株式会社巻組/宮城県石巻市

地域を魅力的にする取り組み

<取材日:2021年12月3日>

 

価値のない不動産を資源として
クリエイティブな人につなげていく

幸せの生き方を追求し、自由な暮らし方が実現できる住まいを提供する

 

・ボランティア人材の住まい確保のために、未接道の貸家を事業化

・関係人口を増やし、多様な人材をまちに招き入れる

・新たな契約形態で、多様なライフスタイルの入居者に家を提供する

・幸せに暮らす人を増やしまちを豊かにしていく

・多様な暮らし方の受け皿になるシェアハウス「Roopt」

 


 

ボランティア人材の住まい確保のために、未接道の貸家を事業化

─事業立ち上げの経緯について教えてください

 2011年の東日本大震災発生の2カ月後にボランティアとして石巻に入り、2012年末から空き家の活用を始め、2015年に法人登記をしました。

 石巻は2万2,000戸の家屋が倒壊したことに加え、震災直後は災害復興のために建設業の業者が入ってきて賃貸住宅を押さえたため、特に単身者向けの賃貸住宅が全く足りない状況でした。震災後10年間で見ると石巻市内だけで7,000戸以上の公営住宅が建てられ、田んぼだったところも宅地化され、ハウスメーカーやデベロッパーが新築の建売住宅やマンション、賃貸住宅をどんどん建てていきました。さらに、駅前には津波避難ビルや公共施設が建てられ、川に沿って防潮堤が作られるなど、私は大学で都市計画を専門に学んでいたこともあり、教科書で読んだような光景が展開されていくのを目の当たりにしました。地権者や大家さんにしても、補助金や等価交換の仕組みを使うことで、自分のお金を使わずに老朽化したビルが高い建物に建て替えらえることにありがた味を感じているようで、メイン通りの風景もどんどん変わっていきました。

 一方で、震災直後にボランティアとして石巻の役に立ちたいとやって来て、このまちを気に入り、ここに残って新しい事業を立ち上げたいと考えた人たちもいましたが、住むところがないという理由で帰ってしまいました。今ならどのまちでも欲しい人材がそのような理由でいなくなってしまうのはもったいないと思い、未接道の条件の悪い空き家を見つけ、大家さんを探し、家を借り上げて住めるようにして、ボランティアで来た人に貸したのが最初の仕事でした。

 

─最初に手掛けたのはどのような物件だったのですか

 震災直後は貸してもらえる物件がなかったので、誰も使っていない空き家を自分で探すしかありませんでした。仲間たちと住宅地図を広げて、1軒1軒見て回りながら塗りつぶして行くと、道路からは見えない接道していない物件があったのです。それは砂利敷きの通路の奥に建つトタン張りの貸家で、前の入居者が高齢で施設に入ってしまい空き家になっていた賃貸物件でした。部屋は8畳2間で、修繕しないと住めない状態でしたが、お金が無かったので、大家さんに「絶対に借りてくれる人がいるから」と30万円出してもらい、床を直し、壁をペンキで塗り、トイレは洋式便器を外付けするという、住む上で必要最低限の補修をしました。家賃は2万円でしたが、それを4万円で転貸し、借主からは「家賃は少し高いけど、このような取り組みが広がることが大事だから、あなたを信じて一緒に部屋を作るつもりで入居します」と言ってもらいました。

 

─事業化の目途が立ったのはいつ頃からですか

 1軒目を始めた翌年に2軒目を手掛けた頃はまだ銀行口座すら持っておらず、借主から家賃を現金で受け取り、現金で大家さんに支払っていました。しかし、その間一度も赤字にならず、1年を超えたあたりでお菓子の缶の中に1,000円札が少しずつ貯まっていきました(笑)。空室がほとんど出ないこともあり、2年間で2軒運用してみると、意外と利益が出ていることがわかりました。2軒目はお茶屋さんの2階で、広さが200㎡ほどある3LDKの部屋をシェアハウスにしました。大家さんから3万円で借りて、200万円ほどかかった改修費は市の助成金を充てました。部屋は寒かったですし、空室を心配しましたが入居者が切れ目なく決まり、3年間で延べ30人以上に使ってもらいました。

