きりう不動産信託株式会社/大阪市北区

顧客志向の企業経営の実践

<取材日:2021年9月6日>

 

信託を活用し
社会の課題を解決する

信託を社会インフラに成長させその中核を担う公益企業を目指す

 

・宅建業者として日本初の信託会社の誕生

・ 様々なバリエーションの賃貸マンションの提案

・所有者の資力に頼らない資金調達

・信託受益権の小口化による資金調達

・社会の課題解決のための不動産信託の活用

・まちの文化と歴史を継承する

・信託を使って社会の課題を解決する

 


 

宅建業者として日本初の信託会社の誕生

─信託免許取得までの経緯を教えてください

 1965年に母が不動産賃貸業の「リバーサイドビルディング㈱」を創業し、私は大学在学中でしたが1972年に取締役に就任しました。当時の大家業は入居希望者を紹介されるのを待つだけでしたが、それではいけないと思い近くの法人を回ってみると、宅建業のニーズがあることがわかり、不動産仲介会社の「リバーサイドハウジング」を設立しました。さらに、近隣の建物の所有者や医者だった父とお付き合いのあった資産家から、オフィスビルや賃貸マンションなどの管理を依頼されるようになったので、賃貸不動産管理会社「㈱桐生」を設立し、3社で不動産に関するあらゆるニーズに対応できる体制を作りました。

 賃貸管理業を営んでいると、悪質な賃借人に対する明渡しの問題が起こります。その際、管理を請け負っているだけでは訴訟人にはなれませんが、転貸人(マスターレッシー)の立場なら訴訟を起こすことが出来ます。しかし一方で、賃料が下落基調の時期にマスターリースを受けることはリスクが高いため、賃貸管理業者として最大限関与できる方法を模索していました。すると、2004年12月に信託業法が改正され、一般の株式会社にも信託業開業の門戸が開かれました。当社では、大阪府宅地建物取引業協会北区支部の会館の取得のために、資産流動化に関する法律に基づく「特定目的会社北区不動産会館」を近畿財務局の指導の下で組成した経験があったことから、信託業登録を目指し、㈱桐生を「きりう不動産信託㈱」に社名変更し、2006年に管理型信託会社として近畿財務局に登録しました。近畿財務局管轄では当社が初めての登録で、宅建業者としては日本で初めての信託会社になりました。

 その後、リバーサイドハウジングが創業40周年を迎え、不動産投資顧問業登録も20周年となったことから、主たる事業に成長した不動産コンサルティング業務を行う「きりう不動産投資顧問事務所」に名称を変更しました。

 

 

様々なバリエーションの賃貸マンションの提案

─様々な方法で賃貸管理に取り組んでいます。スケルトン賃貸マンション(DIY賃貸)について教えてください

 デザイナーズ賃貸マンション・ファニチャー賃貸マンション・スケルトン賃貸マンションなど、いろいろな賃貸マンションを提案・実践してまいりましたが、景気が悪くなると、築年数が古く、内装が古い印象を受ける物件は入居者が決まりにくくなります。すると、「入居者が好きなように内装を変えてもいいから、借りて欲しい」とする事例が出てきました。しかし、そのやり方では賃貸借契約終了時に賃借人から造作買取請求権を行使される可能性があります。それなら賃貸借契約時にその権利を放棄する約束をすればいいのではないかとなりますが、その場合、賃借人が改修した部分が家主に対する贈与になり、家主に贈与税が課せられる可能性があります。

 そこで、「スケルトン賃貸(DIY賃貸)」という一般の店舗の賃貸借で行われる方式を賃貸マンションで導入することにしました。つまり、スケルトン状態で部屋を貸し、入居者には好きなように内装工事をしてもらい、退去時には全て撤去し、スケルトン状態で返してもらうものです。しかし、この方法は家主の理解を得られず、結果的にあまり広まりませんでした。

