株式会社聚楽/大阪市北区
地域を魅力的にする取り組み
<取材日:2021年12月10日>
環境浄化運動によって、安心で
楽しめるまちづくりを目指す
行政、オーナー、商店街などの仲間と地道な活動を積み上げる
歓楽街の環境浄化のために夜警活動を行う
─夜警に参加し始めた経緯とその内容について教えてください
私が住む兎我野町の町内は、結婚して初めて、地元の人から“一人前”と認めてもらえます。2000年に結婚しましたが、昔、野球を教えてもらった町会長から「晴れて一人前になったので、君のおじいさんもやっていた防災委員に委嘱する」と言われました。1992年から10年間他社に勤めていましたが、その時から毎週金曜日の夜警には参加していました。このまちの夜警は50年近くの歴史があり、目に余る客引き行為や迷惑駐輪などを撲滅するために、商店会や振興町会のメンバーが交代で行う防犯パトロールです。夕食前に夜警のテントを立て、提灯をぶら下げ、夜の8時に集合して約2時間行います。また、年2回、曽根崎警察署と連携して地域の各種団体と合同で、『環境浄化パレード』を行います。これは、まち全体で問題意識を共有すると共に、まちづくりのための仲間作りの場という目的も併せ持ちます。
しかし、歳末警戒となると終わるのは11時を過ぎますし、冬は寒く、最初に音を上げたのは、実は私でした(笑)。そこで、防犯委員になったのを機に、自分の車に青色灯を載せて、広域に巡回できるようにしました。今は参加者も増えたので、テントで待機する人、車に乗る人、皆で一緒に歩く人の3部隊に分けています。さらに、夜警活動の効果がそれなりに出てきたことや、この先も継続することを考えて、それまで毎週金曜日に行っていた活動を、今は月1回の第2金曜日に実施するように変えてもらいました。
大阪は2005年頃、ミナミといわれる道頓堀や宗右衛門町あたりがまず荒れだし、その余波を受けてキタといわれる梅田からこの界隈も、街頭犯罪が頻発するようになりました。違法な性風俗営業やしつこい客引き、迷惑駐車・駐輪や落書きなどが目立つようになると、来訪者にいい印象を与えませんし、そこで暮らす住民や事業者にもマイナスの影響を与えます。そこで、大阪府警は本格的に歓楽街対策を始め、まずミナミを歓楽街総合対策推進重点地区に指定しました。その流れでキタでも商店会や振興町会など25団体が結集し、2006年に『キタ歓楽街環境浄化推進協議会』を立ち上げ、一番若い私が事務局長を務めることになりました。協議会は、皆の笑顔が絶えない地域であって欲しいとの願いを込めて、「つくろう もっといい街 キタい街」をスローガンに掲げています。
─夜警をするエリアも広がっているのですね
2016年以降は兎我野町だけでやっていた夜警のエリアを隣町の太融寺町まで広げることにしました。地元の人からすると「隣の町にまで入って出しゃばって」と思われるかもしれませんが、「点として活動をしていても悪い人たちは移動するだけだから、面としてもっと広域にやらないと意味がない」と、越境することにしました。既に何十年も実施していることなので、「一緒に参加してください」と声をかけながら隣町も回ることにし、さらに堂山町や曽根崎などその周りのエリアまで対象を広げ、今では片道で徒歩40分くらいの範囲になりました。
─参加者はどのように集めているのですか
やはりこの活動はつらいので、続けていく気持ちがあってもいつまでやれるか不安です。
しかし、月1回になったことと、遊び半分でもいいから手伝いに来て欲しいといろいろな人たちに声をかけると、「梅田にはよく遊びに来るので、来られる時に参加します」など、地元の住人や働く人以外にもクリエーターやコンサルタント、宅建協会の他支部の会員などが参加してくれるようになりました。
─警察や行政との協力も不可欠ですね
警察にはまずは取り締まりの協力依頼をしますが、課長から上のクラスは1年毎に異動になることから、毎年転勤してやってくる警察官にまちの状況や活動内容を繰り返し伝えています。