 その当時はまだ何がキャッシュポイントになるかは見えませんでしたが、法人組織にし、大学で建築を専攻した卒業生と、デザイン学校の卒業生を採用して、建物設計やデザインの仕事も受けながら、物件を購入したり借り上げて賃貸する事業を進めていきました。空き家の改修は累計で50件を超え、現在自社物件として賃貸しているのは15軒になります。

 

2軒目に手掛けたシェアハウス「SHARED HOUSE八十八夜」

施工事例「ハグロBASE」築60年の木造平屋をアトリエハウスにリノベーション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関係人口を増やし、多様な人材をまちに招き入れる

─空き家をなんとかしたい所有者をどのようにして見つけたのでしょうか

 私たちが2軒の空き家の利活用をしたタイミングで、被災地で空き家の活用をするのは珍しいと、メディアに少しずつ取り上げてもらえるようになったのです。すると「空き家があるのですが、なんとかしてもらえませんか」という問い合わせが入るようになり、特に新聞の影響が大きく、多い時で月に4、5件入ります。所有者は、「一見さんにお願いするのは抵抗があるけど、実は活用してほしかった」が、「親戚や周りの人からなんで手放したのかと言われるのが嫌なので、自分の手を離れるまでは公にはして欲しくない」とか「ご先祖様に顔向けできない使い方をしたくない」という方が多いです。

 それに対して当社の場合は、購入するか借り上げるので、募集のための広告をほとんど出しませんし、最近は、メディアに取り上げてもらったり、利活用した拠点が市街地でも増えてきたことから、「巻組ならちゃんと使ってくれる」というように、ブランドが少しできてきたのかもしれません。いずれにしても所有者から「手放してよかった、預けてよかった」と思われるような使い方をこれからも模索していかなくてはと思っています。

 

─一方、借主はどのようにして見つけるのでしょう

 現在稼働している物件は、10軒30室前後ですので、ほぼ口コミで埋まってしまいます。借主を継続的に確保する方法は模索しているところですが、友達の友達というような輪を丁寧に広げていこうと思っています。

 そのために、プロジェクトを3つ進行しています。まず、『東北クリエイティブアカデミー 』という名で、全国のインターンの大学生を募集しています。「学生の力で地方の魅力を高めよう」という趣旨で、春休みや夏休みを利用してインターンに来てもらい、地元の花屋さんや、水産加工場に派遣し、部屋は当社が提供するといった受け入れを続けています。これまで6年間で延べ200人ほどが参加し、その中には卒業後移住したり、友達を紹介してくれる学生もいます。2つ目が、昨年から始めた『Creative Hub』という活動です。コロナ禍によって、海外に行くことができなかったり、首都圏で活動がしにくくなったクリエイティブ系の人材が、地方に目を向けています。そこで、アーティストや制作活動をしている人たちに会員になってもらい、制作場所と滞在場所を提供する代わりに、自分たちの活動を発信してもらっています。

 さらに、島根県雲南市とラフォーレ原宿と連携し、どちらの施設も使えるようにして、11月にはラフォーレの最上階のスペースで作品の展示会を開き、2週間で約300人の来場がありました。3つ目が、ワーケーションのプラットフォーム作りです。元倉庫を改修し、50坪ほどのコワーキングスペースとしてオープン。そして、『Third Self』という仕組みを作り、会員になると、年会費3万円(税別)で施設を自由に使え、年2回海産物が送られ、オンラインコミュニティに参加できます。既に首都圏居住の方含め20人ほどが会員になり、プラットフォーム内の交流も生まれています。

 

Creative Hubのイベント会場の様子

コワーキングスペース「Third Self」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな契約形態で、多様なライフスタイルの入居者に家を提供する

