株式会社創建/大阪府大阪市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2021年9月>

 

宮大工の「木組み工法」を応用し
伝統と命を守る

日本初の戸建て管理で建物の価値と寿命を引き上げる

 

・日本の伝統的な建築技術を守りたい

・毎年1棟、無償で神社を再建

・宮大工の技術との融合で日本の住宅を変える

・日本初の戸建て専門の管理会社を設立

・消費者の不安を取り除き、将来は営業マンのいない会社に

 


 

日本の伝統的な建築技術を守りたい

─デベロッパーとして累計で1万戸近い分譲実績があります。

 当社は2019年で創業37年になりました。工事の請負業からスタートしましたが、私はもともと設計士ですので“自分で考えて創作したものを建てる”という意味を込めて創建という社名にしました。分譲事業では、これまで累計でマンション3,257戸、戸建て6,596戸※1を供給し、住む人の立場に立ってまちづくりをしてきました。

 

─北海道の建築会社を引き継いだ経緯を教えてください。

 2008年に、北海道で約1万9,000棟の施工実績がある『㈱木の城たいせつ』(本社:夕張郡栗山町)という会社が倒産しました。北海道に合った住まいづくりをモットーに、北海道産の自然素材を使い、耐震性と寒さに強い住宅を手掛けていた会社です。その後あるご縁があり、北海道庁と栗山町の方から当社に、「北海道で一番の住宅メーカーなのでなんとか助けてほしい」と事業の存続について支援要請をいただいた

「木組み工法」の倒壊実験結果

のです。旧木の城たいせつの創業者の山口氏は、宮大工に弟子入りして伝統建築を学び、北海道の木材だけを使って注文住宅を建ててきた方だと聞いていたので、どんな建物なのか実際に見てみようと工場に行きました。そこで技術者に「宮大工は何人いるのですか?」と聞くと、意外にも一人もおらず、独自のプレカットと建築システムで、釘や金物を使わない『木組み工法』を実現しているということでした。山口氏は将来宮大工の数が減っていくことを見据え、彼らの技術を後世に残したいという想いから、機械によるプレカットと職人技を組み合わせた仕組みを開発されたのです。さらにこの工法は地震にも強く、実際の倒壊実験の結果では、一般の住宅に比べ水平方向、垂直方向とも通常の2倍程度の強度があり、復元力は3倍、積雪荷重も3倍あることが証明されていました。1993年の奥尻島地震※2の際も1軒も倒壊の被害がなく、周りの人たちが同社の建てた家に避難しにやってきたそうです。この話を聞いて、「この技術を失うということは日本の損失だ」と思いました。

 しかし、当時はリーマンショックのあとで、当社も創業以来初めて赤字を出していました。その額は2期合わせて36億円。そのため金融機関からは“自分の会社の再建が優先だろう”と総反対されましたが、「この会社を失くすことは日本の損失です。赤字は6カ年計画で全て一掃するのでぜひやらせてほしい」ということを語ると、「社長がそこまでいうなら、会社のお金は一切持ち出さず、個人で買いとるという条件で」ということで了解を得ました。事業を引き継ぐにあたっては、既存のお客様のメンテナンスやリフォームも請け負い、さらに旧木の城たいせつと契約しながら未完成となっていた家も、採算とは関係なく引き継ぐことにしました。計画通り、赤字は一掃しました。

 

 

毎年1棟、無償で神社を再建

─神社の再建に携わっていらっしゃいます。

 北海道に住む次男とご縁のあった札幌市の石山神社から、2015年に、“鎮座130年事業として88年振りに社殿を建て替えなくてはならない。材料は既に伊勢神宮より古材64石をいただいているが、氏子が減って浄財が集まらない。見積もりをとると1億円といわれたが4,000万円しか予算がない。木の城たいせつでやってもらえるか”と相談がありました。金額、納期、そして古材を使うというハードルがありましたが、技術者に聞くと「できます」ということだったので引き受けることにしました。“そんな安い金額でちゃんとしたものができるのか”“一度倒産した会社に着手金を渡して大丈夫か”という人もいたようでしたが、最終的に予算内でかつ上棟から2カ月で完成させました。その後、9月の秋季例大祭では、氏子さんや宮司さんに涙を流して喜んでもらい、ありがたいお言葉をたくさんいただきました。

 

─寺社から依頼が殺到したのではないですか?