さらに、取り締まりを強化するための勉強会や情報提供も行っています。例えば、無料案内所は性風俗店を案内するところですが、契約した借主がオーナーの知らない内に反社組織に転貸しているケースもあります。そこで警察署に出向き、賃貸借契約に関する法律の内容や転貸借の仕組みなどについて勉強会をしました。その結果、転貸された場合でも関わっている人全てに承諾をもらわなければ店舗の営業ができないというように、条例の改正を実現することができました。また、性的なサービスを提供する場合は時間制限があるにも関わらず、24時間営業している店が後を絶たず、摘発しても店の名前を変えてすぐ営業し始めることから、賃貸借契約書を提出させて、そのオーナーが共犯なのか幇助なのか徹底的に調べてもらうことにしています。
安心なまちづくりのためにオーナーの意識を変える
─オーナーの意識も変わらないといけませんね
一時期は無料案内所がまちを埋め尽くし、1階の店舗が全て案内所というビルもありました。無料案内所が増えると違法な客引きが増え、客引きが増えると取り締まりが厳しくなります。しかし、取り締まりだけではきりがないと思い、警察と始めた勉強会にオーナーにも参加してもらおうと、2013年に協議会の中に『ビル自主規制部会』を立ち上げました。そこで、「オーナーには社会的責務があり、お金さえもらえばどんな相手に貸してもいいというのは間違いだ」「そのような取引が繰り返されると、環境が悪化し、まちの格が下がり、資産価値も下がってしまう」「オーナーには長期的な視野を持ち、安心で安全なまちを目指すまちづくりの中心的な存在になって欲しい」という考えを共有しました。実際に、性風俗店に貸せば坪賃料が倍以上になりますし、24時間営業の無店舗型性風俗店からは、いくらでもお金を払うと言ってきます。背に腹は代えられないと言うオーナーもいますが、そのような店を1軒入れるとビル全体の雰囲気が変わるし、隣のビルのオーナーも影響されて、エリア全体がブラックなイメージになってしまいます。
─勉強会に参加しないオーナーも多いのではないですか
勉強会では、「違法性風俗店に貸しているこのビルの持ち主では?」と名指しされることもあるので参加したくないというオーナーはいます。そこで、チラシを作って投函するとともに、警察からも「この問題に真剣に取り組まないオーナーに対しては、当方も対応法を考えます」と多少脅してもらいながらやっています(笑)。また、最近はWebの効果も大きく、違法な営業が明らかになると、その当事者と店の入っているビルの名前が一緒に公開されるので、オーナーが誰かわかってしまいます。そうなると、収益ビルとして売却する際に、金融機関はテナントの属性を調べますから、たとえそのビルの利回りが高くても、資産の評価は下がります。実際に、金儲けだけに走っているようなオーナーに対し、金融機関から「融資の申し込みがあるのですが、どのような人ですか」と聞かれたら「やめた方がいい、警察も一緒の意見です」と伝えています。
また、オーナーによっては「客付けした不動産業者が悪い」という人もいます。宅建業者もオーナーにたて突くと仕事がしにくくなると思いがちですが、そんなことはありません。そのようなオーナーには、真面目な仕事をする業者もたくさんいることや、宅建協会として取り組んでいることなどを話します。一方、宅建業者に対しても、ややこしいことは何でもふたをして処理してくれる便利屋扱いされるのは良くないし、一つの取引がまち全体のイメージを下げ、元に戻そうとしても非常に時間がかかることを伝えます。兎我野町は性風俗店が多いことで一躍有名になってしまいましたが、昔は由緒ある、良いまちでした。丸順不動産の小山社長が、「よき商いが共存出来るようにまちをマネジメントすることが必要だ」とおっしゃっていましたが、まちが良くなるためには私たち宅建業者の意識の向上も重要だと思います。
まちづくりのためにやれる事をやり尽くす
