株式会社東洋地所・有限会社見室不動産/山口県岩国市
地域を魅力的にする取り組み
<取材日:2021年9月16日>
地元の同業者が協働し
駅前商店街を再生
新規出店を促すために、家賃や敷金を減額交渉
衰退する駅前商店街への危機感の芽生え
─事業内容について教えてください
西村氏:売買と賃貸の仲介を中心に開発や宅地造成も行い、自社物件を含めて管理戸数は1,200戸程度あります。また、(一社)山口県宅地建物取引業協会(以下「山口県宅建協会」)でも11年ほど支部長を務めました。元々父が創業し、貸店舗などをしていた会社を1972年に引き継ぎ、商号変更をして本格的に不動産業を始めることにしましたが、父からは「そんな下賤な商売はやめておけ」と言われるほど当時は業界のイメージは悪かったと思います。しかし、不動産は命の次に大切な財産だという認識がありましたので、業界の活動などを通じて皆で努力をした結果、地域からの信頼度は当時と比べて随分高くなったと思います。
見室氏:当社は50年前に創業し、土地・建物の売買や仲介、アパート・マンションの賃貸の仲介や管理をしています。駅前商店街の中に立地し、テナントビルも管理していることから駅前エリアの活性化に微力ながらお手伝いをしています。
─岩国市の状況について教えてください
西村氏:岩国市は山口県の中では東端に位置し、広島県の県境にあります。2006年の合併で人口は14万6,000名ほどになりましたが、現在は約13万人※1と急激に減少しています。ただ、過疎化が進んでいるのは合併した郡部で、そこから中心部へ人口が流れ、旧岩国市の不動産取引はそれほど減っていません。また、「コンビナートと基地のまち」ともいわれ、三井化学や帝人、東洋紡などの工場や米軍海兵隊と海上自衛隊の基地があります。米軍は家族を含めると1万1千名ほどが暮らし、米軍関係民間人は基地外に暮らすことになるため、彼ら向けの戸建て住宅やマンションは日本人の賃貸相場よりは2~3倍程度高く貸せることから、市外から不動産投資をする方もいます。米軍と市民の間では比較的うまく交流や融和が進んでおり、特に2012年に基地の一部に民間機の乗り入れが可能になったことは経済的インパクトが大きく、岩国錦帯橋空港として羽田と沖縄に直行便が就航するようになりました。
─ただ、駅前商店街はすたれてきたのですね
西村氏:昭和40年代は駅前の商店街は賑わっていたのですが、大型スーパーが郊外にできたり、広島駅まで快速シティライナーが土日に運行されたこともあり、買い物客が広島に行くようになり商店街は徐々にすたれていきました。
地元の同業者が団結し、商店街の再生に取り組む
─商店街の様子を見て行動を開始したのですね
西村氏:駅前商店街は、過去いろいろなコンサルティング会社に依頼し、ニューモデル商店街を目指し、さまざまなプランが作られましたが、何ら実現しないまま時間は経ち、活気も美観も損なわれ、見る影もなくなってしまいました。そこで、同じ思いを持つ見室社長に声をかけ、2人で駅前の中心市街地を線引きし、約600m圏内をくまなく回り、空き店舗数の調査をしたのです。その結果、52の空き店舗があることがわかりました。空き店舗率は、本通り商店街が約15%、中通り商店街が約32%にもなっていました。
そこで、「この状態をどうにかせんといけんのじゃないか」と思い、同業者に呼び掛けたところ、中心市街地の物件を扱っている市内の業者を中心に12社が集まり、2010年2月に『中心市街地活性化を促す不動産業者の会』を結成。私が代表に就き、見室氏に事務局長になってもらいました。
見室氏:調査した時期はリーマンショック直後の相当景気が落ち込んだ時期で、最も空き店舗が多かったと思います。他の地方都市同様、岩国市でもドーナツ化現象が起き中心市街地がすたれ、それを食い止めることはできないにしても、私たちで少しでも何かできないかという気持ちは皆が持っていたと思います。ただ、皆さん一国一城の主で利益を追求する民間企業ですから、ボランティアでの参加ではなく、直接商売に結び付けたいという気持ちは当然ありました。
─会はどのような活動をしたのでしょうか
西村氏:初回の会合は、中心市街地の地権者で構成する活性化協議会の正副会長、市の商工課の課長、商工会議所の専務理事、中小企業相談所長などにも同席してもらい、中心市街地に新規出店や起業し易い環境を作ることを確認しました。さらに、活動期間は3年間とし、成果の報告や情報交換及び勉強会を3カ月に1回開催することにしました。その後も市や他の団体が積極的に協力してくれて、勉強会には日本政策金融公庫の支店長や、市役所の職員、元国交省住宅局長の山口県知事などを招き、新規出店に対する融資制度や市の空き店舗奨励補助制度、岩国のまちづくり計画などについて学びました。
見室氏:その後岩国市は、新規出店に対する支援として3年間家賃の半額を補助する制度や、既存店舗についても改装費用の半分を補助する制度を始めました。
─会における議論で浮かび上がった問題点について教えてください
西村氏:中心市街地の活性化を阻害している要因として、まず、路線価や公示地価が実勢価格と乖離し、賃料や売却価格が高止まりしているため、新たな出店が難しい点。土地所有者、借地権者、テナントが異なるため不動産の権利関係が複雑で、売却や老朽化ビルの解体が困難な点。物件の所有者や店舗経営者が高齢化する一方で、新規出店者や起業者の意欲が高まらないので新陳代謝が起こっていない点。老朽化した空き店舗の解体整地費の負担感が高い点などが挙げられました。
