住まい探しはハトマーク

公益社団法人和歌山県宅地建物取引業協会

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2019年11月>

 

不動産業の古い固定概念を捨て、
和歌山独自のビジネスモデルを作る

宅建業者のための「タウンマネジメントスクール」を開催

 

公益社団法人和歌山県宅地建物取引業協会(以下、和歌山県宅建協会)は、2019年11月27日・28日の2日間にわたり「和歌山宅建タウンマネジメントスクール」を開催した。スクールを今後10年先の地域戦略を考える機会として位置づけ、空き家の先駆的な活用事例と手法をその実践者から直接学ぶと共に、チームディスカッションを通じて“業界を取り巻く環境が今後どうなるのか?”“これからの経営戦略をどう構築していくか?”について熱く意見を交わした。年代や業種を超えて県内各エリアから22名の参加者が集まり、地域活性×地域貢献×取引拡大のための方法を模索した。

 

・(公社)和歌山県宅地建物取引業協会 会長 角 幸彦氏インタビュー

・若い力とチームワークで、我々が未来を変えていく

・各専門分野と連携し空き家相談体制を構築

・講評 一番の脅威は成長をあきらめること

 


 

(公社)和歌山県宅地建物取引業協会 会長 角 幸彦氏インタビュー

─和歌山県の課題についてどう感じておられますか。

 私の会社は不動産業以外にも古い建物をリノベーションするといった建築の仕事もしており、講師の八清さんの取り組みなどはかねがね注目しておりました。不動産業と建築業の両方に携わっているとわかるのですが、不動産業の視点はとにかく“あるものを売ればいい”という発想です。古い建物を前にしたとき、建築業の視点ならどこに手を入れると新しい使い方ができるのかと考えますが、不動産業の視点はそんな面倒くさいことはせず、壊して更地にして早く売ってしまえばいいという考え方です。和歌山県は別荘などの二次的住宅を除けば、空き家率が日本でNO.1の県です。不動産業界がこの問題に取り組んでいくためには、今までの不動産業者的な発想を変えていく必要があります。空き家に対して“手を加えて利用する”という視点を持つことで、空き家を宝に変えることができると共に自分たちの仕事を増やしていくことにもつながっていくと思います。

 

─タウンマネジメントスクールもそのような考えで開催したのですか。

和歌山宅建ビジョン

 和歌山県宅建協会では、昨年1年かけて「和歌山県宅建ビジョン」を作りました。ビジョンでは、協会が目指す姿を、“『地域に寄り添うハトマーク』として消費者、行政、会員から信頼される存在になること”と位置付けました。そして具体的な実践目標を“空き家を減らしていくこと”とし、住まいを業とする私たちが空き家に関する困りごとを解決することで、消費者、行政、会員の三方良しを実現することがビジョンの骨子になっています。

 そのために取り組んでいるアクションプランが、異業種連携を推進するための「わかやま空き家活性化連絡会」の設立と、会員のスキルアップのための「タウンマネジメントスクール」等の研修事業の実施です。空き家問題への対応は、宅建業者や建築士など単体のスキルや能力だけではできません。そこで当協会が発起人となって、宅建士、建築士、司法書士等の不動産流通に関わる専門家を集め、実務者同士で連絡をとりながら、個別の案件に取り組めるよう「わかやま空き家活性化連絡会」を立ち上げました。和歌山県下の全市町村では一昨年から2カ月に一度「空き家なんでも相談会」を実施しており、連絡会のメンバーが相談員として対応しています。具体的な成果はまだ多くは上がっていませんが、年間で約200件の相談案件を受けています。

 一方、空き家問題の解決のためには、当協会の会員の資質の向上やスキルアップが同時に必要になります。従来の宅建業の知識だけでなく、建築や相続の知識など総合的なコンサルティング能力をつけなくてはなりません。タウンマネジメントスクールの開催の狙いもそこにあります。和歌山県は南北の距離が長く会員同士が交流する機会もなく、主都とそれ以外でも事情が違います。また、会員は売買業以外にも賃貸管理や分譲などいろいろな業種の企業がいます。そこで、個々で悩みを抱えるのではなく、多種多様な人材が一堂に集まって、学び、いろいろなアイデアを出し合うことで和歌山県にあった新しいビジネスモデルを構築したいと考えています。

 

─ビジョンの今後の展開について教えてください。

 昨年策定した和歌山県宅建ビジョンは、少人数が短期間で作ったものでした。それをそのまま会員に伝えても十分な理解が得られないのではないかと思い、改めて委員長や理事の中から12名を選抜し、事務局も加わってビジョンのブラッシュアップを始めました。幸い今の委員長や理事たちは皆若く、やる気もあり頼もしい人ばかりです。また、和歌山県の仁坂知事からも、宅建協会側から“こういうことを実施すべきだ”という意見をどんどん出して、行政を巻き込んでほしいといわれています。ビジョン作りのワークショップやこのスクールを通じてたくさんの気付きを得て、“あるものをただ売ればいい”という不動産業の古い固定概念を捨て、不動産業のあり方が変わり、仕事の内容を変えることができればとても意味のあることだと思います。