─貴社所有のビルではバイク置き場を設けていますが珍しいです
警察の歓楽街総合対策の中で、駐車監視員制度導入で駐車違反の取り締まりはしてくれますが、放置バイクを取り締まるためには、バイク置き場が必須です。そこでまず手始めに、当社のビル内に設けることにしました。どれくらいの人が借りてくれるか半信半疑だったので、最初は時間貸しで100円、月極は1万5,000円でスタートしました。ただ、不正利用が絶えないことと、月極の場合、2カ月目以降の賃料が滞納となる問題が生じました。車と違い、乗っている人はアルバイトが多く、すぐ店を変わったり、お金を払って停めるという感覚が薄いからでしょうか。しかし、値段の高そうなバイクで通って来る人や、夜遅くまで停めなくてはならない人もいるので、人通りの多いところを借り増しして、現在は4カ所で70台分のスペースを運用しています。今でも不正利用する人はいますが、自ら課金して停めてくれる人も定着しつつあります。このようにバイク置き場を作ったことにより、次は手の施しようがなかった迷惑駐輪対策として、協議会で自転車置き場を借りて運用していこうという流れができました。
─夜警でも放置自転車に注意喚起の札をつけるなど、その対策を重視されています
迷惑駐輪が増えると、美観を損ねると同時に通行の妨げになることから、バイクと同様の対策が必要でした。やはり「停める場がないから放置される」という意見が出て、町会で土地を借り上げ、150台分の駐輪場を作り、『ウメチャリ』として運用しました。地代は40万円ほどでしたが、150台が1日1回転して、1時間100円で貸せれば月45万円ほどの収入が見込めます。利用者を増やすために、お得感がある優待券を発行し、各町会長にはお店で働くアルバイトに使って広めて欲しいと、100枚単位で買ってもらうよう依頼しました。最初は上手くいかず、町会長にお金を立て替えてもらったこともありましたが、徐々に浸透していき利益が出るようになりました。しかし、コロナによって人が出てこなくなると、再度赤字が続くようになりました。そこで、設置した機械も償却期間を過ぎたこともあり、8年間続いた自転車置き場は一旦撤去することにしました。また再開できるようになるまでは、夜警の際に放置自転車に注意喚起の札をつける活動を続けていく予定です。
─取り締まる一方で、まちに来た人に喜んでもらう活動もされています
夜警活動をしている人は、客引きなどに対して「俺たちのまちを汚しやがって」という意識がありますし、彼らは逆に「まちで稼ごうと思っているのにうるさいのが出てきた」とお互いが敵対意識を持ち、常にピリピリしたところがあります。そこで、もっと人に喜ばれることをしようと『まち案内エスコート』という活動を始めました。ゴールデンウイークなど人が増える週末の午後4時から6時までの2時間、怪しまれないように統一のビブスを着て、3~4人で一組になって街角に立ち、道に迷っている方に声をかけて行き先を案内しています。一般的に6時頃から飲み会や結婚式の2次会が始まることが多く、その辺りの時間になると地下街から地上に出て、スマホやチラシを片手に店を探す仕草をしている人たちが散見されます。その人たちに対し、「どの店に行く予定ですか。私たちはボランティアで、地域のために道案内をしているんです」と声をかけます。ただ、活動のルールとして、「この辺りで美味しい店ありませんか」と聞かれても、自分の知っている店を案内することは客引き同等なので絶対にやめようと注意しています。また、なかには感動してお礼にお金やお菓子を渡そうとする人もいますが、丁寧に断るようにしています。そして、せっかくなのでこのまちに来る人の情報を集めようと、どこから来たのか、何人でどんな目的でいくのかについてアンケートを取るようにしています。
