東京大学空間情報科学研究センター「次世代不動産研究会」
地域を魅力的にする取り組み
研究会の開催趣旨について
東京大学空間情報科学研究センター
特任教授 清水千弘 氏
2019年4月、東京大学空間情報科学研究センター内に不動産科学研究部門が発足しました。新しいテクノロジーやビッグデータを使い、不動産価格や賃料のほか、ハザード情報や権利関係など、不動産や居住空間に関する情報の基盤整備と“見える化”を行っています。
「次世代不動産研究会」を立ち上げた目的は3つあります。最近、不動産とテクノロジーが融合した不動産テックや、金融とテクノロジーが融合したフィンテックなどが注目されています。このような新しい産業が生まれる場合にはその裏側に必ず何らかのイノベーションがあり、それが進化して新しい産業の姿が見えてきます。その時のテクノロジーというのは、必ずしもAIやICTを使って何かをするということだけではありません。不動産の世界でも、リノベーションという手法を使って不動産を再生する技術、改修した不動産を地域と融合させながらまちづくりに生かしていく技術、公共とタイアップし、公共空間を利用し管理する技術、クラウドファンディングを使ってお金を調達する技術などが生まれ、今までのルールや仕事のやり方では実現できなかったことが具現化するようになってきました。そのようなテクノロジーを集積して社会に発信していくことが1つ目の目的です。
では、そのような技術が生まれてくると社会的にどのような変化が起きるでしょうか? ある大手ポータルサイトのビッグデータを分析したプロジェクトによると、日本を1キロメッシュに切っていくと、企業が活動し人間が住んでいるところはおよそ10万カ所ありますが、その中で、大手のポータルサイトが営業エリアとしてサービス提供できているのは4万メッシュしかありません。つまり、残りの6割はコストがかかり過ぎて割に合わず、その地域の人たちに対して求人や住宅サービスの提供ができないということになります。そこで、今のビジネスモデルや技術、費用対効果ではリーチできないけれど、新しいテクノロジーにより、不動産業が、空き家のような各地域にある社会課題を解決できるようになることを目指すべきだと考えました。これは、当研究会に“次世代不動産”という名前を付けた想いでもあります。
3つ目は、それを実行できるのは誰か、ということです。学者ができることは新しい技術の一般化や教育体系をつくることです。行政ができることはそれを邪魔しないように、枷になる規制があれば変えていくことです。そして産業界ができることは、それをボランタリーではなくビジネスとして育てていくことです。そうなると実行主体はやはり不動産業界ということになります。彼らが新しいテクノロジーを修得することによって、新しい付加価値をつけ、必要な資金を調達し、社会に還元し、お金も回っていく産業を創っていかなくてはなりません。そこで、産学官で研究会を開き、事例を集め、それらを一般化し、最終的には教科書を作って広く普及していきたいと思っています。