住まい探しはハトマーク

株式会社ウチダレック/鳥取県米子市

顧客志向の企業経営の実践

<講演日:2021年11月10日>

 

DX革命で、社員とお客様を
幸せにし、不動産業の価値を高める

DX革命により、仕組みを変え、行動を変え、社風を変える

 

・住宅市場が縮小する!

・DX改革推進の大きな成果

・超効率DX改革前後の状況

・週休3日を実現したDXによる解決プロセス

・DX推進のコツ

 


 

住宅市場が縮小する!

 当社は鳥取県米子市にある創業52年の不動産会社で、私は3代目にあたります。当社がDX改革に取り組んだ背景に、「10年後も今の売上げを落とさずに経営できると果たして言い切れるか?」という問いかけがありました。当社は賃貸仲介から事業を始めましたが、建築業を立ち上げた時に賃貸アパートを自社建築し、そのまま物件管理を行い、LPガスも入れるという展開をしてきました。管理戸数は約3,000戸で、人口約15万人の米子市におけるシェアは20%程度になります。当社の顧客の中心は20代~30代ですが、米子市ではその年代の人口が、2005年をピークに15年間で25%減少しており、人口推計によると、2040年には2005年比で半分にまで減ってしまうと予測されています。しかも危険だと感じるのは、15年で25%の人口が減少するとしても1年で割ると1.7%に過ぎず、日々大きな影響を感じないということです。しかし、今後20年間で人口がさらに25%も減るということは不動産市場にも大きなインパクトを与えますし、しかもそれが急に来るのではなく、徐々にやってきます。そのため、少し余裕のある時からしっかり対応しておかないと、その時に慌てても手遅れになってしまいます。

 

 

DX改革推進の大きな成果

 DXを推進して経営改革を行った結果、“週休3日”“営業利益2倍”“コスト40%削減”“離職率3%”を達成することができました。離職率3%という数字は、不動産業全体の離職率が約16%※1なのに対して約1/6ですし、年間に退職者が1人出るかどうかの水準です。そして、当社で開発した『カクシンクラウド』という仕組みを、人口減少やデジタル化に対する課題を抱えている全国の不動産会社向けに提供し始めているところです。

 さて、デジタル化を進める上でよく聞かれるのが、「いろいろなITツールを使っているが、売上が上がっているのかどうか、効果が出ているのかわからない」「ITツールを使っても、社員の残業は減らないし、有休も取れない状況は変わらない」「管理戸数や契約が増えるに応じて人員も増やさなくてはならず、営業利益は思ったように上がらない」といったものです。しかし、このような疑問を全て解決できるのがDXです。当社ではDX改革を着手した当初に比べ、総労働時間が約4割、年間で6万時間以上も削減することができました。

 その結果、今までやりたくてもできなかったことに着手することができ、売上も上がりました。社員の労働時間が減れば、そのリソースを既存事業ではなく新規事業や、より付加価値の高い仕事に配置転換することができます。当社でいうと、リフォームに力を入れたかったのですが、地方だと建築の専門知識を持つ営業社員を中途入社で獲得するのが難しく、社内調達するしかありませんでした。しかし、DXの導入で業務に余裕ができたので、そのような人材を社内育成することができました。また、管理職である店長も、今までのような紙の書類やエクセルの処理に追われていた時間が無くなったので、営業のマネジメントに注力することができるようになりました。加えて、退職者が減ったことから引き継ぎなどのマネジメントコストも大幅に削減されています。その結果、安心して業務に邁進することができるようになり、売上が上がっていったのです。

 私は学校を卒業してからはIT業界で働き、MBAを取得した後Uターンをしましたが、家業を継いで実感したことは、「不動産の仕事ってすごくいい仕事だ」ということです。やはりお客様との距離が近く、お礼を直接言ってもらえることが魅力ですし、進学や就職、結婚などお客様の人生の重要な場面に立ち会うことができるとてもいい仕事だと思います。しかし、現実は雑多な業務に追われて、肝心な仕事である“お客様の幸せを実現する”というところに十分な時間が割けていないのが当社の実情でした。これは多くの不動産会社の実態でもあり、非常にもったいないと思っていました。

 

 

超効率DX改革前後の状況

 DX改革に取り組む前の当社の状況は、社員のデスクや会社のキャビネットの中は“紙の書類”の山でした。紙による運用が何故まずいかというと、まず、業務が担当者任せになってしまうことです。担当者が書類を机の中にしまってしまうと上司もわかりませんし、紙のメモでは後で振り返ることができず、結果的に担当者の熟練の技ができてしまい、仕事が属人化してしまいます。次に、タスクが滞っても気がつけないことです。契約が月に20件程度であれば店長も細かく確認できますが、繁忙期に100件を超えるとなるとそこまで管理できません。その結果担当者が休みになると業務が止まってしまいますし、担当者ごとに管理方法が異なるので全体が把握できなくなります。