協力してくれるボランティアは、女性や学生、なかには道は良く知らないけど英語は話せるという人や留学生も参加してくれて、多い時には60人くらいになります。最近は近くのECC専門学校がボランティア部門を立ち上げ、海外から来た人に対して母国語で対応してくれます。実際に母国語で、「ありがとう、助かったわ、あなたも頑張って」というように励まし合うこともあり、ボランティア冥利につきるようです。また、「“客引きに声をかけられても絶対ついていっては駄目ですよ”と注意されたおかげで、大切な時間が楽しく過ごせて助かりました」と言ってもらえることもあり、消えかけていたろうそくに灯がつくように、大阪人の持つ“お節介のDNA”にスイッチが入って最後の集合時間には皆が笑顔で集まってくるような活動になりました。
─猫の糞尿被害撲滅の活動もされています
ビル自主規制部会を立ち上げて、まちづくりの会議をしていると、「猫の糞尿被害に困っているので猫を捕まえて捨てに行ってほしい」という話がでました。そこで、猫が好きな人に話を聞きに行くと、猫は年3回出産するので、繁殖期に捕まえて去勢手術をすることと、プランターの中に砂を入れ、しつけをすればそこでトイレをするということを教わりました。そこで、大阪市が推進する“所有者不明猫適正管理推進事業”のもと、“まちねこサポート隊”を組織し、人と猫が共存できるよう『T(捕獲)N(不妊・去勢手術をして耳カット)R(元に戻す)+M(餌やりやトイレなどの世話)』活動を始めました。ただ、去勢手術が1万5,000円以上かかることから、2018年にはクラウドファンディングを立ち上げ200万円を集め、その資金を使い既に500匹以上の猫を捕獲しています。私は大阪市への報告書作成や、ネコ会計の管理と捕獲籠の保管場所の提供をしたり、活動資金を捻出するために、パチンコ屋などから空き缶を集め、資源ごみとして屑鉄屋で換金したり、募金箱の設置などをしています。
─小学校の跡地開発の提言もされています
元曽根崎小学校の跡地開発の計画があり、地元の住人からは活動の拠点となる公民館を作ってほしいという要望が出て、敷地を2分割して売却する案が進んでいました。しかし、その方法だと中途半端な建物が建ち、売却価格も低くなるだけです。そこで協議会が窓口になり、振興町会や各種団体からの意見を集約した結果、敷地を一体で売却し、そこに高層マンションを建て、公民館をその中に設けるという提案書を作成しました。最終的にそのプロポーザルが通り、地元の人が集える場所を設けることや、防災拠点として有事の際は施設を住民のために開放することなどを条件に、デベロッパーに最高値で購入してもらいました。
地元でお金がある家庭の子供は、私立の小学校や中学校に行ってしまいます。それに対して、この辺りのまちは、地元の小・中学校に行かないと地元民としては認めないというような、閉鎖的な考え方をしてきました。住む人が減少する中で、そういう考え方ではさらにまちの行事に関わる人が減っていきます。その結果、まちは「稼げればええねん」という異質な空間に変わっていってしまいます。
─新しく出来たパチンコ店を地域の仲間として受け入れられています
映画“Shall We Dance”の撮影にも使われていたワールドというダンスホールが売却され、長らく駐車場だったところに建設計画が出されていました。問い合わせると大手パチンコチェーンが出店するということだったので、住民説明会の開催を要求しました。ただ、建設自体は違法ではないので、敵対するのではなく、“まちの一員として受け入れる”前提で議論しようと皆で話をしました。物件は事業用の借地契約ですから最低20年は賃貸するので、本音はコンサートホールなどにしてほしい気持ちもありましたが、仲間として受け入れようと考えました。そこでこちらからは、町会に加入し、夜警に従業員を参加させてもらい、青色防犯パトロールの車の駐車場の提供や、災害時に避難ビルとして利用させて欲しいと要望しました。先方はそれに対しとても協力的で、夜警も仕事として参加してくれるので、地元の人たちも好意的に迎え入れています。
