住まい探しはハトマーク

株式会社 N’s Create./宮城県仙台市

地域を魅力的にする取り組み

<取材日:2022年9月3日>

 

リノベーションで中古不動産の
価値を高め、人とまちを豊かにする

震災から10年、復興から新たなまちづくりへ

 

・リノベーションで豊かな暮らしを実現する

・マーケットインの発想で事業を組み立てる

・築47年のビジネスホテルをリノベし、東北の魅力を世界に発信できる場を創る

・復興から10年、中古不動産の再生に挑む

 


 

リノベーションで豊かな暮らしを実現する

─会社設立の経緯を教えてください

 当社はもともと、地元のゼネコン会社の不動産管理会社としてスタートしました。そこから中古不動産を有効に活用する必要性が高まるなか、中古物件の買取再販事業を始めました。2013年に、マンションの一室を買い取り、リノベーションして再販売する事業をスタートし、市場の反応から確かな手応えを掴んだことや、事業拡大に必要な体制が整い始めたことから2014年にリノベーションに専門特化した会社としてN’s Create.を分社設立しました。

 私自身新しいことにチャレンジする事やクリエイティブな事に興味があったことから、不動産や建設についてはまったくの未経験でしたが、分社化する前の会社に入社し、3人の創業メンバーの1人としてN’s Create.の立ち上げに携わりました。プランニングして図面を描いたり、現場で施工の管理をしたりといったことを一から学び、リノベーション事業の基盤を整えました。

 

─リノベーション事業ではVCに加盟されていますね

 リノベーション事業を構築・模索する過程で、リノベ不動産の代表が仙台に来られた際、事業に対する想いや理念が一致していることがわかりました。さらに、当時の仙台にはリノベーション会社がまだ存在しておらず、住まいづくりの選択肢は限られていました。そこで、震災後、私たちがその可能性を信じているリノベーションがより早く仙台で普及し、住まい手に豊かな暮らしを提供したいという強い思いを持って、VCへの加盟を決断しました。

 当社のリノベーション事業は、物件探し・購入から設計・施工、引き渡しまでワンストップでサービスを提供しています。そのため、受注から引き渡しまでのプロセスはもちろん、広告や顧客管理に至るまで全てのプロセスをしっかりと行わないとロスが出てしまいます。VCへの加盟によって、社員教育、組織やシステム構築のノウハウなど、当社が不足している部分を学び補うことで、より多くのお客様に満足いただけるお住まいを提供できるようになりました。また、当社とリノベ不動産は「豊かな暮らしを実現する住まいを創る」という考え方も共通しています。単なるビジネス上の関係ではなく、当社は仙台というまちに根ざし、リノベ不動産は首都圏から全国に向けてリノベーション事業を展開し、切磋琢磨しながらお互いの役割を尊重する良きパートナーという位置づけで、一緒に仕事をしています。

 

中古マンションのリノベーション事例

 

 

 

マーケットインの発想で事業を組み立てる

─マンションの1室から始め、ステップを踏んで建物の1棟に事業展開をされています

 当社は、従来から建物1棟のリノベーションに興味を持っており、自分たちが住むまちにクリエイティブで魅力的な空間を創りたいと考えていました。しかし事業の安定化を優先するため、まずはお客様一人ひとりと向き合い、デザイン性にも妥協することなくリノベーション住宅の請負や再販事業を行い、実績を積み重ねてきました。

1棟ビルの再生事例

 その後、店舗やオフィスのリノベーションの相談を受けるようになり、徐々に法人の店舗出店に伴う事業企画・立案のお手伝いやロゴの開発、広報支援、店舗運営に至るまで、幅広い対応が求められるようになりました。

 このように、住宅と店舗のリノベーションという2つの事業を軸に、現在では、中古住宅+リノベーションをワンストップでサポートする「リノベーション事業」、店舗の企画、設計、デザインからブランディングやプロモーションまでを支援する「CREATIVE LAB事業」、古くなり稼働率が下がってしまった1棟ビルを再生し、収益ビルとして管理やリーシングまでサポートする「Re;Build事業」、の3つを柱に事業を展開しています。

 今振り返ってみると、住宅のリノベーションを地道に重ねてきた経験が当社の強みであり、必要なステップだったと思います。店舗もビルも住居と同じく、「人が時を過ごす場所」です。毎日の暮らしを営む場である「住まい」のリノベーションを繰り返してきたことで、自然とマーケットインの視点が社内に根付きました。そのような視点に加え、その不動産がこれまで担ってきた役割と「今のニーズ」とのギャップを捉え、人と不動産の関係性を見直し、「今にあった暮らしをデザインする」思考を大事に事業に取り組んでいます。

 