 そこで考えたのがDIY賃貸における「一括先払い賃料」方式です。つまり、入居者が希望する造作工事にかかる費用を、まず賃借人から一括先払い賃料として家主に払ってもらい、家主が発注者となって入居者の希望通りに施工する方法です。

これなら入居者も満足ですし、改修した部分は家主の財産になるので、贈与税の問題も解決します。しかも、一括して先払いされた賃料を、家主は暦年で売上げ計上できるので税務上も問題ありません。

 ただ、賃料の何年か分を一括して準備できる一般の入居者はそうそういません。そこで、サブリース方式を活用し、不動産管理業を営む事業者がマスターレッシーになり、大家さんと定期建物賃貸借契約(以下、「定期借家契約」)を結び、改修費に相当する金額を一括先払い賃料で支払い、入居者は事業者に毎月賃料を支払います。そのスキームを保全するために不動産信託を使う仕組みを考えました。

 

 

古民家や空き家再生のための不動産信託①

所有者の資力に頼らない資金調達

『一括先払い賃料+オーダーメイド賃貸+定期建物賃貸借契約+(不動産信託)』による賃借人の資金力を活用した不動産の改修

 この方式では、まず事業者がオーナーと定期借家契約を結び、物件を借り上げます。内装工事については、賃借人を工事の前に見つけ、賃借人の希望に応じた改修を行います。これが「オーダーメイド賃貸」方式です。工事費は事業者が先払い賃料として一括でオーナーに支払います。そして、オーナーが発注者となって工事を施工し、賃借人が入居後、転貸人である事業者は賃借人から家賃を受け取ります。ただ、仮に定期借家契約が10年で、10年分の賃料を一括して先払いした後、3年で火事になって建物が焼失した場合、定期借家契約は終了しますが、残りの7年分の家賃がオーナーから戻ってこない可能性があります。それなら火災保険をかけて、それに質権設定すればいいのではないかと考えがちですが、その場合、保険金は全て賃借人に入ってしまいます。そこで、定期借家契約が途中で終了した場合、未経過分は返済するという契約内容にし、それを当社が信託を使って保全し、火災が発生した場合、保険金が当社に入り、それをオーナーと転貸人に経過年数に応じて配当します。信託を使うのは、不測の事態が生じた際に、オーナーと転貸人がもめないためです。従って両者に絶対にもめないという信頼関係があれば信託は必要ありません(笑)。

 

<ケース1>

不動産管理信託を活用した京町家再生・利活用事業『トライアルスキーム「ARAKAWA京町家再生・利活用PROJECT」』

・事業目的:京都の地域資源である町家の保全・再生のために、その障害となっているオーナーの資金負担を軽減し、かつ利活用をする民間事業者の資金の保全機能を持つことにより持続的な仕組みにする。

 

・スキームの概要:「一括先払い賃料付定期建物賃貸借契約(マスターリース契約)+オーダーメイド賃貸契約」及び家主による建物改修を実現するシステムとして不動産信託を利用。

 オーナーは京町家を信託会社に信託し(A)、信託会社はマスターレッシーと10年の定期借家契約を結び、マスターレッシーは事業期間分の家賃を一括先払い方式で信託会社に支払う(B)。信託会社は一括先払い賃料を原資として工事費相当額をオーナーに配当する。オーナーは配当金全額を改修費用に充当する(C)。事業期間中はオーナーには賃料収入が入らないが、事業期間終了時点で改修された町家を所有できる。また、信託期間中の固定資産税や火災保険料等は、この事業の事業者が別途年払い賃料として支払う。

 

 

 

古民家や空き家再生のための不動産信託②

信託受益権の小口化による資金調達

 古民家や登録有形文化財などの建物の改修費、保存費用のための資金調達に、「小口信託受益権分譲」を行い、それを地域の志のある人たちに購入してもらうことで、“金融の地産・地消”を図ることができます。

