中城建設株式会社/宮城県仙台市

地域を魅力的にする取り組み

<取材日:2022年10月14日>

 

不動産特定共同事業を活用し、
社会の課題を解決する

事業を通じてまちをワクワクさせる、新しい建設業のビジネスモデルを提示

 

・知的資産経営を元に、将来の事業展開を組み立てる

・ハードとソフトで社会課題を解決する

・障がい者のグループホームのためのファンドを組成

・農業法人を立ち上げ、障がい者の就労の場に

・FTKを活用した市民参加型事業モデルの構築

・産学官金の連携で新たなビジネスプラットフォームを作る

 


 

知的資産経営を元に、将来の事業展開を組み立てる

─事業内容について教えてください

 当社は1946年に創業し、70年近く仙台で建築工事を中心に事業展開をしてきました。そして、顧客の“あったらいいな”をともに思い描き、“安心・安全・快適・価値あるもの”を形にして、社会に広く貢献する会社を目指して仕事をしています。事業内容は学校などの公共建設工事や、老人施設などの民間建設工事と不動産賃貸管理業をしてきました。東日本大震災以降、将来を見据えて需要が見込めるリノベーション事業(2011年(株)N’s Create.設立)や「無印良品の家」を導入し、一般戸建ての建築事業を開始。そして私が3代目の社長になってから、不動産特定共同事業法(以下「FTK法」)に基づく「まちわく。ファンド」を立ち上げました。数年の間は、事業を通じて地域の課題を解決しようと、保育園の経営や高齢者施設の開発・運営を行う“ヘルスケア事業”、障がい者施設と農業法人を立ち上げて行う“農福連携事業”を手掛けています。

 

─創業から一貫して社会性の高い事業を手掛けられています

 当社の原点は、私の祖父が戦後の焼け野原になった仙台に、山形から出てきて、戦争で家を失った方たちの住む場所を作り、まちの復興に取り組んだことです。その時から祖父は大工の養成学校を作ったり、暴力団追放運動に取り組んだりしていました。その後、高度成長期を迎え、ビルの建築や公共工事というハードの面で暮らしの基盤を支えてきましたが、父の代になるといわゆるバブル崩壊後の建設業冬の時代を迎えました。他社が赤字でも仕事を受けていた時に、それではやっていられないと病院や福祉施設の開業支援に取り組むなど、時代の先を見ながら、技術に優れ財務体質が強固な“小さな巨人企業”を目指しました。そのような姿を子どもの頃から目にし、私たちの仕事は、地域の町医者という地域インフラ整備であり、建物を作って利益を上げて終わりではなく、まちと一体化して成長していくことが大事だと思うようになりました。

 

─「価値あるもの」を提供するものづくりをされていますね

 2011年に、リノベーション事業、2013年に戸建て事業を始めました。戸建て事業については、普通の家を建てるなら進出する必要はないと思っていましたが、震災の時に雪が毎日しんしんと降り、家の中でいくら着こんでも寒い日が1カ月ほど続くという経験をする中で「無印良品の家」と出会いました。それは強固な耐震性に加えてトリプルガラスを採用し、断熱性能にも優れている家でした。父が目指した“小さな巨人企業”は、完工高を目指すのではなく、力のある技術者が一つ一つの仕事を丁寧にやり、それに見合う対価をしっかりいただくというものです。そのような当社のビジョンとMUJIのものづくりの理念が合致していると思ったので、東北で初めてのフランチャイジーになりました。

 祖父の代より70年間、大切にしてきた会社の考え方やまちづくりへの取り組みは変えずに、その作り方ややり方を時代時代に合わせて変えようと考えました。そのきっかけになったのが「知的資産経営」の取り組みです。

 

─「知的資産経営」について教えてください

「知的資産経営」報告書

 当社に入社してから約10年経った2018年に社長に就任した際に、あらためてどのような会社にしていけばいいかということを考えました。方向性は漠然と持っていましたが、明確なビジョンまではできていませんでした。私にとっても80年近い歴史は少し重いものがありましたし、祖父や父がどのような思いで経営してきたのかを振り返り、地域の方と培ってきた関係性などをしっかり整理してみようと思いました。そこで専門の先生に入ってもらい、経営幹部4人と月1回ミーティングを行い、約1年間かけて「知的資産経営」報告書をまとめました。ミーティングは、まず会社の歴史を振り返りながら、現状の自社の強みや弱み、資産を整理し、将来の市場環境の分析をしながら、現在そして将来に向かって何をしていくべきなのかという事について徹底的に話し合いました。そして、社会の課題を解決して「まちをワクワクさせる建設会社」というビジョンを定めました。建設事業というハードの事業だけでなく、新たに建てた後に事業が持続可能にまわりやすくする仕組みなど、ソフトの部分も一体的に提案する事業を展開し、人の暮らしや生活基盤を「つくり、そだて、ささえる」新しい建設業のビジネスモデルを提示しようというものです。それが、保育園や高齢者向け事業、農業法人の設立や障がい者支援事業につながっています。

