NPO法人ふるさと福井サポートセンター/福井県三方郡美浜町
地域を魅力的にする取り組み
<取材日:2022年12月26日>
空き家対策には川上対策が重要、
早期決断の仕組みを構築
お金、ゆく末、気持ちの「整理」が決断の第一歩
所有者の早期決断が空き家を救う
─良質な空き家対策には川上対策が必要
皆さんにお伝えしたいのは、この2点です。まず、「良質な物件を確保するには川上対策が必要」ということと、「川上対策には専門家とNPOの連携が必要」ということです。
─解体工事をきっかけに空き家対策のためのNPOを発足
私は福井県美浜町で、(株)北山建設の代表とNPO法人ふるさと福井サポートセンターの理事長をしています。地方の建設会社の事業の中心は工務店の仕事ではなく土木工事です。しかし、公共工事が先細りする中で、十数年前から建物の解体工事の依頼が増えてきました。ただ、工事の中身を見ると、いわゆる特定空家といわれるボロボロの空き家だけではなく、まだ十分使える建物が所有者の都合で壊されることもあります。それを目の当たりにし、「果たして言われるままに壊してしまっていいのか?まだ使える物件なら残した方がいいのではないか」と思うようになり、「空き家は壊すより残す」をテーマに、NPO法人ふるさと福井サポートセンター(以下『ふるさぽ』)を立ち上げました。
私がNPOの発起人になり、社会福祉協議会、信用金庫、郵便局に勤める友人や地元ラジオのDJ兼デザイナー夫婦という、同年代で子どもの頃よく遊んだ6人の仲間たちが集まりました。当初は福井県全域の空き家を何とかしようと立ち上げましたが、実際は地元の美浜町だけでも予想以上に大変で、今では主力メンバーが20名ほどになりましたがとても手が回らない状況です。
空き家だけでなく、移住者と地元の人のマッチングも必要
─移住者を地元の集落に紹介する
『ふるさぽ』の活動の主軸は空き家マッチングツアーという空き家見学会です。ツアーは年3回、だいたい6月、10月、2月に行い、1回のツアーに参加者が15~25名程度集まり、5~7件の空き家を見て回ります。
当初マッチングツアーだけをやっていれば、それだけでいいと思っていましたが、移住者と空き家が存在する地域の集落の人たちとのマッチングも必要だということがわかってきました。このことは全く想定しておらず、空き家を貸したい、または売りたい人と、借りたい、または買いたい人とのマッチングを重ねていくと、集落の町内会の人たちから「誰か移住してきたようだが、あれは誰だ?」「彼らはどういう経緯で入ってきたんや?」と、移住者が地元に馴染んでいない状況が生まれ、それではまずいと感じるようになりました。
そこで、『ふるさぽ』の活動として①(建物の所有者、移住者の了承を得て)区長への移住者に関する情報提供、②移住者へのローカルルールの確認と伝達、③町内会費(区費)の集金と、総会のタイミングで移住者の紹介などをしています。美浜町には37の集落がありますが、区のルールがそれぞれあります。最近では、それを文書化して移住者に伝達するようにしています。
空き家はあるけど空き家はない
─すぐ住める空き家は空き家数の1割程度
『ふるさぽ』の活動を始めて12年目を迎えますが、わかったことがあります。それは「空き家はあるけど空き家はない」ということです。つまり、空き家自体はたくさんあるが、すぐ使える空き家、または流通市場に出てくる空き家は極めて少ないという現実です。
美浜町の人口は9,098人、世帯数は3,652世帯で住宅総数は3,926戸です※2。また、2015年度調査によると空き家の数は427軒で、そのうち“すぐ住める”空き家が45軒しかありませんでした。このように、ほとんど手を加えずに住めるという状態の家が1割程度しかなく、一方で、お金をかけて改修しなくてはならない家が286軒、そもそももう住めない特定空家候補が68軒という結果でした。つまり、空き家になってから管理も満足にせず、ほったらかしという状態の家がほとんどだということが判明しました。
─空き家の川上対策が必要
