住まい探しはハトマーク

公益社団法人岡山県宅地建物取引業協会

地域の安全性を確保する取り組み

<取材:2019年11月>

 

「平成30年7月豪雨災害」を振り返る

重要なのは初動の早さ。情報ルートの整備と行政との関係性が役に立つ

 

2018年6月28日から7月8日にかけて、台風7号および梅雨前線等の影響による記録的大雨となり、堤防の決壊による浸水等により岡山県は大きな被害を受けた。公益社団法人岡山県宅地建物取引業協会(以下、岡山県宅建協会/会長:山上健一氏)は災害発生翌日から岡山県との災害協定に基づく協力に向けて動き始めた。岡山県宅建協会と会員の活動について記録する。

 

・平成30(2018)年7月豪雨災害の被害の状況

・日頃のコミュニケーションや情報ルートの整備が役に立つ

・現場で感じた強みと課題

 


 

平成30(2018)年7月豪雨災害の被害の状況

〇被害状況

 台風7号および梅雨前線等の影響による記録的大雨により、堤防の決壊による浸水等が発生。その結果、家屋への浸水および土砂災害が広範囲に起こり、全半壊および一部損壊の数は9,000棟以上にのぼり、岡山県内では平成最悪の豪雨災害となった。特に倉敷市真備町では小田川などの堤防の決壊により広範囲が浸水。浸水面積は約1,200haで浸水深が5m程度になるところもあり、全壊棟数は約4,600棟に及んだ。

 

〇民間賃貸住宅借上げ制度(みなし仮設住宅)について

 岡山県では、災害により住居が全壊等の被害を受け、自らの資力では住居の確保ができない被災者に対し、民間賃貸住宅を借上げ被災者に供与する事業を実施。対象となる地域は、災害救助法が適用された岡山市や倉敷市をはじめ21の市町村※1に及んだ。

 

〇岡山県宅建協会による実施事業

  • 協会が運営する不動産情報サイト「住まいる岡山」※2からの民間賃貸借上げ住宅の物件情報提供
  • 会員業者向け民間賃貸住宅借上げ制度説明会の開催(岡山会場、倉敷会場)
  • 行政との対応協議、折衝、問い合わせ
  • 行政に対する書式や制度に関する情報提供および意見交換・書式作成協力
  • 会員業者への情報提供および問い合わせ対応
  • 岡山県への物件情報登録状況報告
  • 被災者に対する住宅相談会への相談員派遣
  • 賃貸借契約書の①会員業者からの受付け ②県庁への送付 ③県庁からの返却受け取り ④会員業者への返却(その際「民間賃貸住宅での入居のしおり」※3を添付し、入居中のルールを徹底するようにした)

 

 

 

 

〇民間賃貸住宅借上げ制度の円滑な協力に向けての注意点

①事前の備え

  • 災害に強い事務所や賃貸住宅を作る
  • 災害時の社内の意思決定方法を取り決めておく
  • 書類や物件情報等の保管と利用
  • 入居者や家主との連絡方法の確保
  • 備品や物資の供え(一般的な備品等に加え、発電機、燃料、蓄電池等)
  • 民間賃貸住宅借上げ制度の理解
  • 民間賃貸住宅借上げ制度の対応物件のピックアップ(エアコン等の設置状況の確認)
  • 民間賃貸住宅借上げ制度に関する行政等との連携体制の確認

②災害発生時および直後の対応

  • 二次被害への備え
  • 移動や通信手段の確認
  • 入居者や家主の安否確認
  • 物件の状況確認(民間賃貸住宅借上げ制度用の物件に限らず。今回の水害では利用の可・不可の判定がわかりやすかったが、地震の際は要注意)
  • 民間賃貸住宅借上げ制度の対象物件情報提供(家主への制度確認と了解の取得)
  • 民間賃貸住宅借上げ制度の利用者対応

③災害発生から1週間前後

  • 民間賃貸住宅借上げ制度の申込み対応

④災害発生から2週間前後

  • 民間賃貸住宅借上げ制度の契約対応

 

 

