住まい探しはハトマーク

株式会社八清/京都府京都市

地域を魅力的にする取り組み

<講演:2019年11月>

 

京町家の多彩な特長を生かし、
さまざまな活用方法で再生する

ローン付けの獲得と条例の制定で京町家存続の道を拡充

 

・中古住宅を再生して販売する事業の面白さに気づく

・京町家を生かし地域資源にする

・京町家のさまざまな有効活用事例

・京町家を残すために金融と行政に働きかける

・空き家の利活用を通じたエリアマネジメント事例

・「3月8日の町家の日」を全国に広めていきたい

 


 

中古住宅を再生して販売する事業の面白さに気づく

 当社は昭和31年に繊維の卸売業からスタートし、その後、父の代で不動産業に転業しました。事業は新築建売住宅の販売が中心でしたが、1999(平成11)年に転機が訪れました。建売用地として仕入れた古家ありの土地が、建築規制により新たな木造建物を建てられないことが判明し、仕方なく現存の3棟を全面改装して売り出したところ、オープンハウス初日にすぐに売れたのです。不動産業界では築30年を過ぎると建物価値は0になることが常識でしたが、築年数が古くても需要があることを知り、中古住宅を再生して販売する事業の可能性と面白さに気付きました。そこで、当社が買取ってリノベーションを施した物件を「リ・ストック住宅」とネーミングし、2003年に商標登録をしました。商品は高齢者向けや女性向けなど5つのバリエーションを用意しましたが、特に町家の反響がよかったので、現在は「リ・ストック京町家」として町家の再生をメインに行っています。

 「リ・ストック住宅」は、当社がリノベーションすることで“再びストックになる”ような価値ある財産に生まれ変わった住宅を称し、①物件調査をしっかり行った住宅 ②当社施工による改装を施した住宅 ③風呂・トイレ・キッチン・洗面のうち少なくとも2箇所以上改装を施した住宅 ④ライフスタイルに合わせ間取りを変更した快適・安全・安心な住宅 ⑤定期アフターメンテナンス付き住宅 ⑥保証期間30カ月(2.5年)以上の住宅、という全ての条件を満たしています。

 

 

京町家を生かし地域資源にする

図1/京町家の間取り

 京町家とは、昭和25(1950)年以前に建てられた伝統工法の木造住宅を指し、京都の市街地に存在する、仕事場と住居が一体になった職住複合の建築物です。伝統工法は在来工法とは違い基礎が無く、柱は石の上に乗っているだけなので地震があっても横に滑ることで柱にかかる力を逃がします。基本的な間取りは、玄関を入ると裏庭へつながる“通り庭”が通り、天井は“火袋”という吹き抜けになっており、手前から店の間、台所、座敷が一列に連なっています(図1)。京都市内にある京町家の数は、2009年には4万7,735軒でしたが、2017年は4 万416軒と、 年 間 約800軒、1.7%のペースで消失しています。このペースでいくと50年後には0になってしまいます。さらにそのうちの約5,834軒が空き家で(空き家率14.5%)、建物が売却され解体されてしまう可能性が高く、空き家が増えれば増えるほど古い佇まいを残すまちが消えていってしまうことになります。

 私が京町家に興味を持ったきっかけは、2001年に販売した昭和初期の京町家のプロジェクトです。昭和10(1935)年頃に建てられた町家をそのままの状態で販売したところ、2日間で50組を超えるお客様が見学に来ました。町家に大きなビジネスチャンスの可能性を感じ、どのように建物を改装するとお客様に喜ばれるのかを知ろうと、京町家のモデルハウスを3棟建て、200組のお客様にアンケートを取りました。今ではそれが当社の京町家再生事業の基準となっています。通常のリノベーションは新築に近いものにして新築より廉価で販売するという考え方ですが、町家の場合は、柱の傷やたわみを欠陥ではなく経年による味わいと捉え、生かせるものはなるべくそのままにして改修するという考え方です。現在は、居住用以外のさまざまな用途に活用した町家を販売するようになりました。

 

 

京町家のさまざまな有効活用事例

(1)戸建賃貸「京貸家」

写真1/伏見稲荷の京町家

 京都には、路地状敷地といわれる袋路のエリアがたくさんあります。そこは再建築不可なので安く仕入れられる良い町家が残されています。それを戸建ての賃貸住宅「京貸家」として活用することにしました。伏見区深草の「伏見稲荷の京町家」は、長い間空き家のまま放置されていた状態の悪い町家でしたが、当社が購入してリノベーションしたあと一般に貸し出して収益物件として販売しました。賃料を75,000円に設定し、そこから収益還元法で売値を導き1,800万円台としました(写真1)。

 

 

 

 

