株式会社エンジョイワークス/神奈川県鎌倉市

地域を魅力的にする取り組み

<取材:2018年11月>

 

共創的で持続可能なまちづくりを
全国に広げる

全国初!小規模不動産特定共同事業にチャレンジ

 

・持続可能で自走するまちづくりを目指す

・全国初の小規模不動産特定共同事業に挑戦する

・自走式のまちづくりを全国に広げる

 


 

持続可能で自走するまちづくりを目指す

─会社設立の想いを聞かせてください。

 2007年に会社を設立し、翌年に宅建業免許を取得しましたが、不動産仲介業をやりたかったわけではなく、まちづくりをしたいと考えていました。私はそれまでは外資系金融機関で年金基金や富裕層向けの営業をしていましたが、海や山がある環境で子育てをしたいと思い、葉山に引っ越しました。そこには豊かな自然環境はもちろんのこと、非常に良い地域のコミュニティがあり、折にふれて、充実したコミュニティは良いまちの大切な要素だということを感じていました。そして、地域の人たちと「共創(Co-Creation)」して、一緒に価値のあるものを作り出すボトムアップ型のまちづくりをしたいと考えて起業したのです。

 現在は、不動産仲介業と設計事務所のほか、宿泊施設やカフェ、コワーキングオフィスなどの場の運営も行っています。オフィスは鎌倉の由比ガ浜通りに面した商店街にある、使われなくなった仕立て屋さんや魚屋さん、板金屋さんだったところを少しずつ借りていき、リノベーションしながら活動拠点にしています。

 

─共創によるまちづくりとはどのようなものなのでしょうか。

 当社が目指すまちづくりは、“多様性があって共創的である”こと。それが持続可能で自走する豊かなまちづくりにつながっていくと考えています。そのためには3つのステップを踏まえることが必要で、当社はそれぞれの段階でまちづくりに参加したり、まちづくりを意識するきっかけを提供しています。

 まず最初のステップが「ジブンゴト化」です。これは、家を買う、家を建てるお客様が、全て業者任せにするのではなく、ジブンゴトとして捉えてもらうようにすることです。当社では「スケルトンハウス(THE SKELETON HOUSE※1)」という、50年後も使い続けられる家を目指し、外側の骨格(スケルトン)は流行に関係なくシンプルで長く使えるものにし、内装(インフィル)はお客様のライフスタイルに合わせて間取りを自由に変更できる商品を提供しています。お客様には最初に“家づくりノート”を渡し、どんな家を作りたいのか、どんなライフスタイルを実現したいのかというコンセプトを書いてもらいます。そして希望の間取りや、家の模型もお客様が作ります。そのプロセスを当社の設計士が添削したり、サポートしながら進めていきますが、そのような作業を通じて、お客様は家づくりをジブンゴトとして学び、楽しむことができるので、入居後も自然と愛着がわき、手入れをしたくなります。

 ジブンゴト化が高度化すると「民主化」というステップになります。実際に家を建てて住むようになると、自分の家の庭をよその家から見るとどのように見えるのか、まちの景色の一部として相応しい庭になっているか、というように、視点が“自分”から“まち”に切り替わっていきます。そして、視点がまちに切り替わった人たちが集まり、お互いの価値観を尊重しながら新しいまちづくりをしていく、「共創」という活動になります。

 ほかにもまちづくりへの参加の仕掛けはいろいろあります。 当 社のホームページの「ENJOY STYLE」では、物件紹介にあたり営業スタッフが実際に取材して感じたコメントを掲載していますが、地域の主婦にも協力してもらい、地域のスーパーの情報や公園の様子など、このエリアに住むとどのようなライフスタイルが実現できるのかということについて情報発信してもらっています。

 また、魚屋をリノベーションした「HOUSE YUIGAHAMA」というカフェでは、店内に400冊程の建築設計や不動産関連の書籍、建材、部材などを置いています。この場所を地域に開くことで、インテリアやまちづくりに関心をもてるようにしたり、会合に使ってもらったりしています。

 