─自社で物件の開発も始められています

Noie Sendai宮町

 それぞれの事業で着実に実績を積み重ねてきたことから、2020年には会社のステップアップと賃貸収入による経営の安定化を目的に事業用ビルの開発にチャレンジしました。その第1号が『NoieSendai 宮町』です。仙台駅にもほど近く、国指定重要文化財でもある“仙台東照宮”のお膝元で400年続く商店街にある土地を縁があって取得し、新築ビルを企画・開発しました。企画にあたっては、宮町の魅力をベースに新しい感性を取り入れながら、まちの魅力を磨くきっかけを生み出し、まちと共に「豊かさ」を育んでいけるような施設にしたいと考えました。その結果、1階に企業主導型保育園、2階には東北初の女性医師による乳腺外科をはじめ、レディースクリニックなど、特に女性のためのクリニックを含む地域に必要な医療施設を誘致し、それと住居機能を集約する複合施設にしました。

のいえ保育園

 1階の企業主導型保育園は、当社が企画・開発から運営まで携わっています。単なる建物の企画・開発ではなく、「地域に開かれた保育園」をまちづくりの中心に据え、保育園を糸口に人が集い末永く住み続けたいと思えるようなまちづくりへの挑戦です。まちづくりはそのまちで暮らす住民、つまり「人が主役」でなければなりません。人が主役のまちづくりを目指し当社が着目したのは、「幼少期の体験」とそれによって形成される「“人”と“まち”とのつながり」でした。幼い頃の楽しかった思い出は、大人になっても覚えているものです。そして、楽しい思い出があるまちには愛着が生まれ、帰ってきたいと思える場所になります。そのまちで生まれ育った子どもたちが大人になってもずっと愛着のあるまちを想い続ける、そのきっかけを創り出すことが「人が主役のまちづくり」にとって重要なことだと考えました。

 また、核家族化が進み、地域との関係も薄くなりがちな現代社会において、子どもたちの豊かな感性を育むためには、家族だけでなく、子どもたちの興味や感動を尊重するさまざまな世代・職業の大人と子どもたちが触れ合う環境が必要です。そこで、「保育園から始まる、まちづくり」というコンセプトを掲げ保育園を開業し、運営を始めました。この一連のプロジェクトをきっかけに、いろいろなところから不動産の利活用に関するご相談をいただくようになりました。その一つが『OF HOTEL』です。

 

 

築47年のビジネスホテルをリノベし、東北の魅力を世界に発信できる場を創る

─『OF HOTEL』の事業背景について教えてください

 3年ほど前、このビルのオーナーから、「このホテルを何とかしたい」「不動産をどう利活用していくとよいか」と相談を受けました。その際に、建替えやリフォーム、リノベーションという選択肢を提示しました。さまざまな活用法を検討した結果、既存不適格の建物であるため、建て替えてもこれ以上の容積確保ができないという理由で、既存建物をリノベーションによって活用するのがよいとの結論に至りました。運用できる床面積が多く、ビジネス面で有利である点に加え、建物を解体して新築するよりもCO2削減に寄与する点でも時代に合っている選択でした。

 その後、企画を進めていくと、ビル1棟のリノベーションを丸々投資するのはオーナーにとってリスクが高いという結論に至り、借地権を設定して借地権付き建物として売買する提案をしました。その後、本スキームに賛同してくださった運営事業者を迎え、リノベーシ ョンホテル『OF HOTEL』の構想がスタートしました。仙台駅から徒歩6分の好立地にある建物をこのまま生かし、現代のニーズに最適化することで、地方都市における新しいモデルのライフスタイルホテルにしようと考えました。そもそも私自身が、仙台に地域性を意識した物件が少ないことが気になっていたこともあり、このホテルを仙台のまちづくりの起爆剤にしたいという思いで、地域のいろいろな方を巻き込んだ事業にすることにしました。

 

─どのような方がどのような関わりをしたのですか?

 当社では、建物1棟まるごとのリノベーションが初めてだったこともあり、以前から師事するu.company株式会社の内山氏に相談を持ちかけ、全体の企画・建築プロデュース・プロジェクトマネジメントを担っていただきました。協業する形で、そのサポート業務およびホテル全体のブランディング・アートディレクションを当社が担当し、内山氏の推薦で、リノベーションのパイオニア的な存在であり、秋田県出身の建築家の納谷新氏が設立した/360°に意匠設計と監理をお願いしました。施工については、公共工事をしていることから当社関連企業である中城建設株式会社に耐震補強の部分を、インフィルの部分は設計士とのコミュニケーションに慣れている株式会社エコラさんに依頼しました。このように、東北で活動する多数の地域プレイヤーを選定し、共創する形でプロジェクトの実現を目指しました。

 

OF HOTELのエントランスと外観

エントランス前の空間

共有部分にはアート作品が並ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─東北のプレイヤーがプロジェクトに参加するというのは素晴らしいですね