(2)宿泊施設「京宿家」

図2/京宿家のスキーム図

 貸家では収益性が悪い物件を、「京宿家」という一棟貸しの旅館(宿屋)にしました。京宿家では接客はせず、貸し切り宿泊施設として町家のよさを満喫してもらいます。宿屋にする目的は、京町家の保存再生と京都の景観維持保全に貢献できること、旅行者に対し伝統建築である町家の居住体験を提供できることが挙げられます。この事業は11年前から始め、現在30棟になりますが、物件は当社で所有しているものと借り上げているものがあります。宿屋の運営スキームは、当社が仲介会社から物件を仕入れたあと、建築基準法や旅館業法に即し、消防法適合通知書や京都のバリアフリー条例許可を取得できるように設計し、改修を行ったうえで実際の宿の運営は外部の専門会社3社に委託します(図2)。京宿家は旅館業法上の許可を取得しているので、旅行会社や予約ポータルサイトなどいろいろな媒体で宿泊客の募集が可能ですし、旅館として火災保険や旅館賠償責任保険にも加入できます。

 宿屋も最終的には収益物件として販売します。売値については、運営開始後3カ月から半年間経過するとその宿の売上がわかるので、そこに稼働率を60%で設定し収益還元法で決めています。町家を貸家にした場合と宿屋にした場合の利益率を比較してみると、稼働率がある程度見込めれば圧倒的に宿にしたほうが利益が出るということがわかりました。当社所有の「稚松やまぶき庵」の場合は、10年の定期借家契約で月5万円で借り上げ、改修費に1,900万円かけましたが、年間800万円程度稼いでくれます。さらに宿屋は利益率が高いだけでなく、いつでも居住用に転用できる点も強みです。

 また、京宿家を個人が購入する場合、税法上のメリットがあります。木造住宅の減価償却は22年ですが、それ以上古い建物はそれに0.2を掛け4年で償却できます。また、セカンドハウスとして購入する場合は、京都に仕事で来るときは定宿として使い、それ以外は宿にすることで“セカンドハウス兼収益物件”という使い方ができます。

 

(3)シェアハウス「京だんらん」

 今までの商品は全て100㎡以下の町家でしたが、面積の大きい大型町家は「京だんらん」というシェアハウスにしました。この場合も当社が仕入れ、入居者を決めてから販売しています。シェアハウスをするにあたり悩んだのが、入居者同士が仲良く生活できるのかという点です。そのため最初は1カ月の定期借家契約にして合わない人は外そうと考えていましたが、今は案内の時点で担当者が判断できるようになりました。

写真2/京だんらん(設計:株式会社 魚谷繁礼建築研究所)

 京だんらんには1つだけ条件を設けています。それは、総面積の5割以上を共有スペースにするということです。そこで生まれるコミュニティを付加価値にしていることから賃料設定は高めですが、気楽にシェアハウス生活が楽しめるよう専有部分以外の清掃や備品の用意などの管理全般は当社が行います。「京だんらん東福寺」は6室あり、家賃月6万円、共益費8,000円で募集したところ1カ月で満室になりました。入居者は皆独身の社会人で、男女混合のシェアハウスです。築80年ですが基本の間取りは変えず、インナーテラスを設けるなど共用部分にゆとりをもたせ、特に女性に好まれるようにおしゃれな家具を設置しました(写真2)。

 

 

 

 

 

(4)マンスリー「京別邸」

図3/京別邸 吉田

 京町家をセカンドハウスとして購入する人の有効活用のために、マンスリー住宅という方法を考えました。1年間のうちに利用するのは20日程度という方に、そのままではもったいないので残りの345日間をマンスリー住宅として貸し出す提案をしています。京宿家と同様に家具や備品を用意し、宿ではなく賃貸住宅として1カ月単位で貸し出しています。第一種低層住居専用地域では旅館は認められていませんが賃貸であれば可能ですので、京都市内のどこでもできることになります。当初は稼働率が悪くあまり商売になりませんでしたが、14棟まで増えてくると50%以上の稼働率の物件も出てきました。京都大学の東側にある「京別邸吉田」は、当社が月9万円で借り上げ、900万円かけて改装し月45万円の賃料で貸しています。出張で1カ月間京都に滞在するような人にとってはホテルよりもマンスリーのほうが安いため、この賃料でも人気があります(図3)。

 