─共創の場づくりはどのように進めるのですか。

 2015年からは、地域の人たちと共創的な場づくりを始めました。

●桜山シェアアトリエ

桜山シェアアトリエの外観

 地元のクリエイターたちから、自由に使える空間が欲しいという話があったので、逗子にある廃工場をリノベーションし、格安で使えるシェアアトリエにしました。アーティストたちからは、アトリエを構えようとしても、大家からうるさいとか汚されて困ると言われるのでどこか適した場所はないか、と相談を受けていました。そこで、当社が“サンセットミーティング”という名のブレスト会議を主催し、どのような場所で、どれくらいの広さの空間が必要で、いくらくらいの賃料の物件ならいいのかということについて、クリエイターや投資家を集めて話し合ってもらうことにしました。そのタイミングで借地権付きの廃工場が売りに出たので意見を出してもらうと、クリエイターからは広さは2〜3畳あればよく、ブースもべニヤで区切った程度のものでいい、それに対して2万円くらいなら払えるとのことでした。当社の試算では、ブース間の間仕切り作成と共用部分を整えるのは300万円程度でできるので、15ブースを作って各2万円で貸せば、物件価格の700万円と合わせた1,000万円の投資で年間最大360万円のキャッシュを生むという計算になりました。このようなプロセスを通じ、クリエイターと投資家が共創し、地域のニーズにあった施設がスタートしたのです。

 投資家は高い利回りのみを求めるのではなく、地域にアーティストが活動できる場があることの意義を理解し、お金を出しました。アーティストもミーティングに参加することで自分たちの場所だという当事者意識が芽生え、施設の制作に関わったり、塗装のワークショップに参加してくれたので、建物の完成時には満室になりました。さらに、完成後も入居したアーティストたちが自主的に施設のロゴやWebサイトを作ったり、近隣の方を巻き込んでマルシェを開くなど、良好なコミュニティができあがりつつあります。このようにして地域の人の声を吸い上げ、ボトムアップの進め方で新たな場を作ることができました。

 

●葉山小屋ヴィレッジ

葉山小屋ヴィレッジ

 葉山町の海のそばにある130坪程の土地を売却したいと依頼を受けましたが、1億円以上することからすぐには買い手が見つかりませんでした。そこで、このエリアの良さをもっと多くの人に知ってもらいたいと思い、葉山芸術祭に合わせ、ここに小屋を作ることにしました。SNSで有志を募集し、DIYで作ることにしたところ、近隣の人を中心に多数の参加があり7つの小屋が完成しました。さらに、せっかく小屋ができたのでそこで何かやりたい人を集めようと再度SNSで発信したところ、20~30組の応募があり、4月末から約1カ月間の毎週末に多彩なスモールビジネスが出店しました。お店ではワークショップなども開かれ、他県からもたくさんの人が集まり、地元の人との交流を図ることができました。

 このプロジェクトでは私たちは単に情報発信をしただけですが、ここには良いコミュニティがあるということが多くの人に伝わったおかげで、葉山に住みたいという人の住宅の斡旋ができたほか、この土地に、当社の「スケルトンハウス」で3棟の宿泊施設を建ててもらうことができました。

 

 

全国初の小規模不動産特定共同事業に挑戦する

─御社が取り組んだ「小規模不動産特定共同事業」のプロジェクトの概要を教えてください。

●泊まれる蔵プロジェクト

 葉山町にある築100年を超える木造2階建ての古い蔵を1日1組限定の宿泊施設「泊まれる蔵」にリノベーションしました。オーナーからは7年の定期借家契約で借り受け、約1.5カ月の工期で、外観はほぼそのままにして、内部は1階にジャグジー、洗面、トイレなどの水回りとリビングを設け、2階はツインベッドルームにしました。

 

泊まれる蔵の外観

泊まれる蔵のバスリビング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このプロジェクトでは、当社が勝手に宿を作って皆に使ってもらうのではなく、多くの人が参加し、宿泊施設を企画から一緒に作るという進め方をしました。プロジェクトに参加するための仕掛けとしては、まずイベントを何回も開いたことです。全部で19回実施し、延べ275名の参加がありました。さらに、京浜急行電鉄㈱の「KEIKYUアクセラレーター」プログラムに採用され、女性をターゲットにした「葉山女子旅きっぷ※2」とタイアップして宿作りに参加してもらいました。イベントでは、いろいろなクリエイターたちと“この蔵がどんな宿になったら面白いだろう”“インテリアはどういうものが合うだろう”といったことを一緒に考えるワークショップや、内装のDIYなどを行いました。また、SNSにアイデアを投稿することで参加できるようにもしました。

宿づくりイベント

 さらに、アイデアを出すだけでなく事業にも直接参加してもらおうと、投資型クラウドファンディングを行いました。1口5万円、想定利回り年4.0%、運用期間4年2カ月という条件で、当社が営業者になり、匿名組合契約を結ぶ方法で600万円募集しました。一般的なクラウドファンディングは寄付の意味合いが強いですが、このプロジェクトは、事業に投資するという形でまちづくりに参加してもらい、その事業の運営収益を還元するという考えだったので、投資型としました。結果的にたった1日で募集が完了し、37名の方に投資をしてもらいました。