 そうなると、会社としては社員に退職されたらどうしようと心配になりましますし、実際に退職したら慌てて業務を引き継ぐことになります。つまり、ノウハウが会社ではなく「人」に蓄積されるので改善しようがなくなってしまうのです。そのため残業が大量に発生しているにもかかわらず、何が起こっているのかがわからないために、残業を減らすことができない状態になります。

 そのような状況でデジタル化による社内業務改革に着手していきましたが、最初は社員の抵抗もありました。しかし、その抵抗を乗り越えた結果、“週休3日”“営業利益2倍”等が達成できただけでなく、地方のIT革新事例として多くのメディアに取り上げていただいたり、慶応ビジネススクールの教材として当社の事例が採用されたりしました。また、その影響もあり採用力が大幅にアップし、内定を出して他社と競合しても勝てるようになるなど、働く環境が良くなると採用力も向上するということがわかりました。さらに、社員の成長も実感しています。日報にも「大幅に業務が改善していることを実感します」「以前にも増して信頼して業務ができています」「思い込みで業務を行うのではなく、まだまだ改善できるところはあるかもしれないと感じました」と書かれ、社員が日々前向きに業務改善に取り組んでくれていることを感じます。

 

 

週休3日を実現したDXによる解決プロセス

 業務の見直しを行う上での大きな課題は、業務が属人化してしまった結果、権力の固定化が生じたり、経営理念の独自解釈が行われることが挙げられます。その解決には、「業務プロセスの標準化」「業務プロセスの定量化」「業務の仕組化」が必要で、そのためにはDX導入による基盤整備が不可欠だと考えました。

 そこで、経営改革をするための方針として決定したことが4点あります。一つ目が情報の見える化によるガラス張り経営の実践です。情報は、個人で所有するのではなく、会社全体で共有できるようにすることが重要です。しかも、誰もが、いつでもパソコンやスマホでリアルタイムに共有できることが大切です。二つ目がPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)の高速化です。今までは月1回の定例会で数字等をチェックしていましたが、リアルタイムに情報が見える化すると、毎日全員がチェックできるようになるので、月次に比べて30倍のスピードになります。つまり、情報がガラス張りで見える化すると、PDCAサイクルも高速化し、経営のスピードが上がり、会社の成長スピードも上がるのです。三つ目が情報を価値あるデータとして活用するということです。当社は定休日を金曜日に変更しました。今までは他社と同様水曜定休でしたが、来店情報がデジタル化されて曜日ごと、時間ごとのデータを分析してみると水曜は土日と同じくらい来店が多く、逆に月曜と金曜が来店数が少ないことがわかりました。結果的に他社との差別化にもなりますので、定休日一つ取ってもデータを活用した効果が得られるということを感じました。四つ目が、圧倒的な業務効率化を行って余力を作り、新たなチャレンジを行うということです。

 そして、このような方針を全て実現しようとすると、どうしても経営を支える基幹システムが必要になります。それまでの当社のシステムだと、例えば入居から退去、送金までは既存の基幹システムでカバーしていましたが、来店から申し込みは営業支援ツールという別のシステムで管理されていたり、来店アンケートやコールセンターも別のシステムになっているなどバラバラなシステムで経営していました。その上、それぞれのツールの隙間を埋めるためにエクセルや紙の書類を運用している状態で、既存のシステムの改変ではDXの実現が困難でした。そこで、反響~申し込み~入居~退去~原状回復まで1本のアプリケーションでマネジメントする必要があると感じ、出した答えが「システムを内製化する」ということでした。

 

不動産テックの問題点

「カクシンクラウド」で課題をクリアにする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DX推進のコツ

 DXというとそれだけで何でも解決できるようなキラキラした言葉のように聞こえますが、実際は“地味”で“地道”な活動の積み上げです。DXを推進するコツは4つあります。一つ目が「業務プロセスの分析と見直しをセットで行う」ということです。手順としては、まず現在の業務の流れと、その運用を補完するシステムやエクセルや紙の相関図を一枚の紙に落とし込んでみます。そして現状の流れを認識した上で、何のためにITツールが必要かを考え、できれば一つのシステムにまとめるのが理想です。よく陥りがちなのが、ITツールを導入すれば何でも解決できると思ってしまう点です。そうではなく「どのような問題を解決するためにそのITツールを選んだのか」ということを明確にしておくことが大切です。その点が不明確だと、実際には違うところに問題があり、せっかくITツールを入れても誰も使わないということになってしまいます。そして、人がしなくていい仕事はデジタルに任せ、人が本来すべきことに注力できるようにすることが大切です。それは、物件の知識を増やすために現地確認の時間を十分にとるとか、オーナーへの提案をするために考える時間をとるといったことです。提案書を作るためのデータ分析は、システムの方が人間より早いし正確なので、ITに得意分野を任せてしまえばいいと思います。

