住まい探しはハトマーク

株式会社ホームズ/和歌山県海南市

顧客志向の企業経営の実践

<取材:2018年12月>

 

管理のテーマは、
「賃貸住宅を介護する」

物件と家主の体力を診断し、徐々に価値を上げていく

 

・アフターフォローがビジネスにつながる

・「賃貸住宅を介護する」という考え方

・目の前の1室を満室にすることにこだわる

・アベレージが通用しない時代になる

 


 

アフターフォローがビジネスにつながる

─御社の事業内容について教えてください。

 当社の前身は、1996年に創業者が1人で立ち上げたレンタル情報サービス会社です。創業以来、和歌山県海南市を拠点に賃貸仲介と管理およびリフォームなどの賃貸管理に関する周辺サービス全般の事業に特化し、売買や分譲、大家業には一切手を出してきませんでした。私は、学校を卒業して地元の自動車ディーラーに就職しましたが、仕事先で当社の社長と知り合い、2001年に入社しました。当時はまだ貸し手市場で、アパートを建てれば借り手がつくという状態でしたので、新車を販売した後も定期的にお客様を訪問し点検をするという自動車業界から見ると、不動産業界は非常に伸びしろがあると思いました。そこで、私が考える理想のサービス業を不動産業にも取り入れてみたいという思いから、この業界で働くことにしたのです。

 しかし、顧客サービスを充実させて管理戸数を伸ばしていこうと入社した矢先に、大手ハウスメーカーが自社でサブリース事業を始めるようになってしまいました。それまでは、ハウスメーカーが新築賃貸住宅を建てる際に家主のところへ同行し、管理業務を任せてもらっていましたが、それがまったくできなくなったのです。“困ったことになってしまったな”と正直思いましたが、自動車の場合もメーカーは販売店とサービス網を持ち、一気通貫でサービスを提供していることを考えると、ハウスメーカーがサブリース事業を推進するのは当然だと思いました。それなら逆の発想で、大手ハウスメーカーの提携店になって、サブリース後のアフターサービスや周辺サービスをアウトソースで請け負えばいいのではないかと考えました。自動車の場合でも、オイル交換のためにわざわざ販売店には行きません。近所のガソリンスタンドや修理工場に行くでしょう。アパート経営には掃除やクレーム対応など、オートメーション化できない仕事があります。便利で使い勝手がよく、人が動かなければできない仕事に特化したサービスを展開すれば、ビジネスチャンスになると思いました。自動車のビジネスを通じて、“アフターフォローがビジネスにつながる”ことを経験していましたので、ハウスメーカーに対しては“当社がアウトソーサーとして支えるので、どんどんオーナーをアタックしてください”と伝えました。その結果、今では賃貸管理部門と並び、定期巡回・清掃など共用部のメンテナンス、空室リフォーム、設備バリューアップ工事といった周辺サービスが事業の大きな柱になっています。

 

─管理業はサービス業ということですか。

 新規で管理を請け負ったときには、最初に必ず物件の大掃除をさせてもらいます。私も作業着を着て掃除をしていると、“何号室のおばちゃんはおしゃべりで、いろいろな情報を知っている”といった重要な情報を得ることができます。管理をする上では家賃滞納が一番やっかいなことですが、定期巡回や清掃を通じて部屋を定点観測すると事前に兆候を察知することができ、管理業務を充実させることが家賃滞納の抑制になります。2018年、関西方面は台風の被害が甚大でしたが、台風一過の後は全員総出で巡回し、“ご安心ください、異常はありません”という連絡を、オーナーに対してどの管理会社よりも早く入れることを目指しました。何かあった時の連絡はもちろん重要ですが、“今月は異常ありません”と報告することを何よりも大事にしています。

 定期清掃についても、汚れている場所をきれいにするのはもちろんのこと、きれいな状態を維持することがむしろ大切です。先日も“掃除しないで帰った”とクレームが入りましたが、それは掃除をするまでもないほどきれいだったからです。理想は、ゴミ1つ落ちてなくてもほうきとチリトリを持った人がいるディズニーランドです(笑)。その考え方は清掃を依頼している協力会社とも共有しています。

 

 