日頃のコミュニケーションや情報ルートの整備が役に立つ

大森明彦 氏                                  

副会長・倉敷支部長  

株式会社コメンド オオモリ

代表取締役

川西保幸 氏                             
株式会社アクシアワン
代表取締役  
 

─災害発生から初動までの対応について教えてください。

大森氏私の事務所は同じ倉敷市でも真備町から離れた児島というところにあるため、河川の氾濫等の状況はテレビの映像で見ていました。もともと真備町は吉備郡にあり経済文化圏は総社市に近く、協会においても備中支部に所属していましたが、平成の市町村合併で倉敷市に編入されたため地理勘に疎いところがありました。そんななか災害が発生し、すぐ事務局から「週末に真備の小学校の体育館に設置された避難所へ相談員を派遣してほしい」と連絡が入りました。岡山県は“晴れの国”といわれるくらいこれまで災害がなかったため、役員に連絡しても皆ピンとこないようで、みなし仮設住宅のこともあまり理解していませんでした。しかし、10名前後の人を揃え、かつ相談員として理解力があり賃貸物件をある程度持っている人をピックアップし、チームを組む必要がありました。実際に彼らのスケジュールを押さえるのに苦心しましたが、「それなら予定していた取引を延期します」とか「今日は被災した友人の応援に来ているので、明日なら大丈夫です」と言ってくれる役員もいて、依頼したメンバーがほぼ全員快諾してくれたので大変勇気づけられました。とはいえ、その時点ではみなし仮設住宅の条件が明確になっておらず、相談会前日の金曜日にようやく内容が決定されるという状態でした。さらに市の職員からの情報で、橋が通行不能になっていることや激しい交通渋滞があるため、ふだん30分で行けるところが2時間かかるということが判明しました。そこで、土地勘のありそうな役員に電話をしまくりながら、人の配置と集合場所を決めて、当日は車に乗り合わせて避難所にたどり着きました。

民間賃貸住宅借上げ制度の手続きの流れと入居の流れ

 相談員には「対応の方法はある程度自由に判断していいよ」と伝え、不明な点は事務局や自治体の職員に聞きながら進めていきました。通常、協会で実施している無料相談会では、相談者を自分のお客として取り込んではいけないというルールがありますが、この時はいかに早く避難所から一般の住居に送り出すかが大事でしたので、逆に「積極的に物件掲載業者を紹介するなり、自社の物件を紹介するなりしてくれ」と指示を出しました。

 

川西氏災害の翌朝は、お店が開く10時前には、既に「アパートに入りたい、自分の住む場所を確保したい」というお客様が来店されていました。通常は申込みいただいてから入居まで最短でも1週間程度みていただきますが、翌々日には入れるような物件を順次紹介していきました。特に夏場だったので、避難所の体育館はエアコンもなく、窓を開けると蚊が入ってくるためにまったく寝られない状況で、とにかく早くしてあげないといけないという思いでした。

 私も真備町の様子をテレビで見て、自分が紹介したお客様のアパートが浸かっていることがわかり、その方々の状況や、その地域にいる家主さんの様子をすぐに確認しなくてはということは頭の中にあったのですが、これほど多くの方が直接店まで家を探しに来るということは想定外でした。特に真備町は戸建ての持ち家の方が多く、アパート暮らしをしたことがない人や、年配の人が多かったことから、まずお店に探しに来ましたという方が多かったと思います。

 最初の3週間ぐらいは内見の案内はまったくできず、物件を見ずに決めてもらいました。被災者の皆さんも、もしここで決めなかったらその後どうなるかわからないという不安を持っておられました。実際に9時に出社したら電話が入り「この物件空いてますか?」「空いてますよ」「よかった、決めたいので10時に行きます」「わかりました。押さえておきますね」とやりとりしたあと、開店した10時に別の方が飛び込みで来て、同じ物件を借りたいと言ったこともありました。

 

大森氏川西氏もそうですが、相談員の皆さんは、自分のお店の中がひっくり返っている状況のなかで、本当によく来てくれたと思います。また、多数の物件を出してくれた会員の中には、何日間も昼食抜きで、夜も遅くまで被災者に粘り強く向き合ってくださった方もいたと聞き、感激しました。

 

川西氏岡山は“晴れの国”という認識があり、水害が起こるなど想像したこともありませんでしたので、みなし仮設住宅のことも詳しくは知りませんでしたし、それを理解する以前に支援が始まったという感覚でした。

 

─協会としてはどのような動きをしたのですか。

道下氏みなし仮設住宅の実施に向け、斉藤氏と一緒に、7月10日に県との情報交換を開始し、3日後の13日には制度が開始されました。制度開始の日の午後に県による説明会があり、説明を受けた制度の内容を持ち帰って、その日の深夜から14日の早朝にかけて一斉に会員に情報を流しました。そして、15日には現地避難所で相談対応をすると同時にインターネット上で物件情報の提供を開始したという流れで、短期間にスピード感をもってスタートすることができたと思います。それでも会員業者からは「決定が遅い、本気でやっているのか」といったお叱りをいただくこともあり、なかなか厳しかったですね。

