いわて不動産株式会社/岩手県盛岡市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2019年10月>

 

不良債権を流動化させ、
被災地の復興と活性化をプロモート

弛まぬ知識の研鑽が困難な案件を解決する

 

・身近にありながら専門性の高い地域の不動産会社になる

・不動産の取引は全て“物件調査”から始まる

・塩漬けになった不動産の活用提案で被災地の復興を

・コンサルティングの仕事は「片方に寄らないこと」と「洞察力」

 


 

身近にありながら専門性の高い地域の不動産会社になる

─金融機関の不良債権の処理をされてきました。

 当社は1988年の6月に創業し、盛岡市とその周辺エリアを中心に売買仲介、賃貸仲介、賃貸管理等を行ってきました。創業してすぐに不動産バブルが崩壊し、当時の都市銀行7行が不良債権処理のための組織をつくりました。東北エリアの提携会社として当社に声をかけてもらったことを機に、“同業他社との競合がなく、資金がなくてもできるし、むしろ地域のなかで高い専門性が発揮できる仕事”と考え、裁判所や破産管財人、清算人の弁護士などと連携しながら、不良債権処理の仕事に取り組み始めました。

 その後、地銀や地方自治体ともタイアップするようになりました。物件は、競売にかけられても買い手が見つからないような、誰も手を付けたがらないものが中心で、持ち込まれる案件も戸建て住宅や事業用のビル、工場跡地から第三セクターの部分処理など多岐にわたります。さらに財務省からも声がかかるようになったことから、必要な資格をとり国有地の売払い・貸付けの案件などにも関わるようになりました。

 

 

不動産の取引は全て“物件調査”から始まる

─独自の調査マニュアルを作られています。

 不良債権を流動化させるには、まず詳細な物件調査と適正な価格査定を行い、それを基に活用の提案や運用に関するコンサルティングをすることが必要です。

 不動産の取引は全て、“物件調査”から始まります。医者が診察前に血液検査や問診をして、どこが悪いのか、何が原因なのかを調べてから治療にかかるのと同様に、不動産の場合も、物件調査をどの程度まで正確にできるかが最も重要です。その技術や精度が低ければ、病気やけがの根治にはつながりません。詳細の物件調査をしたあとで、所有者の意向や、行政であれば地域開発等の方向性を加味し、その処理や活用方法を考えていきます。

 当社では独自に物件調査のマニュアルを作成しました。その作成方法は、例えば重説であれば、それに関する専門書を10冊ほど購入し、その内容を集約して整理するとともに、そこに自分自身の解説を書き加えていきます。マニュアルは①物件調査の基本 ②物件調査の帳票書式集 ③物件調査の実務 ④受託時の物件調査 ⑤契約前の物件調査 ⑥重要事項説明書の制作の仕方 ⑦重要な事項の調査、の7種類に分類し、それぞれ基本の考え方、調査の手順、チェックポイント、最終確認項目等をまとめてファイルにしました。この中には、法律的な位置づけはもちろんのこと、国が参考にしているアメリカの取引制度、高齢者の認知症の測定方法、産業廃棄物の取り扱い方法といった内容まで必要に応じて盛り込んでいるために、各ファイル100ページ前後の分量になりました。

 売買契約をする場合には価格の根拠を示さなくてはならないので、物件の瑕疵(旧法) 隠れた欠陥の有無については環境や地域、建物や土地の状況をチェックし、心理的な瑕疵や依頼者の意思能力の有無についても、認知症の簡易テストなどを使いながら調査します。マニュアルは30年以上ブラッシュアップを続けていて、不動産に関する相談の依頼があるとまずこのマニュアルを使うことで、「基本業務でNO.1」になることを目指しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

独自に作成した各種マニュアルは100種以上になり、社長自身の手書きの解説が付け加えられている。人気が高いのは『勤めながらお金と資産を増やす方法』(4冊)、『こうすると失敗する』(2冊)。

 

 

