住まい探しはハトマーク

株式会社HIROTAホールディングス/福岡県北九州市

顧客志向の企業経営の実践

<取材日:2022年4月27日>

 

資産提案企業を目指し
不動産のプロを育成する

事業戦略と人材戦略を一致させ、経営理念を実現する

 

・30代で事業承継を受け、10年で160人規模に

・資産管理会社から資産提案会社への変革、「不動産のプロ」を育てる

・人的資本経営の実践のために、従業員満足にもKPI指標を設定

・理念に共感した組織づくりを目指す

・不動産のプロが活躍する舞台「the STAGE」

・経営戦略から人材戦略までストーリー性を持たせる

 


 

30代で事業承継を受け、10年で160人規模に

 大学を卒業し大手ハウスメーカーに入り、1年目からトップレベルの成績を残しました。その後、不動産業の場合月3,000円の駐車場の管理から10億円するビルの売買など、扱うフィールドが広いと感じたことと、中小工務店がどんどん倒産するのを目の当たりにして、不動産会社もこのままでは同じような状況になってしまうという危機感を持ちました。そこで、父が創業し、当時はまだ20名規模だった当社に入ることにしました。入社を決めた時は、この会社を「不動産屋ではなく、不動産企業にしよう」ということを心に決め、通常の社員と同様営業から始め、管理職の階段を上り、10年ほどたった時点で父親から事業承継を受けました。当時はまだ30代の後半でしたが、幸いなことに父は社長を譲ってからは役員会議や業界団体の活動には一切出席せず、全てを私に承継してくれました。

 当社グループ(HIROTA ASSET PROPOSAL GROUP)は、売買や賃貸の仲介を行う(株)不動産のデパートひろた、不動産の管理を行う(株)ジョイフルマネージメント、家賃保証やコインパーキングの運営などの関連事業を行う(株)ジョイフルサポートで構成され、人事制度を始めとした会社全体に関わる制度設計や運営などを行う経営企画室や、新規事業の開発や全社横断のプロジェクトなどを推進する営業企画室といった、会社の根幹になる業務は(株)HIROTAホールディングスで行います。

 事業規模も拡大し、有償管理件数は15,000件、賃貸仲介件数は年3,900件を超え※1、売買仲介件数も年440件となりました。仲介店舗数は11店、社員も160人を超え、年商は20億円を超えましたが、今は生産性を高め一人当たりの粗利高を増やすというより、会社全体の粗利高を高めようという戦略をとっています。

 

 

資産管理会社から資産提案会社への変革、「不動産のプロ」を育てる

 経営理念で掲げたのは「不動産のプロとして、地域と会社の発展と社員の幸福の実現」です。そして、目指す企業グループ像を「不動産管理会社から資産提案(アセットプロポーザル)企業」としました。北九州市には金融資産を1億円以上持っている方が1万人近くいるといわれています。そのような資産家や企業、そして賃貸物件のオーナーは、相続にあたり資産を次世代にどのように承継するかといった悩みを持っています。そのような相談に応え、頼りにされる存在になるために、資産提案ができる高度な不動産人材、つまり「不動産のプロ」を育てなくてはなりません。そして、そのことが結果として地域社会への貢献につながると思っています。

また、不動産会社の資産は“人”です。人が財産という意識はずっと持っていたので、社長になってからは「人的資本経営」を推進しています。

 そのために、いくつかのキーワードがあります。まず、「量(人数)、質(能力、役職者)、鮮度(革新)の順番で物事を進めていこう」ということです。当たり前のことですが、1人より100人の方ができる仕事の量は多くなります。そこで、社員の数を増やし、同時に社員の能力向上を図り、役職者を育て、練度も上げていきます。ただ、役職に就きそこで満足しては成長が止まるので、社長もどんどん交代していきますし、社員もジョブローテーションし、仕事の鮮度を高めるということも心掛けています。

 2つ目が、「点より線、線より円」ということです。不動産会社は「今月何本契約がとれた」ということが業績の評価の基準になっていますが、その考え方に違和感を感じていました。1回契約してしまえばそれで関係性が終わってしまう“点”の仕事ではなく、1件契約すればそこから新たに次のお客様を紹介してもらえるような、関係性がつながる“線”の仕事をしなくてはならないと思います。さらに、お客様を見つけることでオーナーに喜ばれ、そのオーナーから新たな家主を紹介してもらい、新たな管理物件を仕入れることで、そこに新たなお客様を見つけるという“サークル(円)”が生まれるような仕事を目指そうということを社員には伝えています。そして、仕事の進め方も全て社長が決済するのではなく、どんどん権限移譲していきます。そうすれば私も他に使える時間がとれますし、部門長も権限と責任が与えられることで成長の機会になります。