 スキームとしては、まず、古民家の所有者(委託者)が、当社(受託者)に土地建物を信託し、その所有権を移転。当社は所有者に小口化した信託受益権を全口数渡します。そして、所有者はその小口信託受益権を、地域を良くしたいという人たちに売却するという流れです。また、信託期間中は、当社は賃貸不動産管理会社とマスターリース契約をし、そこから得られる一括先払い賃料収入を原資とした配当からリノベーション費用を、年払い賃料を原資として固定資産税・信託報酬等の経費を受託者が支払います。

小口信託受益権分譲による保存計画

信託期間中の配当スキーム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ケース2>

不不動産管理信託を利用した古民家再生(寝屋川市の事例)

・事業目的:敷地面積約800㎡、築150年の萱葺屋根の面影を残し、戦時中の爆風で傾いた約190㎡の江戸古民家を、オーナー、入居者、参加する全ての事業者の負担なく、エコ住宅として再生させる。

 

・スキームの概要:ケース1と同様のスキームだが、オーナーと賃借人との間に、大阪府不動産コンサルティング協会の有志で構成する有限責任事業組合(以下「LLP」)が介在し、LLPはオーナーへ一括先払い賃料を支払い、賃借人から賃料を受け取ることで、出資法・貸金業法に抵触せず“金融の地産・地消”を実践する資金調達がなされた。LLPにしたのは、①構成員の全員が有限責任②内部自治の徹底(全員一致の原則)③構成員課税(パススルー課税)という特徴を利用するため。また、賃借人を見つける方法としてオーダーメイド賃貸を採用し、古民家再生専門家の建築士に3タイプのモデルプランを作成してもらい、古民家に興味を持たれる方を対象にして、10回程度ワークショップを開催し、参加者の中から賃借人を見つけ出した。

 

 

 

<ケース3>

投資商品として不動産小口化商品

注:この場合の小口信託受益権は、第二種金融商品に該当しないが、宅地建物分譲事業にかかる宅地建物取引業者としての免許が必要になる。

・事業の背景:収益物件は、大規模なほど維持管理に関するコストの低減が図れ、収益性が高くなる。しかし、高額な資金を個人が投資するのは困難だし、維持管理に必要な知識を習得し活用するにも大変な労力が必要となる。そこで、信託の手法を使って、個人が1口500万円から投資できる不動産小口化商品として販売した。

・スキームの概要:宅地建物取引業者であるA社がロードサイド不動産を購入。その不動産を信託会社に信託し、受託者である信託会社から小口化した信託受益権の全口数を受け取る。A社がマスターレッシーとしてその不動産の一体的な管理運営をするとともに、保有する小口信託受益権を1口500万円で数十口販売する。信託を使うことで①倒産隔離機能②意思凍結機能③パススルー課税といった機能とメリットを享受できる。

 

 

 

 

 

 

社会の課題解決のための不動産信託の活用

 私の父は精神科の医師でした。戦後の混乱の中で、精神薄弱の女児が性目的で狙われる様を見て、女児専門の障がい者施設を作りました。私はそのような障がいを持つ人たちの話を子どもの頃から聞いて育ちました。そのような背景もあり、信託を使って社会問題を解決できるのではないかと考えました。信託会社として登録する際に、業務内容について認可をとりますが、幸い当社は不動産の売買、仲介、管理、管財物件処分、金融商品の債権の売買、管理と規模は小さいながら全てやってきたので、いろいろなケースに対応できる態勢があります。

 

<ケース4>

『特定障がい者扶養信託』の利用

特定障がい者扶養不動産信託スキーム

・事業の背景:高齢の祖母が、障がいをもつ孫の生活の安定を願い、所有する月極駐車場を、「特定障がい者扶養信託」を用い孫に非課税で贈与し、公的補助と合わせて生活するのに十分な配当を終身得られるようにしたいと相談があった。当初は駐車場を売却し、売却代金を信託財産にした金銭による信託を考えていたようだが、その場合、孫が受け取れる金額は、売却価格から諸費用や税金を控除した額を定期預金で運用したわずかな金額になってしまう。