─価格に関しても多くのバリエーションの提示をされています。

 不動産の価格や賃料は約60種類くらいに分類できると思っています。売主や買主、貸主や借主の各々に信頼される価格や賃料の提示をするために、①価格の種類と指数の明示 ②取引状態による価格と立場による価格の算出 ③賃料評価、借地権評価 ④調査と査定の資料表の作成と提示、を行い、透明性と納得性を確保するようにしています。

 

─査定の結果をどう使い分けるのでしょうか。

 裁判所の管轄で、2〜5年以上もそのままになっているような物件は、特売しても誰も入札しません。当社では、売主の立場から見た価格、買主の立場で評価した価格、収益還元法での上限価格、下限価格等5種類ほどの価格を提示し、その中でどれが最も適正かという見解を、具体的な事例資料を添え、しかも裁判所が見慣れた書式を使って評価書を出します。当然不動産鑑定士も評価書を出していますが、あくまで不動産鑑定法に基づいたものです。それに対して当社は、時価を反映した現実的な査定をします。例えば、鑑定士が土地7,000万円、建物3,000万円、合計1億円と評価した物件も、現地調査をし、建物に利用価値や収益価値がないと判断すれば、建物の解体費用を見込んで5,000万円と評価します。このように、根拠を示したうえで現実的な価格を提示することで、寝たままになっている物件を流動化させることができれば、買主が現れ一件落着し、弁護士や裁判官、債務者もほっとします。また、そこが新たなビルに生まれ変われば、まちが明るくなり地域の人も喜び、皆が幸せになります。

 国有地についても同様です。あるとき、民間に払い下げしようとしてもなかなか売れない土地について相談がありました。物件を調査すると、一部商業として利用できるかもしれないが、住宅用地としてしか活用方法がないことがわかりました。そこで、開発費と、道路や公園分を除いた有効面積を算出し、販売価格から逆算して建売業者が買うであろう価格を提示し、公募価格のアドバイスをしました。国有地ですので、そのままにしておけばずるずると値が下がり、結果的に税金の無駄遣いになります。やはり不動産は、“最適用途、最適利用”でしか動く可能性がないのです。寝ている不動産の流通はそんなに難しくありません。その土地に見合った利用方法を考えられるかどうかだけです。それができて初めて私たちの仕事になるので、日頃から勉強しておくことが大事です。

 

 

塩漬けになった不動産の活用提案で被災地の復興を

─御社のコンサルティングで地域の活性化に結び付いた事例について教えてください。

 企業や自治体からの依頼があった案件は、どれも一筋縄ではいかない難しい仕事ばかりでしたが、地域のために役に立つ仕事になったものもありました。

 

●大型商業施設を、簡易宿所や温浴施設等にコンバージョン

 土地面積が29,578㎡、建物延床面積が3,986㎡(11棟)あるこの物件は、破産した法人が所有していたものです。遊戯施設やモーテル、浴場などを含む大型商業施設で、東日本大震災の時には既に休眠状態でした。地域の皆さんは津波で家を流されて、住むところも、遊ぶところも、食べるところも何もなかったので、この物件をなんとか被災者のために活用できないものかと考えました。ただそのためには出資者を見つける必要があります。そこで、地域で困っている人のために貢献できる活用方法で、かつ、収益事業としてもペイできる利用方法を構想し、出資者を探したところ、賛同してくれる人が現れました。最終的に、昔あった遊技場に新たに軽食コーナーを設けるなどの手を加えて活用し、出資者の収益事業にしました。同時に、モーテルは屋台村にコンバージョンし、以前は地元で居酒屋をやっていたが、店が流されて仕事が無くなってしまった人たちが再び働ける場所にしました。また、被災地にボランティアに来る人の泊まるところが無かったので、岩盤浴場だった場所の1階を一般的な入浴場にし、2階を1泊3,000円程度で泊まれる簡易宿所にしました。大浴場はそのまま生かし、2階にTVコーナーやネットカフェを設け、市民の憩いの場所にしました。出資者は収益事業だけでなく、屋台村や簡易宿所からも維持管理収入が得られます。