 

 

人的資本経営の実践のために、従業員満足にもKPI指標を設定

 人が財産という前提にたった「人的資本経営」を推進するには、①事業戦略と人材戦略が一つのサイクルでつながっていること②経営理念からビジョン・人材戦略まで一貫性があるということが必要です。

 お客様にとって価値の高い仕事をすることで、顧客満足度を高め、適切な対価をいただくという事業戦略と、仕事の成果に対する公正な評価や教育の機会提供によって社員数を減らさず会社全体の売上を上げ、職場環境改善のための投資をすることで仕事の質が向上し、お客様の満足度がさらに高まるという人材戦略が、サークルとしてつながっているというイメージで事業運営をしています。

事業戦略と人材戦略のサイクル

 そして、①当社の理念に共感してくれた人を採用する②社員の継続的な成長の支援をする③ハード面、ソフト面で働く職場環境を良くする、という3つの人材戦略を立て、お客様のあらゆる不動産ニーズに応える「不動産のプロ」の集団になることを目指します。

 そのため当社では、事業戦略の指標であるPL(損益計算書)と同時に人材戦略の結果であるES(従業員満足)の両方を大切にしています。「社員を大切にします」ということはどの企業も掲げる事ができるので、ESを計るためのKPI指標を設定し、外部にチェックしてもらうとともに、数値化して見える化することで社員のコンセンサスを得るようにしています。

 具体的には(株)船井総研の社員満足度調査を毎年実施しています。質問は、“社長や経営陣は、時代の変化を適切に捉えられている”“社長や経営陣から会議や研修会などで会社の目指す姿を聞く機会がある”といった理念やビジョンへの共感性など50項目程度で、社員は匿名で回答できるので本音の結果が出ます。過去の調査やグレートカンパニーの平均値との比較など、良い結果も悪い結果も全て社員に情報開示しています。

 

 

理念に共感した組織づくりを目指す

 経営理念に共感した組織づくりをするために心掛けていることは3点あります。まず、「整理してわかりやすく伝える」ことです。当社のコーポレートスローガンは、「不動産で人を豊かに」というものです。当社が家のお世話をし、結婚して子供が生まれた家族に、頭金がたまった時点で購入の提案することはその家族を豊かにすることにつながります。オーナーに対しても当社のサポートで満室運営できれば喜んでもらえますし、投資物件の買い増しの提案やファイナンスの組み換え提案などを通じて、資産を豊かにすることもできます。このような例を示しながら、担当部署は違っても、私たちの仕事は「不動産というツールを使って人を豊かにする仕事だ」、ということを理解してもらうようにしています。中長期計画についても、2030年に事業店舗数30店、粗利益30億、社員数300名を目指す“GO!30”という分かりやすいスローガンを掲げ、社内に掲示したり、新卒の内定者にも伝えています。

社内の取り組みが全員に確認できる

 2つ目は「繰り返し伝える」ということです。当社では、経営計画発表会を年に1回開き、全社の実績や目標の共有と、経営計画書を毎年作成し、重点ポイントや新しくなった内容を全員で確認します。また、本店と支店をオンラインでつないで行う全体朝礼と、その後各部署や店舗毎に部門朝礼を毎日行っています。部門朝礼をオンラインで行っているのは本社の幹部職がそこに参加することができるからです。また、コミュニケーションの機会で私がとても大事にしているのは日報の配信です。約160人の社員に日々どんなことが起きて、何を感じたかということを知ることが経営者として大切で、今でも毎日全員の日報を読んでメールを返しています。

 経営計画発表会の際は、営業部門及び管理部門のMVPと“社訓賞”表彰をしています。MVPは年間で最も活躍した人を表彰しますが、“社訓賞”は5つの社訓の内、いずれかに沿った仕事をした人を社員が選びます。そして、大きなデジタルサイネージやスクリーンセーバーを導入し、MVPの表彰者やその月の改善表彰者や社員の自己啓発の結果などを反映し、活躍した人が他の社員にも認識してもらえるような環境づくりをしています。また、社員が増え若い社員と話す機会が減ってきたことから、“ボスパーティ”という入社3年目までの社員との食事会を開いて本音の話をしたり、部門を超えて連携することの大切さの意識づけができる機会を設けています。

