株式会社イーエスプランニング/兵庫県神戸市

地域を魅力的にする取り組み

<取材日:2022年8月29日>

 

駐車場はまちなかの結節点であり、
コミュニティの玄関口

駐車場ビジネスで、地域のお金が地域で回る循環を作る

 

・震災を機に設計事務所から管理業に転換

・利用者データを分析し、新たなサービスを生み出す

・駐車場ビジネスは「利他行」だ

・事業ドメインを地主向けのビジネスに据える

・社員に選んでもらえる会社になる

・駐車場ビジネスは地域のコミュニティビジネス

 


 

震災を機に設計事務所から管理業に転換

─建築から管理ビジネスに主事業を変更した経緯について教えてください

 大学を卒業後、最初に大阪のデベロッパーで、宅地開発した土地の販売の仕事に就きました。その後ハウスメーカーに移り、約10年間、最初は展示場等で新築戸建ての営業、次に土地の有効活用としてアパート・マンションの建築提案の仕事をしました。土地を販売していた時は不動産の知識とローンの知識を、戸建て住宅の営業の時は建築の知識を、土地の有効活用の仕事では相続税を始めとした税金の知識を習得することができました。その後、独立するチャンスが巡ってきて、お付き合いしていた協力会社からも「独立するなら協力するよ」という言葉をいただき、33歳の時に、地主さんに対して土地の有効活用を提案する設計事務所として創業しました。

 創業して間もなく阪神・淡路大震災が起こり、神戸も大きな被害を受ける中、当社は設計と建築の免許を持っていたことから復興需要を受け、建築の仕事が一気に増えていきました。しかしながら、特需のようなものはすぐに収まり、平成6年に1兆円あった兵庫県の建設市場は公共事業削減を受け、平成16年には5,000億円まで減り、県内上位50社のゼネコンの内、13社が倒産か民事再生をするという事態になってしまいました。建築業が構造不況産業といわれる中で、当社の経営も厳しくなり、このまま建築設計一本でやっていても駄目だと思うようになったのです。

 一方、創業後、建築設計業に加えて宅建業免許を取得しており、地主さんからも「あなたの提案で建てるのだから、管理もしっかりやってほしい」と要望されたことから、アパート・マンションの管理を細々とやっておりました。また、相談案件には神戸市内の一等地にある物件で、アパート・マンションを建てるより駐車場経営をした方が収益性が見込めることから、機械式の立体駐車場を提案した物件もいくつかあり、その管理も行っていました。

 そこで、これからはモノを作るだけでなく、その維持管理もしっかりやっていこうと、建築設計業から不動産サポート業である管理業に業態変更し、第二創業をしました。

 

─駐車場ビジネスに本格的に取り組まれた経緯について教えてください

P-CLUB国際会館の立体駐車場

 当時、当社の居住用賃貸物件の管理戸数は400室程度で、仮にその戸数が10倍になったとしても管理市場全体から見ると0.数%程度にすぎません。しかし、管理している駐車場は既に800カ所あり、他社で熱心に取り組んでいる管理会社は少ないことから、駐車場に特化していけば全国レベルになれる可能性は高いと考えました。当社は建築設計会社として機械式立体駐車場を提案してきましたが、駐車場の建築設計から管理まで特化して行う会社は全国でもあまりないと思います。そこで、アパート・マンションの管理の場合は、他社が建てた物件の管理を受けることはありませんでしたが、駐車場に関しては、当社が管理している以外の物件も管理を受託するようにしました。また、月極駐車場は、地主さんが片手間に管理している場合が多いですが、自分でやるより業者に管理委託した方が楽ですし、当社が管理することでメンテナンス代等のコストが安く抑えられるので、競争力も上がります。

 

─この市場はタイムズ24や三井のリパークなど大手企業が進出しています

力を入れている月極駐車場

 タイムズ24は駐車場の精算機器メーカーの販売代理店から参入したのに対し、当社は土地の有効活用の提案から参入したという点では切り口が異なります。

 従って、機械式立体駐車場のような、安全確保のために教育された操作員を現地に配置しなくてはならない形態のものは、大手はほとんどやっていません。あくまで彼らの主戦場は、地主から土地を借りて精算機を設置して管理する、人が関わらないコインパーキングです。

