プロジェクトの事業スキーム

 改修費用は1,600万円かかりましたが、湘南信用金庫から1,000万円を融資してもらい、600万円はクラウドファンディングで集めました。それまで約2カ月半にわたり何回もイベントをしていたので認知度も高まり、クラウドファンディングは即日で募集が終了しました。投資をしてもらった37名の方には、3カ月に一度のレポーティングは当然ながら、オフ会のような形で集まってもらい、宿の稼働状況や売上げを説明し、課題の共有と今後の改善案について意見を出してもらいました。事業スキームは、当社が匿名組合営業者として月17万円の賃料を支払い7年の定期借家契約で蔵と駐車場2台のスペースを借り上げ、宿の運営をしている子会社の㈱グッドネイバーズが当社に月43万円の賃料を払い、その差額を元本の返済と投資家へのリターンにあてます。運用期間は4年2カ月で、リターンは年率4%で設定しました(図1)。

 

(2)桜山シェアアトリエ

 逗子や葉山はアーティストやクリエイターが多いところです。しかし、大きな絵を描くとか、彫金のために重たい重機を入れるとか、大きな音を鳴らしたいとなると、それが可能な場所が無いというのが彼らの悩みです。実際にそのような場所を探してほしいという相談もたくさんもらっていましたが、応えられない状態でした。そこで彼らを集め、どれくらの広さが必要で、幾らくらいの賃料なら払えるのかということをざっくばらんに語ってもらうブレスト会議を開きました。そこで出た意見は、作業スペースは5㎡くらいあればよく、共用部を設けそこにキッチンやシャワーがあればなおよし、そして自分の空間は自分でいじれるようにしたい、賃料は月2万円くらいならなんとかなる、というものでした。するとその後、借地権付きの物件で廃工場が売りに出たという情報が入り、早速見に行ったところ、5㎡の広さのブースが15程度設置でき、共用部も確保できそうでした。物件の価格は700万円で、そこに300万円かけて共用部等を整え、合計1,000万円の投資に対し、ブース当たり2万円で貸せば年間360万円の収入が見込めます。オーナーからは将来は建物付きで土地を売ってもいいといわれており、最終的な出口も確保できたので、個人投資家の皆さんに打診したところやってみようとなりました。話がまとまると早速クリエイターたちが集まって、勝手に間

写真4/桜山シェアアトリエ・投資家イベントの様子

仕切り等の作成を手伝い、自分たちの場づくりを始めだしました。妄想だと思っていたことが実現することになったので彼らのテンションが上がり、作業をしながら自分の借りる場所を決めていくようなことが起こりました。その結果、オープンする前に15ブースが全て埋まってしまいました。その後、オーナーがこの物件を売ることにしたのでファンドで購入し、投資家に出資してもらうことにしました。それまで3年間のトラックレコードがあったので年8%の高利回りで募集できました(写真4)。

 当社が募集する投資家には一緒に場づくりに参加してもらい、投資物件をより良いものにすることにコミットしてもらいます。この物件の場合も、若くてまだ食べていけないアーティストやクリエイターを応援したいという気持ちの方が投資してくれました。

 

(3)中銀カプセルタワーの保存・再生

 中銀カプセルタワーは黒川紀章氏が設計した世界的に有名な建物ですが、老朽化とアスベストの問題で取り壊すか保存するかで揺れています。ある日、十数戸の区分所有権を持っている方が、この建物をなんとしてでも残したい、そしてまだ収益を出せる物件だということを証明したいということで当社に相談に来られました。そこでカプセルをリノベーションし、マンスリーカプセルマンションとして賃貸したところ、現在、数か月先まで埋まっている状況です。この物件もファンドを組成して資金を募集しましたが、とにかくこの建物が好き、なんとしてでも残したいという人がお金を出しています。

 

(4)旧村上邸再生利活用プロジェクト

写真5/旧村上邸の外観

 旧村上邸は、1999年に鎌倉市景観重要建築物の指定を受けた建物です。村上梅子さんという方が、住んでいた私邸を市に寄贈されました。このニュースを知って、その建物が今後どう使われるのかが気になったので、勝手に地域の人を集め、どんなふうに活用したらよいかということを考えて発表し、意見交換するという会を何度も開きました。すると市がこの建物の保存活用方針を定め、運用事業者をプロポーザル方式で公募したのです。私たちは既に地域の皆さんと使い方について議論していたので、その内容を反映した案を出したところ事業者として採択されました。地域の人には市民活動や、能舞台があるので能の練習などに使ってもらいますが、それだけでは収入が足りないので、企業の研修所として貸し出しています。建物は2029年までの定期借家契約で当社が市から借り上げ、市が耐震補強を行ったのち、900万円程度かけてリノベーションを実施しインテリア備品を整えました。改修の費用はファンドを組成し、利回りは2~8%の幅で運営成果に連動する設定で投資家を募集しました(写真5)。

