株式会社都ハウジング/京都市伏見区

顧客志向の企業経営の実践

<取材日:2022年10月24日>

 

全てを地域の幸せと
不動産業界の地位向上のために

業界のパイオニアとして、コンサルティング業、管理業の団体を立ち上げる

 

・コンサルティング業務で大手との差別化を目指す

・賃貸管理業の地位向上に取り組む

・証券化や信託の手法で京町家を再生する

・次のテーマは空き家問題と高齢者等への居住支援

・地域との共存共栄を図る

 


 

コンサルティング業務で大手との差別化を目指す

─貴社の沿革について教えてください

 宅建業は、1974年に一から始めました。その前年にオイルショックがあり勤めていた会社の業績が急激に厳しくなる中、迷惑をかけたくないと思い身を引く決意をしました。当時は結婚したてで、子どもも生まれたタイミング、宅建資格は取得していたものの不動産の専門知識も業務経験もほとんどないという状況での起業でした。無手勝流で仕事を始めましたが生活基盤の維持も必要なので、損害保険の代理店を始め、馬車馬のように新規開拓をしました。2、3年が経ち、事業のベースができたところで、伏見区深草の地に店舗を構え、 従業員を1人採用して保険担当とし、私は不動産の仲介の仕事に専念するようにしました。 ただ、売買仲介の仕事は100万円台の手数料が入る時もありますが、3カ月間1件も成約がないこともあり、保険代理業のように真面目にこつこつ働いたら安定的に収入が入るすべはないものかと模索をしていました。その頃は大手ハウスメーカーがアパートなどの集合住宅を伸ばし始めていた時期で、建てた後の管理や入居者フォローをする会社を募集していることを知りました。そこで、京都の南地域を担当させてもらうようお願いをし、ハウスメーカーの新築アパートの管理を始めました。管理の仕事も初めてでしたので、1件受託しては先達に管理のやり方を教えてもらいノウハウを積んでいきました。 また、そのハウスメーカーは京都市の農協と提携しており、組合員の農家に農協の職員と回ってアパートの営業をしていたので、私も同行させてもらうようにしました。アパートを新しく建てるオーナーは、大体古い木造アパートや、連棟の借家、駐車場などを持っている方が多いことから、そちらの仕事も受けながら管理物件を徐々に増やしていきました。その結果、管理戸数は800戸を超え、駐車場は1,000区画程度、日常的に情報交換するオーナー数も200人を超えました。 この後、管理業と保険業で安定的な売上を維持し、仲介業で変動的な売上を積み上げていきました。また、管理をすると部屋や建物の改修工事が付いてきますので、工事売上げも伸びました。

 

─京都府不動産コンサルティング協会を立ち上げられました

 不動産の流通の面では、東京などと違い、平成の初めの頃は京都市では売買における地元企業のシェアは7割以上を占めていましたが、その後、その比率はどんどん落ち、今では完全に大手企業のシェアの方が高くなり、価格主導権も握られてしまいました。そのような状況に危機感を覚え、これから仕事を伸ばしていくには仲介だけでなく不動産コンサルティングの視点での業務展開が必要になると考えました。そこで、私から共通認識を持つ地元の業者に呼びかけ、2003年に(一社)京都府不動産コンサルティング協会を立ち上げました。私が理事長になり、当初は20社くらいの集まりでしたが、現在会員数は90社を超え、活発な活動を展開しています。

 

─コンサルティング業務は、直接、報酬につながるのでしょうか

 農地転用や宅地開発、最近では生産緑地の解除など、コンサルティング業務が発生する場合は、(公財)不動産流通推進センターの契約書を使用してコンサルティング契約を結びます。当初は200~300万円程度の収入しかありませんでしたが、今では1,000万円程度の収入を計上できるようになりました。 また、フィーの相場も、昔は1件3万円くらいでしたが、現在は最低10万円に設定し、30~50万円という金額を受け取っています。相談された内容の事業が終了するまで、早くて半年、長ければ2、3年かかりますので、何件かの案件を並行しています。そのような仕事は、短期的な利益を求める大手ではなかなか取り組めません。この分野こそ私たち地場の業者が生きていける一つの道ではないかと思います。 ただ、そのためには幅広い知識と経験が必要です。その分野に強い仲間に聞くこともありますが、強調したいのは勉強と努力をしないとこれからは生き残っていけないということです。社内でも宅建士、賃貸経営管理士、不動産コンサルティングマスターの3つは当社の事業の生命線なので、資格を取り、絶えず勉強する事を奨励しています。

 

 

賃貸管理業の地位向上に取り組む

─独自の管理業の団体も作られたと聞きました

 1985年当時、アパートや貸家に暴力団員が入居しているという状況が数多くありました。そこで、(株)長栄の長田社長と語らい、地元の賃貸管理業者に集まってもらい、京都府賃貸管理業連絡協議会(京管連)という業界団体を立ち上げました。京都府警察本部の中で暴力団対策専門の捜査4課(当時)と連携をとり、ある暴力団員を追い出すのに、体格の大きい会員の社員10人ほどで、直接退去要求書を突きつけ、私たちの後ろに刑事さんに立っていてもらうというようなこともしました。その後、1991年に暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)ができたおかげでもう必要はなくなりましたが、その様な活動を約10年間続けてきた結果、近畿管区警察局局長賞という名誉ある賞もいただきました。そして、1995年に日本賃貸住宅管理業協会(旧・日管協)が発足しましたので、京管連も日管協京都支部に移行一括入会しました。