 宿は2018年の7月末にオープンしましたが、投資した方にはその後の運営にも関与してもらおうと、11月に現地に集まってもらい、当社から売上とコストや稼働率といった運営の状況、宿泊者の属性・特徴や感想などを共有しました。逆に彼らからは、よりよい宿にするためのアイデアを出してもらいました。このような意見交換ができる場を年に4回程度設け、継続的に事業に関わってもらう予定です。

 このプロジェクトは、リノベーション費用が1,400万円、賃貸借契約等の初期費用が200万円の計1,600万円のコストになりましたが、クラウドファンディング以外の1,000万円は地元の信用金庫から融資を受けることができました。事業スキームとしては、次ページの図1にあるように、当社がオーナーから月17万円で物件を借上げ、宿の運営事業者である当社の子会社の㈱グッドネイバーズに転貸し、40万円の賃料を受けとり、その差額を投資家への分配原資と、金融機関への返済原資に充てていきます。

 

─クラウドファンディングのプラットフォームも始めました。

●まちづくり“参加型”クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」

図1/泊まれる蔵プロジェクトスキーム図

 泊まれる蔵プロジェクトでも利用しましたが、「ハロー!RENOVATION」というクラウドファンディングをするためのプラットフォームを、2018年6月から正式にスタートしました。このプラットフォームを使って、全国で820万戸※3あるといわれている空き家と、投資に回らない個人の現預金971兆円※4をうまく掛け合わせて動かすことで、新たなマーケットを創出したいと考えています。 ビジネスモデルは、遊休不動産の「物件オーナー」と、事業をしたいと思っている「プロジェクトリーダー」と、その事業を応援したいという投資家を含む「サポーター」をマッチングするサービスで、当社のマネタイズポイントはクラウドファンディングのファンド管理手数料です。

 「ハロー!RENOVATION」は、“持続可能なまちづくりのために、想いを持った人たちが空き家再生プロジェクトを推進するためのツール”という位置づけで、「参加型」であること、「ファシリテーター」がいること、「資金調達ができる」ことの3つの特長を持っています。まず「参加型」であることですが、泊まれる蔵プロジェクトの時のように、企画の段階でアイデアを出して参加したり、施工やリノベーションの段階ではDIYで参加したり、運営開始後は改善点を積極的に提案するなど、サポーターがいろいろなフェーズで事業に参加できる仕掛けを用意しています。特に、サポーター/投資家には事業の開業に向けて参加できるだけでなく、開業後も事業内容を共有すると共に、投資家同士のコミュニティ「ハロリノクラブ」を積極的に展開していく予定です。「ファシリテーター」の役割は、物件とのマッチングはもちろんですが、プロジェクトリーダーに対して事業プランや収支計画、資金計画などについてアドバイスします。「資金調達」については、投資型と購入型の両方のクラウドファンディングを用意しています。

 

 

自走式のまちづくりを全国に広げる

─御社のまちづくりを他の地域に広めていくことはできるのですか。

 泊まれる蔵プロジェクトのイベント参加者や、投資した人たちのアンケートを分析しました。まず参加した理由ですが、それで儲けたいという人は少数派で、52%の人がいつかは自分で事業をやってみたいというもので、“将来、宿やゲストハウスの運営をやってみたいから”“自分が事業をするうえで勉強になるから”という回答でした。従って投資額も、5万円ないしは10万円の小口の方が6割を占めました。さらに、このプロジェクトでは当社がファシリテーターを務めましたが、参加者のプロフィールを調べると、そのほとんどは私たちと何らかの接点がある方、例えば物件の購入者、シェアオフィスの利用者、当社主催のイベントの参加者などでした。つまり、地域のファシリテーターに参加者は紐づいていく傾向があるということがわかりました。

 この結果から発見できたのは、あるプロジェクトのサポーター/投資家の中から、事業を始めたいという次のプロジェクトリーダーが生まれて、そのプロジェクトに対し、またそれをサポートしたいという人が集まり、さらにそこから新たなプロジェクトリーダーが生まれるという、連鎖ができる可能性です。そうなれば、私たちが目指す持続的で自走式のまちづくりが実現します。