 

(5)五條楽園エリア再生プロジェクト

写真6/五條楽園エリアに建つ2棟の町屋

 京都駅の北側に、昔の赤線エリアで、遊郭が並んでいた五條楽園というところがあります。ここに建つ2棟連棟の町家を改修し、ダイニング施設と宿泊施設とシェアオフィスを備える複合施設にしました(写真6)。このプロジェクトは知られざる京都、「UNKNOWN KYOTO」と命名し、㈱八清と㈱ONDとの3社で進めました。このような複合施設を運営するためにはコミュニティマネージャー、いわゆる“おかみ”が必要ですが、3社とも適任がいなかったため、一緒にプロジェクトに参加してくれる人を探すイベントを開催することにしました。するとたくさんの人が参加してくれて、その中から2名に決めることができました。イベントはこの2名を中心にその後も継続し、これまで計15回ほど行っています。まずこのエリアのことを知るために、既にこの辺りに住んでいる若者に話を聞いたり、地元の人たちと積極的につながろうと一緒に高瀬川の清掃をしたり、夏祭りに参加させてもらったりということを地道に行ってきました。すると、2軒隣の元遊郭のおかみさんから2階を使ってほしいと声がかかり、本池中という屋号で4部屋のシェアオフィスを先行オープンすることができました。

 

図2/「UNKNOWN KYOTO」の事業スキーム

 リノベーションについては、遊郭建築を象徴するものは極力残し、耐震補強はオーナーが行いました。施設の運営母体は3社で有限責任事業組合(LLP)を設立し、そこが匿名組合営業者から設定賃料で建物を借り上げます。また、資金調達については、まず建設協力金として3社が1,000万円ずつ出資し、そのうえで静岡銀行から1,000万円の融資を受け、さらにファンドを組成し当社が営業者になり、年率3%の設定で140名の投資家から4,000万円を集めました。この場合も投資家の皆さんには事前に来てもらい、試食会などを重ねながら施設運営についていろいろな意見をもらいました。既に投資家同士も仲良くなり友達のような関係になっています(図2)。

 

 

「共感投資」という考え方

 このようなプロジェクトに投資した人たちにその理由を聞いてみると、まず最初に挙がるのが事業者及び事業への共感です。また、事業に参加できるからという人も多く、イベントなどを通じて事業を作っていくプロセスに参加できるし、事業開始後も施設の運営にも関わることができ、いろいろな人に会ったり、仲間ができるということも大きな魅力のようです。さらに面白いのは、いずれは将来自分でカフェや宿を運営してみたいと思っている人が多いという点です。私たちのファンドは一口5万円の単位ですが、彼らは5万円払って3カ月に一度レポートをもらい、オフ会にも出られるので非常に学べる機会が多いという捉え方をしています。投資リターンについてはあったらいいくらいの感覚で、むしろ社会的・環境的インパクトのほうを重視しています。

 このように当社のプロジェクトは、事業に関わりコミットする人を増やし、共感を得て、その結果お金が集まるという仕組みです。そのため事業に参加できる“仕掛け”が非常に大事になってきます。

 

 

タッチポイントを増やし「共感」を集める

図3/参加型クラウドファンディングにおける仕掛け

 「ハロー!RENOVATION」という名称で、空き家を活用した地域のスモールビジネスと共感投資家をマッチングするプラットフォームを運営しています。それは、事業への参加の仕掛けと、投資型クラウドファンディングを組み合わせた「参加型クラウドファンディング」という仕組みです。一般的なクラウドファンディングは事業者や事業内容と投資リターンだけが示されますが、それだけだとタッチポイントは限られます。私たちは、プロジェクトの概要を示し、それに対してアイデアを投稿してもらうことから始まり、イベントに参加してもらうとか、実際に投資してもらうとか、その後、その場所に遊びに来てもらうなど、いろいろなタッチポイントを用意して共感を集めています(図3)。

 現在、「ハロー!RENOVATION」に登録している会員はおよそ5,000人で、実際に投資した人は約420人になります。そして、その内7割くらいの人がいずれは自分が事業をする側になってみたいと思っています。この結果を見ると、プロジェクトの投資家(サポーター)の中から次の新しいプロジェクトのリーダーが生まれるという連鎖ができる可能性を感じます。そうなれば私たちが目指す持続的で自走式のまちづくりが実現します。

 

 