 そこで、不動産を信託財産とする「特定障がい者扶養信託」を用いることにした。その場合、駐車場から得られる年間収入から固定資産税と信託報酬を控除するだけなので、金銭を信託するより何倍もの配当が期待できる。また、孫が他界した際には受託者が売主となって駐車場を売却し、孫が世話になった障がい者施設等に寄付することになっている。

・スキームの概要:委託者と当社の間で特定障がい者扶養信託契約を締結。信託財産の駐車場の所有権を当社(受託者)に移転登記する。当社は駐車場の賃料収入から固定資産税と信託報酬を控除した金額を孫(受益者)に配当する。孫が他界した際には受託者が売主となって入札により駐車場を売却し、不動産売却にかかった費用(司法書士・仲介手数料・不動産譲渡税等)を差し引いた額を原資として、本人が世話になった障がい者施設等に寄付することになっている。

 

 

 

<ケース5>

高齢者の生活費を捻出

・事業の背景:司法書士である成年後見人は、高齢の依頼者(被成年後見人)のために入居する施設等にかかる生活費を立て替えていた。依頼者の息子は多重債務者で、母親が所有する自宅を担保に、借入れを行っていた。息子は借金返済ができず、自宅は競売開始決定がなされていた。競売になると売却価格が大幅に低くなるため、市場で売却するために必要な境界の確定等、対象不動産の売却環境整備のための資金が必要であった。そこで、大阪府不動産コンサルティング事業協同組合(以下「同組合」)は、自宅土地建物の専任媒介契約締結を目的として、その資金を提供し、その資金を保全するため、信託の倒産隔離機能を活用した。

・スキーム概要:依頼者(被成年後見人)は自宅を当社に信託し、同組合と売買の専任媒介契約を締結。同組合は信託受益権に質権設定し、必要資金(借入れの返済金、売却までの生活費、売却環境整備費等)を提供し、信託期間満了までに測量や境界確定等を行い、その後売却活動を行った。買主が見つかったので、当社は売主として買主と売買契約を締結し、売却代金から同組合に借入金を返済し、残余財産を依頼者(被成年後見人)に配当した。

 

信託相続時

信託終了時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まちの文化と歴史を継承する

─中之島のまちづくりにも取り組んでいらっしゃいます

所有するリバーサイドビルディングは国の登録有形文化財に

 中之島は都市再生緊急整備地域に指定され、中之島4丁目には国際美術館・科学館・中之島美術館が建ち、水と緑の豊かな美しい景観が形成されています。

 1965年に建てられた当社所有のリバーサイドビルディングは2016年に国の登録有形文化財に指定され、今でも賃貸オフィスビルとして利用していますが、この辺りの大阪が大大阪と呼ばれていた時代の歴史ある建物が、再開発と相続事由で取り壊されてしまいました。私たちが建物を保存することはできませんが、地域文化を継承するという意味を込めて、その様な貴重な建物が中之島にあったことを示すマップを作成しました。

 都市には“格”というものがあり、それが生まれる背景にあるのは“文化”です。そして、文化は“歴史”によって創られます。デベロッパーは、超高層のビルを建てるにしても、都市の歴史を忘れないように継承していくことがとても大事です。

 また、まちは人がいて初めて成り立ちます。従ってまちづくりは人集めのようなものです。昔、中之島には大阪大学があり、学生を相手にする個人商店もたくさんありました。今はオフィス街に変容しましたが、優良な企業の本社を誘致することも一種の人集めだと思います。また、最近ではマンションが建つようになり、島全体の人口も増えています。