 その連鎖を導くためには、地域に紐づくファシリテーターが必要になります。私たちは鎌倉や逗子・葉山ではその役割ができますが、日本全体に広めていくには同じような役割ができる人を探し、育成していかなくてはなりません。

 

─そのために、地方において地元の事業者と連携を始めました。

 地方で地元の事業者との連携がいくつか始まっています。京都市では、京都五條楽園プロジェクト「UNKNOWN GOJO-RAKUEN」※5を、地元の老舗不動産会社、IT企業と一緒にLLP(有限責任事業組合)を作って進めています。これは2棟並んだ京町家を複合的な滞在ができる「コーリビング施設」として生まれ変わらせ、利活用するプロジェクトです。福島県西会津町では、地域おこし協力隊と地域のNPOと一緒に、ファシリテーターを増やすための“地域プロデューサーの育成プログラム”※6を検討しています。鳥取県智頭町では、自治体と地元の建築設計会社との連携を始めました。その他、三重県大台町では空き家バンクと連携したリノベーションプロジェクト※7、神奈川県三浦市では三浦海岸農泊トレーラーハウスプロジェクト※8といった国交省のモデル事業にも採択された事業を進めています。また、東京銀座では、建築史上でも有名な「中銀カプセルタワービル」の1カプセルをリノベーションする計画を進め、そこから建物全体の保存につなげられないかということを、その先頭に立っているカプセル保存再生プロジェクトのリーダーやウクライナの建築家と検討しています。

 

─空き家を生かしてまちづくりを進めるにはどのようなことが必要ですか。

 空き家の問題は、地域コミュニティの皆さんと一緒に考えていくことが必要です。地域の人たちがプロジェクトの趣旨に賛同し、参加することで、そこから新たに次のプロジェクトリーダーやプロジェクトが誕生し、それを繰り返すことで持続可能な自走式のまちづくりになります。そのためには、各地域の経済圏のサイズや魅力に合った規模のプロジェクトを実施していくことが大事です。

 そのような自律分散型の取り組みを各地域に広げていくためには、まずファシリテーターの育成が必要になります。2019年1月には、空き家再生を担うプロフェッショナルを育成するための「空き家再生プロデューサー育成プログラム」をWeb上で公開し※9、受講者を募集します。また、サポーターや投資家を集め、資金調達をするために「ハロー!RENOVATION」を有効利用したり、小規模不動産特定共同事業は事業規模や1人当たりの投資額の制限があることから、ネットワークを作り相互に連携することも必要です。全国初の小規模不動産特定共同事業者ということを生かして、他の事業者の事業者登録サポート業務も今後行っていく予定です。

 

※1 2017年グッドデザイン賞受賞。

※2 品川駅から3,000円で、電車&バスの乗車券+選べる逗子・葉山ごはん券+選べるおみやげ券がセットになった、おトクなきっぷ。

※3 「平成25年住宅・土地統計調査」(総務省)

※4 「資金循環統計」2018年第2四半期(日本銀行)、家計の金融資産1,848兆円のうち971兆円が現預金。

※5 不動産証券化手法を活用したモデル事業形成に向けた支援事業採択(2018年国交省)

※6 地域の空き家・空き地等の利活用に関するモデル事業採択(2018年国交省)

※7 空き家対策の担い手強化・連携モデル事業採択(2018年国交省)

※8 空き地対策の推進に向けた先進事例構築モデル調査採択(2018国交省)

※9 https://hello-renovation.jp/producer/

 


 

福田和則(ふくだ かずのり) 氏

1974年兵庫県生まれ。外資系金融機関勤務を経て、2007年㈱エンジョイワークスを設立。行政や事業者任せにしない「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイルの実現をテーマに、不動産および建築分野において事業展開を行う。また、空き家・遊休不動産の再生・利活用プラットフォームであるユーザー参加型Webサービス「ハロー!RENOVATION」をリリースし、「まち」「ひと」「お金」の新たな関係性の構築に取り組む。

 

 

 

株式会社エンジョイワークス

代表者:福田 和則
所在地:神奈川県鎌倉市由比ガ浜1-10-9
電 話:0467-53-8583
H P:https://enjoyworks.jp/
業務内容:鎌倉を拠点に、不動産業、建築設計業、カフェやオフィス、宿泊施設の運営などに取り組む。「共創」による持続可能なまちづくりや、コミュニティづくりのためのプロデュースを行い、そのために、全国初の小規模不動産特定共同事業者への登録、まちづくり参加型のクラウドファンディングサービス「ハロー!RENOVATION」を開始した。