(5)コワーキングスペース+シェアオフィス「京創舎」

 京町家の新しい活用手法として、京創舎という“コワーキングスペース+シェアオフィス”を始めました。「コワーキング∞ラボ 京創舎」は、所有者が10年以上放置していた路地奥にある2軒の再建築不可物件を、当社が月79,000円の家賃で10年間の定期借家契約を結んで借り上げ、3,300万円かけて改装しました。1階をコワーキングスペース、2階をシェアオフィスにし、コピー機等の設備を付けて常駐の管理スタッフを置きましたが、初めての試みなので当初は収支が読めませんでした。2階は広さに応じて家賃を5万円台から8万円台で募集したところすぐに埋まりましたが、コワーキングスペースはフルタイムで1万800円、2時間のドロップインを500円にして募集しましたが集客に苦労しました。通常の賃貸物件のように広告しても集まるものではないので、イベントによる集客を試みました。特に人気だったのは段ボール1箱に入る古本を参加者が持ち寄る古本市で、それ以外にも交流会を定期的に開催することで徐々に認知が広まり、入居者が入るようになりました。オープンして2年が経過しましたが、いまは年間600万円ほどの売上になっています。

図4/京創舎のフロアマップ

 この物件は“暮らし”をコンセプトにし、暮らしに関わるビジネスをしている人に入ってもらっています。その結果、利用者間のコミュニケーションを通じて新しい住宅や暮らしに合った商品作りなど、日々さまざまな面白い意見やビジネスマッチングが生まれています。さらにその中からOND(オンド)というグループが生まれ、家主と店子という立場を逆転して当社にいろいろな提案をしてもらっています(図4)。

写真3/ヨリアイマチヤ

 また2019年の4月には、地下鉄烏丸線五条駅から徒歩2分の場所にある元呉服商の京町家を改修して、「ヨリアイマチヤ」というレンタルスペースを作りました。このレンタルスペースには台所や流しもあるので食事なども提供でき、1階と2階に分けて1時間6,000円から7,000円で貸しています。これが当社の6番目の有効活用法になります(写真3)。

 

 

京町家を残すために金融と行政に働きかける

 京町家の利活用を進めるにあたって大きな障害になったのが、旧耐震物件や接道要件等を満たさない再建築不可の物件にローンが付かないということです。そこで粘り強く金融機関にアプローチをした結果、2011年に京都信用金庫が「残そう京町家ローン」をスタートしてくれました。これは(公財)京都市景観・まちづくりセンターの「京町家カルテ」に合致することだけが条件で融資が可能になり、そのおかげで購入者の対象が飛躍的に広がりました。今では主要な金融機関は全てローンを付けてくれるようになっています。

 また、京都市は京町家を残したいといいながら具体的な手立ては何もしてくれなかったことから、2015年に私も所属する“NPO法人京町家情報再生研究会”が、京町家保全の条例の提言を京都市に対して行いました。その内容は“京町家を解体する際行政への届け出を義務化し、しかも提出後1年間は解体ができない”というものです。そうなれば解体予定の町家の活用方法を検討する時間が1年間できることになります。その甲斐あって、2017年11月16日に「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」(京町家条例)が制定され、約6,000戸の町家がその条例の対象になりました。

 

 

空き家の利活用を通じたエリアマネジメント事例

 空き家の活用がまちづくりに結びついた事例を紹介します。

(1)子育て世代のためのシェア路地付き賃貸長屋「さらしや長屋」

 京都市では2014年から3年間、空き家等対策計画の一環として、空き家をまちづくりのために生かした新しい活用方法の提案に対し、最大500万円を助成する「空き家活用×まちづくり」モデル・プロジェクトという公募事業を行いました。当社はそのときたまたま4軒全てが空き家になっていた長屋を買い取っており、その長屋を活用し「晒屋町地蔵盆の活性化と路地文化の再生」プロジェクトとして応募したところ採択されました。

写真4/さらしや長屋

 京都市内には1万2,960本の路地があり、さらに突き当りになっている袋路が4,330本あります。車が入れない程の狭い道幅の路地は、子どもの遊び場や地域の人々がコミュニケーションを交わす場として昔から京都に根付いています。そこで、子育て世代のために、車が通らず子どもたちが安心して遊べる路地を設け、全ての入居者が利用できる“シェア路地付き賃貸長屋”を作りました。幅1.5mの路地に沿って4軒の住宅が並び、入居者はシェア路地を通って縁側から各戸に入る造りにすることで、路地や縁側を皆が往き来でき子どもが走り回って遊べるようにしました。賃料は12万8,000円~と広さの割には高めの設定ですが、ユニークなことに、子どもが1人いれば1万円割引、さらに子どもの人数が増えるごとに5,000円の割引という“子育て家賃割引制度”を導入しました。

 満室後に4軒を2,880~2,900万円の区分所有権で売却することにしました。賃料が下がる可能性のある物件を買う人はいないのではないかと心配しましたが、1カ月で完売しました。購入者のうち3人が女性で、皆さん町家を残したいという気持ちがあり、地域のために役に立つ物件を買うことにメリットを感じたとのことです(写真4)。

 

