株式会社リライト/神奈川県横浜市
地域を魅力的にする取り組み
<取材日:2022年8月5日>
諦めず、行動し続けることで
全国の空き家問題を解決する
売却が難しい不動産の処分に困っている人を助けたい
売れない不動産があるなんて!
─全国の空き家・空き地の取扱いを始めた経緯について教えてください
当社は2012年に創業しましたが、それまでは大手の売買仲介会社で10年働き、その後、1年間買取り再販会社で修行したのち独立しました。独立して間もない頃、大手に勤めていた時のお客様から、「那須にある200㎡ほどの温泉付き土地が売れなくて困っている。タダでもいいから引き取り手を探して欲しい」と連絡がありました。それを聞いて「不動産が売れないなんてことはあり得ない。しかもタダでもいいなんて信じられない」という気持ちでした。それまで最低でも何百万という取引をしていたのでなおさらです。その物件は200万円で売りに出しましたが、約1年半かかって最終的に売れた価格が5万円、仲介手数料は両手で5,000円でした。物件は栃木県にあり、売主は山梨県、買主は新潟県在住だったので1回の交通費にもなりません。売主からお礼に巨峰をいただき、「仲介手数料より巨峰の方が高い(笑)」とブログにアップしたら、「私も処分に困っているので何とかして欲しい」という問い合わせがどんどん入るようになりました。
─その金額ではビジネスにならないでしょう
当社のビジネスは、権利関係が複雑だったり、既存不適格や未接道で再建築不可といった物件を買い取り、問題を解決して再建築できる状態にして売却するという他社では対応が難しい不動産の売買をしています。しかし、そんなに大もうけをしようと思わなければ、その仕事は週に3日もあればできてしまいます。そこで、実質的に空いている残りの4日で何をしようかと考えていた時でもあり、一方で、「タダでもいいから」とか「逆にもらってくれるなら100万円払ってもいい」という相談が増えてきて、それだけ困っている人がいるのならば、その人たちをボランティアで手助けしようと思い、本格的に取り組むことにしました。
その後、1円で取引した物件のことがメディアに取り上げられ、『ガイアの夜明け』や『スーパーJチャンネル』で放送されると、全国から2,000件以上の問い合わせをいただくようになったのです。
現地調査には手間と時間をかける
─それだけの問い合わせを一人で処理されているのですか
全部の問い合わせを当社だけで処理するのは無理です。問い合わせされる方の中には、不動産会社に頼めば全部やってくれると思っている方も多いので、「まず自分自身で物件を見てください」とお伝えします。また、この金額で売って欲しいという方もいます。そういう方には地元の不動産会社を訪ねるようにお勧めします。やはり、自分で物件を見て、不動産会社を何社も回って断られ続け、手放すにはどうすればいいのだろうと本当に困っている方の手助けをするようにしています。
─経費等の扱いはどうされているのですか
交通費等の実費は売主に負担してもらっています。対応エリアが全国にわたるため、交通費は飛行機で行くか、新幹線を使うか、レンタカーを借りるか等で、売主に負担してもらう金額が変わってきます。また、売るまでが仕事だと思っていますので、実費については売却できたらいただくようにしています。
調査については、遠いところで複雑な案件なら初回は2泊3日、2回目以降は1泊2日くらいで済みます。また、購入希望者には私が立ち会って現地案内をしますが、価格が安く気軽に見に来られる方をその都度案内していると効率が悪いので、日時を決めて現地内覧会を設定し、そこに向けて集客します。東伊豆の1円物件では雨風が厳しい日も含め、10回以上内覧会をしましたが誰も来ず、買主を1人見つけるのがどれだけ大変かという経験もしました。
─依頼があってから契約までどれくらいの時間がかかるのですか
これまでの案件を計算したら、所有者から相談を受け、物件調査に行き、内覧会を実施し、契約まで1カ月くらいかかっていました。(他に抱えている仕事量にもよりますが)近場であれば5日くらいです。週のうち4日間を充てていますので、扱えるのは月2~3件で、5件を超えるとキャパオーバーです。ただ、ボランティアでやっていますので、忙しいときは「ちょっと待ってください」と平気で言えるのでストレスなくやっています(笑)。
─最も負担がかかる業務は何ですか
圧倒的に重説です。調査項目も多いですし、それを埋めるために県や市町や出先機関を回り、中には「うちの部署じゃない」と言われたり、先日も県の森林法の担当窓口で水源地域保全条例の事を聞いたらわからないと言われてしまい困りました。
買主の探索はまず隣近所から
─売主はどのような方が多いのですか
