株式会社上原不動産/山口県下関市

地域を魅力的にする取り組み

<取材日:2022年12月1日>

 

まちづくりと居住支援がともに
成り立つ社会を目指す

不動産会社が中心となり、情報と資産を活かし魅力的なまちに

 

・来店された方の住まいは必ず見つける

・社会的弱者と社会のつながりを生むまちづくりを目指す

・まちづくりのイベントに参加、新たな出会いが

・半年間で3カ所、5棟のレンタルスペースと新たな発想の賃貸を展開

・不動産会社こそが主体的にまちづくりに取り組むべき

 


 

来店された方の住まいは必ず見つける

─事業内容や沿革について教えてください

上原氏当社は1982年に創業し、今年で40年を迎えました。既に別の事業をしていましたが、新しい事業を模索する上で、資本があまりかからず起業できるということもあり、不動産業を始めることにしました。最初は知り合いの大家さんもおらず、山口県宅建協会の物件情報ネットワークシステムに登録してある賃貸物件を、夫婦二人で毎日1件の成約を目標に客付けをしていました。そのようなことをコツコツ行っていると知り合いの大家さんも増え始め、少しずつ管理を頼まれるようになりました。今では公営住宅を含めて管理戸数は約2,000戸になりました。

 

─社会的弱者に対する住宅確保にも昔から取り組んでいますね

橋本氏当社が位置する地域は、市役所、拘置所、更生保護施設、総合病院がある下関市の中心市街地です。特徴的な点は、韓国朝鮮人の方が多いエリアだということです。朝鮮半島における韓国併合以降、多くの方が来日し、第二次世界大戦以降も下関に留まり商いを始められました。当時からアパートより長屋の貸家が多く、港が近いこともあって宿場町としてにぎわってきたため、遊郭などの歓楽街も多数ありました。この様な歴史背景があるエリアには、社会的弱者の方も多くおられます。そのような方たちは、連帯保証人がいない、家賃保証会社の審査が通らないなどの理由で家を借りられないことから、私の母親である専務の上原が、まだ窓口業務に率先して立っていた時代から社有物件を中心に、連帯保証人なしでも入居できるようにと受け入れを始めました。すると「上原さんのところなら何とかしてくれるらしい」と口コミで広がり、市役所の福祉課、ケアマネージャー、保護司、ケースワーカーの方たちから、刑余者、障がい者や生活保護者、ひとり親世帯の方々の部屋を見つけてほしいといった連絡を直接いただくようになりました。

 

上原氏創業以来、「来店された方の住まいは必ず見つける」という方針でやってまいりましたので、最終的に当社が腹をくくり、審査が通らない方でもお部屋の斡旋をしています。今では、管理戸数の約1割の入居者が住宅確保要配慮者の方です。

 

橋本氏審査が厳しい方が来店されると、身の上話を聞くところから始め、かかりつけの病院、身内の有無など、突っ込んだヒアリングをします。やはり、基本情報のみだと断らなくてはならないお客様を入居につなげるためには、アセスメントをしっかりしなくてはなりません。

 一方で、行政や福祉事業者は、家が見つからないと仕事を探せないと言い、不動産業者は、仕事や収入源が見つからないと住まいを探せないと言うといった、たらい回しの状況を日々感じ、また、解決に悩む案件も多く、自助努力だけでは限界があると感じるようになりました。

 

─居住支援法人の指定を受けた経緯を教えてください

上原氏山口県宅建協会の会長だった際に山口県居住支援協議会に参加し、セミナーなどで大牟田市を始め先進的な活動をしている団体の話を聞くと、住宅確保要配慮者の受け入れを実際に行うのは市町村なので、市に居住支援協議会を立ち上げるよう依頼するべきだと言われました。

 そこで、下関市の住宅政策課に協議会の設立の依頼に行ったところ、逆に居住支援法人を立ち上げてはどうかと提案されました。それを受けて宅建協会下関支部で何度も話し合いをしましたが、手を挙げる会員がおらず、社内に持ち帰った結果、今まで自社で抱えていた悩みの解決の糸口になり、それが事例となるのであれば自社で手を挙げようと決意し、居住支援法人を申請したのです。2022年9月に山口県内の不動産事業者で初めて指定されました。

 

西口氏県内で不動産事業者の登録は今まで全くなかったので、最初の頃は、居住支援法人の集まりに行くと「補助金目当てなんだろう」と揶揄されることもありました。

 

橋本氏福祉事業者からすると、大家さんではなく不動産業者が入居を断っているという意識があったようです。ただ、何回か会合を重ねるうちにお互いの事情を理解できるようになりました。