「賃貸住宅を介護する」という考え方

─管理会社として家主に対してどのようなスタンスで提案しているのですか。

 当社に入社して10年経ち、40歳になったタイミングで自分の仕事を見つめ直しました。その結果、「賃貸住宅を介護する」というテーマに行き着いたのです。

 物件は毎年築年を重ねていきますし、家主も入居者も高齢になっていきます。歳をとれば当然、腰が痛い、足が痛いと不調が出てきますが、建物も同じで、経年とともに傷みが出てきます。それに対していきなり大手術をするような高額のフルリフォームやリノベーションをすすめることが、はたして家主に対する正しい提案でしょうか? そうではなく、必要なのは建物の健康(安全)維持であり、高齢者に対する福祉サービスのように、管理会社(寄り添う人)が家主に寄り添いながらその物件の年齢(築年)、体調や体力(家主の資金力)にあった提案をするべきだと考えたのです。そこで、「賃貸住宅を介護する」というテーマをスタッフに伝え、皆で管理物件を磨いてその技術を追い求めていくことにしました。

 私の友人に、地元の若者向けフリーペーパーの編集長だった女性がいますが、ネットに情報が置き換えられて廃刊せざるをえなくなり、介護ビジネスを始めました。私はその頃、ハウスメーカーのアウトソースのビジネスを立ち上げたところで、次のステップを模索していかなくてはならないと思っていました。そこで職場を訪ねてみると、彼女はなんと“おじいちゃんたちのアイドル”になっていたのです(笑)。決して新しいことをするのではなく、その人の状況に応じてケアをし、ときには楽しい企画を組み込むことでお年寄りを元気にしていました。若者に最先端の情報を発信していた人が介護ビジネスに取り組んでいる姿を見て、古いアパートに対しても介護と同じような考え方でサービスを提供すればいいのではないか、賃貸住宅を介護すればそれが最先端のサービスになるのではないかと、アイデアと刺激をもらいました。

 

─「空き家管理」ビジネスの取り組みは、そのテーマから導かれているのですか。

「いえぱと!」のパンフレット

 2013年に総務省から発表があった住宅土地統計調査で、空き家問題がクローズアップされると同時に空き家ビジネスに注目が集まりました。空き家ビジネスを研究しようといろいろな資料を集めるなかで、海南市より人口が少ない福井県小浜市で空き家管理サービスの「いえぱと!」を展開していた平田不動産※1のことを知り、訪問することにしました。私は当然、新しい商売のネタを見つけ、空き家管理のノウハウを持って帰るために行ったのですが、社長には商売っ気がまったくなく、まちの将来や空き家問題を地域のために解決したいという気持ちを熱く語ってくれました。話を聞き、それまで地域のために何かをすることなどまったく考えてこなかった自分を恥じると同時に、これから古いアパートの介護と健康維持をテーマにしようとするなかで、空き家も同様に、困っている家主を支え相談相手になることができるビジネスだと思いました。すると、その場で平田社長と意気投合し、厚かましくも「いえぱと!」の商標の使用許可をもらうことができました。そしてサービス内容、ロゴ、ホームページの共有とパンフレットの作成をし、2014年から和歌山で「いえぱと!」を開始しました。併せて同社のショルダーフレーズである「このまちとこれからも。」も、平田社長に使用許可をもらいました。空き家管理で最も大事なことは近所付き合いです。所有者には私たちと一緒に近所を回り、“ご迷惑をおかけしていませんか”と一言挨拶してもらい、私たちがその後その挨拶を引き取ることで、近所や自治会から評価をいただくことができます。

 

「あかり家プロジェクト」のホームページ

空き家管理をしている物件

 「いえぱと!」はそれ自体で収益をあげることを目的とするのではなく、過疎で悩む地域や家主の役に立つための事業であると位置づけ、空き家管理の取り組みそのものをブランドにする提案を平田社長にしました。それが、2015年に発足した、“地域の空き家にあかりを灯す”「あかり家えプロジェクト」です。現在あかり家メンバーの事業者は5社で、小浜市、海南市のほかに京都府舞鶴市、宮崎県都城市、鹿児島県鹿児島市で展開しています。

 私が50歳になったときは介護の次のエンディング、つまり賃貸住宅の終わらせ方がテーマになると思っています。今ある空き家はエンディングに向けて、これから発生するであろう空き家については、健康維持のための方法の一つとして空き家管理サービスを提案していきたいと思います。

 

 