 “水の都”と呼ばれてきた大阪には“精霊流し”という先祖をしのぶ「なにわの伝統文化」があり、各家庭から舟形に乗せたり、箱に収めたお供え物を、お盆の8月15日に川に流していました。しかし、数十年前に川の汚染防止のためにできなくなり、その代わりにお供え物引き受け場所を設け、その業務を各町会が担い、川岸にろうそく台を設置し、ろうそくに灯をともしていました。ただ、少子高齢化の波を受け、担い手不足からその業務を終了する町会が続出しました。そこで、中之島連合振興町会は、なにわの伝統文化を絶やすことはまちづくりに逆行すると考え、“中之島の精霊流し実行委員会”を組織し、中之島に事務所を構える約1,000の事業所に協力依頼をしたところ、社員がボランティアで参加したり、協賛金を出す企業が出てきました。また、地域外の方々からもその趣旨に賛同いただき、実行委員会として活躍してもらっています。

 

すきやねん中之島

精霊流しのチラシ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信託を使って社会の課題を解決する

─信託の手法を使うと社会が抱えるいろいろな課題が解決しそうです

 信託の手法を使うことで、空き家や古民家の再生、社会的弱者の生活費の確保など社会の様々な問題を解決することができます。これからも信託の手法を使っていろいろチャレンジしていきたいと思います。

①分譲マンションの“建物の高経年化と所有者の高齢化問題”を解決する

 小口信託受益権分譲と住宅支援機構による受益権質権設定融資による居住用マンションの開発をすることで、分譲マンションが抱える“建物の高経年化と所有者の高齢化問題”を解決したいと考えています。この方法では、分譲マンション購入希望者は区分所有権を購入するのではなく、建物全体の小口信託受益権を希望口数購入します。そして、入居する専有部分の広さや階層等に応じた賃料を支払う一方で、小口信託受益権購入口数に応じた配当を受ける方法です。また、信託会社は不動産管理のプロとして建物の管理や設備の更新を行うので、入居者は建物の高経年化に対応するための意思決定(共用部の修繕、大規模修繕・建替え等)が不要になるため、管理組合が不要になり、それに伴う理事会の担い手不足問題や組合員総会の開催の手間等から解放されます。

 また、小口信託受益権の購入者は、マンションの利用(居住)と所有(資産形成)の両方を享受することができます。そのため、建物の使用にも所有者としての意識が働き、健全な建物の使用が行われることにつながると思われます。さらに、住宅支援機構等によって、購入する小口信託受益権に質権設定する不動産融資が認められると、資金力に乏しい購入者にも門戸を開くことになります。

②地方の疲弊した商店街の活性化と資金調達

 地方の疲弊した商店街が自らの力で再生できないのは、賃料負担能力の違う多様な業種が集まるため、適切なテナントミックスを行えないからだと思います。そこで、個々の店舗を一括した信託財産とし、個々の店舗にPOSを導入することによりスーパーやコンビニの様な品揃えを確保し、総収入を個々の店舗面積割合で配当することにより、商店街全体での最大の賃料収入を確保することができると思います。そして、その実現のために、小口信託受益権分譲を行い、地域住人に購入してもらうことで商店街の大家さんという認識を持ってもらえば、その商店街をもっと利用しようとする意識が働くと思います。このように、小口信託受益権分譲によって、地域に眠る資金が循環する“金融の地産・地消”スキームが構築され、地域活性化に寄与できるものと考えます。

③家族信託の取り組み

 家族信託については、税理士や司法書士の先生方がスキームを提供することが多いのですが、彼らは受託者になれず、次の受託者や指図人を決めていないことも多いのです。そのため、信託契約後受託者や指図人が亡くなった場合等、思わぬ事故が起こった時や、受託者が自分の利益のために、信託財産を知人に廉価で売却する等、適正に処分しなかったりするなどの問題が発生します。信託会社が介在することで、そのような問題を正しく解決できるようにしていきたいと思います。

④公益信託の可能性

 全国には登録有形文化財が13,000件強もあります。それらを維持保存するために公益信託法というものがありますが、現状は金銭に限られております。不動産や美術品等は公益財団を設立して財産を移転しなければならず、とても手間がかかります。それらを信託会社が引き受けられるようになれば、簡便な手続きで維持保存できるようになります。現在、そのための法律である“新公益信託法”が政府内で議論されています。また、各物件の評価と維持管理、場合によっては売買行為が必要になりますので全宅連のような全国組織との連携が必要になってきます。