 

─そのような歴史の中で管理業の社会的地位が上がりつつあります

 京管連で活動していた時も、管理は仲介の付け足しの仕事でサービスになっている状況を変えていかなくてはならない、管理業務の品質を上げて報酬をしっかりもらえるようにしようと取り組んでまいりました。そのようなこともあり、賃貸住宅管理業法(「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」)が2021年に施行され、賃貸不動産経営管理士が国家資格となりました。私は京都府宅建協会の相談員を長年やっており、賃貸に関する相談はその1/3を占める状況でしたが、最近では相談件数は減ってきていると実感しています。

 

 

証券化や信託の手法で京町家を再生する

─不動産証券化の手法を用いて、京町家を再生するという先進的な取組みをされました

SPC出資証券

 京都府不動産コンサルティング協会を立ち上げて、時代の最先端を学ぼうと勉強会を始めた頃、米国から証券化という金融手法が持ち込まれました。京町家をビジネスの対象として本格的に認識し始めていたことや、証券化の手法は今後伸びるだろうと思い、行政や大学、金融機関に共同研究をしようと声をかけたところ賛同を得て、京町家証券化事業研究会という推進母体を立ち上げました。京町家の保全利活用を目的としたので、事業対象の京町家を集めるのが大変でした。このスキームは、最低3億円規模の事業でないとペイしないということでしたし、当時町家が取り合いの状況でしたので、構想から2年がかかり、やっとの ことで六角新町、東山安井、新宮川町の3物件を取得することができました。不動産証券化事業は、SPCを作り、資金を一般の投資家から集め、物件を取得・改修したのち賃貸し、賃料を原資として配当するスキームですが、近畿財務局でも4番目の案件でノウハウもなく、苦労して事業を構築しました。プロジェクトは、当社と、建都住宅販売(株)、(株)八清、(株)フラット・エージェンシーの4社が中心となり、お互い役割分担して進めました。さらに、おっかなびっくりだったと思いますが(笑)、地元の京都銀行と京都中央信用金庫が 特定融資をしてくれました。一般の投資家には1口10万円で1億500万円の募集をしたところ、当時町家は人気があったこともあり応募が殺到し、問題なく集めることができました。期間中も年2.5%程度の配当を出し、事業終了後の売却もスムーズにいきました。その意味で、不動産証券化事業は大成功で、いい経験になりましたが、財務局とのやりとり等、私たちには少々荷が重いと感じました。その後も京町家の保全利活用を進めようと、管理信託の手法にチャレンジしました。(一社)大阪府不動産コンサルティング協会会員のきりう不動産信託(株)に入ってもらい、京町家利活用合同会社をマスターレッシーとする転貸借スキームによる家賃一括前払い方式を採用し、空き家になっていた築70年以上の京町家3物件を約2,500万円の資金により改修し利活用しています。これらの事業には(公財)不動産流通推進センターの債務保証の仕組みも利用しました。

 このように町家の改修には多額の工事費がかかり、所有者や中小不動産業者にとって工事費の調達手段が大きな課題となりますが、今後も新たな手法にチャレンジしながらそのハードルをクリアしていこうと思っています。

 

─独自に京町家の再生に取り組まれています

再生した直違橋の京町家

 地元のお付き合いの中から、築150年の京町家の活用について相談をいただきました。お客様は、古くて大きな物件なので改修するにしても費用がすごくかかることから、壊してアパートを建てるか、駐車場にするということを考えていました。ただ、この町家は歴史的価値が高く、なんとか残そうと考えていたところ、京都の大学が学外に町家キャンパスを作るということが流行になっていたこともあり、近隣の龍谷大学が「深草町家キャンパス」として利用してくれることになりました。改修費は家主さんの借入と、京都市の耐震工事と 景観維持に対する補助金を利用し、1年がかりでしたが大学の教育施設として使ってもらっています。また、その隣にも親類が所有する大型の町家があり、そちらも相談を受け、京都市のまち並みや景観保持のため、コンサルティングに入りました。改修費は当初予算を超え最終的に数千万円かかりましたが、連坦した町家が残ったことで、所有者の次世代に継承する思いが実現しました。

 

 

 