 

 

ハードとソフトで社会課題を解決する

─ソフト事業について、まず高齢者向け事業の内容について教えてください

ナーシングホーム「さんりょう」

 東北では高齢者の住まいが不足しており、寝たきりになって入院してもしばらくすると自宅に戻され、特別養護老人ホームを探しても半年程度待たないと入れない状態です。この問題を解決しようと、「さんりょう」というブランドで、通称ナーシングホームといわれる住宅型有料老人ホームを始めました。さらに、訪問診療と訪問介護サービスを入れることで終末期の高齢者も受け入れられるようにし、費用も特別養護老人ホームと同程度に設定したのです。この事業のポイントはそのスキームにあります。高齢者施設を運営する福祉法人は与信がつきにくい場合が多いのです。そこで、地主さんに建ててもらった施設を当社が20~30年借上げ、サブリースの形式で福祉事業者に転貸することで与信の問題を解決しました。また、木造の建物の償却期間は22年ですが、長期優良住宅の要件を満たす住宅を建てるので、銀行に30年でファイナンスを組んでもらえます。しかも、シールの打ち替えや屋根の吹き替え、エレベーターやエアコンの修繕など、本来地主さんが負担すべき費用を全て当社が負担する契約で、地主さんにもメリットが大きい仕組みです。ちなみに修繕費用を負担できると考えたのは、過去当社で建て貸しをしている不動産賃貸物件として所有している老人施設の修繕履歴データを分析した結果、費用が賄えることがわかった点と、当社の借上げ施設のため工事原価だけを負担すればいいからです。

 このように、「さんりょう」は、地主、運営法人、入居者の三方良しを実現する事業です。現在建設中のものを含めると8カ所が稼働していますが、当社には事業経営のノウハウがありますので、運営ノウハウを持つ志の高い福祉事業者と連携し、来年には10施設にまで増やしたいと考えています。将来はさらに数を増やし、施設運営の事業者をネットワークでつなぎ、例えばある施設の近くに末期がんに強い医者がいるなら、そのような入居者をその施設に、山登りが好きな人は山に近い施設に、事業者同士で話し合って移動ができるような入居者に寄り添った選択肢を提示できるようにしたいと思っています。

 

─保育園事業も始められました

 N’s Create.が開発した複合施設Noie Sendai宮町で、「のいえ保育園」という企業主導型保育園を始めました。女性の社会進出という社会課題に対して、出産を機に仕事を辞めざるをえなかったり、出産後の社会復帰がしづらい、子育てをしながらの働き口が少ないなどという現状があります。しかし、彼女たちの中には優秀な人が多く、もっとその世代の人たちに活躍してほしいと思い、当社ではパートではなく正社員採用をし、福利厚生として0~5歳までは入園に係る費用を無償にしています。同時に、このエリアはシングルマザーが多いので、ビルの2階にクリニックを集め、3階を賃貸住宅にし、お子さんが熱を出してもお母さんが安心して働けるようにしています。

 

 

障がい者のグループホームのためのファンドを組成

─不動産特定共同事業者になった経緯を教えてください

まちワク。ファンドで社会課題の解決

 老人ホームを建ててサブリース業を始めた時に、福祉事業者のみならず、地主さんについても銀行融資がつかず、「社会に足りていない必要な施設なのになぜ駄目なんだろう」と非常にショックでした。そこで、銀行融資以外で資金調達するのに何かいい方法がないかと必死で探したところ、不動産の証券化という方法を知り、しかも国交省管轄だったので、建設業者でもなんとかできるのではないかと勉強し始めました。そして、まちなかの空き家対策や地主さんが残したいという資産を、私たちがコーディネートすることで病院や老人施設などにコンバージョンして、地域の課題を解決することを目的としたFTK法に基づく応援型ファンド「まちワク。ファンド」を開設しました。

 

 

 

 

─ファンド組成の第1号が障がい者のグループホームですね

障がい者のグループホーム「グリーンルーム小田原」

 障がい者の働き口は少しづつ増えているようですが、一人暮らしを希望しても住める場所が希望者の7%しかなく、全国でも非常に少ない状況です。そこで、不動産特定共同事業者になってから約1年半後に、「まちワク。ファンド」の第1号事業として障がい者のグループホーム「グリーンルーム小田原」を作りました。

