有限会社窪商事/鹿児島県鹿児島市

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2017年11月>

 

人と人を紡いでまちを創る

社会のために良いと思ったことは、すぐ実行に移す

 

・まちの人たちが交わる場所を創る

・社会的弱者のための物件を創る

・住み手のことを重視して住宅の企画を考える

・地域の活性化のためにネットワークを作る

・人と人がつながるまちづくりを目指す

 


 

まちの人たちが交わる場所を創る

─“つむぐば”というシェアスペースをつくった経緯を教えてください。

 “つむぐば”は、人と人、人と地域がつながって欲しいという思いを込めて、まちづくりの一環としてつくりました。きっかけは㈱ブルースタジオの大島氏※1の講演を4年前に聞いたことです。その講演で“団地をリノベーションし、住人だけでなく地域の人も使える広場をつくったことで、地域のコミュニティが生まれた”という話を聞き、私も地元でこのような事をしたいと思いました。

コミュニティスペース「つむぐば」

 たまたま自社ビルで賃貸していた1階の部屋が空いていましたので、地域の人達が集まるコミュニティスペースをつくり貸し出すことにしました。内装は、知り合いの工務店に頼めば50万円程度でできますが、それだと誰も関わることなく、箱が完成するだけです。そこで、地元の不動産業の先輩である、㈲すべ産業の須部氏※2に協力してもらい、鹿児島大学の学生や工学専門学校の学生たちの実践の場、そしてDIYに興味を持つ主婦たちの体験の場として、リノベーション体験ワークショップを実施しました。「学ぶ」「描く」「一緒につくる」ということをコンセプトに全7回開催し、プロの講師からレクチャーを受けながら、壁の塗装、床材の貼り付けなどの内装工事をしました。参加費を学生無料、大人500円で募ると、毎回10名ほどが集まり、その内容はブログで細かく公開しました。2016年3月に完成し、レンタル料は3時間まで500円で、用途は火を使うこと以外は何をしてもいいとしました。現在は、ほぼ毎日予約が入っている状態です。利用者は女性が多く、セミナー、勉強会、展覧会、雑貨の販売などが行われているほか、初めて開業を考えている人が試験的にお客さんを呼び、自分の商売がどれくらい通用するのかを試す人もでてきました。今では月3万円くらいの収入となっています。

 

 

社会的弱者のための物件を創る

─シングルマザー向けのシェアハウスも始めました。

 船井総合研究所が開催したセミナーで、東京にはシングルマザー向けのシェアハウスがあるという話を聞いて、鹿児島でも実現したいと思いました。私は父子家庭で育ち、幼少時代はとてもさみしい思いをしました。できればそのような子どもは増やしたくない、子どもたちをいい生活環境で育てたいという思いから始めました。

 物件は5室あり、家賃は水道光熱費などを含め5万円です。この物件の特徴は、ファイナンシャルプランナー(FP)と心理カウンセラーによる定期相談と、必要に応じて弁護士、看護師、司法書士などの相談が無料で受けられることです。多くのシングルマザーは生活することに精一杯で、やっとの思いでこの物件にたどり着いた人ばかりです。そこで、FPに入ってもらい家計相談とライフプランを作り、少しずつでも子どもや将来のためにお金を蓄えていけるようにしています。また、心理カウンセラーには誰にも言い出せない悩みを打ち明けて安心してもらえるようにと考えました。専門家たちは皆私の仲間ですが、この主旨に賛同してくれて、こちらから費用を払うと申し出ても、社会貢献でやっているからと、無償で相談に応じてくれます。

 私も入居者から相談を受けて、時々一緒に食事をしながら「携帯を見ながらご飯を食べてはだめだよ」と子どもたちに話をしたりします。前向きに頑張るシングルマザーを応援するために、みんなで助け合うシェアハウスを目指しています。

 