次のテーマは空き家問題と高齢者等への居住支援

─これからの地域の課題として「空き家」と「高齢者」を掲げておられます。まず「空き家問題」の取り組みについて教えてください

 京都市の調査※1では京町家は現在約4万軒あり、その内空き家は約5,800軒(空き家率14.5%)で、この7年間で約5,600軒滅失(平均年間滅失率1.7%)しています。京都市は京町家を観光資源としてその保全に力を入れており、「京町家相談員」制度を作り、宅建業者、工務店、建築士等の専門家が連携して取り組めるようにしています。当社も相談員として登録していますが、残念ながら宅建業者の登録は31社しかありません。 さらに、市は2014年に「京都市空き家の活用、適正管理に関する条例」を制定し、空き家問題を解決するために「京都市地域の空き家相談員」制度を始めました。現在約280社の宅建業者が登録しています。相談員は市が選定するという方法をとり、登録にあたっては資格条件があります。具体的には、宅建士の業務歴が5年以上で、市民からクレームが入ったことがないという業者が申請をし、その上で講習を終了した者が登録できます。また、賃貸や売買など専門分野だけではなく、総合的に相談を受けられる業者を選んでいるようで す。相談員は所在する各区役所に分かれ、市が開催する毎月の無料相談にあたるということになっていますが、当初は名刺を渡すことすら駄目ということでした。やはり相談員にとってビジネスに結び付く可能性が全くないと長続きしませんので、市と交渉し、相談者が承諾し、市に結果報告をすればその後もフォローして構わないようにしてもらいました。空き家対策もそうですが、東日本大震災の時は、京都市は福島県の被災者のために応急借り上げ住宅の確保をすることになりました。仲介手数料0でも80社程度の業者が協力すると手を挙げてくれて、行政からも信用してもらえるようになり、以来、市と不動産業界は良好な関係を築けていると思います。

 

─高齢者に対する居住支援の活動について教え てください

 京都は非戦災都市で、建物も入居者も高齢化する中で、高齢者の居住支援に取り組むことにしました。入居者については社会福祉協議会や地域包括センター、そして病院などから住む所を探して欲しいという相談が入ります。それに対して、高齢者専任の営業担当を採用し、物件案内用に介助する人も同乗できる車も購入しました。また、京都市居住支援協議会(京都市すこやか住宅ネット)では、高齢者や障がい者の住まい探しに協力的な宅建業者を「すこやか賃貸住宅協力店」とし、市内では当社を含め10数社が登録しています。 ただ、高齢者の場合、成約するまで非常に手間と時間がかかることから、採算的には専従者の給与を稼ぐだけで精一杯で、その方が施設に入る際に家の処分を頼まれることがたまにあるので何とか息をついている状況です。しかし、地元の業者の大事な役割ですので今後もこの活動を続けていきたいと思います。  さらに、2013年に高齢者に高齢者住宅の紹介プラットフォームをFC展開する(株)くらし計画と提携し、サービス付き高齢者向け住宅や、有料老人ホームなどの高齢者施設の紹介を行っています。

 

 

地域との共存共栄を図る

─地域での取り組みも積極的にされています

 京都銀行と連携して、京都市の後援をいただき独自に「無料相続相談会」を開いています。このほか、コンサルティングの仲間4社で2007年に(一社)相続相談センターを立ち上げ、専門家の先生方の協力をいただき、市内中心部に事務所を置き、運営しています。大相続時代の今日を見据え、相続財産に占める不動産の存在を視野において、15年間1,400件余の相続相談から事例集を発刊しました。また、寺社の不動産関連の応援や祇園祭など祭礼支援、中小企業団体での活動等、京(みやこ)の町衆としての役割も地域活動のひとつとしています。 約50年にわたる事業の中で私が大切にしてきた考え方があります。それは、「共同化」「先進性」「専門性」「地域」「公益性」というものです。当社の活動は全てこれらの信念に基づいています。そして、企業理念は、顧客よし、取引先よし、地域社会よし、社員家族よしの「みやこ四方よし」です。地域とは共存を超えて共栄の関係になりたいと思っています。私も会社から歩いて10分くらいのところに住み、地域のご近所とのお付き合いを大切にしています。これがもし、儲かったからといって華美な生活に浸るようになったら会社の存 在は地域からかすんでしまっていたと思います。

 最後に、オーナー様をはじめステークホルダーの皆様に感謝を申し上げて報告を終わります。

 

 

相続の極意表紙

相続相談会のチラシ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

岡本秀巳(おかもと ひでみ)

1944年、京都市生まれ。立命館大学卒業後、数社勤務を経て第1次オイルショック後の1974年に独立開業。自分を信じ、仲間を頼りに組織活動を展開し、業績安定のために多角化を進める。愛する京都で骨をうずめる覚悟をしている。創立50年をひかえ、昨秋に社長の座を譲り、余力を地域貢献に注いでいる。

 

 

 

 

株式会社都ハウジング

代表者:岡本秀巳・岡本慎太郎
所在地:京都市伏見区深草キトロ町30番地電 話:075-643-3191
H P:https://www.miyako-h.co.jp/
業務内容:売買、貸借、管理、建築、損保をコア業務に、コンサルティング、空き家問題解決、相続相談、京町家の利活用、高齢者施設の入居斡旋をチャレンジ業務として取り組む。京都府不動産コンサルティング協会や京都府賃貸管理業連絡協議会を発起人として立ち上げ、業界の発展に貢献。また、京町家相談員、空き家相談員、すこやか賃貸住宅協力店として行政と協力しながら地域の課題を解決している。