(2)京都の演劇文化再生の拠点「Theatre E9Kyoto」

写真5/Theatre E9 Kyoto

 京都駅の東南部に、空き地が多くあまり人気のないエリアがあります。そこにある、当社が倉庫兼旧従業員寮として所有していた建物を100席サイズの小劇場に改修しました。京都はかつて演劇活動が盛んな街でしたが民間経営の小劇場が多く、最近、5つの劇場が同時期に閉鎖されるような状況にありました。そのようななか、30年以上も京都の舞台芸術文化を支えてきた“アトリエ劇研”という小劇場の方から代替の劇場を探していると相談を受け、この倉庫を紹介したところ気に入っていただき劇場に改修することにしました。改修費用はクラウドファンディングと寄付によって1億3,000万円集め、2019年春に劇場やカフェ、ギャラリー、コワーキングスペースを備えた複合文化施設としてオープンしました。当社は単に大家という立場ですが、京都市もこのエリアに劇場ができたことで近隣商業地域に用途変更して大型施設を誘致したり、エリア全体を巻き込んだ大きな芸術イベントを開催するなど、文化芸術エリアとして活性化していこうという動きが見られるようになりました(写真5)。

 

(3)元遊郭エリアの賑わいづくり、京都のコリビング「UNKNOWN KYOTO」

 京都駅からほど近い場所に、江戸後期から明治にかけて繁栄した五条楽園という遊郭があり、今でも遊郭建築やカフェー建築などの伝統的で面白い建物が残っています。そこでお茶屋だった隣り合う2棟の建物を借り上げて改修し、「UNKNOWN KYOTO」という“宿泊施設+ダイニング+コワーキングスペース”がある複合施設を造りました。このプロジェクトは、当社と㈱エンジョイワークス、㈱ONDの3社による合同事業で、“面白い居場所をみんなで作ろう”と、地域の人や京都以外からも参加してくれる関係人口を増やす“共創”的な進め方をしています。改修資金はエンジョイワークスが提供するプラットフォーム「ハロー!RENOVATION」を使い、投資型の「五條楽園エリア再生ファンド」を立ち上げクラウドファンディングで4,000万円を調達しました。

 

(4)伝統工法で建てる新築分譲戸建て「京むつ木」

写真6/京むつ木

 このままでは京町家の伝統工法がどんどん廃れていくと思い、現在の建築基準を満たして伝統工法で建てる京町家の新築分譲にチャレンジすることにしました。袋地の再建築不可を、建築基準法の第86条2項の「連担建築物設計制度」を利用することで4棟の分譲をすることができました(写真6)。

 このような取り組み以外にも当社では、不動産業が生活産業全体の中で重要な役割を占めるにもかかわらず、社会的な地位が向上しないことに無念さを感じ、一般の消費者に不動産のことを勉強してもらおうと、1999年から無料の「不動産知識講座」を開設しています。これまで約20年間で1,584名の方に受講してもらいました。

 

 

「3月8日の町家の日」を全国に広めていきたい

 町家の再生に取り組む不動産業者で組織する“京町家情報センター”のメンバーが話し合い、3月8日を「まちや(March8マーチャ)」の日として全国的な記念日に制定しました。それに合わせて3月8日を含む1週間を町家ウィークとして、いろいろなイベントを行っています。また、その日のために寄付を集めて京都タワーをライトアップし、毎年何色にするかを、イベントに来る皆さんの投票で決めています。

 京都に限らず全国どこのエリアにも町家は残っています。この日をきっかけに全国の皆さんが“地域に残る町家を大事にしよう”“町家を有効活用しよう”と思ってくれたらありがたいことだと思います。

 

[写真および図版は全て株式会社八清提供]

 


 

西村孝平(にしむら こうへい) 氏

1950年京都生まれ。大学卒業後、1973年 積水ハウスに入社。1975年 八清に入社し、建売住宅をメインとした仕事に携わる。2001年から京町家のリノベーションを手掛け、今では京町家の貸家、宿泊施設、シェアハウス、シェアオフィス、コワーキングまで手掛ける。地域活性化のための路地再生事業にも取り組み、「がっちりマンデー」「クローズアップ現代+」「ルソンの壺」など多数メディアにも出演。趣味はマラソンで「サブフォー」が目標。

 

 

 

 

株式会社八清

代表者:西村 孝平
所在地:京都府京都市下京区東洞院通高辻上る高橋町619
電 話:075-341-6321
H P:https://www.hachise.jp/
業務内容:京町家を中心にした中古住宅の再生販売、不動産の仲介、賃貸管理、コンサルティングなど。京町家の保全を目的とした取り組みに対し、リノベーションオブ・ザ・イヤー、京環境配慮建築物優秀賞、京都景観賞景観づくり活動部門奨励賞、経済産業省の先進的なリフォーム事業者表彰など多数受賞。