─鹿児島初の、車椅子の方も住みやすい賃貸住宅をつくっています※3。

 鹿児島市内で起業セミナーがあり、そこで出会った鹿屋市の車椅子の方と話していたら、鹿児島市に移住したいと思い部屋を探しても車椅子の条件で入れる物件が1つもなく、結局あきらめて今のところにいるといわれました。確かに、多くの物件はエントランスに段差があり、車椅子で部屋の床やクロスを傷つけたらすべて取り換えるようにいわれてしまうため、結局は実家に住むか、古い物件で我慢するしかありません。その話をきっかけに他の障がいのある方にも聞いて回りましたが、段差がある廊下幅の狭い普通の賃貸物件に苦労して住んでいることがわかりました。

 そこで、全てバリアフリー、手すりなどをDIYでつけても可、原状回復義務なし、という車椅子の人も住みやすい新築賃貸物件をつくることにしました。RC造5階建て、エレベーター付きの20戸のマンションで、物件内にはレンタルスペースも用意し、2018年4月末完成です。この物件もシェアハウス同様、途中で止めるわけにはいきませんので、自社所有の物件でつくりました。

 

 

住み手のことを重視して住宅の企画を考える

─賃貸物件や建売でもいろいろな企画にチャレンジしています。

 2017年の8月に完成した賃貸住宅は、各部屋の広さが3SLDK・90㎡という戸建て並みの広さで、オール電化、エコキュート、ロフト付きでインターネットを無料にしたグレードの高い物件です。この物件は私が設計から携わりましたが、コミュニティスペースを設けたことが特長です。かねてから、同じ物件に住む人たちがお互いに顔も名前も知らないというのはおかしいと思っていました。その点、コミュニティスペースがあれば入居者同士が顔見知りになり、一緒にクリスマス会やバーベキューをしようということになるかもしれません。そんな思いに共感してもらえたのか、正式に募集をかける前の建築中に、全て契約成立となりました。

コミュニティスペース付きマンション

 私はこれからの賃貸物件は、コミュニティがあることが価値になると思います。コミュニティスペース自体は収益を生みませんが、結果的にはそれが物件の価値になり収益につながります。最近鹿児島でも新築マンションやアパートを作るオーナーが多く、コンサルティングを頼まれることがありますが、残念なことに、多くのオーナーは入居者のことより自分の目の前の利益、つまり机上の収支計算や利回りにしか関心がありません。この点が仕事をしていてすごくジレンマを感じるところです。オーナーも不動産会社ももう少し住む人のことを考えて物件をつくると、より良い賃貸経営ができると思います。

 注文住宅が専門の設計士による建売分譲住宅も企画しています。この物件も、家は住み手、特にお母さんの目線でつくることが必要だと考え、私ではなく妻の意見を大きく取り入れました。いわば設計士と妻のコラボレーションで企画した住宅です。

 

─事業全体はどのように展開されていますか?

 当社は父が創業し約40年になります。私も他の仕事をしながら家業を手伝っていましたが、その後専念するようになりました。初めての売買の仕事で競売がらみの難航した物件をうまく処理できたことから、この仕事の面白さを感じました。現在は、売買仲介が5割で、残りは収益物件と建売住宅の販売が半々です。収益物件は当社が土地からコンサルをして投資家に買ってもらいます。コミュニティスペース、シェアハウス、車椅子専用住宅など“人の役に立つ”ことをコンセプトに社会的意義のある物件をつくり、その運営費用は本業と賃貸収入で培っています。

 

 

地域の活性化のためにネットワークを作る

─地域活動も積極的に展開されています。

 2014年に「トラストバンクかごしま」という勉強会を立ち上げました。“家族信託”に興味を持ち、これからの高齢化社会に向けてビジネスチャンスになると思ったことと、鹿児島ではまだほとんど事例がなかったため、広めていきたいと思い始めた勉強会です。今では行政書士や弁護士、FP、コンサルタントなどが集まり、毎月輪番でそれぞれの専門分野について1時間ずつ2名が発表をしています。この会がきっかけでいろいろなプロジェクトが始まるようになり、先日も他のメンバーがビジネス支援付きシェアオフィスを立ち上げました。当社のシェアハウスも皆で応援してくれています。一緒に学ぶことで新たなビジネスを生むことができればいいですし、参加メンバーだけでなく、その周りにいる人たちも幸せになればいいと思い続けています。