物件の所有者は首都圏在住で、空き家になってしまった田舎の実家をなんとかしたいという方が最も多いです。ただ、田舎にあるため保有するコストは固定資産税と草刈り代くらいなので、相続してから10年くらいそのままにしていたという方も多く、現地調査では、鍵屋さんを呼んで10年振りに玄関を開ける場合もあり、その時は中から何が出てくるかわからないのでとても怖いです(笑)。
そのような人はタダでもいいというのですが、そうなると買主に贈与税がかかってくる可能性があるので、1円という値段をつけています。親子間で1円で譲渡となれば税務署からは課税逃れと指摘されますが、第三者への譲渡で、実際にリフォーム代や残置物撤去代が何百万もかかる中で譲渡価格を1円にしたということを契約書の中に明記することで、税務署に納得してもらえる可能性が高くなります。
─購入者はどのようにして見つけるのですか
まず、隣近所の方を直接訪問します。また、農地なら近くで耕作している人を見つけ、「お隣の農地の所有者さんが手放したいと言ってますよ」と話を持ちかけます。田舎になると車を3台所有している家族も多いので、隣地を買って駐車場にするといったニーズがあります。希望者が複数になれば、解体費が200万円くらいかかる場合は150万円から価格交渉するとか、1人の場合は、「タダにすると贈与税がかかるのでいくらだったら買いますか」という感じで進めていきます。また、近所で見つからない場合は、知り合いで買ってくれる可能性がある人を紹介してもらったり、役所に行って都市計画法上の買取りの請求をしたり、農地の場合は農地中間管理機構に相談に行ったりもします。また、内覧会をするときには売主に立ち会ってもらうようにお願いします。売主に立ち会ってもらえた場合、どの人がどのような印象だったかを覚えてもらい、最終的に誰に売るかは人となりで決めてもらいます。
1円でもいいと言われている物件をレインズやアットホームに登録する際は、最低価格の100円になってしまいます。最近は収益物件として、難があり、安い物件を探している人もいて、私のブログを見て問い合わせてくる方も増えてきました。
─難しい案件をどれくらい扱ってこられたのですか
ここ7、8年で300件くらいは扱っていると思います。北は北海道から南は沖縄まで、35都道府県の物件を扱いました。多い月は5件くらい契約したこともあります。
<事例①>
使っていなくても維持費のかかる別荘を手放したい
【物件の状況】
◦駅からバス便の場所に立地した、伊豆の山奥の別荘地内の物件
◦築50年で長年空き家の状態で、建物内に残置物がある。
◦車庫も駐車スペースもなく、境界線も不明
◦建物が登記されておらず、相続登記も未了
◦土地の大部分が傾斜地で、土砂災害特別警戒区域内の物件
◦使用していなくても、水道料金や別荘地管理費が月23,000円かかる。
◦購入するためには、リフォーム費用、残置物撤去費用の他、名義変更手数料や受湯権など諸費用が113万円かかる。
◦不動産会社に30社以上問い合わせをしたが、「売れない」と言われている。
◦別荘からは海が眺望できる。
【所有者の状況】
◦相続で取得した別荘を使用していなくてもかかる管理費等が生活を圧迫している。子供に負の遺産を残したくないので一刻も早く手放したい。
【物件調査】
◦町役場・土木事務所にて、土地の大部分が傾斜地で、土砂災害特別警戒区域に指定されていることがわかる。
◦管理会社にランニング費用の明細、名義変更に伴う費用、手続きの方法や別荘地内の細かい取り決め等をヒアリング。管理費の一部滞納が判明。また、最近この別荘地内の物件はほとんど動いていないとのこと。
【売却活動】
◦売主に相続登記をしてもらった後、200万円でスタートしたが全く反応が無く、徐々に金額を下げたが同様の状況。購入時に物件価格以外に諸費用が掛かることと、ランニングコストが高いことが問題であることから売主と相談。最終的に売却価格を“1円”に変更。それが、ヤフーニュースやテレビで放映され毎日30件以上の問い合わせが入る。
◦内覧会を開催することにし、建物内部を実際に見学してくれた人だけが購入できることにする。
◦内覧会前夜には売主自ら室内の掃除を行う。当日は10組が来訪。購入申込書には売主について一言記入できるスペースを設けたところ、「きれいになったらぜひ売主にも来てほしい」等のうれしいコメントが記載された。最終的に売主が購入希望者の中から買主を決める。
【契約、引き渡し】
◦買主には契約前に別荘地管理会社に会い、細かい取り決め等について直接話を聞いてもらう。売主には滞納した管理費を一括で管理会社に納付してもらう。
◦売買価格が1円だったので当社は報酬をもらわず。