その事実を前にして私たちが考えたのが「空き家の川上対策が必要」ということです。年3回空き家マッチングツアーをしていますが、悩ましいのが紹介できる物件が少なく、100〜200万円かければ住めるが、何も手を入れずにすぐ住める家はほとんどないということです。そうなってしまった理由に、「所有者がゆく末を決められない」という点があげられます。空き家と所有者を特定し、本人に「この家どうしますか?」と聞いてもなかなか態度を決めてもらえないことが多く、やっと売却や賃貸に出すと決めたとしてもタイミングが遅く、物件が古くなってしまったという川下の物件がほとんどです。
やはり、早い段階から流通市場に出すために所有者の早期決断を促す仕組み、つまり川上対策が必要だと思いました。マッチングツアーで移住者を呼び込むことも必要ですが、それより重要な点が、所有者に会い、決断をするために必要な手順を示すことです。そこで5年ほど前から川上対策に活動の主軸を切り替えることにしました。実際に、川上対策をせずにそのまま未来を迎えると、とんでもないことが起こる可能性があります。いわゆる“空き家予備軍”の存在です。先ほどの調査では空き家数は427軒でしたが、65歳以上の単身高齢者世帯が住む、将来空き家になる可能性が極めて高いという住戸が689世帯あり、現在の空き家数より多いことがわかりました。福井県の場合持ち家率が高いので、数年経つとこの数がそのまま空き家になると推測されます。もし、このまま川上の取り組みを何もせず、今までどおりほったらかしの状態が続けば、川下では大洪水が起こる可能性があります。今でさえ大変な状態なのに、それが倍以上に増えたら誰も手をつけられなくなってしまうのではないかと危惧するようになりました。
所有者の決断に必要なのは「整理」すること
─空き家の掘り起こしは集落が主役
空き家の掘り起こしに必要な登場人物として一般的に考えられるのが、まず空き家の所有者と移住希望者、そして行政や宅建士、司法書士などの専門家ですが、実は、掘り起こしの主役は“集落の皆さん”なのです。よく空き家対策というとNPOや行政が主役だと思われがちですが、私たちは完全に裏方で、主役は集落の人たちと位置付けています。
私たちが空き家を見つけると、まず、「あそこは空き家になっているのではないですか」「あの空き家の所有者はどこにいるかご存じですか」と、集落の皆さんに相談をします。集落の皆さんは区費の集金などがあるので、どの区長も名簿を持っていて連絡先も全部把握しています。当然それは外部に公表していませんので、マッチングツアーで紹介したい空き家があれば、集落の人にお願いして所有者に連絡をとってもらいます。本当は『ふるさぽ』から所有者に直接連絡できればいいのですが、その関係性が私たちにはありませんので、関係性が最も強い集落の方から連絡してもらうのが効率的だということが活動の中から見えてきました。ここが非常に大事なポイントです。
─整理をすることが決断の第一歩
『ふるさぽ』では空き家の所有者から「この家をどうにかしたいのだが」といった相談を受けます。ただ、私たちには全てに対応する知識がないので専門家の皆さんに相談し、助言や指導を受け、その内容を基に所有者とコミュニケーションをとります。その過程で私たちが最も大切にしている点が、所有者に「整理」をしてもらうことです。
決断をしてもらうために何を「整理」してもらうのかというと、それは①お金の整理、②ゆく末の整理、③気持ちの整理の3点です。まず、最初に取り組むのが「お金の整理」です。やはり、自分の家がいくらで売れるのか、解体するとどれくらいかかるのかといったお金のことを皆さんはまず心配されます。多くの所有者は行政の窓口に行き、費用や税金のことを相談しますが、行政は個別の金額は出せないために専門業者一覧を渡し、「この中から選び、それぞれの業者に連絡して下さい」と伝えられるだけです。それでは所有者は結局何から手をつけていいかわからないまま帰ることになり、もう二度と相談には行かず、時間ばかりが浪費される結果になります。
─お金に関するシミュレーションソフトの開発
そのような体験から、相談者に対しその場で費用が算出できる『空き家おねだんシミュレーションソフト』を開発しました。このソフトは①売却予想価格、②解体予想価格、③税金、④登記にかかる費用を、ipad上で算出できるようにし、国交省のモデル事業にも選ばれました。