このように、まちづくりに関する仕事は多岐にわたり大変ですが、一つやればそれでいいというわけではなく、しかも駆け足で進められるものでもないので、出来ることはやり尽くしながら、後退しないよう地道に少しずつ前進していくしかないと思います。
肩ひじ張らず、持ちつ持たれつの関係から
─取り組みが多岐にわたると合意形成が大変ではないですか
確かに「防犯のことだけしてくれたらええのに」「自分のまちはまだ性風俗店が出ていないから、取り締まりエリアをそんなに広げんでもええ」という人たちもいて、考え方は地域によって違います。しかし、お互い隣町同士なので、こちらで起こっていることはすぐ伝播していきます。「自分のまちさえ良かったらいい」という小さな視野で考えるのではなく、「環境浄化は、そのまちの人のやる気がなければそこが巣窟になるだけです。一緒に活動しましょう」と言い続けていますが、文句ばかり言う人は相変わらず多いですね(笑)。
ただ、協議会に集まってくれる人たちは、地域を良くしていくことに前向きな人ばかりなので、ルールを決める場合もスムーズに全員の合意がとれます。どのまちも人手不足で困っていることには変わりがないので、町会同士、肩ひじ張らずに、持ちつ持たれつの関係で交流しています。
─宅建協会の役員も務められています
当社は1948年(昭和23年)に祖父が創業し、本社ビルのある土地は、3年後に購入し、しばらく旅館業をしていました。1966年に木造旅館を鉄筋コンクリートに建て替える段階で、大型バスの進入規制が入り、バスの横づけができなくなったことから、急遽貸ビルに用途変更しました。私は、1992年から祖父の一番弟子だった方の不動産会社で10年間修業し、当社に戻って来たタイミングの2002年に宅建業免許を取得しました。
宅建業免許を取得し大阪府宅建協会に入会し、研修会に参加した際に当時の役員から、「君のような時間がある人間が役員をやるといい」と言われ、名誉なことだと思い引き受けたのが始まりです。協会の仕事に関わることで当社のビルのお客様を紹介してもらったり、歳末夜警に来てもらったのをきっかけに、各支部でも警察署とのパイプを強くしてもらっています。研修委員になった際は、出席率がとても低かったので、研修を受けるのは当たり前だと、特に事務局が連絡しにくいと言っている会社から順番に自ら電話をしています。その結果、1,080会員のうち欠席が16社まで減りました。
実際に協会の仕事をしてみると、役員は真面目な人が多く、我慢強く会員のお世話をされています。その背中を見ると、「自分がやりたいと思う事は、人に伝わらないと協力を得られない。そのためには自分を磨くことが大事だ」ということに気づかされました。
地道に実績を積み上げ、まちを良くしていく
─安心なまちにするには警察や行政とはどう向き合えばいいのでしょうか
法で取り締まっても、その網をすり抜ける人もいて、結局はいたちごっこになります。そのため、私たちはもう少し柔軟で伸びしろのある運用の方法がいいのではないかと思っています。放置自転車問題も、ミナミでは附置義務条例を認め、新築や建て替えの場合、自転車置き場を設置しないと建築許可が下りないようになりました。そうすると、1階は店舗でなく全て自転車置き場にしなくてはならなくなり、結局は自分で自分の首を絞め、別の用途で建築確認申請するなど抜け穴を探すことになります。それよりも、「少し離れた場所にまとまった駐輪場を設け、そこを自転車置き場として確保すればいい」というように条例の運用を緩めた方が現実的です。また、性風俗取り締まりの処罰法があっても、彼らは形式を変えて営業し続けますので、法で縛るだけではなく、怪しい商売には貸さないようにするというように、志の高いオーナーを育て、仲間作りをする方が、商売の自由度も確保でき、有効だと思います。