─物件の契約方法について教えてください

 物件の所有形態は当初は当社が借上げて転貸していましたが、最近は購入して運用している物件がほとんどです。また、土地は手放せないという地主さんもいますので、土地は借地権で建物を譲渡してもらうこともあります。借上げの場合は、大家さんから現況有姿で物件を借り、改修は私たちが行います。費用は当方負担ですので内容は任せてもらい、原状回復義務もありません。

Roopt「塩竃海岸通」

 私たちの物件を利用してくれるのは、アーティストや、多拠点居住者やスタートアップの起業家などです。彼らは、収入が不安定ということもありますが、既存の賃貸借の仕組みでは家が借りづらい状況にあります。そこで、借主との賃貸借契約については、“入りやすく、出やすい”契約形態を考えました。私たちが運営するシェアハウスは民泊と賃貸借の契約を選べるようになっており、1日から入居が可能で、1カ月以下の利用の場合は民泊、1カ月以上利用の場合は1年間の定期借家契約を結びます。そのような契約形態をとるシェアハウスを『Roopt』というブランドにし、「自由な生き方を応援する」シェアハウスとして展開しています。『Roopt』はまだオープンしたばかりですが、これまで運営してきたシェアハウスでは、利用者の中には外国人も多く、今まで100名以上に借りてもらいましたが、家賃の滞納は1件もありません。

 滞納するのは「幸せじゃないと払いたくなくなる」と入居者が感じるからだと思います。そのため、滞納リスクを防ぐには、“流動性を高くすること”“コミュニケーションの頻度を上げること”“入居者が幸せになること”の3点が重要です。当社では、まずお試しで民泊として長く利用してもらい、「ここに住みたい」と思って初めて賃貸住宅に住むというプロセスを踏むことで入居者の幸せ感を高めたり、コミュニケーションの頻度を高めることで、大家さんに応援されているという実感を持ってもらっています。

 入居者に幸せを感じてもらうための仕掛けとしては、アーティストには作品やパフォーマンスの発表の機会や、“物々交換市”というフリマの形式で作品を販売し、地域の人と一緒に交流する場を設けています。

 

─事業収支はどのように見ているのでしょうか

 物件としては4LDK以上ある一戸建てをメインにしていますが、取得からリノベーションまでの費用をおおよそ1,000万円以内で収めることを目安にしています。月額20万円くらいの収入が入れば、4~5年で返済できますので、それくらいの賃料を得られる使い方ができるかどうかを考えて、物件を選んだり、リノベーションメニューを考えます。

 リノベーションをする際は、“シンプルに仕上げる”ということを重視しています。確かに大手のメーカーの住設機器は機能が充実していて使うと便利ですが、過剰な機能もあります。普通に住宅を直すだけなら、畳を入れ替えて、皆で壁を塗れば十分ですし、照明を変えるだけで雰囲気は変わります。使えるところは最大限残し、無駄なものをそぎ落とすことで、その後に幅を持たせるようなリノベーションを行っています。ただ、デザイン性は妥協せず、古い建物の魅力を生かした空間にしています。また、自分でカスタマイズしたいという人もいるので基本的には借主によるDIYはOKにしています。

 

─資金調達はどうされていますか

 まだ事業期間が6年くらいですので、基本は金融機関からお金を借りて、それを返してはまた借りてということを繰り返して資金をつないでいます。資金調達の方法としては調達コストが低く、手間がかからないのが金融機関の融資です。ただ、当社が扱っているような再建築不可の物件などに関しては、金融機関は貸してくれず、助成金を申請したり、日本政策金融公庫に支援してもらっています。最初から地銀などに融資をしてもらうのはハードルが高く、まず50万や100万の少額融資をしてもらい、それを約定通り返済することで関係性を作りました。私たちも最初の大家さんに改修費を30万円出してもらったので1軒目の運用ができ、その実績があったので助成金をいただき、その助成金を担保に融資が下りたという流れです。やはり実績を積んで、銀行融資で事業が回るようにすることが大事だと思います。