 仙台には宿泊料金の高さ・安さの軸だけで考えられた宿泊施設が多く、地域ならではの魅力が発信できていない、ただ寝泊まりするだけの消費されて終わってしまうホテルが多いことが仙台の課題の一つだと考えていました。そこで、「地域性の高いホテルをつくろう」という想いでプロジェクトをスタートさせました。プロジェクトを進める上で、インスタレーションデザイン、グラフィックデザイン、ショップディレクションやサウンドディレクション、クリエイターのマッチングなどについても、仙台や東北にゆかりのある方々に参画してもらい、共創してまいりました。これからも魅力のある地域プレイヤーが集う場という機能を提供し続けることで、地元にいるクリエイティブな人たちのつながりを仙台の中で作り、東京や全国、そして世界の人たちに東北の魅力を発信するような場所にしたいと思っています。

 『OF HOTEL』のOFは、one-fifthの頭文字です。東北の面積は日本の約2割なので、日本の1/5の魅力がある場所という意味を名前に込めました。さらに、ofには「onとoffの間」という意味もあります。ユーザーにはこのホテルをきっかけに、日常から離れていろいろな体験をしてもらいたいと思っています。ホテルの滞在を通して、東北にも誇れるものがたくさんあるということを認知してもらい、触れてもらうことで東北の面白みや深みを知る体験を不動産の再生を通して提供することが、このプロジェクトのゴールだと考えています。そのためには建物を再生して終わりではなく、使い尽くすことまでが仕事になります。そこで、ホテルの運営は他人に任せるのではなく私たちで行おうと、「共通の利益を生み出す会社」という意味を込めたCOMMONS.という運営子会社を新しく立ち上げました。

 

─建物の耐震性等はどう担保されたのでしょう

 建物は築47年ですので、構造計算をして躯体の部分はコンクリートを打ち直し、耐震補強をしています。また、断熱性能もBELSの基準を満たしています。このように耐震と断熱は現行の基準を満たしつつ、インフィルの部分は無駄なデザインをせず、当時の建物の雰囲気はできるだけ残すことにしました。

 

─具体的に仙台から東北全体に広がる動きも出ているのですか

 現在、東北の中で古い建物をリノベーションしてまちづくりをしている企業の方々と直接お会いし、ローカルコネクションを意識しながら各リノベーション施設をつなげて、何か新しい試みをしようと相談しています。中古不動産はまちの共通の資産です。現代において求められているのは、その資産を「どう活かすか」ということだと思います。そこで重要になるのは発想力です。エリアや業種、企業の垣根を超え、東北全体でクリエイターが連携を強め協働することが、東北、そして仙台の価値向上につながると考えます。

 このプロジェクトが成功することで、オーナー、事業主、当社および関わった全ての方々が「Win」になります。また、既存不適格な建物を活かして新たな場所を作ることで、地域の人たちにも喜んでいただける四方良しのビジネスになります。私たちは今後もこのような取り組みを続け、成果を出していきたいと考えています。

 

 

復興から10年、中古不動産の再生に挑む

─今後の仙台に期待が持てます

 仙台が今よりも暮らしやすく、より良いまちになっていくためには、中古不動産の利活用が求められてくると思います。

 そのためには、私どものような不動産に関わる会社が「クリエイティビティ」を失わずに、中古不動産の再生・まちづくりに取り組んでいかなければなりません。

 東日本大震災から10年以上が経ち、そろそろ仙台での復興も一段落し、これから仙台で本当のまちづくりが始まります。私としても、震災前からリノベーションに少しずつ取り組み始め、仙台の中古不動産の価値を最大化する取り組みを加速化させようとしていた丁度その節目のタイミングでこのホテルに携われたと思っています。

 『OF HOTEL』のプロジェクトがスタートしてから、仙台には質の高いクリエイティブを生み出す方が多いと実感しました。その一方で、点と点がうまくつながっておらずもったいないとも思っています。

 地元でクリエイティブな仕事をしているプレイヤーと協働し、不動産業界の価値観に寄りすぎずさまざまなクリエイターと接点を持ち、地域性の高いものづくりを意識し、やり続けていくことが大切だと考えます。それがまちの資産価値を上げることに直結するのではないでしょうか。

 

N’s Create.の社員

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

丹野伸哉(たんの しんや)氏

1985年、宮城県生まれ。インポートビジネスを学び、輸入家具の取引や都内有名ホテルのオーダー家具の製作、販売等に携わる。2010年、前身企業のリノベ事業立ち上げに参画、翌年本格的にリノベ事業を始動。2014年、分社設立した株式会社N’s Create.の常務取締役に就任、2018年4月より同社代表取締役社長に。2022年、株式会社COMMONS.を設立し「OF HOTEL」の運営にあたっている。

 

 

 

 

株式会社 N’s Create.

代表者:丹野伸哉
所在地:仙台市青葉区上杉3丁目3-21上杉NSビル
電 話:022-721-7550
H P:https://n-cre.jp/
業務内容:「ひとや、まち、自分たちを“豊かに”する企業」という企業理念を掲げ、中古住宅+リノベーションをワンストップで提供する事業を始め、Re;Build 事業、CREATIVE LAB事業の3事業を展開している。さらに、自社開発物件として、コミュニティ型複合施設「Noie Sendai宮町」やローカルの魅力を共創する「OF HOTEL」などを手掛ける。