 

歴史的建造物が残る唐戸地区

 さらに、今年度は厚生労働省の「高齢者すまい生活支援伴走支援事業」に採択され、厚労省と高齢者住宅財団の声掛けで、私たちだけでは招集することができなかった市の福祉部や長寿課、地域包括センター、社会福祉協議会、地域包括支援センター、地域の病院の医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、居宅介護専門員の方々と顔合わせをし、協力体制を組んでいただきました。そのようなネットワークを使い住宅確保要配慮者の見守り体制を整備し、それをモデルにオーナーや管理会社に広めていこうとしています。突破口になりそうなケースとして、ある総合病院との連携があります。この病院は低所得層に無料診療を提供していますが、今まで不動産業者と強い連携がなかったようです。管理会社として「入居者の容態にもう少し早く気づけば病院につなげられたのに」という経験がある一方で、病院側も「そろそろ退院してもらいたいが、部屋がスムーズに見つからない」という悩みがあったようです。

 そこで、患者の退院前のカンファレンスに当社も参加し、「この方はこういう持病があるが、この福祉事業者が付くので一人暮らしも可能です。何かあれば病院が受け入れます」と情報共有をしてもらいます。このように、不動産業者と医療・福祉事業者がお互いに情報を交換できれば、賃貸住宅の受け入れも進み、地域の魅力も増すのではないかと思うようになりました。

 

 

社会的弱者と社会のつながりを生むまちづくりを目指す

─住宅確保要配慮者の現状の受け入れの方法について教えてください

西口氏当社は社有物件以外に、管理物件でも社会的弱者の受け入れをしています。そのため、全ての大家さんに事前にアンケートを取り、受け入れが可能な部屋かどうかを把握しています。アンケートの結果、「何かあった場合、上原不動産で対応してくれるなら」という前提にはなりますが、200名以上の大家さんの中で65歳以上の入居者は拒否したいという方は1、2名程度でした。さらに、R65不動産が提供している新電力を使った見守り電気や、万一の死亡時の残置物撤去や原状回復費用保障制度を導入し、大家さんの理解を得るようにしています。

 また、精神に病を抱えている方についても本人への事前のヒアリングをしっかり行い、住宅を斡旋しています。大家さんからは「夜中に叫んだりしない?」などと不安の声が聞かれることもありますが、あらかじめ気性や生い立ちがわかっていれば、入居者に合わせた声掛けや、早めに関係各所へ相談や対応要請ができます。ただし、要請先がないケースの時は困ってしまいますので、同じ課題を共有した事業者様と連携体制を構築している最中です。

 また、そのような方々を受け入れるために部屋作りも工夫しています。下関市の場合は生活扶助費が3万1,000円から2万9,000円に引き下げられてしまいました。この金額で要配慮者を受け入れ可能な部屋が少ないため、平坦地の古いアパートなどは、職人さんに分離発注するなど、工夫をしながら部屋のリフォームをしています。

 

橋本氏社会的弱者は福祉関係者にアクセスできない方も多く、何回も家賃を振り込むなど心配事が発生した場合は、逆にこちらから民生委員や地域包括支援センターに連絡したり、社会福祉協議会につないでいます。息子が親の年金を目当てに使い込んでしまって携帯が使えなくなっていた老夫婦の場合は、先に住宅を確保して受け入れた後、固定電話を引いてから保証会社の審査を通したこともありました。

 このようなことは、どの地域でもこれから起こりうる社会問題です。介護は私たちの本業ではないので、できないことはバックアップしてくれる仲間を増やしながら伴走してもらい、社会的弱者の居住支援を進めていかなくてはならないと感じています。

 

西口氏住宅確保要配慮者は社会的つながりが少ない方が多いです。私たち不動産業者はハードの箱を提供することは得意ですが、ソフト面での人のつながりを作るのは得意ではありません。しかし、つながりを作ることができれば孤独死を防ぐことになりますし、私たちの事業にとってもプラスになります。

 

橋本氏そこで私たちは、社会的弱者のつながりづくりとまちづくりのハイブリッド版を目指そうとしています。まちに賑わいをつくり、その一角のレンタルスペースで、管理物件に入居している高齢者や障がい者たちのための食事会を年数回開き、まちの人たちとつながるきっかけになれば理想的だと考えています。

 専務の上原は、認知症が進み、放浪してしまった入居者を道端で見つけ、車に乗せて戻ったり、急病の際にはおぶって病院に連れていったりしていましたので、入居者は「最後までこの部屋に住みます」と言ってくれます。そういう方々を安心して最後まで見守っていけるようになることが、本当に大切なのだということを実感しています。