 最近は、案件を何件か進めていくと、「サービス内容もよくわからないし、リスクは高そうだけどあんたに賭けてみるよ」と個人的に資金を工面してくれる投資家も現れてきました。また、ビジネスコンテストなどを通ると箔がつくので、そのような機会があればいろいろチャレンジしています※1。

 

─他の不動産会社とも協業をされています

 購入した物件の出口戦略を考えたときに、転売ができると強いと思い、宅建業免許取得を目指しています。ただ、仕入れやリーシングのところは、信和物産さんのような既存の不動産会社と今まで通り連携したいと考えています。仕入れについては大家さんからの信頼性や情報量が違いますし、入居したい人もまず不動産会社に相談に行きますので、得意な分野で協業することが大事だと思います。私自身は不動産の取引に関しては素人です。宅建業者の人たちといい関係を保つのは、他のどのまちづくりのローカルプレイヤーよりも得意だと自負しています(笑)。

 

 

幸せに暮らす人を増やしまちを豊かにしていく

─立地や設備などの条件の悪い物件をあえて選んでいるように思えます

 本音を言えば、立地や設備など条件の悪い物件をやりたいわけではなく、表通りにある象徴的な物件を扱いたいです(笑)。しかし、大家さんが本当に困っていて問い合わせをいただくのは条件が悪い物件ですし、そのような物件は仕入れコストを抑えられるので、付加価値さえ付けられれば事業が成り立ちやすい利点もあります。

 まちづくりを進める上で、まちの中の象徴的な建物をまず3軒程ピックアップし、そこを集客力の高い用途に変えて賑わいを作るというまちづくりの考え方があります。ただ、そのような象徴的な建物は簡単には借りられませんし、まして一見の業者に任せるようなことはありません。それに対して、全国に約850万戸ある空き家のほとんどは私たちが活用しているような、立地も悪く建物も老朽化し、それを活用して何になるんだと思われるような絶望的な条件の物件です。それを何とかしない限り空き家問題は本質的に解決しないと思います。石巻でもまちづくりのプレイヤーで、メイン通りの建物を扱いたいとか、事業規模の大きい面白い集客施設を建てようという人はたくさんいます。しかし、よそから来た私のポジションはそこにはないと思いましたし、地元の人たちは裏通りこそなんとかしてほしいと思っています。つまらないとか、ゴミみたいな扱いの建物が価値化されることが大事だと思いますし、そのような物件に価値をつけて次の世代の人たちの幸せな暮らしにつなげていくことが私たちの仕事だと考えています。

 

─そのような考えを持つまでに至った背景はなんでしょう

 そもそも学生の頃から“住宅”に対する高い意識がありました。学生時代にリーマンショックがあって、年越し派遣村といわれていた時期に山谷ドヤ街に炊き出しに通って住宅問題をリサーチしたり、広島の尾道では山の斜面に建つ空き家と移住者をつなぐ活動に参加し、一つ一つの住宅に生活者の暮らしぶりが反映されるのを感じることができて本当に面白くなりました。そして、震災の復興に参加し、その課題が住宅だったということは自分の人生の中で大きなインパクトがありました。

 しかしそのプロセスを振り返ると、まちは綺麗になり、新築住宅は多く建てられましたが、住宅復興のあり方としては“失敗だった”のではないかと思います。震災から10年経ち、そのことについてはやはり一度総括すべきだと思います。津波で2万2,000戸が流されたにも関わらず、空き家は1万3,000戸に達し、住宅のストックのバランスは乱れました。阪神淡路大震災の時にも起きた仮設住宅や公営住宅における孤独死の問題は解消されたとは思えません。急いで住宅供給することは、命を守るためには重要な事だったと思いますが、その手法は人口が右上がりだった時代のものと変わりませんでした。