また、大阪府では厳しい客引き条例※1が制定されましたが、兎我野町の場合は、オーナーの勉強会が行われていることや、地元の合意形成ができている上に、飲食店をより多く迎え入れたい立場なので、あえて客引き条例の禁止区域から外してもらいました。それは、客引きをしていいということではなく、取り締まりを少し緩め、飲食店が増えることで、性風俗店の比率を下げ、悪いイメージを払拭していこうと考えたからです。実際に、オーナーの一人が無料案内所の入居を断ったことで、そこにクラフトビールのお店や肉専門店がいくつか入り、無料案内所だらけだったビルが雑誌に取り上げられるような場所に変わりました。これは、条例を地域事情に応じてアレンジしてもらって成果が出た一例だと思います。
─いろいろな努力が実って、少しずつまちが良くなっているようですね
当社も元は旅館を経営していましたし、この辺りは一般のホテルも多い地域です。曽根崎警察署管内でもラブホテルの許可店は8カ所しかなく、他はビジネスホテルで許可をとってラブホテル使いにしているだけです。しかし、この辺は、京都、神戸、奈良など、有名な観光地に1時間以内で行ける便利な場所です。いまあるホテルが普通のホテルに生まれ変わり、たくさんのファミリー層が泊まりに来ることになれば、その人たちを食事の面からもてなすこともできるようになります。
ただ、その場合も、観光客が国内外から大阪にたくさん来たからといって、黒門市場や道頓堀のようにチェーン店一色で埋め尽くされてしまえば、果たしてそれが大阪の魅力を味わってもらえたことになるのでしょうか。やはり大阪らしさをまちの中に維持しておかないと、一度来てくれたとしてもリピーターは生まれません。飲食店には、「客引きをしないと来てもらえないような粗悪なメニューだと“大阪に行ったけど美味しいものは無かった”と二度と来てくれません。品質は維持してください」「おもてなしの良否は必ず自分たちに還ってくるので、お客様には丁寧に対応してください」と声をかけています。
協議会でも2016年4月には、これまでの活動の成果とこれから目指すまちの将来像を『キタ歓楽街地区周辺まちづくり構想』としてまとめ、大阪市長に提出しました。ホテルや飲食店の経営者、オーナーや不動産業者には「大阪府も市も応援してくれるのだから“本気でまちを良くしていきましょう”」と伝えています。このまちでも「せっかく若い人に入ってもらったけれど資金が途切れた」「跡継ぎがいないのでビルを売ることにした。後は頼む」と事業をたたんで町会を抜けていく人もいます。当社もただ待っていてはお客さまは来ないので、生き残りをかけて、使って欲しいと思う人を連れてきたり、紹介をもらうようにしています。エリアマネジメントの勉強会で学んだことを、自分のまちで試行錯誤しながら実践するようにしていますが、それが少しずつ成果として表れているのではないかと感じています。
※1 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(迷惑防止条例)
難波啓祐(なんば けいすけ) 氏
1970年、大阪市北区生まれ。大阪経済大学経営学部卒。創業者は1948年に岡山県津山市から大阪天満市場・天神橋筋で「稲荷あげ」を専門とするお店を繁盛させ、1951年に北区で一番古い町兎我野町が区画整理され、売り出されたタイミングで購入。「旅館 聚楽」から貸しビル業へ自社物件を運営。大阪市北区を安心・安全なまち、そして信頼のあるまちにし、事業や社会貢献活動を通して、人々の笑顔が絶えない地域であってほしいと願い、「つくろう もっといい街 キタい街」のスローガンのもと、まちづくりの一端を担う。
株式会社聚楽
代表者:難波啓祐
所在地:大阪市北区兎我野町9番23号 聚楽ビル 6F-601号室
電 話:06-6312-1551
H P: https://ju-raku.co.jp/
業務内容:不動産仲介・不動産売買・不動産賃貸・不動産管理。地元地域の環境浄化のために立ち上がった「キタ歓楽街環境浄化推進協議会」の副会長兼事務局長として、夜警活動、オーナー自主規制部会、放置自転車撲滅対策、猫の糞尿被害撲滅対策等に取り組み、安全で安心なまちづくりに努める。