 管理している駐車場はいくつかの種類あります。まず自社の直営駐車場、2つ目がリースバック方式で、オーナーが所有する駐車場を当社が借り上げるか、オーナーの用地を当社が借り上げて駐車場事業をし、オーナーに決まった賃料を支払う方式です。3つ目が単純に管理だけを当社が受託するケースです。これまで当社は、大手が参入しにくい機械式立体駐車場と、リースバック方式の月極駐車場の開拓に特に力を入れてきました。

 

 

利用者データを分析し、新たなサービスを生み出す

─大手企業に負けないためにどのような戦略が必要ですか

 当社はまず、姫路から大阪までの限られたエリアの中でドミナントなポジションを取る戦略をとっています。これは競争優位性を持つために、ローカル企業が一番の強みとするエリアでの占有率を大手企業より高める戦略です。

 次に、詳細な市場分析に基づいた提案力を強化しています。コインパーキングは駐車場の精算機と本社がオンラインで結ばれており、大手企業はその大量のデータを基に地主に提案をすることができるため、高い競争力を持ちます。それに対して当社は、マーケットリサーチについて独自の調査方法を行っています。まず、とても“べた”な方法ですが、アルバイトの学生を雇い、駐車場の前で駐車した車のナンバー、入出庫の時間と売上額をしらみつぶしに記録します。また、車のナンバーは国が公開している情報なので、そのデータをたどっていくと、その駐車場の利用者がどこから来ているのかがわかります。そのような人を使って集めた調査結果と、社内に蓄積されているデータを合わせて、地主に対して駐車場経営の提案を行います。

 

─集めたデータから新たなサービスも生み出されています

リサーチから生まれた各種駐車場サービス

 データを集めたきっかけは、儲かる駐車場にしないと仕事が来なくなるという危機感からです。まず時間貸し駐車場について、空いている時間帯に1台でも多く埋めるにはどうしたらいいかを考えました。1時間の平均利用単価が300円の時代、平均利用時間が2時間で客単価が600円ということがわかったので、1日1,000円で停め放題というサービスを始めました。するとそれが大ヒットし、売上が3割近く伸びました。このサービスによって長時間の利用をためらっていた人たちが電車やバスから車に変えるという事象が起き、新たな需要を創出できたと思います。また、三宮駅近くの一等地で受託した国際会館の機械式立体駐車場の車の出入りを調べると、朝は施設関係者の車が、夕方は習い事や会合のための利用者が多いことがわかり、午前10時までと午後4時以降の料金を下げたところ利用台数が大幅に増えました。その他、それまで10分単位か月極の選択肢しかなかったので1分刻みで清算できるようにしたり、月極駐車場の契約者に対して、当社が管理している時間貸し駐車場に無料で停められるサービスも始めました。

 さらに、利用者のデータを分析すると、時間貸し駐車場の利用の多い人は、同じ場所に何回も停めることが多いということや、パレートの法則通り、利用の多い2割の方が全体の8割の売上を占めていることがわかり、ロイヤルカスタマー向けの優遇サービスをいろいろと生み出しました。

 

 

駐車場ビジネスは「利他行」だ

─駐車場のデータから人の行動分析をされています

 駐車場を使うドライバーは人です。データを分析し始めると、誰がこの駐車場を使い、それは何のためで、停めた後どこに行くのかといった人の動きに興味が出てきました。そして、そのデータを集めることができると、いろいろなサービスに結び付けられるのではないかという可能性を感じました。

 神戸は全国的には観光地として有名ですが、駐車場のデータを分析すると、神戸の駐車場利用者の95%近くが神戸ナンバーの車ということがわかりました。一方、神戸市の最大の資産は土地です。その土地の上に建つ駐車場の利用者の大半が神戸市在住の人であるにも関わらず、そのお金が東京資本の企業に流れてしまい、神戸市の中に循環していかなければ地域経済は痩せ細ってしまいます。

 同じように、駅前の飲食店が“ドラキュラビジネス”といわれるように、東京本社の飲食店は材料を本社から送り、地元に落ちるのはアルバイトのお金だけで、売上は全て東京に吸収されています。従って、飲食店を使うのは地域の人なのに、その人たちが稼いだお金は地元に入らずに全て東京に回ってしまうという構造になっています。神戸の土地を使って、神戸の人がお金を払うのであれば、神戸でお金を回すという経済循環をおこすべきです。それが東京に流れているうちは、神戸は絶対に豊かになれないということがデータを分析してわかりました。

 

─神戸にお金が落ちる仕組みをどう構築しますか?