 

─信託会社は、社会の課題を解決するために公益の姿勢が求められます

 当社は信託を社会のインフラに成長させ、その中核を担う公益企業を目指したいと思っています。信託会社は、適切な事務管理に係る報酬をいただいておりますが、厳しい金融庁の監査があり、手間がかかって割の合わない商売のように見られています。しかし、信託銀行とは異なる信託会社の設立が許されたのは、事例で示したように、信託銀行ではできない業務を担う機関が必要だからだと思います。そして、賃貸管理業が地主や家主に寄り添うように、信託の仕事も、依頼者に寄り添い課題を解決する事業だと考えています。

 地域密着型の不動産経営というのは、まず、不動産の管理業がベースになると思います。管理をすることによって、大家さんや地主さんの家族構成や資産内容を知り、家族の方にもいろいろなアドバイスをすることができます。このように、不動産業はまず管理の仕事があり、それに付随して売買の仕事が発生します。大手不動産会社が大量の広告を出して顧客を獲得するのとは真逆で、まちの不動産会社は一人の顧客を大事にし、その方の信頼を得ることによって、周りにいる方を紹介してもらう。そのような安心して相談してもらえる環境を作ることが大切です。

 そして、地元で信頼関係を作るためには、自分だけでは顧客の課題を解決することはできません。そこで、弁護士や司法書士といった士業の人たちとお付き合いをし、情報交換ができる環境を作ることも必要です。すると、その方たちから顧客を紹介してもらったり、こちらから顧客を紹介したりする関係が生まれます。ただ、その際もお互い紹介料は一切もらわず、その分お客様の費用を安くします。このような小さなことの積み重ねがお客様に対する信頼の元になると思います。

 当社は、信託業開業以来16年間、各種信託商品開発と商品化を進めて参りましたが、一層の発展のためには、全宅連会員企業をはじめとする地域密着型経営を営んでおられる宅地建物取引業者、小口信託受益権分譲マンションにご賛同いただけるデベロッパー、先行投資するための資金提供者、小口信託受益権に質権設定による個人向けの融資を行う金融機関、高齢者や障がい者に寄り添う事業を展開される方々、その相談を受けられる社会福祉士・ケースワーカー、まちづくりに携わる設計士等、司法書士・弁護士・税理士等顧問業を営まれる先生方、そして個人向けの信託商品を提供される同業の信託会社との連携を密にする必要があります。

 また、次世代に当社の社風を継承していただく人財を確保していく必要があり、「不動産の信託」に興味をお持ちいただいている方々を対象として、勉強会を開催していこうと考えております。

 

 


 

桐生幸之介(きりう こうのすけ) 氏

きりう不動産投資顧問事務所代表者、きりう不動産信託株式会社代表取締役
1952年大阪市北区中之島生まれ。追手門学院大学経済学部卒業後、1981年リバーサイドハウジングを設立し代表者就任。2006年きりう不動産信託㈱を管理型信託会社として登録、2009年同社代表取締役就任。2017年大阪市立大学大学院 創造都市研究科 後期課程修了、博士(創造都市)。(公財)不動産流通近代化センター 「地域を元気に!マスター」審査委員特別賞、大阪市立大学大学院「平成28年度 阪口賞」受賞。

 

 

きりう不動産信託株式会社

代表者:桐生幸之介
所在地:大阪市北区中之島三丁目1番8号 リバーサイドビルディング内
電 話:06-6441-3559
H P:http://www.kiriu-trust.co.jp
業務内容:信託業務、不動産賃貸業、遺言書作成・保管業務、不動産管理業、財産の管理業、不動産コンサルティング業務、不動産の売買・賃貸に関する代理業及び仲介業