不良債権が地域の憩いの場に

 この事業をまとめるにあたっては、不動産の売買、土地・建物の賃貸借、土地の交換、借地権の設定と譲渡・交換など専門的で複雑な取引を行いました。また物件調査の過程で、前の所有者から、冬には水が枯れるため、温浴施設にするには水を買ってタンクローリーで運ぶ必要があるということを教えてもらったので、重要事項説明に記載することでトラブルを回避することができました。事業がまとまるまでは、往復3時間ほどかけて週4日被災地に通いましたが、地主や行政の人たちも皆快く協力してくれました。当社の事業としては、売買や賃貸借の手数料収入のほかに、事業をまとめるためのコンサルティングフィーと日当を業務委託契約します。また、この事業を通じて、迅速に動くということが非常に大事だということと、必ず成功すると思って継続実行することが大切だということを改めて学びました。

 

駅東ニュータウン

 JRの駅の駅前に工場がありましたが、その企業が倒産したため廃墟となり、風でトタン屋根が飛んでくるなど市も対処に苦慮していた案件がありました。物件は3回競売にかけられましたが、工場跡地のため入札は0で、担保権者である銀行からも相談がありました。そこで物件調査をすると、ダイオキシン、アスベスト、PCBなどの土壌汚染や産業廃棄物の放置があり、それを全て処理しようとすると数億円かかり、事業性が見込めません。通常であれば、業者に見積もりをとって無理だとわかった時点で検討中止になりますが、役所からの相談案件でもあったことから、役所を借りて、産廃業者に集まってもらい処理方法についてのアイデアを出してもらいました。その際、地下に埋まっていた木の皮や木くずを発酵させて、腐葉土として肥料にしている会社があることを教えてもらったのです。それを売れば、処理費用が5分の1で済むことがわかり、事業採算に乗ることになったのです。

 そこで物件を当社が購入し、開発面積10,099㎡、総区画数41区画の「○○○駅東ニュータウン」として2017年4月から分譲を開始しています。駅から500m範囲の地域は市のコミュニティシティ構想のエリアになっており、市の子育て世帯住宅取得奨励金も活用できます。土地建物が1,800万円前後で取得できることから、地元の若年層が賃貸住宅から移り住み、定住人口を増やすことができつつあります。

 

 

コンサルティングの仕事は「片方に寄らないこと」と「洞察力」

─仕事関連で20以上の資格を持たれています。

 今でも朝3〜4時頃に起きて6時くらいまで本(仕事と趣味)を読み、知識を身に付けようとしています。また、2018年には第1回「宅建マイスター・フェロー※1」の審査を受け、全国で5名の中の1名として認定されました。認定にあたっては与えられた6つのテーマから論文の提出が求められます。私は「高齢者との媒介取引」というテーマで、実際に当社で扱った高齢のお客様の相談内容や解決方法を4つのケーススタディとして取り上げ、高齢者が当事者となる場合の取引の留意事項や、成年後見制度、家族信託、リバースモーゲージ、プライベートカンパニーなどの制度を利用する場合のメリット・デメリットを整理し、1つでいい論文を6つ提出しました。これから高齢者やその家族からの相談が増えてくると思いますが、その場合でもやはり大事なことは、いかにお客様の気持ちに合致した提案ができるかということだと思います。

 