道下忠美 氏                                 

専務理事 

宅栄企画 代表  

 

川西氏借り上げの条件が決まってから、大家さんには1件1件電話で確認して了解をとりました。ほとんどの方が全員みなし仮設住宅として貸し出すことにOKしてくれましたので、受け入れることが決まったところから順次入居してもらいました。大家さんのところへ行けたのは、1カ月ほどが経ってからだったと思います。

 ただ、この地域は大手ハウスメーカーが管理している物件が多く、当時はメーカーごとの対応がまだ決まっていなかったことから、現場としては紹介をしたいがメーカー側が受け入れてくれるかどうかわからないので決められない、という状況がありました。

 

災害から約1カ月の間に40本近くのメールが事務局より発信された

大森氏借り上げの条件が決まってから短期間で対象物件を「住まいる岡山」に登録しなくてはならない状況でしたが、事務局が事前に登録システムの改修を進めてくれていたおかげで、敷金条件が違う物件もいちいち変換せずに、ボタン1つで、みなし仮設住宅のコーナーに飛ばせる仕組みになっていました。その結果、登録作業がとてもスムーズにできました。また、岡山県宅建協会の会員は約1,300社いますが、その内900会員がパソコン会員としてメールアドレスを登録済みだったので、重要な内容を一斉送信することができてとても助かりました。

 

川西氏避難所の相談会にパソコンを持って行くと、既に30人程度が並んでいました。資力のある人やスマホ等で自分で探せる人はそれまでの1週間で住まいを決めていたので、相談会には高齢者や自分で探せない人が多く来ていました。そこで制度の内容を一通り説明し、パソコンを見せながら気に入った物件があればその業者のところに電話してどんどん振っていきました。

 ただ、障がい者の方はまったく動けず、相談会に来て初めて借上げ制度の存在を知り、自分たちも借りられる家があることを知ったようです。その中に聾者の夫婦がいましたが、最終的に当社に来てもらって物件を紹介しました。やはり被災者の間にも情報に格差があることを感じましたし、もう少し早く情報を伝えていればもっと早く対応ができていたのではないかと思います。また、若い人は車で移動できるので立地条件をあまり気にせずに物件を選べますが、車がない人や高齢者はそうはいきません。生活の利便性がいいところを求めますが、物件が少なくなっている状況のなかで見つけることは難しかったです。今回の場合、郊外型のまちづくりがあだになってしまったと感じました。反面、障がいを持つ方や高齢者の入居は通常の場合は難しいものがありますが、今回は借主が県だったため断られることはなく、斡旋しやすかったのはよかったと思います。

 

道下氏避難所の相談会には、倉敷支部の役員を主体に入ってもらいましたが、最初の頃は会長をはじめ私も含めた岡山地区の役員も入りました。しかし、我々の場合は岡山市の業者なので、相談会で希望の場所を聞いても土地勘がなく、うまくマッチングできなかったこともありました。

 

川西氏真備町の多くの方が隣接する総社市の工業団地に勤務しているので、仕事の関係で総社市の物件を希望する方がたくさんいました。また高齢者の方も、倉敷市はよくわからないけど総社市なら慣れているし、まちの様子がわかるからという理由で総社市の物件を希望する方が多かったのですが、みなし仮設住宅の募集が始まった頃には総社市の物件はほぼ全部埋まっていました。

 

─行政との対応で困ったことはありますか。

道下氏:当初は、借上げ住宅の条件にある「昭和56年6月以降に建てられた新耐震基準の物件」ということがネックになりました。被災地でも旧家でしっかりした建物もあり、なんとかならないかと交渉したところ最終的には耐震基準を外してもらえましたが、後追いで条件が変わるため周知するのに苦労しました。そのため、最初の頃は「その物件は対象になりません」とお断りをした方もいてかわいそうなことをしたなと思いました。

 

大森氏相談会の現場には市の職員もいるのですが、細かいことを聞いてもわからないため、「今すぐ県に聞いてほしい」とお願いしたことが何回かありました。耐震基準以外にも、みなし仮設住宅の適用がされる前に契約した物件も遡及して対象になったことや、2世代、3世代で住む大家族が数カ所に分かれて入居した場合もそれぞれ借り上げ住宅の対象になるといったことなど、被災者にとってありがたい内容が後付けで次々と決まっていきました。