 この仕事をきっかけに、熱田神宮や出雲大社の宮司さんからお声がかかりました。お話によると、“全国各地で起こる自然災害によって神社も大きな被害を受けているが、檀家や氏子も被災しており、自分たちの生活再建を優先するため神社の再建まで手が回らず、取り巻く状況は大変厳しい”ということでした。

石山神社の神殿完成後の秋季例大祭

 一方で、当社には耐震性の高い木組み工法をもっと世に広める方法はないかという課題がありました。地震で亡くなる方のほとんどは建物の倒壊による圧死です。その点、木組み工法は通常の2倍程度の強度があり、仮に倒壊したとしてもゆっくり倒れるので逃げる時間が十分確保できます。問題は、木組みなので構造計算ができないことです。構造計算は筋交いの配置や金物の強度を計算するために、木組み工法の建物は建築確認申請をすると、耐震強度としては最も弱いという判定を受けます。今の住宅はほとんどが金物工法ですが、金物と木は収縮率も膨張率も違うため、時間が経つと金物と木の間にズレが生じます。実際、2018年の北海道胆振東部地震の時も、木組み工法の家はまったく被害がなかったのです。この事実をどうしたら世間に伝えられるのだろうかとずっと考えていました。

 神社から力になってほしいというありがたいお話ですので、出雲大社の宮司さんに「毎年1棟、社殿を寄贈します」と伝えました。再建する建物の大きさは石山神社程度で、材料には、ヒノキ以上の強度を持ち湿度にも強い北海道産のカラ松を使わせてもらうことにしました。

 

─熊本と福島で神社の再建を行いました。

 第一弾として、2018年の11月に、熊本地震で被災した阿蘇郡西原村の白山姫神社の社殿を寄贈しました。熊本県の神社庁の皆さんと最初に会ったときは、“大阪の不動産会社が無償で提供するなんて怪しい”“無償といっても別途追加費用がかかるのではないか”と思われたようでした(笑)。しかし、9月の上棟祭りでは、村の保育園児や住民たちと餅まきを盛大に行うことができ、着工から2カ月後の10月末には無事社殿が完成しました。

竣工した諏訪神社

 そして2019年、出雲大社から福島県で協力してほしいといわれたのです。それが双葉郡浪江町にある諏訪神社です。東日本大震災で倒壊し、社殿は8年間放置されたままでした。この神社は標高約30mの高台に建っており、東日本大震災の時には約50名の住民がここに避難して助かりました。1000年前にも大きな津波が来ており、その時もこの神社が人を救ったそうです。そこを復興してほしいということでした。ところが、工事の担当者が神社までの道を尋ねると「道はありません。階段だけです」と言われました。つまり材料や荷物は全て人力で運ばなくてはなりません。神社庁の方も気を遣って「大変なので下の空き地を買ってそこに建てましょう」と言ってくれましたが、「それでは意味がないでしょう。下にある神社に逃げても助からなくなります」と答えました。「地元の人はこの神社の復興を本当に願っておられるのですか?」と聞くと、「願っている」とのことでしたので、「ではボランティアを集めて皆でやりましょう」となりました。

 8月には酷暑のなか、高齢の方も含め地元の人たち約50名のボランティアに集まっていただき、約13トンの材木を全て人力で30m上の高台まで運びました。これは大きなニュースになり、福島民報の1面で報じられました。改めて“本当にすごいことを成し遂げようとしている”と感じ、体が震えました。9月3日に上棟式をしましたが、地域の皆さんがとても喜んでくれて、NHKも全国ニュースで取り上げてくれました。神社は11月5日に予定通り竣工し、地域の人を招いてお祭りが開かれました。

 

─これから全国の神社から頼りにされますね。

福島民報に掲載されたプロジェクトの様子

 ご縁があって神社再建の事業をすることになりましたが、それはまさに37年前に付けた社名の“創建”です。不思議なもので、人はある使命を持って生まれてくるのではないかと感じました。石山神社を建て替えた時に、義母から「吉村さんは人が住む家だけでなく、神様が住む家も造るのですね」と言われ、胸にジーンとこみあげてくるものがありました。そして同時に、神社の再建で使ったこの工法を住宅に適用し、もっと世の中に広めることができれば、たくさんの人の命を救うことができると思いました。そこで全国の工務店と連携し、①木組み工法を北海道に来て学んでもらう ②建物の受注があった際は、その受注図面を当社へ送ってもらう ③当社がその図面に沿ってプレカットをし、材料を届ける ④学んだ工法で組み立ててもらう、といったことを展開しようと考えています。