 

─宅建協会の動きとして全国で先駆けて市営住宅の管理の受託をされました

上原氏小泉内閣の時に「官から民へ」という流れがあり、指定管理者制度が発足。平成20年に下関市でも募集が始まりました。当時、私は山口県宅建協会下関支部の支部長だったので、専門知識が豊富な200戸以上管理している会員に声をかけ、最終的に11社が集まりました。そこで、「ハトのマークの宅建企業共同体※1」として応募したところ選定されたのです。物件は約7,000戸あったので、地域ごとに管理責任者を置き、年中無休24時間体制で管理業務を行い、高齢者世帯の見守り訪問を行うなど、入居者へのきめ細かい対応を開しました。当協会の受託を契機に宮崎県や鹿児島県など、その動きは全国に広がりつつあります。

 

 

まちづくりのイベントに参加、新たな出会いが

─まちづくりに視点を向けたのは社会的弱者の居住支援が始まりだったのですね

上原氏福岡の𠮷原住宅さんたちが親から受け継いだ古いアパートを、解体するのではなくリノベーションをして活かし、さらにそこにコミュニティを作り入居者や地域の人たちに喜んでもらうという取り組みを知りました。自治会や隣組もなくなった現代は、地域のコミュニティが希薄になり、高齢者が社会とのつながりをなくし、孤独死しているという現実に対し、そのようなノウハウを活かし、アパートにコミュニティを作ることができれば、入居者同士もつながっていけるのではないかと考えました。ただそれは、私より若い世代の常務に勉強してもらった方がいいと思ったのです。

 

橋本氏当社の社有物件やその時からお付き合いのある大家さんの物件も当然、経年しております。しかし、それに対して、おしゃれなリノベーションをしても、ターゲットにしたお客様が入らなかったり、家賃が思うように上げられないという部屋もあり、壁に直面していました。

 そんな中でエンジョイワークスさんと全宅連が共催で行った「次世代まちづくりスクール」に参加する機会がありました。そこで、𠮷原住宅 𠮷原勝己さんのコミュニティが不動産価値を上げるということや、チームネット 甲斐徹郎さんの、コミュニティを作るのは心地よく、自然と人が集まる仕掛けがあるという環境デザインの考え方に出会いました。そこで、40年間ひたすら不動産業界の発展だけを考えてきた父母の意思を引き継いで、私も新しいことに取り組もうと決心したのです。

 

─まちづくりについて下関市の動きを教えてください

橋本氏下関は戦時中空襲にも遭いましたが、築70年以上の歴史ある建物が唐戸地区を中心に残っています。下関市は2022年に『下関海峡エリアビジョン』というウォーターフロントを活かしたまちづくりマスタープランを策定しました。そして、2023年秋着工予定の『唐戸harete』 や2025年開業予定の星野リゾート『リゾナーレ』の開業に照準を合わせ、そこで創出された人の流れを市内に回遊させ滞留してもらおうと、中心市街地の①下関駅エリア ②あるかぽーと・唐戸エリア ③火の山・壇の浦エリア という3つの地域を活性化するという計画が立てられました。

 

─まちなかでは具体的にどのような動きがあるのでしょう

橋本氏:下関にも「BRIDGE」というシェアハウスや「UZUHAUSE」というゲストハウスができ、そこが拠点となり県外からユニークな人たちが集まるようになりました。ただ、スポット的に盛り上がってきてはいますが、依然として商店街は閑散としたままです。

 そのような中、下関市主催のリノベーションまちづくりのイベントに声をかけていただき、まち歩きに参加したり、「次世代まちづくりスクール」のゼミに参加することで、もしかすると自分のまちも変われるのではないかと思い始めました。

下関駅エリアの特徴

 また、シェアハウス&ゲストハウス「BRIDGE」のオープニングパーティに参加すると、改装費用など多額な資金投資はできないものの、起業をしたくてうずうずしている主婦や学生など、不動産会社の店頭には普段来られない方々と出会い、「そのような方々が下関にもいるのだ」と驚きました。毎日、会社の中だけで仕事をしていては絶対に会えなかった方々です。

 さらに、「下関市まちづくり構想検討委員会」にも個人的にですが、唯一の不動産事業者として参加要請を受けました。それは、私自身が60世帯近くの賃貸オーナーでもあり、家守候補としてお声掛けいただいた貴重な機会でした。