 土地建物の取得費とリノベーション費用で6,000万円かかるのに対し、2割を当社が劣後出資をし、残り8割の4,800万円を想定利回り(年利)5%、運用期間36カ月、一口100万円で募集しました。当社が匿名組合営業者となり、運営会社と定期賃貸借契約を結び、家賃収入を匿名組合型不動産特定事業契約をした出資者に分配するというスキームです。このニュースは河北新報に取り上げられたこともあり、約2週間で全て集まりました。出資者は、当初の狙いどおり全て県内の不特定多数の方たちで、ご家族や親せきに障がいのある方がいるという人たちから応援していただき集めました。また、障がい者施設の場合、社会保障費という裏付けがあるので、利用者が一定数を超えると経営が安定するということも商品の魅力になったようです。

 

─グループホームの運営はどうされていますか

 グループホームの運営をお願いしている福祉法人は直接面談し、経営者の人柄と与信力で判断しています。しかし、投資商品となるとやはり第三者の調査を入れていかなくてはならないと思いますし、運営事業者に何かあった場合は、入居者と運営をスムーズに引き継げるように、自社運営も始めることにしました。老人ホームについても今は運営に直接関わっていませんが、入居者や投資家の皆様からの信用が大事になりますので、運営についてのコンサルタントの人たちと合弁会社を作り、入居者と投資家を保護していくつもりです。

 

 

農業法人を立ち上げ、障がい者の就労の場に

─農業法人を立ち上げた経緯を教えてください

 日本の食料自給率が低下する中、農業も担い手が高齢化しており、しかも農地は農家か農業法人しか買えないという制約があります。そのような社会課題を解決しようと、農業法人を取得しました。その法人は、平均年齢が80歳を超える5人の地権者がいて、ビニールハウスが8棟建つ5,000坪ほどの土地を持っています。それを購入し、「まちワクファーム」と名付け、元地権者の方たちに野菜生産の技術指導をしてもらっています。さらに、障がい者の社会進出のために就労支援施設を立ち上げ、その畑で技術指導を受けながら、利用者がいつか一般就労として社会で働けるようにまでしたいと考えています。また障がい者のグループホームも近隣に建設しました。

 障がいを持つ親御さんに聞くと、“働くこと”と“一人暮らし”の両方ができて初めて“自立”といえるということでした。グループホームで皆と共同生活をし、コンビニ弁当ではなく、手作りの温かいご飯とみそ汁を食べて、元気に働きに出て美味しい野菜や果物を育て、仕事を終えてホームに帰る、そのような利用者がありのままでいられる居場所を作りたいと思いました。障がい者グループホーム、障がい者就労施設、農業法人の3つの事業が連動して社会問題を解決する“まちワクプロジェクト”です。

 今後は農業技術を研究し、高く売れる商品を作ることができれば、利用者にも高い給料が払えますし、2025年を目標に、観光農園やカフェを設け、地域に開かれた場所にしたいと思っています。また、農産物の倉庫や加工工場を建設すると6次産業化補助金なども使えますので、本業の建築業にも生かせます。このようにハードとソフトを組み合わせて事業を組み立てていきたいと思います。

 

 

FTKを活用した市民参加型事業モデルの構築

─宮城大学とはどのような研究を始めましたか

 2021年4月から宮城大学と、「FTKを活用した市民参加型のまちづくり事業モデルの構築」をテーマに共同研究を開始しました。カテゴリーはヘルスケアと観光とアグリ(農業)の3つを設定しています。現在、県の郡部は過疎化が進み、産業が無くなり、住む人もいなくなるという悪循環が起きています。そこで、空き家をグループホームにコンバージョンし、取得資金はファンドを組成して集め、リノベーションのワークショップをしたり運営する人を連れてきたりと学生たちと考えています。そうなればホームで働く移住者が集まり、そこからコミュニティが生まれて、新たな循環を作るというモデルができあがります。また、観光分野でも、鳴子温泉などコロナ前から苦戦している温泉街がありますので、温泉宿をファンドの資金とリノベーションで再生するモデルを検討しています。農業分野(アグリ)については、休耕地が増え、それが荒廃地になってしまっているので、ファンドを組成して資金を集め、農地を借りるか買うことによって農業を営みます。さらにコミュニティプレイスを作って、生産物を用いた商品開発をして製造販売し、イベントや宣伝、PRによって地域の特産物にしていくような“地域の課題を地域の資産に変える取り組み”を考えています。どの地方にも補助金や第三セクターが運営している公民館等がありますので、そのような施設の有効活用なども考えています。