 

 

宮大工の技術との融合で日本の住宅を変える

─御社では外断熱工法が主力の商品です。

外断熱工法「Kurumu」

 家というものは本来自分を守ってくれるものです。地震で家が倒れて圧死するとか、熱中症やヒートショックで死ぬということは本来おかしいし、あってはならないことだと思います。また、断熱材を間違った方法で施工すると隙間ができ、結露が生まれます。この結露がカビを生み、アトピー性皮膚炎を起こすという問題を生みます。

 当社の主力商品は“外断熱”の家『Kurumu』で、屋根裏から床下まで建物全体を隙間なく、高性能な断熱材ですっぽりと覆います。外断熱住宅の素晴らしいところは結露を防ぐことです。当社では2006年から外断熱を導入し、国が2020年に標準的な新築住宅での実現をめざしているゼロエネルギー住宅(ZEH)の断熱基準をクリアするダブル断熱工法も多数供給しています。さらに、“泊まって体験会”を行い、夏の時期には“エアコンを切っても朝まで快適”なことや、冬の時期には“お風呂上りでも寒くない”ということを実体験してもらっています。今後当社の外断熱の技術と木組み工法を組み合わせることで、日本の住宅は画期的に変わると思います。

 

 

日本初の戸建て専門の管理会社を設立

─戸建て住宅の管理に取り組み始めました。

 日本の木造住宅の寿命は30年といわれ、欧米に比べあまりにも短く、また新築から15~20年経つと建物は無価値と評価されます。そのため、粗悪に建てられた建物もしっかり建てた建物も、入居後何も手を入れない建物もちゃんと維持管理した建物も、皆同様に“築何年”と十把一絡げにくくられてしまいます。これはとてもおかしなことで、その要因を考えると、まず消費者が自分の家のケアをあまりしていないことが挙げられます。そしてその背景には、建物の知識がなく、管理の仕方がわからないという実情があります。次に、新築を購入した不動産会社や建てた工務店が倒産してしまい、建物に不具合がでてもどこに相談していいかわからないという問題があります。

 そこで、建物の状況を検査して評価する目安と、建物の改修履歴等が記録された家歴書があれば、このような課題が全て解決できるのではないかと考え、2011年に㈱日本戸建管理を設立しました。マンションやビルに管理会社があるように、戸建て住宅にも、資産の維持のために管理をする会社が必要になると考えたのです。さらに、翌年から戸建て住宅向けの維持管理サービス『家ドック』の開発に着手しました。約3年かけてシステム化し、1時間で実際の点検と結果のデータ化ができるようにしました。このサービスは国交省の「インスペクションによる住宅情報の活用に関する事業」に平成27年度から3年にわたり採択されました。

 

●『家ドック』のサービス内容

「家ドック」のサービス

 戸建て住宅の管理に必要なことは、定期的な検査と適切な修繕を行うことです。家ドックは会員制のサービスで、月1,000円の会費を支払うと年1回の定期点検、緊急駆けつけサービス(年2回まで無料)、24時間コールセンター(業務委託)サービス、ポイント付与サービス、提携企業の割引サービスを受けられます。さらに、メンテナンスやリフォームに使える1万円のサービス券を還付しています。

 定期点検項目は17部位に対し約200項目あり、検査結果をA(問題なし)・B(要注意)・C(修繕が必要)で評価し、その場で検査員が写真を撮って報告書を作成します。後日、点検報告書を説明する際には修繕計画書も持参し、点検結果から修繕計画、工事をした場合は修繕結果を修繕履歴書として蓄積します。今では約1,500の戸建てオーナーが会員になっています。仲介会社は、“家歴書があると、売却する際に、お客様の反応が違うのでとても売りやすい”と評価してくれます。

 会員になると、日本戸建管理の審査基準を通った全国30社弱の提携工務店が、各種点検の実施やさまざまな相談にのってくれます。点検の結果、リフォーム等の工事が発生した際、提携工務店は日本戸建管理にロイヤリティを納めることなく、その分を会員様に還元して競争力を高めていく仕組みにしています。万一、会員様からひどいクレームが入ったり、工務店が法外な料金を請求するようなことがあればすぐに提携を解消します。会社の利益より業界全体が活性化し、その結果としてお互いの利益が高まればいいという考え方です。

 第三者性を担保するために、創建も一工務店として加盟しています。

 

 