 しかし、そこで大きな気づきがありました。それは、不動産事業者や不動産オーナーこそがまちづくりを推進して行なうべきなのではないかということです。そこには、今まで見落としてきたビジネスチャンスや不動産事業者だからこそ、意外と容易に応えられるニーズが点在しているのではないか。そう思うと「応えなければならない」といった使命感を感じるようになりました。

 

 

半年間で3カ所、5棟のレンタルスペースと新たな発想の賃貸を展開

─実際に取り組まれている物件について教えてください

橋本氏私が着目しているのは主に下関駅エリアです。アパートは8棟ほど運営していましたが、事業用の物件の再生に取り組んでみたいと思い、社内で商店街に面白い物件があれば紹介して欲しいと声をかけていました。すると販売部長である主人より、管理オーナーが「高齢のため処分したい」とのことで商店街にある築80年の物件の紹介を受け、早速1軒目を個人で購入しました。購入後、天井を解体すると所有者も外壁や屋根の材質も違うのに隣の家と柱がつながっていて、しかも雨漏りをしていることから、隣の家も購入せざるを得なくなりました。さらに、将来の出口戦略を考えると角地も購入した方がいいと判断し、熊本にいる所有者に直接連絡して承諾をいただき、3カ月の間に3軒購入しました。「リノベーションまちづくり拠点活動補助金」の交付も受け、そのうち1軒は完全に作り上げましたが、他は借り手が内装を改修しやすい程度にリノベーションをしました。

 

茶山通り商店街 リノベーション前 BEFORE

茶山通り商店街 リノベーション後 AFTER

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不動産会社は物件を貸したら後はあまり入居者やテナント借主様と濃い接点を持とうとしませんが、それでは取り組む意味がないので、通りににぎわいができるまでここを新たな事業をチャレンジできるレンタルスペースにし、いろいろな人やお店を呼ぶことに挑戦しました。そして、人と建物、人と人をつなぎ地域の魅力を作るという想いを込めて『ARCH茶山』という物件名にしました。

 テナントを見つけるにあたり、個人的に「まち歩きin下関」を主催したところ、女性起業家が下関市ふるさと納税型クラウドファンディングを活用し、café&barをやりたいと手を挙げてくれました。室内は自分たちでDIYするということだったのでこちらは外観と構造部分に手を入れました。完成後すぐに、レンタルスペースARCH茶山には期間限定ポップアップショップとして北欧雑貨店が出店し、2階はヒーリングサロンやアンテナショップとしての利用方法を提案して誘致しています。同時期にRC造3階建ての社有ビルをシェアキッチン付シェアオフィス・コワーキングスペースとしてリノベーション(『ARCH豊前田』)。さらに鉄骨造の管理物件も借上げ、2分割に区画割し、ウェルネス促進をコンセプトにしたYOGAスタジオと、米粉のパン屋の起業準備でコンサルをさせていただいています(『ARCH幸町』)。約半年の間に3カ所、計5棟にてレンタルスペースを計画。大家さんが共同で投資するテナント賃貸はありそうでなかったので、借り手の方に大変喜ばれました。このように、開業チャレンジできるという方を増やすことと同時に、だんだんとシャッター街になっていく私達のまちの資源『遊休不動産』の可能性を探りながら、寂れた商店街に今までになかった人流を創出し、地域活性と地域共生社会のきっかけにしていけるように、スタートラインに立ったところです。

 

まちあるきin下関

移住者、地域おこし協力隊、下関市職員の方とDIY

ARCH豊前田/シェアキッチン・コワーキングスペース

北欧雑貨店が出店

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不動産会社こそが主体的にまちづくりに取り組むべき

─不動産会社はそのようなテナントを見つけるのが不得手だといいます

橋本氏リノベーションスクールで講師の方に同様の質問をしたところ、「そのためにはまちに繰り出すんだ」と言われました。やはり待っているだけではなく、こちらからアプローチすることが必要です。どの地域にもマルシェ等を企画する団体はありますし、新しいことをしたい方々のコミュニティに入り、情報発信をすると興味を持ってくれる人とつながります。本来はそういう方々が不動産会社に自然に来てくれるようになるといいと思いますが、そのためには単に物件情報を流すだけでなく、ストーリー性をもって発信することで共感を得たり、イベントなどを企画していくことも必要なのだと感じました。

 「不動産会社は常に人に会い、普通では聞けないものすごい個人情報を持っているんだよ」と言われたことがあります。仕事を通して、若者や高齢者、主婦や社長、企業、行政など多岐にわたる方々と接点があります。このような方々に、日々、情報発信し、『遊休不動産』をまちづくりにどうやって活かしていくのかということを、新たな目線で考えていける不動産会社であれば、地域に必要とされ続ける存在になれると確信しました。