 

─地元の青年会も立ち上げられました。

 青年会は、4年前に地元のオーナーなど5人と立ち上げました。きっかけは、当社のテナントで接骨院を開業した人から、新規の顧客開拓がなかなかうまくいかないという話を聞いたことです。その時「私たちの仕事はただ店舗を貸すだけではなく、その後も何らかの形でテナントの力になり、応援しなくてはならない」と思いました。そのためには、紹介し合える地元の仲間作りが必要です。また、近くの商店街も火事があってからは地元の人が離れてしまい、かつてのフレンドリーな雰囲気がなくなっていました。

トラストバンクかごしまの会議の様子

 そこで、まず飲み会をしようと、この地域の自営業者や若手の社長を集めました。回数を重ねる毎に参加者が増え、やがて会を作ることになって私が初代会長となり、会の名前を“八幡青年会”としました。その後、恒例行事として、毎月地域の飲み会を開催し、地域の人を集めて花見をしたり、町内会の人と鹿児島大学の水産学部祭りの手伝いをしたり、地域の運動会に参加したりしてきました。また最近では、20年振りに“八幡コミュニティ夏祭り”を地域の人たちと復活することができました。花見は参加者が100人以上にもなり、留学生や大学生と地域のお年寄りや子どもたちが楽しく交わり、忘年会には学校の先生も来てくれます。復活した夏祭りも町内会活動に若手が参加したことが後押しになりました。地域のことを町内会のお年寄りだけに任せて“うちのまちは何もやっていない”といっているだけではあまりにも無責任ですし、私たち若手がまちを盛り上げ、皆が幸せになればいつかその恩恵は自分達にも還ってくるだろうと思います。

 

 

人と人がつながるまちづくりを目指す

─ビジネスでも地域活動でも、良いと思ったらすぐ実行に移す。その行動力に感心します。

 私は鹿児島で生まれ、小学校からここに住みそれ以来一度も鹿児島を出たことがなく、ここでビジネスをしています。いつも仕事は誰かの役に立ちたいと思ってやっていますし、お金のためだけではなく、お客様や地域のために働きたいという気持ちをとても強く持っています。

 私自身、人と交わることが好きです。コミュニケーションが希薄になってきている昨今、住宅の仕事を通して、人と人、人と地域がつながるまちづくりに貢献したいと思っています。そして、仕事の基本はつながりだと思います。人のために一生懸命やっていたら、一緒に手伝ってくれる仲間は自然と集まってくれるものです。

 

※1 株式会社ブルースタジオ

※2 有限会社すべ産業

※3 2017年11月時点。2018年5月1日入居開始。

 


 

窪 勇祐 氏

地元、八幡(鹿児島市下荒田)の地域に根差した不動産屋 ㈲窪商事の代表取締役。一般的な不動産売買に加え、まちづくり、女性専用シェアハウスの運営、障がい者向け賃貸マンションの経営、投資家への新築賃貸マンションのコンサル業、新築住宅の建て売り販売、分譲地の造成販売、住宅のリノベーションなどを主な仕事としている。バスケと釣りと飲み会は人一倍好き。

 

 

 

 

有限会社窪商事

代表者:窪 勇祐
所在地:鹿児島県鹿児島市下荒田3丁目33-8
電 話:099-251-8822
H P:http://kubosyouji.com
業務内容:鹿児島市下荒田で不動産売買・賃貸の仲介、買取、無料査定等を行うほか“オーダーしながら造る”オリジナル分譲住宅等を展開する。また、シングルマザーのためのシェアハウスや車椅子専用住宅など、人の役に立つことをコンセプトにした物件造りにも積極的に取り組んでいる。