 二つ目が「トップセールスのノウハウを見える化する」ということです。トップセールスの行動、例えば「今日は何件来店客の対応をし、どんな物件を紹介して何件成約したのか」というようなプロセスを見える化します。すると店長は新人を指導する際に、トップセールスの行動指標との違いを明確に伝えることができますので、新人の理解力も高まります。また、店長自身も、それまで大量の紙の書類やエクセル表への記載などの雑用に追われ、新人を指導する時間があまりとれませんでしたが、DX化によって数字が自動集計されるので雑用から解放され、データ集計ではなくその分析に時間を使えます。その結果、店長は店舗のマネジメントに時間を多く割けるという付随効果が出ます。しかも、分析のデータ項目を人事評価の項目を合わせることで、言ってみれば毎日人事考課が出来るようになります。このように、データを見える化することが、ガラス張り経営をすることに結び付いていきます。

 三つ目が「スモールスタートで始める」ということです。つまり、やりやすい事から始めましょうということです。当社では、スケジュール管理で使っていたホワイトボードを止めるということから始めました。ホワイトボードによる管理ですと、座席の位置で見えにくかったり、支店の人は本店の人のスケジュールがわからないという欠点があります。ただ、皆がそれに慣れてしまい、止めることに抵抗があります。その場合は、経営者が少々力づくで強制力をもって進めることが重要です。さらに、行った施策の成果を皆に数字で伝えることも大切です。ある時から店舗の窓に貼ってある物件図面(物件セレクト)を廃止しました。実際に地方では車で来店されるので店舗の前に立ち止まって見る方は少ないですし、ホームページで事前に調べて来るので店舗の前で改めて物件を探すことはまずありません。ただ、これも無くそうとすると抵抗がありました。そこで、物件セレクトを止めると来店後の成約率が変化すると思い、分析したところ、全く下がらないどころか少し上がったのです。その数字を見せたら皆何も言わなくなりました。そして、ある部署で成功事例ができれば他の部署に横展開していくことも重要です。社内の成功事例を他の部署に転用することでITツールの導入に伴う社員の抵抗感を和らげることができます。

 そして、最後は「徹底的にやりきる」ということです。やはりDX改革を推進する上で、ある程度の強制力は必要だと思います。当社ではタクシー案内を導入していますが、最初は「自分の仕事が無くなってしまうのではないか」と思い込み、誰も行いませんでしたが、タクシー案内に切り替えても成約率は変わらないし、その間に別の仕事ができるということが徐々にわかったようです。今では導入率は9割を超えましたが、そのメリットが伝わるまではある程度強制力を持って進めることが必要だと思います。

 このように、DXという言葉はキラキラしていますが、実はとても地味で地道な作業が必要です。現場に任せて既存のシステムを追加していっても、業務がバラバラなので上手くいきません。やはり、業務の相関図を作り俯瞰して、各部門の要望を聞くだけでなく、問題点をきちんととらえ、全体を最適にするためにはどうすればいいかを考えることが重要です。それこそが経営のトップの役割であり、経営者が音頭をとり半ば強制力を持って推進していくことが大切です。

著書「仕事のムダをゼロにする超効率DXのコツ全部教えます」

 DX改革に取り組もうと考えたのは、大量の情報が不動産業者に入ってくる一方で、ユーザーからの問い合わせ情報を手作業で転記したり、来店受付から引き渡しまでに発生する細かい作業に追われ、職場環境も悪い中、「果たしてその大量の情報は不動産業の価値を上げているのだろうか」という問題意識を持ったことがきっかけです。当社が開発したクラウド型賃貸管理システムの『カクシンクラウド』は、地域の不動産業本来の価値を高めるための不動産DXサービスです。ユーザーとオーナーをシームレスにつなぎ、来店から引き渡しまでの情報や進捗が見える化され、お客様に今どのようなアクションをすべきかが全員で共有できます。その結果、職場環境が良くなり、質の高い地域密着営業が可能になります。

 「DXを行っても、時代が変わっても変わらない私たち不動産業の価値」とは、「地元を愛し、地域と密着し、入居者とオーナーをつなぎ、土地・建物を正しい価値で流通させて地域を活性化させる」ことです。そのような価値が提供できるような業界になることがDXの真の目的だと思います。

 

 

※1 厚生労働省「平成29年雇用動向調査」における不動産業、物品賃貸業の離職率

 


 

内田光治(うちだ みつはる) 氏

株式会社ワークデザイン代表取締役兼株式会社ウチダレック専務取締役
慶応義塾大学経済学部を経て、同大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。楽天株式会社等を経て、株式会社ウチダレックに入社。繁忙期の深夜残業、業務の属人化を目の当たりにし、人口減少下においても成長し続けられる働きやすい企業を目指し、業務のDX化を軸とした業務改革を実行。「2020年度全国中小企業クラウド実践大賞」(総務省共催)で全国商工会連合会会長賞を受賞するなど、その取り組みは全国的に高い評価を得る。

 

 

株式会社ウチダレック

代表者:内田良一
所在地:鳥取県米子市新開6丁目3番9号
電 話:0859-38-5000
H P:https://www.uchidarec.com/
業務内容:不動産流通、不動産管理、建設・リフォーム、財産ドック・土地活用、プロパンガス販売、給水装置工事。創業52年の老舗企業が、業界で一早くDX改革に取り組み、その先進的な内容は全国メディアに取り上げられる。同社が開発した『カクシンクラウド』は全国の不動産会社でも導入が進む。