 

社訓賞表彰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不動産のプロが活躍する舞台「the STAGE」

 3つめが「理念に沿った制度運用」です。社屋をリニューアルした際に、2階のフロアをホテルのラウンジ風にし「the STAGE」とネーミングしました。3階を執務室にし、そこで準備をした営業マンが、お客様との商談の際は、フロアの真ん中に備えた階段から2階のステージに下りていくレイアウトにしました。お客様との商談の場は不動産のプロにとって舞台(stage)です。そのステージで最高のパフォーマンスを演じきってほしいという思いでオフィスをリニューアルしました。ただ、会社としては舞台や演じるための環境の整備や支援はしますが、「舞台に立つのは社員であり、一人一人が主役」です。

 3階の執務室(楽屋)にあたるオフィススペースは、部門間のコミュニケーションを促進するためにワンフロアにし、オンライン営業やIT重説の機会が増えていることから個室BOXや集中ブースを用意。Activity Based Workingというオフィスコンセプトのもとに、業務内容に合わせて自由な場所で働ける環境づくりをしています。また、食堂や更衣室、リフレッシュルームも用意し、生産性の向上と社員のモチベーションアップにつなげたいと思っています。現在の人員では持て余す広さですが、300名体制を見据えて、社員だけが頑張るのではなく、「社長も借金して腹をくくっている」という姿勢を見せたつもりです(笑)。

 さらに人的資本経営の充実度についてもKPI指標を設定しています。具体的な目標値は、不動産のプロと認定される社内資格の“リアルエステートディレクター”の取得者100名、宅建士の資格保有率70%、研修受講時間を年間1人50時間、女性の役職者比率20%、有休消化率70%、離職率5%、残業時間0などですが、社員の年収も目標を決めて増やしていきたいと思っています。“GO!30”の業績基準に合わせて人的資本経営の数字を掲げることで、安心して働ける環境を目指していることを社員に感じてもらえるのではないかと思います。

 

the Stage

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

経営戦略から人材戦略までストーリー性を持たせる

㈱HIROTAホールディングス 総務経理部部長兼経営企画室室長
㈱ジョイフルサポート 代表取締役
坂根隆行
 氏 

経営戦略と人材戦略を一致させる

 人材戦略で当社が特に大事にしていることは、経営理念から人材戦略までつながっている“ストーリー性”です。最上位概念の経営理念から、社訓、経営方針、経営戦略、人材戦略まで一貫性を持たせることで、会社がどのような方向に向かい、それに対して自分はどのような努力をすればいいかということが社員に分かりやすくなります。

 当社ではその一貫性のキーワードを「不動産のプロ」とし、経営理念やビジョンの中にもその言葉を入れています。人材戦略の方針も、当社のビジョンである資産提案企業を目指す上で、「お客様のあらゆる不動産ニーズに応える不動産のプロの育成」を最重要課題とし、“採用・成長・環境”を3本柱として人事施策に取り組んでいます。

 

 

人材戦略の3本の柱

 “採用”については、Be the Strong Teamをスローガンにし、当社の経営理念やビジョンに共感する人に入社してもらうようにしています。新卒採用の際には、リクルーターは不動産のプロを目指すという考え方と、そのために用意した制度や仕組みについて説明をすることで、その方針に共感し、プロになるんだという意識を強く持った人に入社してもらいます。“成長”については、Up to You、つまり「チャンスはすべてあなた次第」という考えをベースに、自発的な成長を促し、不動産のプロを目指すことができるような仕組みを用意しています。

人材戦略全体図

特にキャリアパス制度によって、社歴や年齢に関係なく能力や成果でキャリアアップできる仕組みを整備しています。“環境”については、ESアンケートを取ったり、the Stageという場を用意し、職場環境の充実を目指しています。また、平常月の定時退社の促進や、リフレッシュ休暇制度など、仕事とプライベートとのバランスがとれるようにし、社員が成長しやりがいを感じる部分と、働きやすさという環境整備の両方を大事にしています。