たとえば、売却予想価格を出すには、所有者に固定資産税明細書を持参してもらい、それを見ながら土地に関しては面積と評価額、建物については床面積と評価額を入れてもらいます。多くの人は土地と建物の評価額の合計が売れる金額と思ってしまいますが、地方ではその価格ではとても売れません。そこで、国交省の不動産取引価格情報検索サイトで近隣売買事例を検索し、その事例から㎡単価を割り戻し、当該物件の面積に乗じて予想売却価格を算出します。しかし、その金額で納得する所有者は少ないので、さらに、交通や生活の利便性、維持管理の状況等、自宅の状況を所有者自身に5段階で評価してもらい、近隣事例から算出した予想価格に評価結果を反映する仕組みにしています。すると、固定資産税評価額では850万円だったものが近隣予想価格では300万円となり、それを見て売り出し価格は500万円にしましょうというやりとりが生まれます。
実際に売却するときは不動産会社に査定してもらうので、このソフトでは大体売れる金額がイメージできればいいのです。ここで出した数字は、まちの空き家バンクに登録する際に記載する金額にも反映されます。空き家バンクに登録しようとしても、所有者はいくらにすべきか決められないことが多く、高すぎると反響が少ないし、低すぎると損してしまいます。そこで登録金額を決める際にもこのソフトが役に立ちます。
─ゆく末と気持ちの整理をする
お金の算段をつけた後は、「ゆく末の整理」です。所有者はこの先どんな選択肢があるのかをイメージできないので、『空き家決断シート』というツールを作り、どの方向で考えるかを決めてもらいます。選択肢は『5プラス0』です。選択肢は6つあるのですが、その内の1つは選択してもらいたくないためこのような表現にしています。
1番目は「家族で利用する」です。これがベストな選択なので、必ず家族で話し合ってもらいます。それが駄目なら次は「人に貸す」、それでも駄目なら「売却する」、それも困難なら「無償で譲る」、それでも駄目なら「解体する」ということになります。この5つの中のどれかに決めてもらい、最後の「放置する」という選択だけはしないでほしいと話します。さらに、家族で利用した場合は「家族の思い出とともに住み継がれる」メリットがあるとか、人に貸した場合は、「低額の家賃収入が入る一方、維持修繕費用や家の状態によってコストがかかるので、修繕費用や解体費用の積み立てが必要になります」といったように、それぞれのメリット、デメリットを整理して伝えます。このように順序だてて丁寧に説明すると、大体の人は進む方向を決断してくれます。
そして、最後の整理が一番難しい「気持ちの整理」です。「お金の問題じゃないんや、わしの気持ちが大事なんや」と、女性より男性の方が気持ちの整理ができず、決めかねてしまう場合が多いです。そこで私たちは、所有者に家にまつわる思い出を話してもらうようにし、「こんな時にこんなことがあった」という出来事を、『思い出レター』というシートにご自身で記入してもらいます。さらに、それをまとめて冊子にし、「この冊子を次に住み継ぐ人に渡します」「思い出が詰まった家を大事にしてほしいという気持ちは消えるわけではありません」と伝えます。そうすると、所有者の中に「そろそろ決めないと」という落ち着きが生まれ、「もう売ろうか」という決断に行き着きます。このように、3つの整理を行うことでほとんどの人は進む道を選択するようになり、売却や賃貸に出す場合は空き家マッチングツアーで紹介し、空き家バンクにも登録してもらいます。
成功体験を積むことで集落の人の自主的な活動へ
─空き家マッチングツアーの実施
移住希望者が物件を見つける方法にはいくつかあります。その多くは、美浜町の空き家バンクを閲覧して物件に興味を持った人の問い合わせが役場に入り、そこから連絡をもらう場合か、空き家マッチングツアーに参加するケースです。一方、私たちも並行して集落の皆さんから集落のルールについてヒアリングをします。内容は、区費や行事、例えば祭りごとや草刈りなど、いつ何回くらい行うかなどです。因みにこの活動は、令和3年の国交省の空き家対策モデル事業に採択され、『集落ルールブック作成のすすめ』としてまとめました。