目の前の1室を満室にすることにこだわる

─賃貸住宅の介護は具体的にどのように設計されているのですか。

 空室を埋めるために多額の投資が必要なリノベーションをすすめるのではなく、物件力や家主の体力や意向に合わせて、3~5年かけて着実に満室にするような提案をしています。そのために、家主に対して現状の問診(物件の実力分析)の結果と介護の計画(募集戦略)を記載した「空室改善提案書」を作成しています。これは当社で開発したツールで、賃料条件、設備・仕様、間取り・方角、近隣競合、周辺環境、共用部の状態の6項目に評点を付け、レーダーチャートで表し、それぞれについての改善提案と入居促進のための実行計画を記入し、空室が出る前に家主に提案します。チャートを見ると物件のトータルバランスがわかり、何が欠けているのか一目瞭然です。高齢者にいきなりマラソンをさせるのではなくウォーキングからすすめるように、無理して過度な投資をするのではなく、スコアの低い項目を入居者の最低限のニーズまで改善し、現状を正常にすることから始めて少しずつ資産価値を向上させていきます。仮に10室の物件で2室が空いていたら、まず家賃を下げて満室にし、1年間維持して家主の資金が確保できた段階で、次の空室に備えてバリューアップのための投資をして、下げた家賃を少し上げる、というような循環を作ります。大事にしているのは体力に応じた可変性であり、投資の資金がたまるまでは我慢して頑張り、レーダーチャートにある条件が全部揃ってきたら家賃を上げる、というストーリーを家主と共有します。

 空室が出ると、ともすれば都心のように大きくリノベーションをして一気に解消しようとしがちですが、地方は都心とは違うペースでやればいいと思います。そのために当社では入居率を気にすることはやめました。店舗がある海南市の人口が約5.2万人、御坊市の人口が2.5万人という市場で、当社の管理戸数は約1,850戸ですが、仮に1割が空室になったとしてもたかだか200戸ですし、それくらいの数なら3日もあればすぐ回りきれます。入居率何%という数字に囚われ、一気に改善しようと目立つ取り組みをするのではなく、目の前の1室にこだわって、レーダーチャートを使って部屋の実力を丁寧に査定し、戦略を練りながら、満室になった喜びを家主と共有していきたいと思います。

 

─物件や家主の状況に応じたきめ細かな管理計画を立てていますが、どのように業務管理をしているのでしょうか。

空室改善提案書

 家主への「空室改善提案書」の充実に加え、力を入れているのが“管理の見える化”です。そのためのツールとして、「報・連・送」(ほう・れん・そう)という業務アプリを協同開発しています。クロスや床材等に単価設定をし、原状回復の場合は、傷み具合を入れると精算金額が自動計算されます。それをスタッフが撮影した写真とともに現場から家主にメールやLINEで送り、決済も電子サインでできるようにしています。その他、定期巡回報告やクレーム報告のバージョンもあり、家主に対して、写真付きの報告を現場からタイムリーに行うことを徹底することができるようになりました。しかも、データが保存・蓄積できるので、その物件に関するいわば母子手帳からエンディングまでのカルテが全て残るようになります。当社では、収益物件として売買が発生した場合には、巡回報告履歴、工事や修繕履歴、クレーム履歴を新オーナーに提供することにしています。写真付き報告書と過去履歴をデータ化することで家主にはすごく喜んでもらえましたし、当社としても危機管理のツールとして役に立てられます。以前は、外から戻ったスタッフが会社で写真を整理しながら報告書を書いていたので、適当に書いたり、報告、連絡、相談が甘くなりクレームの原因になっていました。今では、アプリの導入で報告や計算が現場で完結し、メール1本で済むようになったため、クレーム発生のリスクが格段に低下しました。

 

 

アベレージが通用しない時代になる

─今年の2月に本社を移転されました。

新年度に決めた各自のスローガン

 2017年の11月に、海南市役所が津波被害を警戒して高台に移転しました。市役所の跡地からこの辺り一帯は1人の地主が所有していて、市役所が移転したあと中心市街地が空洞化してしまいました。その状況を見て、地域の空き家問題に積極的に取り組んでいる当社が、市役所の跡地に本社を移転するのは非常に意味のあることだと思い、その地主さんにお願いして300坪の土地を貸してもらいました。地主さんはとても喜んでくれて、さらに“1つだけわがままを聞いて欲しい。建物のデザインをさせて欲しい”と言われたのでお願いすることにしました。お陰様で建物完成後は、地主さんや家主さんがたくさん訪問してくれる場所になりました。この場所に本社の移転を決断したことが、私の唯一自慢できる実績です(笑)。