 

─災害から1年が経ち、退去時のことを考えなくてはなりません。

川西氏協会事務局から契約書が返ってくるときに「民間賃貸住宅での入居のしおり」を一緒に送ってくれたので、入居者に「後でじっくりと読んでください」とわたしました。初めて賃貸アパートに住む人が多かったので、このような案内がわたせたのは退去時のトラブルを減らす意味でもよかったと思います。

 実際に退去者も出始めていますが、皆さん綺麗に部屋を使ってくれています。当社も以前から真備町の物件の紹介をやっていましたが、良い意味で田舎の人が多く、とても常識的な人が多いことが要因かもしれません。もともと戸建てに住んでいてペットを飼っている方も多かったですが、部屋を汚さずに退去していただいています。

 

大森氏入居後の見守りは、市が50人くらいの体制でやってくれるので安心です。ただ、2年間で契約が終了し継続して入居を希望しても、物件によっては賃料が1万円上がるというようなケースが出てくるかもしれませんし、民賃としての通常の入居審査は行っていませんので、退去したあと、新たに家を借りるのが困難な人が出てくる可能性もあり、行政と話し合いを始めているところです。

 

道下氏真備町は古くからの住宅地と新興住宅地が混在していて、新興住宅地のほうは保険が下りるので建て替えがどんどん始まっていますが、古い地域は金銭的な支援がないと復興には時間がかかるかもしれません。

 

大森氏今回の災害は、地盤が緩いとか山が崩れやすいといったものではなく、川の決壊が原因なので、堤防さえ強固になれば安心ですし、総社市という雇用の場が至近距離にあり、岡山市街地や倉敷市街地にもアクセスが良い点から、真備町の住民はいずれ戻り、地域のコミュニティが復活する可能性が高いと思います。

 

川西氏ただ、建て替わった新築アパートは前の賃料水準より高くなりましたのでなかなか埋まりにくい状況です。

 

─振り返ってみて、よくできたことと課題として残ったことを教えてください。

斉藤氏相談会の相談員派遣について、本部で枠組みだけ整えて支部長に投げると、あとはすべて手配してくれ、現場でも臨機応変に対応してもらったのでとても助かりました。また、県や各市の担当部署とも日頃から連携がとれていたので、比較的スムーズに仕事ができたと思います。

 課題としては、被災してから2週間は人手が最も必要なので、例えば、被災していない他の宅建協会からの人的支援が受けられるような体制があれば助かると思います。

 

大森氏岡山県宅建協会の事務局や各会員が総力を挙げて頑張った結果、ざっくりとですが、岡山県におけるみなし仮設住宅3,200戸のうち、約半数の1,600戸を当協会でお世話することができました。そこまで実績が上げられた要因は、「住まいる岡山」の登録システムが非常に使いやすいものになっていた点や、約7割の会員のメールアドレスを把握していたことで、本部と役員と会員との連絡体制を組むことができ、直接メールでやりとりしたり、必要事項を逐次一斉送付できた点があげられます。そして何より、急な招集にもかかわらず、愚痴もこぼさず相談対応にあたってくださった役員や、多数の物件提供をし、入居までの丁寧な対応に尽力してくださった会員の皆さんの協力がなくてはできなかった成果だと思います。緊急時の備えとしては、各役員が、会員の営業地域や賃貸物件の取り扱い状況とストック量などについて知っておくことや、相談対応にあたる役員の選定準備をしておかなければとの思いを強く持ちました。今回、行政担当者の方も大変なご苦労だったと思いますが、県と市の職員間でのコミュニケーション不足を感じました。

 また、借上げ住宅の基準が、当初の厳しい内容から途中で何点か緩和されたのはよかったですが、それによって現場の混乱や二度手間が発生したことが印象的でした。神戸の震災など、過去の災害から今回の西日本豪雨災害までのデータや経験・問題点を分析して、即利用可能な借上げ住宅制度のパッケージを作っていただければと思います。

 

川西氏基本的なことですが、現場では入居者の連絡先を普段からきちっと管理していたおかげで安否確認が比較的早い段階でできました。大家さんについても同様で、関係性を日頃から築いていたおかげで、物件の状況確認や、みなし仮設住宅の承諾が電話1本でできました。