移住希望者から問い合わせが入ると、その場で希望条件や希望価格などについて聞き、当てはまりそうな物件が出た際はツアーの案内をしますが、その前に必ず集落のルールブックを渡して説明をします。そして、「都会出身なので草刈りは無理」と言われたら、「この村への移住は無理です」とお断りし、「大丈夫です」という方にだけ参加してもらうようにしています。「都会では経験できないので、草刈りもちょっとやってみたい」という人にも、後日もめないように、住んでから生活がイメージできる集落ルールブックをお渡しすることは、私たちの活動として重要視しています。
─移住者を集落の人たちにつなぐまでがマッチングの仕事
ツアー参加後、気に入った家が見つかった場合、私たちが間に入り所有者と移住希望者の双方を紹介します。同時に宅建士などの専門家を紹介し、補助金等については行政のサポートをお願いします。さらに、取引の途中経過についてはこまめに集落にフィードバックしています。そして、契約終了後、移住希望者に住人として区の町内会に加入してもらった時点で、初めてマッチングが成功したということになります。やはり、契約だけしていつの間にか住んでいたという状態では移住者は孤立してしまい、地域の中には居づらくなります。また、集落の人たちからしても、移住してきた人の面倒は最終的には自分たちが見ることになります。そのため、移住から定住につなげることも空き家対策の1つととらえ、移住者を地元の人たちにつなぐまでを空き家のマッチングの仕事としています。このように、「ただ単に空き家に人をいれればそれでいいということではいけない」ということを、集落の皆さんから学びました。
そして、このような成功体験を繰り返していると、集落の人たちの自主的な活動につながっていきます。集落の方が積極的に空き家の所有者に声をかけ、早期決断を促すような動きが出始めてきました。さらにうれしいことに、その動きが隣の集落にまで伝播するようになりました。
川上対策には専門家との連携が必要
─専門家が参加しやすい仕組み作りが必要
このような活動は「実入りは少なく用事は多い」仕事です。そこはNPOのようなボランティア団体の有志や仲間で担当し、キャッシュポイントになるところを多く設け、そこには専門家に入ってもらうようにしています。このように、空き家対策には現実を踏まえた効果的な連携と仕組み作りが必要だと思います。おかげさまで私たちの活動が評価され、令和4年度から高知県6市町村の委託事業として『ふるさぽ』の早期決断の取り組みを展開させてもらうことになりました。繰り返しになりますが、空き家対策には地元の人たちを巻き込むことが重要です。そして、良質な物件を確保するには川上対策が必要で、川上対策には専門家とNPOの連携が必要だということを理解してもらいたいと思います。
北山大志郎(きたやま たいしろう)氏
神奈川県の地場ゼネコンに就職後、1994年福井に戻り北山建設に就職。建設会社の仕事は「ふるさとを守る事業」だと考え、2011年にNPO法人ふるさと福井サポートセンターを発足。翌年、株式会社北山建設代表取締役社長に就任。2016年、福井県美浜町とNPOが空き家等に関する業務提携を結ぶ。NPO法人ふるさと福井サポートセンターは令和2年「第10回地域再生大賞」を受賞。2021年、総務省主催「ふるさとづくり大賞団体表彰(総務大臣賞)」を受賞。
NPO法人ふるさと福井サポートセンター
代表者:北山大志郎(株式会社北山建設代表取締役)
所在地:福井県三方郡美浜町木野21-4-17
電 話:0770-32-0529
H P:http://www.kitayama291.com/
業務内容:福井県嶺南を中心に公共事業を中心とする土木事業と、建築やリフォームなどの個人向けの建築事業を行う。空き家の解体工事をきっかけに、地域の空き家問題を解決しようと、地元の有志達と2011年にNPO法人ふるさと福井サポートセンターを設立し、理事長に就任。地域を巻き込んだ川上対策は先進事例として全国的に注目されている。