─コンサルティング業で大切なことは何ですか。

 コンサルティングの仕事をするうえで最も大事にしていることは「片方に寄らないこと」です。私たちの仕事は金融機関からの依頼が多く、その目的は不良債権処理をしてお金を回収するということです。しかし、そのためには債務者の側の状況も尊重し、彼らから好かれないと物事は進みません。例えば、事業で失敗した債務者から少しでもお金を回収するために、抵当権が付いていない自宅を裁判所に申し立てて競売にかけることはできます。しかし、額の大きい債務からいくばくかのお金が回収できたら、その時点で銀行に“なんとか自宅だけは残せないか”と交渉します。そして方法を見つけ、一方で債務者とは支払い計画を立て、少しずつ返済していくことで自宅が残るようにします。そうすれば債務者も喜んで協力してくれます。その反対で、債務者から恨まれるような方法をとってはうまくいかないし、むしろどちらかというと弱いほうの立場に立たないと問題は解決しません。コンサルティングの仕事をして実感するのは、この仕事は“相談業”だということです。お客さんの隠れた気持ちを引き出してくみ取りながら、客観的な姿勢を保つ。主観と客観のバランスを考えながら課題の解決を目指すことが必要だと思います。

コンサルティングをする上で必要な資格の数々

 コンサルティングの仕事は期間の長い仕事です。さまざまなステークホルダーが絡んだり、時間を置く必要があったりすると状況が変化することもあります。そのために欠かせないのが「洞察力」です。基礎知識と経験があれば処理の方法はある程度見えてきますが、企業であれば、その後どうやってお客さんを見つけ仕事を続けるかといった解決策を示すことが必要です。先日も北海道の金融機関から、ある会社が倒産したのだがどのような方法が考えられるかと連絡がありました。それに対して、考え方や想定客とその探し方をアドバイスしました。30年も経験していると物件を見なくてもある程度の解決策が閃きますが、物件・地域・当事者などへ調査・検証しないと必ず間違いが起きます。そのため、売却したいと相談に来られたお客様には、ヒアリングシートを用いて聞きとりを行ったり記入をしてもらい、①売却しない方法 ②売却する方法 ③他の方法1 ④他の方法2⑤他の方法3 のケースを考え、①~⑤のそれぞれ具体的な方法(20~30種)、費用、実現の可能性、プラスとマイナスの想定などの方法各種を提案し、相談者が選んで判断できるよう、他の士業の方にも補助してもらい、本人の望む最良を選択してもらいます。依頼者の本様を聞いてアドバイス的に行動しますので、仕事にならないケースもありますが、それでいいと思っています。感謝の言葉がうれしく思います。

 

─継続的な勉強と多くの経験を積むことが大事ですね。

 「人のため」になる仕事をすれば、絶対にいつかは「自分のため」になって返ってくると思います。やはり、よいサービスを提供するには知識と能力がないとだめですし、質の高いコンサルティングはできません。これからも勉強を続けて、地域や地域のお客様の役に立ちたいと思っています。

 

※1 (公財)不動産流通推進センターが2014年に宅地建物取引のエキスパートを「宅建マイスター」として認定する制度を創設。さらにその中でも、宅建マイスター認定後3年以上経過し、論文を提出し、審査に合格した人を「宅建マイスター・フェロー」に認定している。

 


 

田向定雄(たむかい さだお) 氏

1952年岩手県葛巻町生まれ。1988年に不動産業を開業し、当初は賃貸・売買・管理業をメインに業務を行う。この時期に紹介があり、都市銀行(当時7行)の不良債権処理業務を始めて現在に至る。また、住宅メーカーとのタイアップも始める。財務局からの声掛かりで、企画書等の審査を経て国有財産業務(売払い・貸付け等)を7年間行う。相談業や企画提案、市等の仕事や、法人関係からの売却・建て替え、M&Aなども。物件調査・査定・重要事項説明書の基本を重要視した仕事を大切にし、知識のトップレベルを目指す。

 

 

 

いわて不動産株式会社

代表者:田向 定雄
所在地:岩手県盛岡市材木町2番26号近三ビル1階
電 話:019-622-2400
H P:http://www.iwate-f.co.jp/
業務内容: 賃貸不動産および土地建物の管理・運営・仲介、不動産コンサルタント・プロパティマネージメント、不動産投資、リフォーム、起業・事業継承コンサルタント、相続対策・財産管理コンサルタント事業等。不良不動産・債権の有効活用にも取り組む。