◦契約時には売主夫婦と買主の家族がそろい、売買代金授受の際は、買主の子供が自らの財布から1円を手に取り、売主に「ありがとうございます」と言いながら渡した。
◦売主も「ありがとう、大事に使ってくださいね」と応え、買主も「大切に使わせていただきます」と言い、最後は全員笑顔で記念撮影を行った。
<事例②>
市街化調整区域の農地を手放したい
【物件の状況】
◦駅からバス便の県道沿いの327㎡の埼玉県の土地
◦現況は雑木林、地目は市街化調整区域内の農地(農振農用地)、境界標も不明
◦過去に雑木林の木が倒れ、隣地駐車場の車を損傷(所有者責任により損害を賠償)
◦10社以上の不動産会社や司法書士に相談したが、「売れない」と言われている。
【所有者の状況】
◦インターネットで当社に問い合わせが入る。相続で取得した土地で市街化調整区域内の農地を子供に残したくないので「タダでもいいから手放したい」とのこと。
◦過去台風で現地の木が倒れて隣地の車に損害を与え、何回も修理代を負担したことがある。
【物件調査】
◦市街化調整区域の農地は農家か農業法人しか購入できない。しかも、この農地は農振農用地なので、原則建物の建築ができず駐車場や資材置き場にも転用できない。
【売却活動】
◦物件の隣にある事業所を訪問したところ、「以前も所有者から買ってくれないかと相談がありましたが、農地なので買えないと答えました。でも使えるのなら購入を検討します」と言われる。
◦登記の地目と農業委員会の見解はいずれも農地(畑)。一方、固定資産税課で取得する評価証明書を見ると地目は“山林”だったので、土地家屋調査士にも相談する。
◦そこで、「いつから農地になったのか?」ということを調べるために、国土地理院に依頼し、昭和25年以前とそれ以降現在に至るまでの航空写真を購入。その結果、この物件が昭和25年以前から現在に至るまでずっと山林であることが判明。農地法の施行が昭和25年であり、実際にはそれ以前からも山林だったことから、農業委員会と協議した結果、“売れない農地”とされていたこの物件の地目を山林に変更し、地目変更登記を完了することができた。その結果、農地法・農用地の規制も解除され自由に売買できるようになる。ただし、建物の建築は不可。
◦新たな条件を隣の事業者に伝えたところ、購入してもらえることになった。
【契約、引き渡し】
◦契約書の案文を両者に事前に確認してもらった後、買主の事務所にて契約、引き渡し終了。
◦今回のポイントは「知恵を絞った」こと。その結果、“売れない農地”を“売れる山林”に変えることができた。市役所や農業委員会からは「前例がない」と言われたが、その事例を作ることができた。
<事例③>
市街化調整区域にある分家住宅を売却したい
【物件の状況】
◦駅からバス便の立地
◦前面道路は幅約3mの未舗装道路
◦市街化調整区域のため原則再建築不可
◦分家住宅のため建物の使用に規制有り(基本的に第三者による建物使用不可)
◦延べ床面積115㎡の建物自体も老朽化している。
◦水道は井戸水利用
◦周辺には産業廃棄物処理施設のみ
◦過去に売却物件で自死あり
◦500㎡の土地の大部分の境界線が不明で敷地内に残置物あり
【所有者の状況】
◦両親から相続し、しかも自死のあった分家住宅を「タダでもいいから処分したい」とインターネットで当社に問い合わせが入る。他の不動産会社に相談するも、「分家住宅は売れない」「事故物件は扱っていない」と断られた。
【物件調査】
◦市役所の調査で、売却物件は市街化調整区域にある分家住宅と判明。分家住宅とは、原則建物の建築ができない市街化調整区域で、農家の本家から分家した方が行政から特別な許可を得て建築した建物で、属人性が強く、基本的に第三者の利用が認められていない。
◦売却物件がある市町村は、分家住宅を第三者が使えるようにする都市計画の用途変更の許可要件が厳しく、売主はその要件に合致していなかった。
◦建物は平成2年建築で、多数の腐食、ひび割れ、傾きがあり、周辺に水道管が整備されておらず井戸水を利用。庭先には残置物が放棄されている。
【売却活動】
◦周辺道路が狭いので解体するとかなりの費用がかかるため、“使用できない建物が残る土地”として情報発信開始。
◦県内の事業者で資材置き場として使いたいという方が、古家・残置物もそのまま、境界標設置は省略、契約不適合責任免責という条件で購入。
【契約、引き渡し】
◦建物は使えない、自死があった旨は事前に了承の上、買主側の不動産会社で契約、引き渡し終了。
◦今回のポイントは「行動力」。需要の少ないエリアで分家住宅、かつ告知事項ありという難しい物件を、諦めずに売却活動をしたことがポイントだった。
空き家の仲介は人と人との気持ちをつなげる仕事
─『子安の丘みんなの家』について教えてください