 

角 幸彦(すみ たかひこ) 氏

1961年和歌山県御坊市生まれ。1988年にハウジングギャラリーを開設。2004年に法人化し、有限会社ハウジングギャラリーとなる。2014年に株式会社サンクリエーション設立。両社の代表取締役として地域の家造りを通して人々の幸せづくりを目指す。
2008年より宅建協会執行理事を務め、2018年、会長に就任。構造物を建てるのではなく「幸せを建てる」がモットー。

 

 

 

 

若い力とチームワークで、我々が未来を変えていく

(公社)和歌山県宅地建物取引業協会

研修指導委員会委員長

藤田雄司 氏

 

 

 

─若い方が役員になり、全体を引っ張っていこうという雰囲気を感じます。

 当協会では、40歳代の若い役員が各委員長の役職についています。しかも、志が非常に高く、「業界を変えていかなくてはならない」「どんどん改善していこう」という意識を持つ人ばかりです。宅建協会というところは社長の集まりの会ですので、皆が同じ方向を向いて動いていくのがとても難しい組織です。しかし、今の役員たちは1人が手を挙げればそれに対して「よっしゃ」という感じで賛同してくれるメンバーが揃っているので、この機会を逃さず新しいことにチャレンジしていこうと思っています。

 

─“タウンマネジメント”を研修のテーマにした理由は何ですか。

 和歌山県は、全国一空き家率が高いという問題をなんとかしなくてはならないという共通認識があります。それに対して和歌山市を中心にリノベーションスクールが行われています。しかしその手法は、個々の空き家の再生には有効ですがどうしても点の対策に終わってしまいます。それを面に広げていくためにはタウンマネジメントという視点が必要で、それは不動産業者じゃないと実現できないと思います。

 振り返ってみれば先人たちは、道のないところに道を通し、何もない原野に田畑や農地を開発してきました。そのように私たちも現代の目線で新たな地域の魅力づくりをしていかなくてはならないと思います。どのようにして道を開いていくかについては未知数ですが、素晴らしいメンバーが揃ってきたので、このタイミングで取り組んでいくことが有効だと考えました。

 

─スクールを行ってみて、どのような手ごたえがありましたか。

和歌山県宅建協会 委員長

 まず全国で素晴らしいまちづくりを実践している方の生の声が聞けて、皆すごく刺激を受けました。どれも今の和歌山の課題に沿った講演だったので、これからどうしていくべきかについてイメージが湧いたと思います。また、2日間のディスカッションを通じて各人が書いた付箋ひとつを1アイデアとすると、全体で700~800のネタや意見が出たことになります。そこから1%でも具体化すれば、10件の成果になります。そのことにとても可能性を感じています。

 今年、和歌山宅協のビジョンを再度検討していますが、そこで議論していることは、現状を理解したうえで我々の手で未来をどう変えていくかということです。行政、民間の事業者、地域の人たちの意見を集約し、事業化していくタウンマネージャーがたくさん生まれるように、これから皆でスキルを磨いていきたいと思います。

 

 

各専門分野と連携し空き家相談体制を構築

和歌山県県土整備部都市住宅局

建築住宅課建築指導班

主査 尾髙伸一郎 氏

 

 

 

●全国に先駆けて空き家対策を推進

 2018年の住宅土地統計調査によると、和歌山県の空き家数は9万8,400戸、空き家率は20.3%でした。この数字は47都道府県中2位となり、全国平均の13.6%を大幅に上回りました。和歌山県では、2015年の空家特措法※1の施行に先駆け、2011年に『建築物等の外観の維持保全及び景観支障状態の制限に関する条例』を作り、廃墟化した建築物等(空き家)が、著しく劣悪な景観となり、それにより県民の生活環境が阻害されることを防止するための対策を推進してきました。それまでは空き家がどのような状態であれ、個人の資産なので行政では手出しが難しいという状況でしたが、この条例によって、県が指導から命令まで経たうえで、最終的には行政代執行によって撤去し、かかった費用も請求できるようにしました。これまでの状況に一石を投じる条例で、結果として、行政代執行による撤去を1件行うなど取組を進めてきました。

 その後、空家特措法が施行され、それに基づき市町村ではこれまで累計で約2,000件の助言等を行ってきました。現時点ではそのうち約4割の所有者は何らかの改善対策をとってくれたという成果が生まれています。しかしその一方で対策が行われていないものも残っています。

 

●空き家相談会で見えた空き家所有者の課題

 空き家問題の解決には専門家の力が必要不可欠ということから、宅建協会をはじめ県内の民間7団体と和歌山県空家等対策推進協議会(県・市町村・学識者等で構成)が“空家等相談体制の整備・充実に関する協定書”を相互に結び、相談体制を構築しました。2年前から県内全域を対象に延べ63回(7会場)相談会を開催し、相談件数は累計で271件となりました。ただ、年間で数件という会場もあり、今後は会場設定を工夫したり、休日に開催するなど、もっと利用しやすい開催方法で取り組んでいくこととしています。