 最近は、各所で講演をさせていただく機会が増え、内容も賃貸オーナー様向けセミナーや居住支援法人としての啓発講演や取り組み紹介、まちづくりのリノベーションでにぎわいを目指すイベントなどさまざまです。

 どのシーンでも不動産事業者の心ある取り組みとして大変喜んでもらい、重宝していただけていると感じます。

 起業する方に店舗作りのコンサルティング提案をすると、出会えてよかったと喜んで、諦めかけていた出店をすることができた方もいます。

 地域活性を目指したまちづくりを目指す学びをする一方で、居住支援法人として、現代の多様化した社会的弱者の課題に対応すべく重層的支援体制についての学びを深めれば深めるほど、不動産事業者こそが、各方面での支援に欠かせない存在なのではないかとも感じています。それだけに社会の構造における責任と使命感を持ち、不動産業に取り組むべきなのだと強く感じています。

 その点を全国の不動産事業者が理解を深め、自分達の得意を提供する業務こそが、AIに取って代わられない、地域に必要とされる不動産業なのではないかと考えます。

 

─不動産会社もまちづくりにもっと主体的に取り組むべきですね

橋本氏下関駅エリアで人が回遊するきっかけとなる拠点作りを始めましたが、その拠点を使い、いつか居住支援につなげることができれば最高だと思います。そして、それを実現できるのは不動産会社であり、私たちが自信を持って取り組める領域であると感じています。まちづくりを勉強するために制服を脱いで飛び出していったら、たまたま面白いことをしたいという人たちに出会うことができました。不動産会社が出会えない、まちのプレイヤーといわれる存在の方々が自然と集まり、空き物件を活用し、地域共生社会につなげられる循環を生み出せないかということを、現在模索しています。

 そして、商店街の大家さんにシャッターを開けて貸してもらうようにするには、定期借家契約、原状回復義務なしや早期解約違約金なしの特約等、従来とは異なる新しい貸し方を提案することが必要です。そのためには大家さんにも協力してもらう必要がありますが、不動産会社もテナントを紹介する際に、大家さんや借り手に市や県の補助金の活用等も含め多角的なアドバイスをしたり、DIYを活用したリノベーションコンサル等をすれば、夢だと諦めていた方々が実現できるチャンスの創出になると思います。

第2回居住支援勉強会in下関グランドホテル

 AIが発達すると仲介の仕事がなくなるといわれますが、人と人をつなげながら、最適な建物をリノベーション提案する仕事は逆に需要が増すでしょう。「この空き家が気になっています」という方々に「では登記簿を調べてみましょう」と気軽に答えて、大家さんに交渉して条件設定し、契約書を取り交わすことができるのは不動産業者の得意分野です。行政などのまちづくりの会議に不動産業者が呼ばれないのは問題だと思いますし、私は不動産業の地位を守らなくてはならないという思いで参加しています。まちづくりの仕事はボランティアでやっていると思われがちですが、それが収益に結び付き、地域の賑わいができれば、地元の不動産業者が関わる意義が生まれますし、夢のある仕事に変わってきますよね。全国には宝の物件がたくさん眠っていると思います。ビジネスチャンスが!(笑)

 

上原氏当社としてもまちづくりについてはまだ勉強の途中ですが、少しずつ投資をしながら長い目で見て地域の活性化や社会貢献につながっていけばと願っております。

 

※1 現在は、(公社)山口県公営住宅管理協会

 

 


 

上原祥典(うえはら よしのり)氏

1956年、下関市生まれ。1982年、26歳の時に 夫婦二人で創業。近年では、賃貸売買仲介、自社アパートに加え、有料老人ホームの建て貸し、中古ビル再生、新築建売、開発宅地分譲事業を展開する。2017年 国土交通大臣表彰受賞、2019年 黄綬褒章受章。2021年には山口県より住宅確保要配慮者居住支援法人の指定を受け、地域共生社会の実現と、不動産業界の発展を願い、AIに取って代わられない、地域に必要とされる不動産業を目指している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

株式会社上原不動産

代表者:上原祥典
所在地:山口県下関市上条町1-47
電 話:083-234-1300
H P:https://www.uehara-f.com/
業務内容:下関市内を中心に約2,000戸を管理。創業以来一貫して住宅確保要配慮者への住宅斡旋に積極的に取り組む。また、代表が支部長時代に下関市の公営住宅の指定管理を11社で受託し、高齢者の安否確認等も行う。令和4年からはまちづくりにも取り組み、下関駅周辺エリアで不動産を取得し賑わいの創出と地域価値向上を目指す。