「空き家再生プロデューサー」育成プログラム

 現在、松本市の蔵の活用や葉山町の古民家の活用などのプロジェクトを行っていますが、そのような連鎖を導き、日本全体に広めていくには私たちと同じような役割ができる人材が必要です。そこで昨年から、「空き家再生プロデューサー」の育成に取り組み始めました。空き家の所有者と地域の起業家と共感投資家をマッチングしたり、プロジェクトのファシリテーションができるような人材を増やすために、いくつかのプログラムを進めています。また、これは地域の協力なしでは絶対にできないので地元の自治体や金融機関の方にも声がけをしています。プログラムは3つのコースがあり、ベーシックコースは2日間で、まちづくりの手法とそれを実現するためのツールに関する講義を行い、ワークショップをしながら自分のまちで事業を行う際の模擬体験をします。昨年は10都市で実施し、92名が参加しました。京都府南丹市美山町では茅葺職人の受講者がいましたが、彼は茅葺きの家を残したいと、宅建士資格はもちろん証券化マスターの資格までとり、3軒を購入し宿泊施設にして運営しています。また、アドバンストコースは、不動産会社や宅建業免許を持つ建築会社が資金調達の手段を得るためのプログラムや各種プレイヤーと連携した事業の組立て方を学びます。そしてスペシャルコースは、アドバンストコースの実践編として鎌倉の当社の事務所に2週間来てもらい、プロジェクトの実現を目指します(図4)。

図4/空き家再生プロデューサーの役割とは

 さらに講義の内容がWebで見られる「ハロリノノート」という支援ツールを作り公開しています。ベーシックコースの講義の動画やワークシートなどが閲覧でき、さらに参加者同士でコミュニケーションがとれる機能もあります。今はとにかく一緒に取り組んでくれる仲間を増やすことを最優先に考えているので全て無償で提供しています。

 これからは、お金の面でも人材の育成の面でも、地域の中で自立して進めていける仕組みを作らないといけないと思います。地域の中でプレイヤーを発掘し、最初は当社が関わりますが2年、3年後に私たちが抜けても自走していけるようなプログラムになるようにしたいと考えています。

 

 

 

 

 

 

新しい「不動産業4.0」を目指す

 そして、地域の“空き家再生プロデューサー”には不動産業者になってもらいたいと思っています。なぜなら、不動産業者は数も多いし、地域のネットワークを持っているし、金融機関との付き合いもあります。ただそのためには従来の不動産業者ではなく、“ニュー不動産業者”になる必要があると思います。不動産の仲介や管理を行っている業者を「不動産業1.0」とすると、設計や施工、開発や分譲などをしている業者は「不動産業2.0」、そしてみずから店舗や施設等の運営を行い、地域のスモールビジネスの開業や運営についてのコンサルティングができる業者は「不動産業3.0」という位置づけになります。そしてそのようなスキルを全て持った上で初めてファンドの運営ができることから、小規模不特事業者など資金調達手段を提供できる業者が「不動産業者4.0」となります。ただ一方で、小規模不特事業者は資本金を増強し、国に必要事項を申請すれば登録できます。すると形式さえ整えれば不動産業者4.0になれるのか?という疑問が生じます。決してそうではありません。地域のコミュニティ作りは、地域の皆さんとの関わりや信頼関係がないとできません。やはり1.0や2.0の仕事を地域でやっているというベースがあって初めて、3.0や4.0という存在になれるのだと思います。

 

 

「共感」の可視化へ

図5/スコアによる共感の可視化

 私たちはプロジェクトを行ううえでタッチポイントをたくさん設けていますが、参加した人たちがブログを読んだとか、イベントに参加したとか、投資をしたという行動データを蓄積し、共感スコアという形で可視化しようと思っています。このスコアは実際に行動を起こした事実の積み重ねなので、将来的に、共感スコアが溜まっている人には、こんなプロジェクトがありますとレコメンドすることができるようになります。一方、空き家再生プロデューサーや起業家たちには、集まったスコアから共感を得やすい事業計画にはこんなやり方があるとアドバイスしたり、今の運営方法をどのように変えればいいかということが分析できるようにするなど、皆で活用できるようにしたいと思っています(図5)。

 

 

[写真および図版は全て株式会社エンジョイワークス提供]

 

 


 

福田和則(ふくだ かずのり) 氏

1974年兵庫県生まれ。外資系金融機関勤務を経て、2007年㈱エンジョイワークスを設立。行政や事業者任せにしない「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイルの実現をテーマに、不動産および建築分野において事業展開を行う。また、空き家・遊休不動産の再生・利活用プラットフォームであるユーザー参加型Webサービス「ハロー!RENOVATION」をリリースし、「まち」「ひと」「お金」の新たな関係性の構築に取り組む。