 参加者のアンケートを見ると、相談したきっかけは“将来のことを考えて”“相続が発生したため”という方が多く、空き家に関して困っていることは、“維持管理の費用や手間”の問題や、“建物の劣化”によって地域に迷惑がかかることを心配している人もいました。空き家の処分については、解体費用や解体後の税金の上昇など、費用に関する相談が多く寄せられました。

 相談案件を分析すると3つに分類できそうです。1つ目は、市場価格で流通できるなど民間の専門家で解決可能な物件、2つ目は民間の専門家と行政が連携すれば解決できる物件です。具体的には、除却の補助金が使えるとか耐震改修の補助金が使えるというようなものです。そして3つ目が、民間の力ではどうしようもできない物件です。ここは行政が前面に出て解決するなど、腹をくくって対処しなくてはならないかもしれません。いずれにしろ、相談に来るタイミングでは老朽化が進んでいる相談も多く、相談員の方々もアドバイスに苦慮されています。

 今後は相談案件がどの分類に属するのかを見極めて、早めに手を打つと同時に、引き続き所有者に継続的にアプローチをし、空き家になった直後、また空き家になる前に早めに対策が必要であることなどの意識を変えていきたいと思います。

 

※1 空家等対策の推進に関する特別措置法

 

 

 

 

 

 

【講評】

一番の脅威は成長をあきらめること

清水千弘 氏

 

 

 

 

 

 私はAIは脅威ではないと思っています。碁や将棋の世界を見ても、AIの登場によって強くなっているのは実は人間です。同様に皆さんにとってAIは脅威ではなく皆さん自身が強くなっていくための1つの武器になるといえます。

 大手企業も脅威ではありません。日本を1キロメッシュに切っていくと人間が住んでいるところは10万カ所あるといわれていますが、その中で、例えば求人情報を扱っている大手のポータルサイトが営業エリアとしているのは4割程度で、残りはコストが高すぎて進出できないエリアです。このように、コスト構造が高い大手企業が入ってこられないところは日本にはたくさんあり、皆さんが活躍できる市場はまだいっぱいあると思います。そしてそれぞれの市場において、皆さんはブランドのある大きな大学病院ではなく、まちの“名医”になればいいと思います。また行政も敵ではありません。AIも大手も行政も脅威だと感じ、敵と思えば敵になりますが、うまく取り込めば味方になります。銀行なども含め、そういう人たちとのネットワークをどう作っていくかを、これから考えていくといいと思います。

 では、皆さんにとって一番の大きな脅威は何かということを考えると、それは皆さんが“成長しないこと”だと思います。成長することを諦めるとか敵を敵と思ってその足を引っ張ることを考えた瞬間、皆さんの成長は止まってしまい、そのことが非常に大きな脅威になると思います。したがって学びを続けることは非常に重要です。

 市場が縮退するなかで生まれるチャンスというものは、ものすごく多くあります。マーケットが大きくなっていく時は、皆平等にパイは割り振られますが、縮退していく時はそうではなく、あるところに集中して仕事が行きます。そこで必要なのは、選ばれる仕事や選ばれる会社になるための条件は何だろうということを考えることです。空き家は社会悪といわれることがありますが、皆さんにとっては大きなビジネスチャンスが目の前に来ていることになります。このように市場が縮退している時にこそ生まれるビジネスがあり、そのチャンスをつかむことができるかどうかで、その会社が生き残れるかどうかが決まります。

 パーソナルコンピューターの父と称されるアメリカの科学者のアラン・カーティス・ケイは、「未来は怖がるものではない、未来は自分で創るものだ」という言葉を残しています。これから皆さんにとってさまざまな脅威があるかもしれませんが、脅威を脅威と思わず皆さんの努力でどのような未来を創っていくかということを考えるとともに、縮退するなかに生まれる幸せというものも消費者にはあるはずなので、消費者が幸せを実現するためにどうサポートしていくかということも考えていくといいと思います。

 私は不動産業界の外部の人間ですが、講師や皆さんの話を聞いて、不動産業にはこんな素晴らしい仕事があるのだということに気づかされました。そしてその仕事に携われる皆さんがとてもうらやましいと思いました。宅建士ができる仕事はものすごくクリエイティブで、後世にモノを残すことができます。しかもその過程で人を育て、場合によっては自分の会社以外の人も育てながらモノを創っていく仕事だということが改めてわかりました。

 そのような仕事をしている人たちが集まり、しかも今ここで“学ぶ”という選択をし、その学んでいる内容を考えると、皆さんは将来、この地域で新しいスターとして活躍されているのだろうと思います。タウンマネジメントスクールの目的は価値ある変容を創ることだと言いましたが、皆さんが変容し明日からの行動が変わることを願っています。