 一方、初めて石巻に訪れた時に見た光景は、あらゆるものが流されてしまい、地域の人はほぼアウトドア生活のような状況だったにもかかわらず、店をどう再開するか、まちはどうあるべきかなど、焚火を囲み、お酒を飲みながら語り合い、普通に生活をしていました。そのような、自分のなりわいは自分たちで再建しようとするたくましい姿に衝撃を受けました。そして、「大量のインフラが供給され、消費するだけのまちの人は本当に幸せといえるのだろうか」、そこには「使い古されたものを取り入れ、工夫して生活する発想が置き去りにされているのではないか」と感じました。やはり“幸せな暮らし”を実現することができなければ、そのまちは人が流出するだけになってしまうと思いました。

 

─幸せな暮らしができるように住宅のあり方も変わっていくべきということでしょうか

 私たちの物件に入居している人たちは、誇らしいことに多様な働き方や価値観を持つ方が多いです。狩猟をしながら作品を創るアーティスト、季節労働をしながら木材を販売するビジネスマン、複数の仕事を掛け持ちしたり、アドレスホッパーで暮らしたりとひと言では説明しづらい方がたくさんいます。そのような既成概念にとらわれない生き方をしている人たちと接すると、幸せな生き方と住まいの関係について考えさせられます。

 自分の両親は首都圏に住むサラリーマンで、35年のローンを組んでマンションを購入し、定年になって退職金でやっとローンを返し終わったという、ローンの返済に生活をある意味縛られてきた、日本の典型的なキャリア像を歩んでいました。しかし、そこから自由になり、“幸せになるための住宅”のあり方というものを考えることが、これからはとても重要になると思います。

 このまちには、季節労働を楽しそうにやっているアラフォーの人たちがいます。彼女たちはご主人もいるのに朝早く出かけて蠣をむいたり、竹を切って炭作りを楽しそうにしています。その姿を見て、それが令和の生き方で、そのような人たちを許容する住まいのあり方が現在のあるべき姿だと思いました。ITの普及と共に、働き方が多様化する中で、住宅もその人のキャリア感に応じてその位置づけが変わってくると思います。そして、住宅のあり方が変わるとまちの様子も変わっていくのではないかと思います。

 

多様な暮らし方の受け皿になるシェアハウス「Roopt」

Roopt石巻泉町 ─ OGAWA

 この物件は、接道しておらず再建築不可の物件で、土地と建物2棟を50万円で購入しました。

 大きい建物はゲストハウス、そして小さい建物は店舗にし、現在、静岡県から移住してきた方に貸し、お総菜屋さんとなっています。ゲストハウスは2階が宿泊所(個室&ドミトリー)、1階がキッチンを備えたコミュニティスペースです。宿泊費は1泊4,000円、1棟貸 しの場合は1泊1万6,000円と、ビジネスホテル並みの値段に設定していますが、ここは人気の物件で、180日間のほとんどが埋まっている状況です。浄化槽を入れたので改修費用は全部で300万円以上かかりましたが、内装は当社のスタンダードのリノベーションを施しています。月10泊利用があれば、20万円前後の売上になりますので、投資費用は2年弱で回収できます。リノベーションの内容については、試行錯誤でやっていますが、利用者の評判はそれほど悪くないのでこの方法で「いいのかな」と思っています。いろいろなものをつけることに満足してもらうのではなく、必要のないものはやめるということをつねに考えており、極限までそぎ落とすことが私たちのやり方です。

 

OGAWAの外観

OGAWAのコミュニティスペース

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石巻でスモールビジネスを始める

おいしそうな総菜が並ぶお総菜屋さん

お総菜屋さんSONO 小川奈津美 氏

 このまちに来たのは、震災後、ボランティアを受け入れる団体の職員として気仙沼に入ったのがきっかけでした。石巻に移住しようと思ったのは、同じ世代の人が震災をきっかけに、起業したりお店をやり始める人が多かったので、その中に参加すれば面白そうだと思ったことと、場所が仙台から遠すぎず、近すぎず、田舎すぎず、都会すぎずといった、都会との温度差やスピード感が地元の伊東と似ていたところです。また、移住してきた人も、地元の人も面白い人が多く、付き合いやすいので居心地がとてもいいです。