消費者の不安を取り除き、将来は営業マンのいない会社に

─“生涯メンテナンス”を実施しています。

 創建のお客様には、普段は目にできない基礎工事から完成までの建築工程の写真を、電気・水道・ガスといったライフラインの緊急連絡先や設計図面と一緒にアルバムに綴じ、『竣工引渡図書』として1カ月点検時に差し上げています。また、メンテナンスなど当社の対応が不十分であったり、問題の解決が思うように進まない時に、いつでも私に連絡ができる『社長直通110番』を設置しました。家を購入するとき、消費者は2つの心配をします。1つ目は“それが本当にいい商品なのか”ということ、2つ目は“購入後、何かあった時にすぐ対応してくれるか”ということです。そこで当社では、購入後、何か問題があればトップの私が対応するということを行っています。問題から逃げずにすぐに対応するということが企業の最低限の責任です。

 当社では入居後のお客様を対象に、年1回“感謝のつどい”を行っていますが、ある時、購入者で警察官の方から「お宅の初動は、私たちより早い」とお褒めの言葉をいただきました(笑)。また、大型の分譲地では毎年“夏祭り”が行われていますが、ある団地から、私は毎年お客様として招待され挨拶の機会をいただいています。同席した代議士の方から「こんなところに来てクレームを言われませんか」と聞かれましたが、「招待されて何年も経ちますが、いまだかつてそんなことはありません」と答えると驚いておられました。

 

─これからどのような会社を目指しますか。

 金融機関に提案しているのが、お客様が新築時にローンを組むときに、銀行の負担で『家ドック』を2年間付けてはどうか、ということです。2年というのは、売主業者の瑕疵担保責任の期間が2年だからです。私は近い将来、日本版サブプライム問題が起きると思っています。金融機関の融資の姿勢は土地の評価と購入者の返済能力をチェックするだけで、建物の評価をまったくしません。15~20年しかもたないローコスト住宅に対し、30~35年のローンを組みますが、もしその家が15年で住めない状態になった場合、購入者はリフォームするお金は無いし、元本はまだほとんど残っているので、住宅を売却してもローンの回収は難しいと思います。そのような事態を防ぎ、お客様の資産も守るために、新築時に家ドックのサービスをつけて建物の評価をきちんとしておくべきだと考えます。

 戸建て住宅の管理の仕事は、もともとお金儲けの発想ではやっていません。この業界はやはりおかしいという葛藤と、欠陥住宅による被害者を減らしたいという思いがあるからです。お金儲けはお客様に喜んでもらって初めてできるもので、先にお金儲けをしようとするから結果が得られず、そこにごまかしが入ってきます。商売がうまくいくかどうかは、お金儲けを先に考えるか、お客様からの信頼を先に考えるかの違いだけだと思います。私は将来的には営業マンが要らず、お客様が営業マンになり、紹介だけで成り立つ会社にしたいと思っています。そのためにはお客様との信頼関係の構築が必要です。住宅産業はクレーム産業といわれていますが、クレームはビジネスチャンスです。お客様は困っているからクレームをするのですから、私たちが住む人の立場に立ち、その問題の解決を最優先していく。そのような会社にしていきたいと思います。

 

※1 マンション、戸建てとも2020年1月時点。

※2 北海道南西沖地震。マグニチュード7.8、死者202人、行方不明者28人。

 


 

吉村孝文(よしむら たかふみ) 氏

1949年9月5日生まれ。広島県立三次工業高等学校(現 広島県立三次青陵高等学校)では野球部に在籍。卒業と同時に旭電化工業(東京都)に入社し、研究所勤めをするが、建築の道を志して東京建築専門学校に入り、2年間勉強して二級建築士の資格を取る。卒業後、㈱大拓(大阪市)に入社。1983年3月1日に創業。2000年10月10日より「株式会社創建」に社名変更。現在は代表取締役会長を務める。趣味はゴルフ、フィットネス、旅行。

 

 

 

株式会社創建

代表者:吉村 孝文
所在地:大阪府大阪市中央区淡路町3丁目5番13号 創建御堂筋ビル5階
電 話:06-6221-0001
H P:https://www.k-skn.com/
業務内容:建売住宅・マンション等の分譲販売、オフィスビル商業施設等の賃貸、外断熱工法による「Kurumu」、建築請負、設計管理など。さらに、戸建て住宅向け維持管理サービス「家ドック」や、伝統的「木組み工法」による神社復興プロジェクトに尽力。