 このように、人材戦略にストーリー性を持たせることで会社が向かう方向を明確に伝えることができ、社員も自分がどうなりたいのかという将来ビジョンが描きやすくなります。また、企業理念や方針に共感した社員を採用することは、社員の定着と成長につながります。

 

 

 

自発的な成長を促すキャリアパス制度

 当社は“キャリアパス制度”という人事評価制度を導入しています。制度設計の際に考慮したのは人事評価制度自体が目的とならないようにした点です。本来、人事評価制度は“人材育成の手段”でなくてはなりません。人材が成長するような制度であり、かつその成長の先が「不動産のプロ」につながっていることが重要です。

 不動産のプロを目指して自発的な成長を促すポイントは3点あります。1つ目は公平な評価が受けられる安心感です。公平に評価されていないと感じると、意欲や能力が高い社員ほどモチベーションが下がってしまいます。そのためには明確なルールと情報の開示が重要で、考課科目は極力定量化し上司の主観を反映させない項目の設定、5段階評価結果に応じた昇給幅や賞与額のルールを開示、部門平均の考課点数や昇給・賞与の伸び率等の開示などを行っています。次に、運用ルールも安心感を生むものにするために、部長以上全員参加の考課検証会議を実施したり、半年毎の考課期間の間に上長と中間面談を行い、考課内容の確認を行うことで、両者の認識のずれを補正するようにしています。

 2つ目のポイントは、社員が将来の姿をイメージできることです。当社では、昇格基準や昇格モデル、役職別年収モデルを作成しオープンにしています。また、複数のキャリアプランを用意し、一般的なマネージメントプランだけでなく、専門知識を磨いて個人で活躍して業績を上げたい人のためのエキスパートプランも用意しています。

 3つ目のポイントが、ジョブローテーションを促進する仕組みです。不動産のプロになるためには幅広い知識をもつことが必要だという認識の下に、当社はジョブローテーションを重視しています。さらに、キャリアパス制度と社内資格制度を連動させ、不動産のプロを認定する社内資格の基準にジョブローテーションの回数を規定し、エキスパートプランを選択するにはその社内資格を条件にしています。

 社内資格は2種類あります。まず、“マスター認定基準”で、賃貸・売買・管理のいずれかで5年程度で達成できる業績目標をクリアしていることが要件になります。その認定を受けるとジョブローテーションを自己申告することができます。次に、“リアルエステートディレクター認定基準”。これは、理念と方針の共有ができている事はもとより、不動産業界での勤務経験と営業経験が10年以上、宅建士及び業界関連資格の取得者であることに加え、ジョブローテーションを2回以上経験していることを要件にしています。このように、最初の5年は配属された部署でしっかり仕事をし、ジョブローテーションして次の部署でしっかり活躍し、10年でリアルエステートディレクター認定を取得してもらうことが、当社が考える不動産のプロの入り口になります。

 このように、キャリアパス、ジョブローテーション、社内資格制度それぞれを単体で取り組むのではなく、不動産のプロを目指すという経営戦略に沿って人材戦略も連動させています。

 

 

※1 全国賃貸新聞によると、2023年賃貸仲介件数は全国12万社中53位。

 

 


 

 

廣田 豊(ひろた ゆたか)氏

1972年、福岡県北九州市生まれ。九州国際大学国際商学部在学中、1992年にアメリカ・カリフォルニア大学に留学を経験。帰国後、積水ハウス株式会社に入社。4年間、住宅営業に従事し、入社1年目からトップレベルの営業成績を上げる。1999年、株式会社不動産のデパートひろたに入社。2010年12月に社長に就任。2020年には株式会社HIROTAホールディングスを設立する。現在、経営の傍ら全国賃貸管理ビジネス協会 代議員などを歴任。

 

 

 

株式会社HIROTAホールディングス

代表者:廣田 豊
所在地:北九州市八幡東区山王1丁目11番1号
電 話:093-663-3934
H P:https://corporate.re-hirota.co.jp/
業務内容:15,000戸を超える賃貸不動産の総合管理、土地・建物の売買、賃貸物件の仲介業務を柱に宅地開発、新築住宅販売、家賃保証事業、マンション等の販売斡旋等、総合的な不動産業を展開。「不動産で人を豊かに」というスローガンを掲げ、「不動産のプロ」を育成することで地域社会に貢献する。