地元の不動産会社から借地権付き建物で車も入らず、境界も不明でボロボロの物件を売却したいと相談がありました。借地権付きで古い建物は一般のユーザーでは融資が付きにくいし、横浜市にある空き家を活用できないのに地方の空き家を何とかするなんて言えないと思い、当社で買い取ることにしました。この物件を“地域の憩いの場所”となるような地域交流拠点として活用しようと思い、付近にポスティングして使ってくれる人を募集したところ、近くに住む料理研究家が手を挙げてくれました。彼女はこの場所を、「独居老人の孤食や子供たちの孤食が多いという話を聞いたので、皆でご飯が食べられる和気あいあいとしたものにしよう」と考えてくれました。
同時に横浜市の『ヨコハマ市民まち普請事業』に応募しました。審査は2回あり、1次コンテストに受かった際に、地域の人が参加していないという指摘を受け、子供たちと珪藻土塗りのワークショップをしたり、朝食交流イベントなどを開きました。また、同業者の他、民生委員、子育て支援専門家、専門学校講師、PTA会長など地域の人たちにもメンバーに加わってもらい、無事2次コンテストも通過。工事費は約1,300万円かかりましたが、横浜市の助成金500万円と、それ以外は、個人や企業合わせて約100社以上から協賛金や人手、材料等の提供をいただき、賄うことができました。
施設は昨年完成、1階がカフェ・コミュニティスペース、2階は時間貸しスペースとし、1階の前には子供たちの自転車や小さいお子様連れの方のベビーカー置き場としてスペースを設けました。2階は週2日、学研さんと年間契約ができたおかげで、その収益を小学生以下無料の家族食堂(毎週金曜日17時〜20時)の食材費に充てることができています。ここが地域のお茶の間のような場所になり、家族食堂を中心に、子供や高齢者など多世代が支え合い、交流する拠点になればいいと思います。この場所は当社が所有し家賃はもらっていないので、テレワークやお誕生日会等、有料で利用してもらえれば、そのお金で地域の皆と楽しめることをやっていきたいと思っています。
─ボランティアで難しい空き家問題を解決する喜びは何でしょう
不動産の所有者からタダでもいいから引き取ってほしいと何度も頼まれると、性格的に断れないタイプなので買い取ることもあります。それをいざ売却する際に、成約事例もなく、いくらで売れるかわからないと思っていても、たまにダイヤの原石のような物件に当たり、意外に高く売れたりすることがあります(笑)。
今までどこにも前例のないような難しい案件に出会うこともありますが、この仕事を始めた動機が「困っている人を助けたい」ということでしたので、とりあえずやってみようと現地でいろいろ調べたり、知り合いの専門家にもろもろ相談すると意外と解決できたりします。また、他の会社で売れないと言われた物件を売るのは快感ですし、相場が無いところに相場を作るのは面白いと思っています。そして、全て上手くいけばみんなからありがとうと言われる仕事です。お金には代えられない魅力があります。
価格が0円とか1円の場合、良くも悪くも購入者の人間性が本当によく出ます。この仕事は単純に売主と買主をマッチングするというより、1円という金額ですが、売主の「引き取ってくれてありがとう」という気持ちと、買主の「大切に使わせていただきます」という、人と人との気持ちをつなげる仕事だと感じています。
地方に行けば素晴らしい絶景や、美味しい地酒に出会う事がたくさんあります。そのような旅の楽しみも味わいながら全国制覇を目指しています(笑)。
(子安の丘みんなの家サイトURL https://minnanoie.site/)
田中裕治(たなか ゆうじ)氏
1978年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。駒澤大学文学部国文学科卒業後、東急リバブル株式会社に入社。10年間、売買仲介業務に携わり、業績功労賞を2度受賞するなど同社の業績に貢献。しかし、その頃から不動産売却・購入の業務以上に不動産に付加価値を付けて売却する当事者(売主・買主)になりたいという想いを抱き、同社を退社。その後、1年間、買取再販等を行い業務の幅を広げ、2013年に株式会社リライトを設立。代表取締役に就任する。
株式会社リライト
代表者:田中裕治
所在地:横浜市神奈川区泉町14-9
電 話:045-620-8659
H P:https://www.relight.co.jp/
業務内容:多くの事業実績に基づいたノウハウと専門性をベースに、再建築不可の物件、借地権・底地権付き物件、農地売買など権利関係の複雑な不動産に対してソリューションを提供。そのノウハウを生かし、“負”動産になり困っている人の空き家、空き地の問題に取り組み、これまで全国で300件以上の案件を解決し、流通させている。