 

 

 

 

 

 

─まちづくりは個の幸せの延長線上にあるということでしょうか

 まちの風景を変えるために、多様な人材を呼び込むための仕掛けを意図的にやり始めると何をやっても失敗するような気がします。そうではなく、“ライフスタイルファースト”という考え方で、地域づくりよりも先に、個人のライフスタイルがあり、それが積み重なった先にまちづくりがあると思います。

 2011年にこのまちに来て、地元でなされていた議論は、商店街を昭和の時代の時のようにいかに盛り上げるかというものに終始していました。しかし、客集めのためのイベントに駆り出されたり、商店街のために頑張る担い手になって欲しいと期待され、そのために移住してきたとしてもあまり楽しいとは思えません。

 それに対して、例えば、都会でブランド服に身を包み、お金を出せばなんでも手に入るという生活をしていた方が、石巻でシェアハウスに住み、当初は寒いし不便と言いつつも、パートナーに出会って結婚し、今では海に潜って魚を突いたり、オーガニック野菜を育てて楽しんでいる人がいます。このような体験ができるなら地方に住みたいという人はいっぱいいるでしょうし、自分が幸せになることができるのであれば地方に行きたいと思うはずです。そして、ここに住んで幸せになったと感じる人たちが増えれば、高齢者の面倒を見るために無理に若者を連れてこなくても、共助の関係は成り立つでしょうし、人口減少解消のために女性に来てもらうことに奔走しなくても自然に子供が生まれ、その様子を見て、そのまちに住んでみたいと思う人がさらに増えるようになっていくと思います。

 

─住む人も自分にとっての“幸せのすまい”を能動的に考える必要がありますね

 誰かがサービスを提供してそれを消費するという構造ではなく、供給者と住まい手の関係がフラットで、共創していけるようなことが起こってくると、幸せの構造ができると思います。

 私たちは、住む人の“幸せな生き方”を追求し、自由な暮らし方が実現できる住まいを提供し、一見価値がないと見えるものでも工夫して使い、自分なりに不便を楽しむ文化的な暮らしを実現する人をこれからも応援していくつもりです。住宅はライフスタイルの受け皿になるので、時代に合わせてそのあり方も変わっていくべきです。人口が減少する地方都市だからこそ、多様なキャリア感をもつ自由な生き方をする人たちに対応した住宅のあり方を模索していくことが大切です。住宅が多様な人材の受け皿になれるかどうかということが、これからの活路になると思います。

 

※1 2016年日本都市計画学会計画設計賞受賞、2019年第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティションで女性起業大賞受賞、2021年度グッドデザイン賞受賞など

 

 


 

渡邊享子(わたなべ きょうこ) 氏

2011年、大学院在学中に東日本大震災が発生。研究室の仲間とともに石巻へ支援に入る。そのまま移住し、石巻市中心市街地の再生に関わりつつ、被災した空き家を改修して若手の移住者に活動拠点を提供するプロジェクトをスタート。2015年3月に巻組を設立。地方の不動産の流動化を促す仕組み作りに取り組む。会社経営のかたわら、一般社団法人 ISHINOMAKI2.0理事も務める。2016年から2019年は東北芸術工科大学講師として教鞭を取った経験も持つ。

 

 

 

株式会社巻組

代表者:渡邊享子
所在地:宮城県石巻市中央2丁目3-14 観慶丸ビル2階
電 話:0225-24-6919
H P:https://makigumi.org/
業務内容:賃貸住宅の管理運営(シェアハウス、ゲストハウスの運営等)、建物の設計施工(リノベーションのコーディネート)、クリエイティブ人材の育成支援、地方創生に関するコンサルティング、実践型インターンシップのコーディネートなどその活動は多岐に渡る。