 人の行動を分析するにあたり神戸大学と連携協定を結び、駐車場に車を停めた人に、“何のために来たのか”“どこに行ったのか”“いくら使ったのか”ということを直接聞くことにしました。しかも、使った金額は買い物のレシートを直接見せてもらい、1,000件以上のデータを集めることができました。データ収集にあたっては、直接お願いしても怪しまれるので、「今日の買い物の5%分を駐車場代から引きます」といって協力してもらいました。最高金額は指輪を購入された100万円です(笑)。 

 そのデータを大学で分析してもらったところ、65%の方が駐車場に停めてから何らかの消費活動を行い、車1台当たり平均で約8,000円のお金を使っていることがわかりました。つまり、駐車場は電車の駅と同様行動の起点であり、商業施設との結節点になっているのです。

 そして、ある程度の常連さんが車を停めて、7割近くの方がお金を使いに来ているのであれば、その人たちを兵庫県本社または神戸市本社の頑張っているお店に誘導し、地域のお金を地域で回すようにするのが結節点としての私たちの役割だと考えました。そこで、このようなデータを持って「当社の駐車場の顧客は、あなたのお店の近くに来てお金を使う人たちです」と説明し、賛同してくれるお店を応援する企画を考えることにしました。提携したお店を利用した方の金額に応じて駐車料金を下げる代わりに「この駐車場にお停めください」と働きかけてもらうなど、“駐車場前商店街パーキングモール”というビジネスモデルを作り、駐車場から神戸のまちを豊かにしようと考えています。

 

─それ程高い比率で買い物をしているとは思いませんでした

 大手デパートの調査では、車で来る人は電車で来る人の3倍のお金を使うそうです。そこで、デパートは車で来る人をロイヤルカスタマーとし、売上を上げるために駐車場を用意するという考え方をしています。それは、飲食店や美容室なども同様です。つまり、私たちの駐車場にも近隣のお店のロイヤルカスタマーが来ているという位置づけになります。デパートは大きな建物を使って縦にモールを作りますが、当社の構想は駐車場を結節点にして個々の店がつながり、平面的にモールを作ろうという考え方です。

 

─駐車場利用者の属性がわかるとビジネスの発想が広がります

 当社はマンションやアパートの管理もしていますが、利用者がどこから来るかわからないので、ポータルサイトに広告を出したり、同業者のネットワークに募集情報を出します。一方、駐車場の場合、時間貸しの場合は目的地の半径500m以内、月極めの場合は300m以内に利用者はほぼ限定されます。このように駐車場はマンション管理と全くビジネスが異なり、全てのお客様が近くにいるという見込み客が明確なビジネスです。そして、賃貸用のマンションはそこが目的地ですが、駐車場は目的を達成するための手段にすぎないのです。

 その意味で、駐車場ビジネスを私は「利他行」だといっています。つまり他を利さないと駐車場の繁栄はありません。地域が廃れると駐車場は必ず廃れます。目的ではなく手段であるところに駐車場ビジネスの面白みがあり、公共性という意味合いを持っていると思います。

 

 

事業ドメインを地主向けのビジネスに据える

─全国の同業者に貴社のノウハウを提供しておられます

駐車場経営全国交流会の様子

 駐車場ビジネスに興味のある大家さんや宅建業者を集めて『神戸駐車場大学』を始めました。また、駐車場経営に関する情報を集めた『駐車場経営通信』も発行しています。やはり多くの管理業者はマンションやアパートの管理がメインで、駐車場管理は見よう見まねで行っているにすぎず、思った以上に売上が伸びません。しかし、地域を潤すビジネスという視点で行えばもっと面白い仕事になります。

 実際に神戸でやっていることは、札幌や仙台でもできるはずですし、私たちは神戸以外に進出するつもりはありません。そこで、地域の管理業者が情報共有しながら切磋琢磨するローカル連合を作ろうと『駐車場経営全国交流会』を発足させました。その地域の土地という地域資源を使い、地域のお客様が使うお金を地域に回るようにすべきだという考え方が起点となっています。

 一方で、私たちに1,000台以上の駐車場の管理を頼まれても、経験もありませんし難しいところがあります。そこは大手企業に任せることで役割分担しています。

 