 ただ、お店に来る被災者の状況はまちまちで、命も助かって、家も床下浸水ですみましたという方もいれば、泣きながら悲痛な思いを話される方もいます。そのような話を聞くと、どこまで寄り添ってあげればいいのか、物件が見つからずそのままお帰りいただく場合など、どう割り切ればいいのか、判断が難しいところもあると思いました。

 

※1 災害救助法が適用された市町村は、岡山市、倉敷市、津山市、玉野市、笠岡市、井原市、総社市、高梁市、新見市、瀬戸内市、赤磐市、真庭市、美作市、浅口市、和気町、早島町、里庄町、矢掛町、鏡野町、西粟倉村、吉備中央町。総社市および津山市は事務委任で事業を実施。

※2 岡山県宅建協会、岡山県不動産協会、全日岡山県本部が共同で運用している。

※3 2013年全宅連不動産総合研究所作成。

 

 

現場で感じた強みと課題

(公社)岡山県宅地建物取引業協会 主任 斉藤誠人 氏

 

─今回の災害時対応を振り返ってみて、よかったと思えるのはどのような点ですか。

 まず、当協会が運営している不動産情報サイト「住まいる岡山」をうまく活用できた点です。東日本大震災、熊本地震等、他地域で起きた大規模災害を踏まえて、簡易なシステム改修で「住まいる岡山」からみなし仮設住宅の情報提供ができるようにしていました。そのおかげで会員業者が物件登録をスムーズに行うことができ、被災者への物件情報提供がタイムリーにできました。

 また、行政の担当部署とは普段から担当レベルで関係性を構築していたため、信頼関係のうえで事業を進めることができました。岡山県住宅課は、当協会が事務局を受託している岡山県居住支援協議会の担当課で、平成24年に「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定」を締結したあとも、継続して災害発生時の対応方法や課題に関する意見交換を行っていました。岡山市や倉敷市の住宅課とも同様の関係を構築できていたことは、事業を円滑に進めるうえで大きかったと思います。

 

─一方で、課題として感じた点はどのようなことでしょうか。

 まず、制度に対する準備不足があげられます。県や市とは事前協議は行っていたものの、具体的な借上げ住宅の条件(家賃等)や契約書等の書式の用意まではできていませんでした。そのため、会員業者に対してすぐに物件提供を呼びかけることができませんでしたし、会員への周知文も発災後新規で作成したため、時間的なロスがありました。

 制度面では特に損害保険の整備が不十分で大きな問題を生じました。県が包括契約を締結するまでは、仲介会社が取り扱う保険を利用することができましたが、実際には保険契約者である県からの入金が無いと保険が始まらないなど、保険の申し込みから補償の開始までタイムラグが生じ、実務上は利用が困難でした。そのため、最初の一週間程は被災者に入居を待っていただくケースが発生し、県が包括契約を締結してから一気に入居が進んだという認識です。また、仲介手数料について、借主である県からのみ0.5カ月分負担で、入居者からは受領しないこととなっていたので、現場では多少の混乱がありました。

 次に、人手の問題です。特に災害発生から約2週間は、会員へのお知らせや問い合わせ対応、行政との折衝、書式やQ&Aの作成など、事務局に業務が集中したため十分に手が回らない状況が続きました。

 そして、物件のマッチングの難しさです。ペット可能物件を求める被災者に対して、十分な物件数の確保ができなかった印象があります。また、県の条件では当初、旧耐震物件は不可となっており、部屋が空いていても紹介できないケースがありました。行政は設定した条件をみずから変更するのは難しいが、“外部の専門家の意見による”という形をとれば動く可能性があることから、現場の状況や意見を積極的に上げることで実態にあった条件に変えていくことが大事だと思いました。

 さらに、借り上げの条件が決まるまでに既に自力でアパートを借りた人も一定数いて、隣接の総社市では借上げ制度が始まった時には既に借りられる物件がほとんどないという状況がありました。

取材に協力いただいた皆さん

 また、メディアからの取材もありましたが、都合のいい切り取られ方をされ、趣旨が違う編集をされて放送されるなど、残念な思いもしました。

 

─民間賃貸住宅借上げ制度の円滑な利用に向けての注意点をあげてください。

 宅建業者は民間賃貸住宅借上げ制度の概要を把握し、日頃から家主の理解を得て、この制度に提供できる物件としてストックしておくことが重要です。それができていれば、発災後行政が応急仮設住宅の計画を立てる際も実用的な計画になり、被災者への住宅提供プロセスもスムーズに進めることができます。