 

─管理業は今後、何が大切になるのでしょうか。

 今年の夏は、残念ながら当社の管理物件で孤独死が2件ありました。いつの間にか人の生死に関わることも管理の内容になってきた気がします。孤独死を早期発見するために、清掃のスタッフには、水道検針時にメーターが回っていなかったら必ず電話を入れてもらうようにしていますし、ワイヤレス式のテレビドアフォンも順次導入していく予定です。また、身寄りのない高齢の入居者には私の名刺を渡し、困ったことがあれば直接電話をかけてもらうようにしています。そして、最も重要なのは清掃です。定期巡回でしっかり清掃をしていると、入居者から“あの人最近あまり見かけへんので心配や”と声をかけてもらえるようになります。やはり管理の基本は清掃で、毎日行くことの積み重ねがとても大事です。掃除を依頼している協力会社とも“清掃をとことん追求しよう”と話をしています。

 社員にも、これからは“毛細血管の中で仕事をしようぜ”と言っています。AIが主流の時代になっても、機械化や自動化は見えるものにしか適用できません。清掃ひとつとっても見えにくいところまで細やかに神経が行き届いたサービスをしていけば、明確な差が生まれると思います。ある先生からいわれましたが、“アベレージが通用する時代”ではなくなったということです。

 賃貸住宅の所有者も徐々に代替わりをして、後継者が県外に住むケースも増えてきました。当社が15年ほど前から管理をしている築30年の物件の所有者が亡くなり、東京に住むお孫さんが相続しましたが、その後、管理の指示や報告は全てメールのやりとりになりました。ある時その方に、“一度でいいから物件を見に来て、入居者のところに一緒にご挨拶しに回ってもらえませんか”とお願いしたところ、実際に来てくれ、2名の入居者に会ってもらいました。入居者からは“おじい様には大変お世話になりました。この物件を気に入っているので引き続き長く住まわせてもらいたいです”と話をしてもらいました。すると次の日からその方のメールの内容が変わり、塗装工事や修繕など物件に手をかけてくれるようになったのです。ただその方は急死されてしまいました。先日、奥様とお子様から“ご挨拶に行きたい”と連絡が入りました。そして、事務所にお越しになりスタッフの前で丁重なお礼とともに「この地にお墓があり物件があるということは、私たちにとって故郷は和歌山です。東京から故郷のことを思いながら、代々受け継がれてきた物件をこれからもホームズさんに託しますので、引き続き宜しくお願いします」と言ってもらいました。その時に、これは管理を真面目にやっていたからこそ貰えた“神様からのごほうびだ”と心から満たされた気持ちになりました。

 

社内のチームワークは抜群

地元の家主とともに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 株式会社平田不動産(本社:福井県小浜市)代表取締役社長 平田稔 氏

 


 

小切康至(こぎれ やすじ) 氏

1973年和歌山市生まれ。1991年、トヨタ自動車ディーラーに入社し、販売実績を積みながらCS(顧客満足度)を学ぶ。2001年、現在の㈱ホームズに転職し、賃貸仲介・管理業にCSを取り入れた事業企画を推進。家主・入居者・物件の高齢化問題に「賃貸住宅を介護する」というテーマで取り組んでいる。2019年度は、和歌山県より指定を受け、居住支援法人として独居老人・孤独死・ゴミ屋敷等の問題を予防啓発する活動を計画している。
㈱ホームズ 専務取締役、(公財)日本賃貸住宅管理協会和歌山県支部 副支部長、和歌山県指定住宅確保要配慮者居住支援法人事業担当

 

 

株式会社ホームズ

代表者:鈴木 正典
所在地:和歌山県海南市日方1272-93
電 話:073-482-3739
H P:http://www.homes-homes.jp/
業務内容: 海南市を中心に、賃貸住宅の仲介・管理事業と、共用部のメンテナンス、空室リフォーム、設備バリューアップ工事等の周辺サービス事業を行う。2014年より空き家を巡回・点検・清掃するサービス「いえぱと!」を開始。また2015年からは全国ネットワークを組み、「あかり家プロジェクト」を展開する。