─今後駐車場ビジネスをどう展開していきますか

 当社は設計事務所として創業し、この土地をどうしたらいいのかと悩んでいる地主さんに対して土地の有効活用の提案をしてきました。時期や場所によって扱うサービスは違いますが「地主さんの問題を解決する」という事業ドメインは一貫しています。地主さんに共通する課題は、“共有名義”の問題と“相続”の問題です。そのような悩みに対して「地主の参謀」の役割を果たしていきたいと思っています。設計事務所から資産の運営管理を行ってきましたが、次は資産そのものの管理ができるようになることで、土地の活用に困っておられるお客様にワンストップでサービスを提供し、地主さんに選ばれる会社になっていきたいと思っています。

 

 

社員に選んでもらえる会社になる

─そのためにはいろいろなスキルを持つ社員を育てなくてはなりません

駐車場経営通信

 社員を育てようと思っても育つものではなく、やはり本人が育とうと思わないと伸びません。社員は豊かな家庭を作るため、豊かな人生を送るために働いているわけで、決して当社の経営理念を実現するために頑張っているわけではありません。私は社員が自分の人生に向き合うタイミングで、当社で働きたいと選択してくれるような会社にしたいと考えています。そのために大切なのは、報酬面と自分が育つ環境にあるか、面白いと思う仕事ができるかという点だと思います。そして、仕事の面白みは、お客様から認められることで感じるものです。外部の人と接点をもつことで喜び、将来に向けての安心感があれば選択してもらえると思います。

 会社は土のようなものです。社員という種が入ってきても種の力だけでは伸びませんので、豊かな土壌を用意し、適当なタイミングで光を当てたり、栄養を与えることが必要です。

 

 

駐車場ビジネスは地域のコミュニティビジネス

─駐車場は地域活性化に必要なビジネスですね

 当社が20年後も駐車場管理ビジネスをやっているかどうかは分かりません。ただ、今は地主の問題を駐車場で解決するのであれば、兵庫県の中では当社が最も競争力があり上手に運営できる会社だということです。

 地主の目的は土地を生かすことであり、地域で一番流行る駐車場にすることを求めています。地主の利益を実現するためには、利用者の利益が重要です。私たちのライバルは大手企業で、彼らが運営する平面の機械式駐車場は入出庫に時間がかからず24時間営業で便利です。一方、機械式立体駐車場は時間もかかるし入庫も難しそうというハンディを抱えています。しかし、建物の中に入るので安全に保管できるし、傷がつく可能性も低いので安心です。そこに、地域でお金を使うと駐車料金が安くなるというサービスがつけばさらにメリットが加わります。これは大手ではできないサービスです。「地元が豊かになるなら当社の駐車場を使いたいと利用者が思い、利用者も地域のお店も喜んでもらえるようなビジネスを目指しましょう」と地主にも伝えています。駐車場管理ビジネスとは、地域の資源を地域の人がお金を払って利用する仕組みを、地域の企業が行うという“コミュニティビジネス”だと考えています。

 

─それが経営理念の『良い仕事をする』ということなのですね

 私たちが『良い仕事をする』というのは、「地主が喜ぶ仕事をする」「利用者が喜ぶ仕事をする」そして「働く仲間が喜ぶ仕事をする」「そのために創意工夫する」ということです。地域資源である土地を生かして、データの裏付けを基にサービスを組み立て、地域のお金が地域に回るようにすること。これは、全国どこでも共通ですし、駐車場に限らず仲介や賃貸管理のビジネスにも通じる考え方だと思います。

 

 


 

藤岡義己(ふじおか よしみ)氏

1958年、兵庫県生まれ。神戸市外国語大学卒業。大学卒業後、デベロッパーで不動産(宅地)の開発・営業にあたる。その後 住宅メーカーで戸建て営業と土地有効活用事業を経験。業務を通して得た営業・不動産・建築・ファイナンス・資産税のノウハウを元に有効活用提案型の一級建築士事務所として1992年にイーエスプランニングを開業。第二創業を進め『駐車場開業・運営・管理』では兵庫県トップ企業となる。

 

 

 

株式会社 イーエスプランニング

代表者:藤岡義己
所在地:神戸市中央区栄町通6丁目1番19号
電 話:078-362-2512
H P:https://www.esplanning.co.jp/
業務内容:駐車場事業サポート、賃貸事業サポート、開業・再生サポート、セミナールーム運営サポートを事業ドメインとし、駐車場事業においては142カ所7,413台と兵庫県NO.1の実績。地域の課題を解決する企業姿勢が国や行政に評価され、「ジャパンベンチャーアワード」地域貢献賞、「地域未来牽引企業」選出など、多数受賞。