塩釜水産物仲卸市場プロジェクト

 さらに宮城大学とは、マグロの水揚げが多いことで有名な塩竃市の塩釜水産物仲卸市場の活性化プロジェクトも共同で進めています。このプロジェクトは、1965年の設立時には367あった店舗が88まで減ってしまったことから、出店者の若手有志によって設立されたものです。そこで、第1弾として仲卸組合と共同で市場の一角をリノベーションし、マルシェや地域産品の販売スペースを設けたり、地域資源である藻塩を使ったジェラートを開発し商品化しました。第2弾は、学生が宣伝隊になりSNS等を活用してプロモーションを展開し、魅力発信を行います。第3弾として、「まちワク。ファンド」を使った創業者支援モデルを検討しています。市場の中のリノベーションした区画でカフェやラーメン屋を始めてもらい、そこで力をつけた人たちが独立し、市内の空き家を活用して新たなお店を開いていくようになれば、地域が活性化するのではないかと考えています。

 

 

 

産学官金の連携で新たなビジネスプラットフォームを作る

─「まちワク。ファンド」を活用した今後の展開について教えてください

 東北の地域資源の1つは農地だと思います。そのため、農地の価格を適正化し、価値ある農地を作り、安売りしない仕組みが必要です。そのためには、ひとつの手段として農業法人などが農地を買い、不動産としての売買の適正価格をつくる事が大切です。また農業をする人口を増やす事も同時に必要ですし、企業の農業への参入をしやすくすることも必要だと考えます。そして、農地を買わず、農業を始めるための自己資金を少なくし、始めやすくする手段としてこのファンドを使うというモデルを構想しています。うまくいけば、全国に横展開できるのではないかと考えています。

 ただ、地域の問題を解決するために「まちワク。ファンド」は活用できるでしょうが、民の力だけでは限界があります。行政はもちろん、大学など教育機関とのつながりが重要だと思っています。なぜなら、自分たちの地域の課題を自ら解決する事ができる未来のプレイヤーである学生とともに、何をどうする事で社会が循環していくのかを生み出すフェーズがとても必要だと思うからです。そして、最後は金融機関です。これらが参加しないと誰かがやってくれる、解決してくれると待っているまちづくりから、自分たちが自分たちの地域をより良くする地域創生は実現しないと思います。

 事業領域を共有して地域課題を解決し、東北をもっと豊かにしていこうという経営者の集まりに私も参加していますが、このような経営者が増えてきていますし、東北出身かつ東京で就職した後独立し、再度東北に戻って地域のために頑張っている人はたくさんいます。ただ、そのような人は、事業規模がまだ小さいので銀行からお金を借りられず、不動産を持つことができません。そこで「まちワク。ファンド」を使い、空き家を有効利用することができればそのような人たちの拠点となり、まちも良くなっていくはずです。

 ファンドに出資した人も、自分が出資したお金が活用されたものが、まちの中でどのように使われているのかを自分の目で見に行くことができますし、ここに老人ホームがあればいい、保育園があればいいと思ったものに出資をして実現すれば配当も得られるし、まちも豊かになります。このような循環を作り、利益を地域や関係者でシェアすることで、持続可能なまちづくりが実現していくと思います。

 

 


 

結城 創(ゆうき はじめ)氏

1977年、宮城県生まれ。ゼネコン勤務を経て、祖父が創業した建築をメインとする中城建設に入社。2018年に中城建設3代目の代表に就任し、既存の建設業の枠にとどまらず、建物を「つくる」ハードの領域から、「そだて、ささえる」ソフトの領域までを手掛け、建設業の新しいビジネスモデルを提示。まちの課題を建築・不動産で解決する、参加応援型「まちワク。ファンド」を商品化し、大学や金融機関とも連携しながら、新しいプラットフォーム構築に取り組む。

 

 

 

中城建設株式会社

代表者:結城 創
所在地:宮城県仙台市宮城野区幸町二丁目23番1号
電 話:022-297-1611
H P:https://nakashiro.co.jp/
業務内容:建設業を中心に、不動産賃貸業、戸建て事業を展開。2019年には不動産特定共同事業の許可を取得し、地域社会の課題解決を目的とした応援型ファンドを立ち上げる。知的資産経営に取り組み、「まちをワクワクさせる建設会社」というビジョンの元、老人福祉施設、保育園、障がい者グループホーム、農業法人、就労支援施設などの事業を展開。