─そのような課題に対してどのように取り組んだのでしょうか
西村氏:このような阻害要因を解消するには、新規出店者の費用軽減と、家賃や敷金の減額が必要と考え、契約時に“借り手からの仲介手数料の無料化”と“家主や地主に対する家賃や敷金の減額の働きかけ”を実施しました。このようにテナントには出店しやすい環境を整える一方で、空き店舗情報の提供や紹介、日本政策金融公庫の出店支援制度の紹介を行うとともに、家主や地主に対しては老朽化建物の解体や建て替えについての相談や提案を行いました。
見室氏:古いビルで見栄えも悪く、まちの景観を損ね、とても貸せるような店舗ではなくても、更地にするには建物の解体や整地のための費用がかかり、さらに固定資産税が上がってしまいます。やはりそれを推進するには、解体費の補助や固定資産税の減免などの支援が必要だということを、会の中で行政に伝えました。
業者自ら身を切る提案をする
─手数料無料などの提案もされたのですね
西村氏:不動産業者がある程度収益を度外視し、しかもグループで取り組むのは珍しいかもしれません。会のメンバーは「空き店舗を減らすことが周辺の環境を改善し、地価下落の歯止めになる」との思いから、家主や地主と付き合いの長い業者が各々手分けをして理解を得られるよう回りました。このことは商店街の役員の方たちにも刺激を与え、熱心に協力してくれるようになりました。また、商店街振興会は、商工会議所と共に商店街の土地・建物の所有者に対して、今後の活用に関する意向調査を実施しました。それによると、未利用地や事業活用移行していない建物がそれぞれ1割程度あるが、有効活用したい意向も同程度あり、中心市街地の活性化に取り組みたい方の比率も6割を超え、まちづくりに対する活用に期待が持てるという結果になりました。
見室氏:最終的にずっと空いていることを考えたら、家賃を下げるなりして店舗を決めた方が大家さんにとってもメリットがあるはずです。管理業者もテナントがつけば管理料をいただけるようになるので、借主からの仲介手数料を無しにしたとしても、長い目で見れば損失は少ないですし、大家さんによっては、この話をすると手数料を払ってくれるケースもありました。
─会の取り組みの具体的な成果について教えてください
西村氏:この取り組みを始めてから3年間ほどで、約20店が新たに出店しました。従来は物販店が多くあったのですが、飲食店が入るようになり商店街の景色は少し変わりましたが、一定の成果はあったと思います。ただ、私たちが実現したのは空き店舗に新たな借り手を見つけることであり、それは、あくまで対症療法にすぎないと思います。本当は複雑な権利関係をまとめ、細切れになっている土地を集約し、一体の開発ができるところまでできれば良かったと思います。
また、行政の動きも具体的になり、中心市街地に関する市の基本計画が国から認可され、時期を同じくして駅舎も改築されました。後は、駅西口の南側のスーパー跡地周辺の再開発が進めば大きな目的のひとつは達成することになると思います。
見室氏:裏通りには誰も住んでいない空きビルがあり、暗くて雰囲気も悪かったのですが、建物を解体してコインパーキングにしたら環境も良くなり、女性がひとりで歩けるようになった場所もあります。実際に私たちの働きかけが効いたのかどうかわかりませんが、店舗は少しずつ埋まってきていますし、駐車場は確実に増えたと思います。
西村氏:この取り組みを通じて、行政との距離が近くなることで最新情報を得られるメリットを感じました。さらに、家主や地主、そして商店主の「なんとかしたい」という意向を肌で感じ、まちづくりに多少なりとも協力し、成果を得ていることを誇りに、少しでもまちを良くしたいという意識が参加した不動産業者の中に高まるのを感じることができました。
※1 2021年3月12日現在で130,472人
西村栄時(にしむら えいじ) 氏(右)
株式会社東洋地所
1940年、山口県岩国市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。1983年に代表取締役に就任。賃貸の仲介・管理、売買の仲介、宅地造成事業など広範囲に扱う。2021年10月より、次女に代表を継承。現在、会長としてサポート。
見室宜彦(みむろ よしひこ) 氏(左)
有限会社見室不動産
1961年、山口県下松市生まれ。同志社大学経済学部卒。大学卒業後、岩国市において11年間サラリーマンとして働き、妻の母親が経営する不動産会社に入社。平成19年より代表取締役に就任。現在に至る。
株式会社東洋地所
代表者:長島友愛
所在地:山口県岩国市山手町1丁目1番14号
電 話:0827-24-2468
H P:https://www.toyojisyo.co.jp/
業務内容:不動産売買の仲介、不動産賃貸物件の仲介・管理を中心に、土地開発や販売、不動産物件のリノベーション提案などを行う。
有限会社見室不動産
代表者:見室宜彦
所在地:山口県岩国市麻里布町3丁目4番6号階
電 話:0827-21-5655
H P:https://www.366.co.jp/
業務内容:岩国駅より徒歩3分の場所に立地し、土地・建物の売買や仲介、アパート・マンションの賃貸の仲介や管理を行う。